リーマン曲率テンソル

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リーマン幾何学においてリーマン曲率テンソル(リーマンきょくりつテンソル、: Riemann curvature tensor)あるいはリーマン-クリストッフェルのテンソル: Riemann–Christoffel tensor)とは、リーマン多様体曲率を表す4階のテンソルを言う。名称は、ベルンハルト・リーマンおよびエルウィン・ブルーノ・クリストッフェルに因む。

リーマン-クリストッフェルのテンソル(リーマン曲率テンソル)は重力の現代的理論である一般相対性理論における数学的な道具の中心となるものである。

定義[編集]

リーマン多様体を M とする。すなわち、M 上の各点に基本計量テンソル gij が与えられており、接続の記号 \Gamma_{jk}^iクリストッフェル記号 \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} であるとする。

(3階共変1階反変)リーマン曲率テンソル(Riemann curvature tensor)[編集]

共変ベクトル(1階共変テンソル)vi共変微分に関して次のリッチの公式[1]

\nabla_k \nabla_j v_i - \nabla_j \nabla_k v_i = - \sum_a R_{k j i}{}^a  v_a (リッチの公式)

が成り立つが、このとき、右辺に現れる3階共変1階反変テンソルで次のように定義されるテンソル

R_{k j i}{}^h = \frac{\partial \left\{ { {h}\atop{j i} } \right\} }{\partial x^k} - \frac{\partial \left\{ { {h}\atop{k i} } \right\} }{\partial x^j} + \sum_a \left\{ { {h}\atop{k a} } \right\}\left\{ { {a}\atop{j i} } \right\}  - \sum_a \left\{ { {h}\atop{j a} } \right\}\left\{ { {a}\atop{k i} } \right\}

リーマン曲率テンソル(Riemann curvature tensor)またはリーマン-クリストッフェルのテンソル(Riemann-Christoffel tensor)と呼ぶ[2]

(4階共変)リーマン-クリストッフェルのテンソル(Rieman-Christoffel tensor)[編集]

3階共変1階反変のリーマン曲率テンソル R_{k j i}{}^h に基本計量テンソルを掛け合わせて得られる4階共変テンソル R_{k j i h}

R_{k j i h} = \sum_a R_{k j i}{}^a g_{ah}

を特にリーマン-クリストッフェルのテンソルと呼ぶことがある[3]

リッチテンソル(Ricci tensor)[編集]

さらに、リーマン-クリストッフェルテンソル R_{k j i h}g^{k h} を掛けて縮約またはリーマン曲率テンソルを単に縮約した2階共変テンソル

R_{j i} = \sum_{k h} g^{k h} R_{k j i h} = \sum_a R_{a j i}{}^a

リッチテンソル(Ricci tensor)と呼ぶ。

曲率スカラー(curvature scalar)[編集]

リッチテンソル R_{i j} にさらに反変基本計量テンソル gij をかけて縮約した0階テンソル(スカラー)

R = \sum_{i j} g^{i j} R_{i j}

曲率スカラー(curvature scalar)と呼ぶ。

テンソルの性質[編集]

(3階共変1階反変)リーマン曲率テンソルの性質[編集]

R_{k j i}{}^h = - R_{j k i}{}^h (定義より)
R_{k j i}{}^h + R_{i k j}{}^h + R_{j i k}{}^h = 0 (定義より)

ビアンキの第二恒等式(the second Bianchi identity)[編集]

\nabla_l R_{k j i}{}^h + \nabla_j R_{l k i}{}^h + \nabla_k R_{j l i}{}^h = 0

(4階共変)リーマン-クリストッフェルのテンソルの性質[編集]

R_{k j i h} = - R_{j k i h} (定義より)
R_{k j i h} = - R_{k j h i}後述
R_{k j i h} + R_{i k j h} + R_{j i k h} = 0 (定義より)

後ろ二つの添字について交代[編集]

二階共変テンソル Sih に対するリッチの公式は

\nabla_k \nabla_j S_{i h} - \nabla_j \nabla_k S_{i h} = -  \sum_a R_{k j i}{}^a S_{a h} - \sum_a R_{k j h}{}^a S_{i a}(二階共変テンソルに対するリッチの公式)

であるが、Sih = gih のとき、リッチの補定理 \nabla_k g_{i h} = 0 より

\nabla_k \nabla_j g_{i h} - \nabla_j \nabla_k g_{i h} = -  \sum_a R_{k j i}{}^a g_{a h} - \sum_a R_{k j h}{}^a g_{i a} = 0

となる。 ここで、R_{k j i h} = \sum_a R_{k j i}{}^a g_{a h} より

-  \sum_a R_{k j i}{}^a g_{a h} - \sum_a R_{k j h}{}^a g_{i a} = - R_{k j i h} - R_{k j h i} = 0

従って、

R_{k j i h} = - R_{k j h i}

となり、リーマン-クリストッフェルのテンソル R_{k j i h} 後ろ二つの添字 (i , h) について交代の性質を持つ

リッチテンソルの性質[編集]

リッチテンソルは対称テンソル[編集]

