航空戦

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F-15の編隊
航空戦では、このように数機が編隊として形成されたグループによって航空戦を行うことがある

航空戦(こうくうせん、: Aerial warfare)は、航空機による作戦戦闘である。空戦とも呼ぶ。

概要[編集]

航空戦とは、航空機が運用された空中における作戦・戦闘である。航空戦として初めて、陸海の戦闘から独立した固有の名称を与えられたのはルンガ沖航空戦である[1]。しかし航空戦とは、陸戦・海戦とは対照的な存在であって、独立した一種の作戦・戦闘としての側面は薄い。航空部隊は陸上部隊・海上部隊との連絡・連携を常に保ちながら互いに機能を補完し合って作戦しており、航空作戦において偵察近接航空支援航空阻止などを遂行する。

航空戦力は長期間にわたって特定の空域に存在し続けることが技術的な問題から不可能である。従って航空戦は一般的に海戦と同様に短期決戦で明確に勝敗が分かれ、その戦果はランチェスターの法則が適用される。[要出典]

目的[編集]

爆撃[編集]

B-52H 戦略爆撃機
1機で最大30トン以上の爆弾を運搬・投下することが出来る。

航空戦の第1の目的は陸上部隊・海上部隊及び軍事施設を主に爆撃によって攻撃することにある。陸海への経空攻撃は攻勢的航空戦となり、主に爆撃によって敵の陸海部隊と地上基地の兵器・兵員・資材を破壊することである。20世紀末からは、この攻勢の航空作戦での主な要素として阻止攻撃(interdiction)が占めるようになってきた。これは敵国土内の生産拠点や交通網、政治、経済の中心といった重要目標を爆撃により破壊するものである[2]

制空権[編集]

第2の目的は、必要な空域の制空権(航空優勢)を確保することである。この航空優勢の確保には、第1の目的を実行するため侵攻時に行なわれる敵の防空の航空部隊との空中戦闘と、逆に敵の襲来に対して行なわれる防衛としての空中戦闘という2種類がある[2]。一般的に航空戦・空戦といわれる場合にはこの比較的に近距離で行われる空中戦を指す場合が多い[3]。航空戦の第2の目的である空中戦は多くの場合、侵攻時、又は防衛時のいずれでも防勢的航空戦となり、通常は戦闘機が主役となる[2]。また、飛行場や空母を攻撃することで敵の航空脅威をあらかじめ取り除き、制空権を確保する場合もある。航空撃滅戦では、敵機を掃討、できれば地上にある敵機を攻撃する[4]。戦闘機と爆撃機の混合部隊である戦爆連合においては、敵の戦闘機を制圧する制空隊と爆撃隊を援護する直掩隊の2つで戦闘機が使用される[5]

行動[編集]

爆撃[編集]

空中戦闘[編集]

航空優勢の確保のために行なわれる空戦は、航空力学の諸法則や天候航空機の性能及び軍事技術によって機動などが制約され、戦闘機は敵との優位な相対位置を獲得しようと連続的に機動して攻撃する。 空中戦は一般的に、発見・接近・攻撃・運動・離脱の要領で行われるが、実戦においてこれらの段階が順序だてて進むとは限らず、奇襲を受けた場合は唐突に攻撃や運動を開始して戦闘を行う[6]。基本的な戦法は古典機からジェット機まで変わらず、ミサイルやコンピューターが発達しても遠方からのミサイルではほぼ生き残り近接戦になるため、格闘戦(ドッグファイト)の役割がまだ大きい。お互いに見えない位置からミサイル攻撃による戦闘が行われ、決着がつかなければ格闘戦に移行する[7]。第二次世界大戦では、零戦とF4F、スピットファイアとMe109のように格闘戦一撃離脱で有利な空戦に持ち込むかも勝敗に関係していた[8]

