救急車
救急車(きゅうきゅうしゃ)は、傷病者を病院などの医療施設まで迅速かつ安全に搬送するための車両である。自動車のない時代から救急車は存在し、馬車や人力車が用いられていた。自動車が発明されてからは自動車が主流となっている。
歴史
初めて救急搬送専用の車両が登場したのは、19世紀初めのナポレオン戦争であり、ドミニク・ジャン・ラーレー(Dominique Jean Larrey)が発明したとされる。ナポレオン軍の軍医長に任命されたラーレーは戦傷者への迅速な治療のため軍救急部隊を編成し、戦場にあっても傷病者がいち早く野戦病院へ搬送されるシステムを構築した。このとき傷病者搬送に使用された車両が最初の救急車だとされている。
救急車という呼称(英語のambulance)は、アメリカ南北戦争の時に始まった。当時は馬車が救急車として使用され馬車救急車(horse ambulance)と呼ばれていた。これらいずれも戦場で負傷した戦士の迅速な治癒を行う上で大きく貢献した。
大衆に自動車が普及し始めた1920年代以降、救急車は自動車をベースに制作されるようになり、20世紀後半以降多くの国・地域で自動車が救急搬送の主要な手段として採用されている。また、陸路を走る救急車を補完するために救急ヘリや救急船などが新たに開発された。ヨーロッパやアメリカなどでは地方都市間の距離が長く、山岳地域も多いことから搬送時間短縮のため救急ヘリが広く普及している。このように地形などの事情で、救急ヘリを使った搬送の方が多い国もある。
救急車も改良が重ねられており、先進国を中心に高度な救命処置をしながら搬送できるよう車内のスペースを拡大したり、新生児専用の救急車を作るなど、高度な医療機器を積載して全ての年齢層に対応できるよう救命率の向上を図っている。その一方で21世紀に入ってからも開発途上国や紛争が続く地域では十分な数の救急車が整備されていないか、傷病者を救急車で搬送する制度が未だ整備されていない状況が続いている。
救急車の歴史は戦争・軍事と深い関係を持つ。戦時国際法の下で赤十字章をつけた救急車は戦闘中であっても攻撃されず傷病者を搬送することが認められている。ただし、救急車への武器の携行は許されていない。
構造・機能
本節では、自動車の救急車について説明する。
世界的に救急車はトラック[1]をベースにした車両と、商用ワンボックスカーをベースにした車両、商用バンをベースにした車両が大半を占めており、各国が定める救急車規格を満たす必要があるため、ベース車両よりも車体強度の向上やサスペンションに専用のチューニング[2]を施している場合が多い。また、規格等により価格がかなり違うことがある[3]。
救急車は各国の法律に合わせ、緊急車両としてサイレンアンプと青色や赤色、又は橙色・緑色などの回転・点滅灯を装備している。車体には地域の住民や外国人にも救急車だと識別できるよう、「AMBULANCE」、「Emergency Medical Service(EMS)」、「所属名」、「緊急通報用電話番号」、「スター・オブ・ライフ」などのマークと救急車専用の塗装が施されている。例として、日本では白の車体の真ん中に赤いライン[4]が引かれている。スウェーデンやイギリスでは黄色を主体に蛍光の黄色と緑のチェック柄模様がライン状に施されている。アメリカでは救急車の運営主体によって塗装色に差異があり、白地に青ライン、赤地に白ラインなど様々なタイプがある。世界的には白色、又は黄色をベースに赤十字の配色である赤色、又は青色や蛍光橙色のラインを採用している国が多い。
救急車の前面に「AMBULANCE」や「救急」などの文字が鏡文字(裏返し)で描かれていることがある。これは、救急車の前方の運転手がミラー越しに見た時に救急車であることを視認しやすくするためである。
車内は安定した姿勢で処置が行えるよう一般的な成人の身長分の高さが確保されている場合が多く、傷病者を収容するためのストレッチャーと、処置用の医薬品・機器、医療用酸素ボンベなどを搭載している。更に先進国を中心に除細動器や心電図モニタなど高度な医療機器を搭載している救急車が増えている。
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スウェーデンの救急車
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ロシアの救急車
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デンマークの救急車
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イギリスの救急車
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ドイツの救急車
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チェコの救急車
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フランスの救急車
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イタリアの救急車
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アメリカの救急車
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日本の救急車
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ペルーの救急車
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タイの救急車
運用
救急車の運用は、各国の法令により様々な形態をとる。
救急車を運用する機関は、主として医療機関、救急専門機関、消防機関などであるが、国によって状況は大きく異なる。日本やイギリスなどでは、救急は行政サービスの一つとして位置づけられ、自治体や中央政府が主要な救急車運用機関となっているが、アメリカ合衆国などでは、必ずしも救急は行政サービスではなく、行政が救急車を運用している地域もあるが、民間企業(EMS―「緊急医療サービス」)が有料で救急搬送を実施している地域やボランティアが担っている地域も少なくない。
多くの国・地域では、救急車を必要としている人が救急車を迅速に呼べるようにするため、救急車を集中的に管理する施設を設置し、救急車の出動を要請する電話を一元的に管理している。救急車の呼び出しを行うための電話番号は通常の電話番号とは違う緊急電話の取り扱いを行っている国・地域が多く、覚えやすく比較的桁数が少ない電話番号を使用している場合が多い。
救急車に搭乗する人員は、運転手、医師、救急隊員などである。国・地域によって、搭乗すべき人員が定められている。運転手も救急現場では救急活動に携わることがほとんどである。また、消防機関や警察が救急車を運用していたり、救急専門機関が設置されて救急車運用を担っている国・地域があるなど、救急車運用の形態は非常に多様である。
救急車は迅速性が求められることから、多くの国・地域で優先走行が認められている。例えば、赤信号でも優先的に進行したり、渋滞時には対向車線を走行するなどといった、他車に対する優先的な走行が可能となっている。
有料
海外で救急車を呼ぶと有料の場合がある。
- ニューヨークでは300ドルほど請求される。
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主なメーカー
脚注
- ^ 小型トラック・中型トラック・大型トラック・ピックアップトラック等を含む。
- ^ 耐久性・操縦安定性の確保と傷病者や医療機器に大きな振動を与えないようにするため
- ^ 例として、日本のトヨタ製高規格救急車(3代目現行型)の車両本体価格が約1千数百万円であるのに対し、外観が同じ2B型トヨタ救急車の車両本体価格は約500万円であり、ベース車種が同じでも規格による内部の構造や設備の違いで価格に数百万円の差がでる
- ^ ラインが引かれていない地域もある。例えば、大阪市消防局では「赤いラインは”あかん(=助からない)”に繋がり縁起が悪い」という理由で白一色の車体を使用している。また、ラインの色が赤でなく青の消防本部もある。特に沿岸部の消防本部に多い