リーマン曲率テンソルの性質

R_{k j i}{}^h + R_{i k j}{}^h + R_{j i k}{}^h = 0

に対して h = k = a とおいて縮約を行うと

\sum_a (R_{a j i}{}^a + R_{i a j}{}^a + R_{j i a}{}^a) = 0 \;\; -(*)

となる。ここで、最初の二項についてそれぞれ

\sum_a R_{a j i}{}^a = R_{j i} \; , \;\; \sum_a R_{i a j}{}^a = \sum_a (-R_{a i j}{}^a) = -R_{i j}

が得られる。また、最後の三項目について

\sum_a R_{j i a}{}^a = \sum_{a, b}  R_{j i a b} g^{b a} = \sum_{a ,b} (-R_{j i b a}) g^{b a} = - \sum_{b , a} R_{j i b a} g^{a b} から \sum_a R_{j i a}{}^a = 0

を得る。したがって、(※)から

R_{j i} - R_{i j} + 0 = 0 すなわち、R_{j i} = R_{i j}

が導かれる。よってリッチテンソル R_{i j} は対称テンソル。

∂g/∂xk = 0 のときの表示[編集]

リッチテンソルの定義より


\begin{align}
R_{j i} &= \sum_a R_{a j i}{}^a = \sum_a \left( \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{j i} } \right\} }{\partial x^a} - \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{a i} } \right\} }{\partial x^j} + \sum_b \left\{ { {a}\atop{a b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{j i} } \right\}  - \sum_b \left\{ { {a}\atop{j b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{a i} } \right\} \right) \\
&= \sum_a \left( \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{j i} } \right\} }{\partial x^a}  - \sum_b \left\{ { {a}\atop{j b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{a i} } \right\} \right) + \sum_a \left(- \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{a i} } \right\} }{\partial x^j} + \sum_b \left\{ { {a}\atop{a b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{j i} } \right\} \right)
\end{align}

ここで、

A_{j i} =\sum_a \left( \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{j i} } \right\} }{\partial x^a}  - \sum_b \left\{ { {a}\atop{j b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{a i} } \right\} \right) , \;\; B_{j i} = \sum_a \left(- \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{a i} } \right\} }{\partial x^j} + \sum_b \left\{ { {a}\atop{a b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{j i} } \right\} \right)

と置くと、当然 R_{j i} = A_{j i} + B_{j i} となるが、Bj i について、g = det(ga b) とすると

\sum_a \left\{ { {a}\atop{a k} } \right\} = \frac{\partial \log \sqrt{g}}{\partial x^k}

であることから、

B_{j i} = - \frac{\partial^2  \log \sqrt{g} }{\partial x^j \partial x^i} + \sum_b \frac{\partial \log \sqrt{g}}{\partial x^b} \left\{ { {b}\atop{j i} } \right\}

を得る。したがって、\frac{\partial g}{\partial x^k} = 0 のときは、Bj i = 0 であり、

R_{j i} = A_{j i} = \sum_a \frac{\partial \left\{ { {a}\atop{j i} } \right\} }{\partial x^a}  - \sum_{a , b} \left\{ { {a}\atop{j b} } \right\}\left\{ { {b}\atop{a i} } \right\}

となる。

リーマン多様体のある領域がユークリッド空間である必要十分条件はリーマン曲率テンソルが0[編集]

リーマン多様体においては、ごく近い2点間の距離(線素) ds は、

ds = \sqrt{\sum_{i , j} g_{i j}(x) dx^i dx^j}

で定義されるが、ここで、係数 gij(x) は、一般に座標 x = (xh) の関数である。一方、ユークリッド空間においては、直交座標系をとればごく近い2点間の距離 ds は

ds = \sqrt{\sum_{i , j} \delta_{i j} dx^i dx^j }

で与えられるが、直交座標系(xh)から曲線座標系(uh)へ座標変換を行えば、あらわれる係数 gij(u) は座標 u の関数となり、ds はリーマン多様体と同様の形式となる。ただし、これは見かけ上だけのことであり、もともとユークリッド空間であるので当然適当な座標系(この場合は元の直交座標系)をとればgij(u) を全て定数(1または0など)にすることができる。一般にリーマン多様体の各点に与えられる基本計量テンソル gij(x) を定数にする座標変換は存在しないが、もしリーマン多様体の一部の領域について適当な座標変換により gij(x) を定数にすることができるのであれば、その領域はユークリッド空間に一致する。

したがって、

リーマン多様体の一部領域がユークリッド空間に一致⇔その領域における基本計量テンソル gij(x) を全部定数にする座標変換が存在する。

ここで、gij が全て定数であれば、クリストッフェル記号はその定義から明らかに0となる。逆にクリストッフェル記号が0であれば、リッチの補定理 \nabla_k g_{ij} = 0 から

\nabla_k g_{ij} = \frac{\partial g_{ij} }{ \partial x^k} - \sum_a g_{a j} \left\{ { {a}\atop{i k} } \right\} - \sum_a g_{i a} \left\{ { {a}\atop{j k} } \right\} = \frac{\partial g_{ij} }{ \partial x^k} = 0