発見
航空戦の第1段階は敵機の発見である。敵機の捜索は第一次世界大戦の頃は肉眼に依存していた。しかし、F-86を機にレーダーを搭載した戦闘機が現れると、敵機の捜索は主にレーダーで行うようになり、空中早期警戒システムや戦闘機誘導員との連携によって100キロメートル先の視認できない敵機を捜索することが可能になった。敵を先に発見することは戦闘において主導権を獲得することであり、敵機の存在を把握すればそれに最適な要撃位置を占位することが出来る。
同時に敵の捜索を回避する手段も航空戦に必要である。その手段としては対電子妨害手段がある。これは敵機の電子支援手段を妨害するものである。また捜索を回避する手段として低空飛行がある。これは敵の電子放射を監視してその間隙を通過するものである[9]
遠隔攻撃
F-14のみが搭載できたAIM-54長射程ミサイル
敵機を発見した場合に可能であれば遠隔攻撃行動に入る。敵機の撃墜には、敵機と100キロメートル程度はなれた位置から長射程の空対空ミサイルを発射する場合がある。この他にも、自己誘導型で敵機を目指して飛行する空対空ミサイルもあるが、これらは非常に高価で、安価で汎用のものでは、自機で敵機に照準を合わせるミサイルや敵機が放出した熱を追っていくミサイルがある。前者は機首を敵機から離せず後者は気象に左右されやすい。そのためどのミサイルも完璧な兵器とはいえない。発射の際は、早期警戒管制機の支援を受けることもある。敵機の撃墜に失敗した場合は接近して戦闘行動に入るかどうかが問われる。また、敵からの攻撃に対しても迅速な対応や判断が求められる。
接近攻撃
航空機は攻撃に入る前に空中戦を志向するかどうかを決心しなければならない。これは、状況を把握している空中または地上の誘導員によって行われる。攻撃を行うことが決心されれば、航空機は速やかに攻撃のために、敵機に対して要撃成功の最適位置へ移動する。この際に重要なのは速度であり、高速であればあるほどに敵に発見される前に好位置を占位できる。その好位置とは、戦闘における運動や離脱において要する位置エネルギーを確保することが出来る高高度である[10]。スピードは、失速すれば撃墜される危険があり、速すぎれば旋回半径が大きくなり舵が重くなる[11]
AIM-9 サイドワインダーを発射するF-16C
接近攻撃の段階における戦闘では戦術的状況と使用兵器によって左右される。戦術的状況とは航空機の運動によってもたらされる彼我の相対的な位置関係である。攻撃に最適な戦術的状況は敵機の後方であると伝統的に考えられているが、接近に時間を要する。正面からの攻撃は彼我の距離を最小化して攻撃の成功率を高めるが、敵の目前で直線的に飛行するために逆に攻撃を受ける危険性が最も高い。また横正面などの敵機の位置が激しく変化する方向からの攻撃は成功させることが難しく、ミサイルの追尾もより困難になる[12]機関砲ミサイルの射程にとらえるための格闘戦に入る。
離脱
戦闘で最適な離脱とは敵機の撃墜である。しかしながら常に敵機が撃墜できるとは限らず、また戦局や消費する燃料量の都合から戦闘を離脱することが求められる場合もある。また撃墜せずに戦闘を離脱する場合は相手から攻撃を受ける危険な段階でもある。従って戦闘は常に燃料量を確認しながら行い、基準値にまで燃料が消費されれば速やかに離脱しなければならない。ただし、帰投する場合でも、基地が攻撃を受けて着陸不能になっている場合や途上での戦闘を考慮し、必要ならば代替の基地まで航続できるだけの燃料を要する。要するに離脱で重要なのはいかにして燃料を温存するかである。航空戦において特に重大な局面であり、最も困難な段階でもある。

歴史[編集]

第一次世界大戦[編集]

初期の航空機は戦闘力を持たず偵察に使われただけであった。最初期は、お互いに攻撃手段を持たず、敵偵察機に対し、そのまますれ違ったり、お互い手を振って挨拶していることもあった[13]。しかし、航空偵察の効果が上がり始めると、敵偵察機の行動を妨害する必要性が出てきた。最初は持ち合わせていた工具を投げつけたのが始まりとされている。やがて煉瓦を投げ合い始め、拳銃猟銃を使い始めた[13]。第一次世界大戦以前の航空用法は一部に爆撃の準備もあったが、主体は地上作戦協力の捜索目的、指揮の連絡、砲兵協力など航空戦略航空戦術には値しないものだった[14]

第一次世界大戦が開始すると爆撃が逐次試みられた[15]。またフランス空軍のローラン・ギャロス1915年大正2年)にモラーヌ・ソルニエ Lの中心線に固定銃を装備してドイツのアルバトロスなどの撃墜を始めた[16]。ここまでは単一機によって飛行機作戦は行われていたが、任務が偵察→爆撃→空戦と発展したことによって専用機種として1915年6月ドイツのフォッカー E.IIIが駆逐機として独立出現し、本格的な空中戦闘が始まる。[17]

1914年(大正3年)9月青島戦争で日本軍機が初めて爆撃を行う。海軍機のモーリス・ファルマン式4機で青島市に爆撃した[18]。10月には日本軍は初めて空中戦を経験した。日本陸軍有川鷹一航空隊長がニューポール NG機に地上用機関銃を積んで偵察機の味方を支援、敵機を妨害する空中戦が行われた[19]

