挫滅症候群

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挫滅症候群
分類及び外部参照情報
ICD-10 T79.5
ICD-9 958.5
DiseasesDB 13135
MeSH D003444
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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挫滅症候群(ざめつしょうこうぐん)は、身体の一部が長時間挟まれるなどして圧迫され、その解放後に起こる様々な症候をいう。クラッシュ症候群(またはクラッシュ・シンドローム)とも呼ばれる。重傷であることが見落とされる場合もあり、致死率は比較的高い。

歴史[編集]

第二次世界大戦中の1940年、ドイツ軍の空爆を受けたロンドンにおいて瓦礫の下から救出された人々が発症し、これが最初の症例報告とされる。
しかし、その前に 皆見省吾はドイツ留学中に論文[1]を「Virchows Archiv」誌[2]に寄稿したが、これは第一次世界大戦の戦傷の腎不全による死者の病理学的検討であり、世界で最初のクラッシュ・シンドロームの報告である[3][4][5]

皆見省吾の論文

  • 症例1: 砲兵上等兵。受傷後13時間後に収容。左大腿及び下腿に受傷。受傷4日後に尿が混濁し、その日の夕方死亡。剖検で左大腿上部の筋肉の壊死が著明。
  • 症例2: 塹壕の中で砲弾が炸裂し両下腿に受傷。受傷4日後濃い血尿となり無尿。その夕刻に死亡。
  • 症例3: 右上肢、腰部に鈍的打撲。5日後尿量減少。7日後死亡。

腎実質の急性退行性変性は急性自家中毒であり、これはメトヘモグロビン尿、腎のメトヘモグロビン梗塞の像が示している血球破壊によって証明される。これはすべての生き埋め例で見られる多数の壊死部の筋肉蛋白崩壊に基因している。

日本においては1995年阪神・淡路大震災で約400人が発症し、そのうち約50人が死亡したと言われる。2005年に起きたJR福知山線脱線事故でも数人が発症し、その症状で3人が死亡、1人が両足切断している。

原因および症状[編集]

身体の一部、特に四肢が長時間圧迫を受けると、筋肉が損傷を受け、組織の一部が壊死する。その後、圧迫された状態から解放されると、壊死した筋細胞からカリウムミオグロビン乳酸などが血液中に大量に漏出する。発症すると意識の混濁、チアノーゼ、失禁などの症状が見られる他、高カリウム血症により心室細動心停止が引き起こされたり、ミオグロビンにより腎臓尿細管が壊死し急性腎不全を起こしたりする。

戦災、自然災害、事故に伴い、倒壊した建物等の下敷きになるなどして発症する場合が多い。圧迫からの解放直後は、意識があるために軽傷とみなされ、その後重篤となり死に至ることも少なくない。まれに、特定の筋肉を過度に酷使する運動を行うことにより発症する場合もある。

大相撲時津風部屋序ノ口力士時太山がけいこで急死したケースでは、 親方がビール瓶で殴ったほか、兄弟子達から金属バットで殴られ、けいこでも暴行を加えられ、2日間で6人(延べ19人)から受けた行き過ぎたシゴキや集団リンチが、挫滅症候群を引き起こした可能性が高いことが指摘されている。遺体を鑑定した結果、長時間にわたる殴打や圧迫で壊死(えし)した筋細胞から血液に漏出したミオグロビンカリウムが高い値で検出された。挫滅症候群を示す症状だったため、これが死亡原因になったとみられている。

刑務所精神病院などで使用される拘束衣でも、結果的に同様の現象が発生する場合がある。そのため、現在ではフィクションの作品のように、長時間に渡って、しかも多用されるような事は稀になっている。

治療[編集]

挫滅症候群の治療においては、究極的には血液透析、血漿交換などの血液浄化療法が必要となる。しかし血液浄化療法は、極めて潤沢な医療資源を要求することから、災害医療の現場では、これは最後の手段となる。軽症ないし中等症の患者に対しては、下記のような治療を行なったうえで、必要に応じて血液浄化療法が行われる。

細胞外液輸液
圧迫が解除されると、大量の血漿が血管外に漏出してショックに陥ることから、大量輸液が必要となる。生理食塩液や乳酸リンゲル液(ラクテック注、ソルラクト注など)、酢酸リンゲル液(ヴィーンFなど)を1 - 2リットル/20分間で開始し、利尿が得られたのちは多少減じつつ、時間尿量1 mL/kg/時以上の確保が目標として継続する。1日輸液量は10 - 20リットルを要する場合もある。なお、本症は致死的な高カリウム状態を引き起こす恐れがあるため、カリウムを含む輸液(維持液など)は厳禁とされる。
アシドーシス補正
重炭酸ナトリウム液(メイロン)の投与を行なう。これには、カリウム値補正や尿酸沈着を防ぐ効果も期待できる。
高カリウム血症の治療
G-I療法(5%グルコース液、速効性インスリンの持続投与)、不整脈予防(グルコン酸カルシウム静注)などが行われる。

高カリウム血症による不整脈が最も危険であることから、生体情報モニタ心電図SpO2血圧)による監視が重要である。また一時間以上挟まれている状態の場合、可能ならば上記の対処を救出以前から開始するほか、現場において水分補給(患者が水を飲める場合のみ、誤嚥に十分注意して無理に飲ませない)、毛布等による保温、酸素投与を行うことが望ましい。

その他に、患部の心臓に近い側をゴムバンドなどで締めることで救出直後に急激にカリウムが心臓に回るのを防ぐことができるが、あくまで応急処置であり、また締め付けすぎでは悪化を招くため、専門知識がある医師等が施行すべきである。どちらにしても救出後迅速な血液浄化療法を行う必要がある。また、圧挫された患部が腫脹してコンパートメント症候群を起こしている場合など、状況によっては医師の判断により、患部の減張切開や切断を行うこともある。

脚注[編集]

  1. ^ Über Nierenveränderungen nach Verschüttung
  2. ^ Virchows Arch、Path. Anat. 1923, 245, 247-67.
  3. ^ 松木明知「crush syndromeを世界で最初に報告した皆見省吾」(麻酔55(2) 222-228,2006)
  4. ^ Medical discoveries - Who and when- Schmidt JF. Springfield: CC Thomas, 1959. p.115.
  5. ^ Morton's medical bibliography -An annotated check-list of texts illustrating History of medicine (Garrison-Morton). Aldershot: Solar Press; 1911. p.654.

参考文献[編集]

  • 小濱啓次 『救急マニュアル 第3版』 医学書院、2005年ISBN 978-4-260-00040-6
  • 亀山正邦, 高久史麿 『今日の診断指針 第5版』 医学書院、2002年ISBN 978-4-260-10267-4
  • 二ノ宮節夫, 冨士川恭輔, 越智隆弘, 国分正一, 岩谷力 『今日の整形外科治療指針 第5版』 医学書院、2004年ISBN 978-4-260-12592-5