となり、gij は全て定数となる。 よって、

ある領域における基本計量テンソル gij(x) を全部定数にする座標変換が存在する ⇔ その領域においてクリストッフェル記号を全て0にする座標変換が存在する。

ここで、座標系(uh)がクリストッフェル記号を全て0にする座標系とすれば、クリストッフェル記号の変換公式[4]より

\frac{\partial^2 u^a}{\partial x^j \partial x^k} = \sum_{i} \frac{\partial u^a}{\partial x^i} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\}

が得られる。両辺偏微分を行うと

\frac{\partial^3 u^a}{\partial x^l \partial x^j \partial x^k} = \sum_{i} \frac{\partial^2 u^a}{\partial x^l \partial x^i} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} + \sum_{i} \frac{\partial u^a}{\partial x^i} \frac{\partial \left\{ { {i}\atop{j k} }  \right\} }{\partial x^l} = \sum_{b, i} \frac{\partial u^a}{\partial x^b} \left\{ { {b}\atop{l \, i} } \right\} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} + \sum_{i} \frac{\partial u^a}{\partial x^i} \frac{\partial \left\{ { {i}\atop{j k} }  \right\} }{\partial x^l}

となる。

\frac{\partial^3 u^a}{\partial x^l \partial x^j \partial x^k} = \frac{\partial^3 u^a}{\partial x^j \partial x^l \partial x^k}

から


\begin{align}
0 &= \frac{\partial^3 u^a}{\partial x^l \partial x^j \partial x^k} - \frac{\partial^3 u^a}{\partial x^j \partial x^l \partial x^k} \\
& = \frac{\partial u^a}{\partial x^b} \left[ 
 \frac{\partial \left\{ { {b}\atop{j k} }  \right\} }{\partial x^l} 
- \frac{\partial \left\{ { {b}\atop{l k} }  \right\} }{\partial x^j} 
+ \sum_{i} \left\{ { {b}\atop{l \, i} } \right\} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} 
- \sum_{i} \left\{ { {b}\atop{j  i} } \right\} \left\{ { {i}\atop{l k} } \right\} \right] \\
& = \frac{\partial u^a}{\partial x^b} R_{j k l}{}^b
\end{align}

したがって、R_{j k l}{}^b = 0

曲面の曲率[編集]

二次元曲面に対して、ビアンキ恒等式はリーマンテンソルが

R_{abcd}^{}=K(g_{ac}g_{db}- g_{ad}g_{cb})

の形に表せることを示している。ここで gab はこの曲面の計量テンソルKガウス曲率と呼ばれる函数で、a, b, c, d は 1 または 2 のいずれかの値をとる。期待の通り、このリーマン曲率テンソルは独立成分をただ一つだけ持つ。

ガウス曲率は、この曲面の断面曲率と一致し、また 2-次元多様体のスカラー曲率のちょうど半分にもなっている。同時に、この曲面のリッチ曲率テンソルは単に

\operatorname{Ric}_{ab} = Kg_{ab}

として与えられる。

脚注[編集]

  1. ^ なお、一般の r 階共変テンソルS_{i_1 i_2 \cdots i_r}共変微分に関するリッチの公式は以下
    \nabla_k \nabla_j S_{i_1 i_2 \cdots i_r} - \nabla_j \nabla_k S_{i_1 i_2 \cdots i_r} = - \sum_{p=1}^r \sum_a R_{k j i_p}{}^a S_{i_1 i_2 \cdots a \cdots i_r}(リッチの公式)
    となる。
  2. ^ すなわち、リーマン曲率テンソルは「共変微分の非可換さ」を測るものである。
  3. ^ ただし、
    -\sum_{k, j, i, h} R_{k j i h} u^k v^i u^i v^h
    が、互いに直交する単位ベクトル uh と vh の定める切口に関する断面曲率となるという意味でそのように呼ばれる。 矢野(1971) p.206
    以後、使い分けのため、リーマン-クリストッフェルのテンソルというときはこの4階共変テンソルを指すこととする。
  4. ^ 座標系(uh)から座標系(xh)へのクリストッフェル記号の座標変換公式
    \sum_i \frac{\partial u^a}{\partial x^i} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} = \sum_{b, c} \frac{\partial u^b}{\partial x^j} \frac{\partial u^c}{\partial x^k} \left\{ \overline{ {a}\atop{b c} } \right\} + \frac{\partial^2 u^a}{\partial x^j \partial x^k}
    座標系(uh)がクリストッフェル記号を全て0にする
    \left\{ \overline{ {a}\atop{b c} } \right\} = 0
    とすれば、
    \frac{\partial u^a}{\partial x^i} \left\{ { {i}\atop{j k} } \right\} = \frac{\partial^2 u^a}{\partial x^j \partial x^k}
    が得られる。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • リーマン,リッチ,レビ=チビタ,アインシュタイン,マイヤー 『リーマン幾何とその応用』 矢野健太郎(訳)、共立出版、1971年
  • 矢野 健太郎 『微分幾何学』 朝倉書店、1949年
  • 矢野 健太郎 『接続の幾何学』 河出書房、1948年
  • 矢野 健太郎 『リーマン幾何学入門』 森北出版、1971年