微分法
数学、とくに解析学における微分法(びぶんほう、differentiation, derivation)は、空間やその上に定義される関数・写像を各点の近傍で考え、その局所的な振舞いを調べることによって、それらの特徴を記述する方法である。積分法と並んで、解析学における中心的な概念のうちの一つとなっている。微分においては、特定の無限小を基準にして挙動を測っており、考えている無限小よりも高位の無限小についての情報は測り取れずに落ちてしまうため、ある量の微分は基準となる無限小に対して線型性を示し、やや大域的には考えている点の近傍の線型近似として捉えられる。微分から大域的な情報を得るには、貼り合せ条件や積分といった別の手段をきちんと考える必要がある。
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概要 [編集]
関数 y = f (x) のある点 x = x1 での微分は、x1 の近くでの関数の形を表す。このグラフがxy座標平面に書かれているならば、 微分は、関数 y = f (x) の x = x1 における接線の傾きになり、接線の式を求めることができる。接線の傾きは、点 x = x1 を定めるごとに決まる値で局所的な情報だが、ある程度広い範囲の点における微分を観察すると、関数の形を知ることができる。関数のグラフの曲がり具合や、その周辺では値が最も大きい点(極大)の場所などは、微分という局所的な情報から知ることができるのである。
局所的な情報を集めると、大域的な情報へ繋がるのである。例えば、自動車のスピードを常に測っていれば、走行距離を求めることができる。走行距離はタイヤが回転した数を数えても分かる情報なのであまりありがたみはないかもしれない。これが例えば、河川に流れる水の量などであれば、下流で流れた全ての水の量を測るわけにはいかない。このように総量のわかりにくいものは、水の流れる速度を観測し続けることで、河川に流れるおよその水量を把握できる。
微分を用いた方程式は微分方程式と呼ばれ、自然科学や社会科学のいろいろな場面で現れる。力学や電磁気学のような物理学はもとより、生物学でも生物の個体数の増減を微分方程式で表し、マグロ漁の予測に使ったり、伝染病の伝播を解析する。経済学では価値の増減を微分方程式から予測し、保険数理では死力などの予測にも使われてきた。
このように微分は科学の礎として、広い分野で活躍する概念である。
この概念を、江戸時代の日本人(関孝和など)が得ていたとする見方が一部に有るが、関数と言う概念を持たなかった当時の日本人が、ニュートンやライプニッツが確立した微分と同等の概念に達していたとする見方に対しては、遠山啓などが批判を加えている。
実関数の微分法 [編集]
実関数があたえられたとき、微分係数 (differential coefficient) と呼ばれる極限の値やそれによって定まる 導関数 (derivative) と呼ばれる函数(かんすう:関数)を計算すること、あるいはその方法を微分法または単に微分と呼ぶ。微分係数・導関数そのものを指して、しばしばそれを単に実函数の微分と称する。
実関数 f(x) について極限
が存在するとき f(x) は x = a において微分可能(びぶんかのう、differentiable)であるといい、この極限を f′(a) と書き x = a における f(x) の微分係数(びぶんけいすう)と呼ぶ。極限が存在するということは x = a への近づき方によらずに 1 つの値に収束するということであるが、この条件を弱めて a より値が小さい方からの近づき方だけ考えた極限
が存在するとき、これを この極限を f′−(a) などと書き x = a における f(x) の左側微分係数 (left-hand derivative) といい、 a より値が大きい方からの近づき方だけ考えた極限
が存在するとき、これを この極限を f′+(a) などと書き x = a における f(x) の右側微分係数 (right-hand derivative) という。
x = a において f(x) の左側微分係数と右側微分係数の両方が存在して値が一致することは、x = a において f(x) が微分可能であることの必要十分条件であり、この時
- f′(a) = f′−(a) = f′+(a)
となる。
ある函数が点 x = a において微分可能ならば、必ずその点において連続であるが、逆は必ずしも成り立たない。
ある関数f(x) がある区間において微分可能であるとは、その区間に属するすべての点において微分可能であることをいう。このとき、区間内の任意の点 x に対して、その点における微分係数 f′(x) を対応させる関数を考えることができる。この関数を導関数という。
微分可能な関数 f(x) の導関数 f′(x) がさらに微分可能なとき f′ の導関数を f″ と書いて 2 階の導関数と呼ぶ。以下帰納的に n 階の導関数が微分可能であるとき、その導関数を n + 1 階の導関数という。
記号 [編集]
詳細は「微分の記法」を参照
関数 f(x) の点 a における微分係数を f′(a) で表す(ラグランジュの記法)。あるいは、
(ライプニッツの記法)や
のようにも書く(ニュートンの記法)。
一般に n 階微分可能な関数 f(x) の n 階微分を
あるいは
などと記す。
性質 [編集]
一般公式 [編集]
u, v が微分可能な x の関数で、a, b が x に無関係な定数のとき
初等関数に関する公式 [編集]
いくつかの初等関数に関して、特徴的な微分公式が挙げられる。
- (xa)′ = axa−1
- (sin x)′ = cos x
- (cos x)′ = −sin x




- (ex)′ = ex
- (ax)′ = axloga


超準解析 [編集]
超準解析の言葉では次のように表現される。実数 t が実関数 f の a での勾配であることを、
