測地線

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幾何学における測地線(そくちせん、: geodesics)とは、曲面上の2点を結ぶ曲線の内で最短の曲線を言う。測地線は、平坦な空間(ユークリッド空間)における直線の概念の一般化とみなせる。

リーマン幾何学においては、測地線は、2つの離れた点を結ぶ(局所的に)最短な線として定義される。アフィン接続が定義される空間においては、測地線は、曲線のうち、その接ベクトルが曲線に沿って移動しても平行に保たれるような曲線(測地的曲率が常に0)として定義される。測地線の中でその長さが2点間の距離に等しくなるものを最短測地線という。

言葉の由来は、測地学からであり、地球上の2点間の最短ルート(大円の一部)による。この概念は、数学的な空間にも拡張され、例えばグラフ理論ではグラフ上の2つの頂点(vertex)や結節点 (node) 間の測地線が定義されている。一般相対性理論では、光は曲がった空間での測地線を進むという原理に基づいて構築されている。

概要[編集]

概要として、単純な例を示す。 地球を単純に球面であるとしよう.地球表面上で生活する我々は,例えば 東京ニューヨークの間を最短距離で移動するためには、東京とニューヨークを通る大円に沿った移動を行えばよく、この大円の一部こそ、測地線と呼ばれるものになる。

しかしながら、一般に、大円をその上の2点で分けると優弧と劣弧に分かれる。東京からニューヨークへ大円に沿った移動をしても、東京からニューヨークに行くには大円の周り方によって遠い移動と近い移動とある。この場合、劣弧に沿って移動すれば最短距離、優弧に沿えば直線的な移動としては最も遠回りになるわけである。大円の一部である弧は測地線となるが、必ずしも2点間の最短距離を示す曲線とはならない。

逆に2点間の最短距離を示す曲線は測地線となるので、2点を結ぶ測地線の中で最短のものが2点の最短距離を示すと考えてよい。その意味で、測地線というのは、2点間の最短距離を測るための曲線の候補の集まりであるともいえる。

ちなみに、2点を北極と南極のような対極の位置に取れば、この2点を結ぶ最短測地線は無数にあることにも注意されたい。

球面では測地線は閉曲線となるが、回転楕円体面上など一般には測地線は閉曲線とならない。

測地線の微分方程式[編集]

リーマン幾何学において、あるリーマン多様体に乗っている一つの曲線 xh(t) について、その曲線上のある一点 xh(t1) から他の一点 xh(t2) までの曲線の長さ s は積分

s = \int_{t_1}^{t_2} \sqrt{g_{ij} \frac{\mathrm{d} x^i}{\mathrm{d} t} \frac{\mathrm{d} x^j}{\mathrm{d} t} } \mathrm{d} t = \int_{t_1}^{t_2} \sqrt{g_{ij} \dot{x}^i \dot{x}^j } \mathrm{d} t

で与えられる。この変分 δs について δs = 0 となる曲線 xh(t) をそのリーマン多様体の測地線と呼ぶ。

曲線 xh(t) について δs = 0 となるための必要十分条件は xh(t) がオイラー=ラグランジュ方程式

\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t} \left( \frac{\partial F }{\partial \dot{x}^k}\right) - \frac{\partial F}{\partial x^k} = 0  ただし、F = \sqrt{g_{ij} \dot{x}^i \dot{x}^j }

を満たすことである。ここで、

\frac{\partial F}{\partial \dot{x}^a} = \frac{g_{ia} \dot{x}^i}{\sqrt{g_{ij} \dot{x}^i \dot{x}^j } } = \frac{g_{ia} \dot{x}^i}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} }
\frac{\partial F}{\partial x^a} = \frac{1}{2} \frac{\frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \dot{x}^i \dot{x}^j }{\sqrt{g_{ij} \dot{x}^i \dot{x}^j } } = \frac{1}{2} \frac{\frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \dot{x}^i \dot{x}^j }{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} }

であることから、

\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t} \left( \frac{\partial F }{\partial \dot{x}^a}\right) - \frac{\partial F}{\partial x^a}
= \frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t} \left( \frac{g_{ia} \dot{x}^i}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} } \right) - \frac{1}{2} \frac{\frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \dot{x}^i \dot{x}^j }{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} } 
=  \frac{g_{ia} \ddot{x}^i}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} } + \frac{ \frac{\partial g_{ia}}{\partial x^j} \dot{x}^i \dot{x}^j }{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} } - \frac{g_{ia} \dot{x}^i \frac{\mathrm{d}^2 s}{\mathrm{d} t^2}}{ \left( \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t}\right)^2  }  - \frac{1}{2} \frac{\frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \dot{x}^i \dot{x}^j }{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t} }  = 0