1916年ヴェルダンの戦いでフランス軍は機関銃射撃、爆弾投下でドイツ軍の行軍縦隊、予備隊などを攻撃し、戦果を上げた。これによって低空からの対地攻撃など偵察機、駆逐機で歩兵突撃支援する航空戦術が広がる。またドイツはフォッカー E.IIIを集中使用し、戦場制空のため、空中阻塞、駆逐戦法といわれた数層に配置した防御的阻塞幕を構成する方法をとっていた[20]。1918年9月サンミエール攻勢でアメリカのウィリアム・ミッチェルが完全な航空優勢の獲得を図り、ドイツ軍陣地の突出部を孤立分断するように集中攻撃した。その後も類似作戦が展開され、兵力の集中使用の重要性を立証した[21]

第二次世界大戦[編集]

1921年(大正10年)航空戦力の本質を攻勢とし空中からの決定的破壊攻撃を説いたジュリオ・ドゥーエ(イタリア)の『制空』が発刊され、1927年昭和2年)ころには世界的反響を生んだ[22]。ドゥーエやミッチェルに代表される制空獲得、政戦略的要地攻撃を重視するには戦略爆撃部隊の保持が好ましく、1930年代には技術的にも可能となり、列強は分科比率で爆撃機を重視するようになった。[23]

1937年(昭和12年)9月南京空襲で日本海軍の源田実戦闘機を主体的に運用して制空権を獲得する「制空隊」を考案した。戦闘機を中心とする積極的な作戦で戦術思想としても画期的であり、戦闘機の新しい価値が認識された[24]。これを端緒に、従来は哨戒、援護など防御的に使われていた戦闘機に戦爆連合、戦闘機の単独進出など積極的に使用する航空戦術の型が確立されていった[25]1940年(昭和15年)バトル・オブ・ブリテンでイギリスはレーダーを駆使してドイツからの爆撃の迎撃に成功した。 1943年(昭和18年)6月ルンガ沖航空戦は、航空戦として初めて、陸海の戦闘から独立した固有の名称を与えられた[26]

大戦後[編集]

大戦後はジェット機、ミサイル、コンピューターの発達で高速機によるミサイル攻撃、ミサイル防衛が重視されていった。 また、ベトナム戦争、インドパキスタン戦争、中東戦争を経て格闘性能、特に運動性能を持つ戦闘機も再び重視されるようになった[27]

関連する作品[編集]

注釈[編集]

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出典[編集]

  1. ^ 眞邉正行『防衛用語辞典』(国書刊行会 平成12年)
  2. ^ a b c 『現代の航空戦』 原書房 2005年5月15日第一刷発行 ISBN 4562038691
  3. ^ ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)
  4. ^ 零戦搭乗員の会『零戦、かく戦えり!』文春ネスコ173頁
  5. ^ 零戦搭乗員の会『零戦、かく戦えり!』文春ネスコ174頁
  6. ^ ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)176項 - 177項
  7. ^ 菊池征男『航空自衛隊の戦力』学研M文庫265-268頁
  8. ^ 碇義朗『戦闘機入門』光人社NF文庫243-244頁
  9. ^ ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)177項 - 182項
  10. ^ ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)186項 - 188項
  11. ^ 零戦搭乗員の会『零戦、かく戦えり!』文春ネスコ176頁
  12. ^ ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)189項 - 190項
  13. ^ a b 『徹底図解 戦闘機のしくみ』 新星出版社 2008年10月5日 p.42
  14. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで57頁
  15. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで59-60頁
  16. ^ 河野嘉之『図解戦闘機』新紀元社46頁
  17. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで57、60頁
  18. ^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書5頁
  19. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで51-52頁
  20. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで57-59頁
  21. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで55頁
  22. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで233頁
  23. ^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで373頁
  24. ^ 戦史叢書72中国方面海軍作戦(1)昭和十三年四月まで 405-407頁、源田実『海軍航空隊始末記 発進篇』文藝春秋新社206-215頁
  25. ^ 戦史叢書95海軍航空概史125頁、戦史叢書72中国方面海軍作戦(1)昭和十三年四月まで 405-407頁
  26. ^ 眞邉正行『防衛用語辞典』(国書刊行会 平成12年)
  27. ^ 碇義朗『戦闘機入門』光人社NF文庫252頁

参考文献[編集]

  • 防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』(かや書房 2000年)
  • 眞邉正行『防衛用語辞典』(国書刊行会 平成12年)
  • ビル・ガンストン,マイク・スピッツ著 江畑謙介訳『図解 現代の航空戦』(原書房 1995年)
  • 石津朋之、ウィリアムソン・マーレー著 『21世紀のエア・パワー』 芙蓉書房出版 2006年10月25日第1刷発行 ISBN 482950384X

関連項目[編集]