聴診器

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医師が診療する際や看護師アセスメントする際に用いる高性能なリットマン聴診器
コメディカル血圧測定などの限定的な目的で用いる汎用聴診器

聴診器(ちょうしんき。: stethoscope英語発音: [ˈsteθəˌskoup]ソスコゥプ)は、物体の表面に接触させ、内部から発生する可聴域振動(伝導)をチューブで導いて聴く道具医療における聴診の道具の1つとして発達し、臨床医療の現場で医師看護師心臓血管等が発生する音を聴くのに用いられる。医療現場では「ステート」と呼ばれることも多い。戦前、医学用語がドイツ語に基づいて用いされていた時代は「スト」と (独:Stethoskop [ʃtetoskoːóp])と長音記号を含まない発音において呼称されていた[1]

歴史[編集]

チェストピースを左右にわけ、左右の耳で別々の音を聞く「ステレオ聴診器」
初期の単耳型聴診器
トラウベ型聴診器(象牙製)

1816年フランス医師ルネ・ラエンネックが、子どもが木の棒の端に耳をあてて遊んでいるのを見て、聴診器のメカニズムを思いつき、発明した[2]。それまでは、直接皮膚に耳を当てて音を聴いたり、触診打診によって心臓疾患などの病状を直接的に診察していた。これに対して、ラエンネックは、聴診器による聴診を「間接聴診法」と名付け、その精度は従来の診察法より遙かに確実であったことから、大きな反響を呼ぶこととなった。ただし、当初の聴診器は、1本の筒形の木でできた単純なものであった。フランス語fr:stéthoscopeは、ギリシャ語のstétho=胸、scope=検査からラエンネックが名付けた。

その後ドイツ人の医師トラウベがより音を大きく聞くために患者にあてる部分を大きくしたじょうろ型の聴診器を開発し、1829年には胴体の部分がゴム管となった[2]1855年には米国の医師ジョージ・カマンが双耳型の聴診器を発明して精度を大いに改善し[3]、その後双耳型の聴診器は瞬く間に世界に広がり、医師のトレードマーク的存在となるまでに普及した。

1926年に米国の医師であるラパポートとスプラーグが呼吸音を聴きやすい面と心音を聴きやすい面の両面を切り替えて使えるダブルの聴診器を発明し[2]1967年にドイツの医師でハーバード大学医学部教授のデイビッド・リットマンによりスプラーグ型聴診器を小型化、軽量化し今日最も医師に用いられている聴診器が開発された[2]

また近年でも聴診器の開発は続き、アンプにより音を10倍程度に増幅し、聴こえを良くした「デジタル聴診器」や日本の医師風間繁により1991年に開発されたチェストピース(皮膚に直接あてる部分)を左右にわけ、左右の耳で別々の音を聞く「ステレオ聴診器」などが実用化されている[2]


なお、この聴診器の発明は、人間機械になぞらえ、(患者の言っていることよりも)客観的な数値によって診断を行なうという近代の「医学モデル」を推し進める一要因となったとされている[4]

日本では1960年代まではチェストピースが象牙でできており、ゴム管が長い聴診器が主流であったが、1970年以降はチェストピースがダイヤフラムとベル部に別れ、ゴム管の短い聴診器に置き換わっていった。

構造と種類[編集]

聴診器の基本的な仕組みは、皮膚に直接あてる部分(チェストピース)で音を拾い、その音を分岐したゴム管を通じて両耳に伝えるというものである。近年では、集められた音を電気的に増幅する聴診器も開発されている。以下は、聴診器を構成する各部分の名称と機能である。

  • チェストピース - 皮膚に当てる部分。
  • ベル - ラッパ状になった集音部分。聴診器の形の原点。心音、過剰心音、心雑音、血管音など、低調音を聴くのに適する。皮膚に接触する際に冷たくないように、ゴムのリングが金属製の円形部を囲んでいるものが多い。
  • ダイアフラム - 集音のためにチェストピースに張られた膜。低音域をカットし、高音域を強調する役目がある。呼吸音、心音、心雑音、血管雑音など、高調音を聴くのに適する。チェストピースを押さえる圧を調節することで、高調音と低調音を聞き分ける機能をもたせたダイアフラムもある。
  • ゴム管 - チェストピースと耳管をつなぐ管。チェストピースから左右の耳管に分岐するまでの間が、1本の管のもの、1本の管で内部に隔壁があるもの、2本の管のものがある。塩化ビニール製のものが多い。
  • 耳管 - 左右の耳に当てる屈曲した金属管。耳管、板バネ、ゴム管が一体化しているものが多く、バイノーラルと呼ばれる。
  • イヤピース - 耳管の先端に付く耳に挿入する部分。取り外して洗浄が可能。

以上のうち、シングルタイプはダイアフラム面のみで、ダブルタイプはダイアフラム面とベル面がリバーシブルになっている。また、今日用いられている聴診器には、チェストピースがラッパ状のものと薄い振動板になっているものとがある。市場では形状面から、チューブの中にばねが入っているものが「ドクタースコープ」、スプリングが外付けのもの(掲載されている写真のもの)が「ナーススコープ」と呼ばれる。ただし医師が診断に用いる聴診器と、コメディカルが血圧測定等[5]で使うそれとでは求められる性能や信頼性が全く異なり、値段には大きな差がある(下記参照のこと)。しかし、最近では看護師救急救命士等もより高度なフィジカルアセスメント能力を求められる事から、2〜4万円程の高性能な高級機種を使用する場合が多い。

医療以外での使用[編集]

聴診器に関する誤解[編集]

聴診器は振動板によって直接触れた部分の振動音を増幅するものである。映画やお笑いのシーンでホテルなどで壁に当てて隣の部屋の音を聞いたりする使用が見られるが、これは聴診器の性質を理解していない(もしくは故意に無視する)ことから来る、現実に即さない演出である。実際は聴診器を壁に当てても壁に耳をつける程度の効果しかなく、むしろコップを逆さにして壁に当てるほうが効果がある。同様の理由から、振動部に向かって大声を出しても聞き手を困らすことはできない。

ただし電子的な増音機能がある聴診器の場合はこの限りではなく、これらの機械を用いれば増音効果により実際に多少の音増幅は可能である。

聴診器の主なブランド/メーカー[編集]

血圧測定の際コロトコフ音を確認すればよいだけの目的で使われるナース・スコープは2・3千円で購入可能であるが、微妙な振動音の違いから様々な疾患を推定することが求められる、医師が診察の際用いるドクター・スコープは3万円から15万円ほどする。

脚注[編集]

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  1. ^ 熊井啓1986『海と毒薬』 (原作:遠藤周作) においては第二次世界大戦時の病院での用法について「スト」と長音記号を入れない発音で表現されている。
  2. ^ a b c d e “第5回 聴診器”. BS-TBS. http://w3.bs-tbs.co.jp/alpha/archive/05.html 2012年1月3日閲覧。 
  3. ^ 3M US Littmann Stethoscopes - History, Dr. Littmann, Cardiosonics Inc
  4. ^ Postman (1992=1994: 132)
  5. ^ 看護師看護アセスメントの際にはドクタースコープを用いる。

参考文献[編集]

  • Postman, M. (1992). Technology. Alfred Knopf, Inc.. ニール・ポストマン 『技術vs人間 : ハイテク社会の危険』 GS研究会訳、新樹社1994年ISBN 4-7875-8428-6

関連項目[編集]

外部リンク[編集]