となる。よって、

g_{ia} \ddot{x}^i + \frac{\partial g_{ia}}{\partial x^j} \dot{x}^i \dot{x}^j - \frac{1}{2} \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \dot{x}^i \dot{x}^j  - g_{ia} \dot{x}^i \frac{ \frac{\mathrm{d}^2 s}{\mathrm{d} t^2}}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t}  } 
= g_{ia} \ddot{x}^i + \frac{1}{2} \left( \frac{\partial g_{i a}}{\partial x^j} + \frac{\partial g_{a j}}{\partial x^j} - \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \right) \dot{x}^i \dot{x}^j  - g_{ia} \dot{x}^i \frac{ \frac{\mathrm{d}^2 s}{\mathrm{d} t^2}}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t}  }  
= 0

が得られる。上式に g^{k a} を掛け合わせ a に関して足しあわせを行うと、

 \delta_{i}^{k} \ddot{x}^i + \frac{1}{2} g^{k a}\left( \frac{\partial g_{i a}}{\partial x^j} + \frac{\partial g_{a j}}{\partial x^j} - \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \right) \dot{x}^i \dot{x}^j  - \delta_{i}^k \dot{x}^i \frac{ \frac{\mathrm{d}^2 s}{\mathrm{d} t^2}}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t}  }

=\ddot{x}^k + \frac{1}{2} g^{k a}\left( \frac{\partial g_{i a}}{\partial x^j} + \frac{\partial g_{a j}}{\partial x^j} - \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \right) \dot{x}^i \dot{x}^j  - \dot{x}^k \frac{ \frac{\mathrm{d}^2 s}{\mathrm{d} t^2}}{ \frac{\mathrm{d} s}{\mathrm{d} t}  }  
= 0

となり、さらに s = t とおけば


\frac{\mathrm{d}^2 x^k}{\mathrm{d} s} + \frac{1}{2} g^{k a}\left( \frac{\partial g_{i a}}{\partial x^j} + \frac{\partial g_{a j}}{\partial x^j} - \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \right) \frac{\mathrm{d} x^i}{\mathrm{d} s}  \frac{\mathrm{d} x^j}{\mathrm{d} s}  = 0

を得る。最後にクリストッフェル記号と呼ばれる記号を

\left\{ { {k}\atop{i j} } \right\} = \frac{1}{2} g^{k a}\left( \frac{\partial g_{i a}}{\partial x^j} + \frac{\partial g_{a j}}{\partial x^j} - \frac{\partial g_{i j}}{\partial x^a} \right)

と定義すれば、上式は、


\frac{\mathrm{d}^2 x^k}{\mathrm{d} s} + \left\{ { {k}\atop{i j} } \right\} \frac{\mathrm{d} x^i}{\mathrm{d} s}  \frac{\mathrm{d} x^j}{\mathrm{d} s}  = 0

と表される。これを測地線の微分方程式(geodesic differential equation)と呼ぶ。

たとえば、3次元の空間が平坦である場合は、g_{\mu\nu}^{}={\rm diag}(1,1,1)であり、クリストッフェル記号はすべて0となる為、測地線の方程式は単に \frac{d^2x^{\mu}}{d\tau^2}=0 となる。つまり、x^{\mu}_{}\tau_{}^{}の1次式であり 通常の直線の方程式を表すものとなる。

この方程式は、最短測地線の満たすべき「2点間の最短距離を示す」という性質、或いは、「測地線 x(\tau)接ベクトル場レヴィ-チビタ接続(リーマン接続)に関して平行である」という性質により導かれる。

繰り返しになるが、微分方程式は局所的な情報を与えるものなので、大域的な曲線の長さなどを表すものではなく、したがってこの方程式で定義される測地線が必ずしも最短測地線とはならないことに注意されたい。

応用例[編集]

一般相対論では時空を4次元の擬リーマン多様体として記述するが、時空上のテスト粒子(時空への重力的な反作用を与えない仮想的な質点。電荷やスピンなどの性質は通常持たないと考える)や光の経路は測地線で記述される、と考えている。いわゆる自由落下している物体の軌跡が測地線で表されると考えるのである。たとえば、地上でボールを放り投げたときに描く放物線も4次元の時空の中でその軌跡を捉えれば測地線である。 一般相対論では測地線は時空の因果構造を定義するときに重要な役割を果たす。ブラックホールの定義や特異点定理、そのほか数学的な時空の定式化には欠かせない道具である。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 矢野 健太郎 『リーマン幾何学入門』 森北出版、1971年