が成り立つことと定める。f の a での勾配が存在するとき、f は a で微分可能であるという。
f(x) を実関数、dx を 0 でない無限小超実数とする。f の勾配 f'(x) が存在する時、y = f(x) の微分 (differential) dy とは、
- dy = f'(x)dx
で定義される微小量である。
空間の形状・極値判定 [編集]
微分可能な曲線(関数)の形状はその微分によってある程度知ることができる。実際、ある点で導関数が正値ならば増加、負値ならば減少し、ある点を境にして導関数に符号変化があるならばそこは極値点である。導関数の零点は極値点の候補を与えるが、導関数の零点が必ず極値点となるわけではない。導関数の零点の前後で符号変化がおきるかどうかはさらに高階の導関数を調べることで判定できる場合がある。
同様のことは変数を増やして次元を上げても考察できるが、一般には次元が上がるにつれて状況は極めて複雑になる。
多変数関数の微分法 [編集]
(詳細は、多変数の微分に記載する)
実一変数の関数の局所的な挙動を記述する微分法は、適当な記号法の下で多変数関数の場合にほとんどそのまま拡張を受ける。一変数関数 y = f(x) の x = a なる点の周りにおける可微分性をランダウの記号を用いて、h → 0 なるとき
となる定数 A が存在することという形に表せば、x をベクトル値の変数 x = (x1, x2, ..., xn) に取り替えて、u = u(x) に対して |h| → 0 なるとき、つまり x + h が x のある近傍に属すとき
を満たす定ベクトル A の存在を仮定することによって多変数関数 u の点 x = a の周りにおける可微分性を定義することができる。この条件が満たされるとき、u = u(x) は x = a において微分可能、特に全微分可能であるという。このとき特に A = (A1, A2, ..., An) と置くと
が i = 1, 2, ..., n に対して成立する。つまり、全微分可能な関数は各変数に関して偏微分可能である。
また、一変数関数 y = f(x) の場合に h → 0 の極限で f(x + h) = f(x) + A(x)h + o(|h|) なる関数 A(x) が存在するとき、f ′(x) = A(x) を y = f(x) の導関数と呼んで
と記すと同様に、ベクトル変数の関数 u = u(x) においても
と記し、この du を関数 u = u(x) の全微分と称する。
同様の議論をベクトル値関数 u = u(x) に対して適用することができる。関数行列 ∂u/∂x の存在によって
が成り立つ点 x = a を u の正則点と呼ぶ。
多様体上の微分法 [編集]
n 次元実多様体は各点の近傍が n 次元空間の適当な領域となっているものであるから、多様体上の関数に対しても多変数関数の微分法をほとんどそのままの形で述べることができる。
多様体 M 上の点 p の近傍 U に座標近傍 Ω ⊂ Rn を与えることにより、U で定義された関数または写像 f は Ω 上の関数または写像と思うことができる。また、p を通る曲線 xi をうまくとって xi を Ω のある座標軸と同一視することができる。特に、滑らかな写像 f の点 p における xi 方向への微分 ∂f/∂xi|p を Ω で考えた座標軸方向の微分(偏微分)として与えることができて、f の(全)微分 dfp を U 上で考えることができる。
p を通る曲線 s を任意に取り替えて得られる方向微分 (∂/∂s)p の全体は Ω に同型なベクトル空間を成し、点 p における接ベクトル空間と呼ばれる。接ベクトル空間の元を接ベクトルと呼ぶ。U 上の関数 f に対して、点 p におけるその微分 dfp は接ベクトル v = (∂/∂s)p を ∂f/∂s|p へ写す線型写像である。したがって U 上の関数 f を任意に取り替えて得られる p における微分の全体は接ベクトル空間の双対空間となり、p における余接ベクトル空間と呼ばれる。
点 p における接ベクトルは p の近傍で定義された写像 f が与えられるごとに、その微分を返す局所的な微分ベクトル場になっている。各点で定義された接ベクトルの集まりが、多様体の局所近傍系の貼りあわせ条件と整合的に、貼り合せられるなら大域的な微分ベクトル場が得られ、大域的な微分ベクトル場の全体を考えることにより、接空間たちも貼り合わされて接ベクトル束とよばれるベクトル束を形成する。貼り合せ条件を満たす微分ベクトル場というのは接ベクトル束の切断であることを意味する。関数 f が多様体 M の全域で定義される大域的な関数で、各点 p において微分 dfp を持つとき、これらと同様の貼り合せ条件で整合的に dfp たちが貼り合せられると考えると、余接束の大域的な切断として f の微分(形式) df が得られる。
複素関数の微分法 [編集]
ガウス平面と座標平面との同一視により、複素一変数関数を実二変数の二次元ベクトル値関数と同一視することができる。実一変数における微分と同じ形式で微分係数および導関数が導入され、正則関数が定義されるが、複素関数の正則性は複素関数を実二変数の二次元ベクトル値関数と見たときの全微分可能性よりも強く、正則関数は解析性を示す。別な言葉でいえば、複素一変数関数のなめらかさの等級は Cω のみである。
微分作用素 [編集]
体 K 上の多元環 A からそれ自身への写像 D が
(λ ∈ K, f, g ∈ A) を満たす(つまり、ライプニッツ則を満足する線型作用素である)とき、D は A における微分作用素であるという。A 上の微分作用素の全体
は
とおくことによりK 上の加群、さらには非可換多元環となる。これについてはリー環やD加群の理論が知られている。
関連項目 [編集]





























