クリストッフェル記号

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

数学および物理学において、クリストッフェル記号(クリストッフェルきごう、英語: Christoffel symbols)は、ブルーノ・クリストッフェル (1829–1900) に因んで名づけられた、曲面あるいはもっと一般の多様体における平行移動の効果を記述するもの(座標系をとれば実数の配列として見ることができるもの)である。すなわち、クリストッフェル記号は、計量テンソルから導かれたレヴィ-チヴィタ接続に対する、座標空間での表示式である。広義には、勝手な(計量であるとは限らない)アフィン接続の座標基底に関する共変微分係数のことも、クリストッフェル記号とよぶ[1]。クリストッフェル記号は、微分幾何学において実際的な計算を行うのに利用できる。例えば、リーマン曲率テンソルはクリストッフェル記号とその一階偏導函数の言葉で完全に表すことができる。

台となる n-次元多様体の各点で、任意の局所座標系に対して、クリストッフェル記号はサイズが n × n × n多次元配列であり、n3 の各成分は実数である。

多様体上の線型座標変換の下ではテンソルのように振舞うが、一般の座標変換の下では異なる挙動を示す。(与えられた座標系や計量テンソルがいくつかのよくある対称性を持つような)実用上の多くの問題において、クリストッフェル記号のほとんどの成分は 0 である。

一般相対性理論において、クリストッフェル記号は重力ポテンシャルが「計量テンソル」であるような重力場の役割を果たす。

[編集]

以下に与える定義は、一般相対論に現れるようなリーマン多様体および擬リーマン多様体の両者において有効である。また、添字の上付きと下付き(反変と共変)とを注意して区別しなければならない。公式は特に断りのない限り符号規約のいずれかを保持する。また、この記事中でアインシュタインの和の規約を用いる。

定義[編集]

多様体 M 上で、xi (i = 1, 2, ..., n) を局所座標系とすれば、接ベクトル

e_i = \frac{\partial}{\partial x^i}, \quad i=1,2,\dots,n

M の各点における接空間の基底を定義する。

第一種クリストッフェル記号[編集]

第一種クリストッフェル記号は第二種のクリストッフェル記号と計量テンソルから


  \Gamma_{\gamma \, \alpha \beta}
 = g_{\gamma \delta} \Gamma^{\delta}_{\alpha \beta}
 = {1 \over 2} (g_{\gamma \alpha, \beta} + g_{\beta \gamma, \alpha} - g_{\alpha \beta, \gamma})

と与えられる。

対称的第二種クリストッフェル記号[編集]

第二種クリストッフェル記号[2] Γk
ij
は(i, j に関して対称な定義として)方程式

\nabla_ie_j = \Gamma^k_{ij}e_k

を満足するような一意的な係数として定義される。ただし、∇iM 上の座標 ei 方向へのレヴィ・チヴィタ接続である。

クリストッフェル記号は計量テンソル gik共変微分が消えること、つまり

0 = \nabla_\ell g_{ik} = \frac{\partial g_{ik}}{\partial x^\ell} - g_{mk}\Gamma^m_{i\ell} - g_{im}\Gamma^m_{k\ell}

から導くことができる。簡便記法としてナブラ記号と偏微分記号を落として、代わりにセミコロンとコンマを添字に補って微分を表すことがよく行われる。つまり上の式は

0 = g_{ik;\ell} = g_{ik,\ell} - g_{mk} \Gamma^m_{i\ell} - g_{im} \Gamma^m_{k\ell}

とも書かれる。添字を並べ替え、補うことにより、上式を計量テンソルの函数としてクリストッフェル記号について陽に解いて

\Gamma^i_{k\ell}=\frac{1}{2}g^{im} \left(\frac{\partial g_{mk}}{\partial x^\ell} + \frac{\partial g_{m\ell}}{\partial x^k} - \frac{\partial g_{k\ell}}{\partial x^m} \right) = {1 \over 2} g^{im} (g_{mk,\ell} + g_{m\ell,k} - g_{k\ell,m})

と書くことができる。ここで行列 (gjk) は行列 (gjk) の逆行列、すなわちクロネッカーのデルタ和の規約を用いて g^{j i} g_{i k}= \delta^j {}_k と定義されるものである。クリストッフェル記号は添字記法を持つテンソルと同じように書かれるけれども、テンソルではない[3]。実際、クリストッフェル記号は座標変換の下でテンソルのような変換はしない(後述)。

座標基底に関して最も典型的に定義されるクリストッフェル記号は、ここでの既約に従ったものである。しかし、クリストッフェル記号は接ベクトル ei に関する任意の基底においても

\nabla_{e_i}e_j = \Gamma^k_{ij}e_k

で定義することができる。これは計量テンソルを用いて陽に表せば[2]

\Gamma^i_{k\ell}=\frac{1}{2}g^{im} \left(
g_{mk,\ell} + g_{m\ell,k} - g_{k\ell,m} +
c_{mk\ell}+c_{m\ell k} + c_{k\ell m} 	
\right)

と書くことができる。ここで ckm = gmpcp
k
は基底の交換係数、すなわち

[e_k,e_\ell] = c_{k\ell}^m e_m

ここで ek は基底ベクトル、"[,]" はリーの括弧積である。円筒座標と球座標における標準単位ベクトルからなる基底は交換係数が消えないような例を与える。

下の式は座標基底でのみ有効であることを除けばほかに注意すべきことはない。

非対称な第二種クリストッフェル記号[編集]

別な定義として、Misner et al. (1973) では i, j に関して非対称な

\Gamma^k_{ij} := \widehat{\mathbf{u}}_k \cdot (\nabla_j \widehat{\mathbf{u}}_i)

によって第二種クリストッフェル記号を与えている[2]

添字なし記法との関係[編集]

XY を成分 Xi, Yi を持つベクトル場とすると、YX に関する共変微分の k-番目の成分は

\left(\nabla_X Y\right)^k = X^i (\nabla_i Y)^k = X^i \left(\frac{\partial Y^k}{\partial x^i} + \Gamma^k_{im} Y^m\right)

で与えられる。ここで、和の規約が使われていて、繰り返し現れる添字に関して和をとり縮約することを暗に意味している。計量テンソルは添字の上げ下げをおこなう。

g(X,Y) = X^i Y_i = g_{ik}X^i Y^k = g^{ik}X_i Y_k.

gikgik および gik = δikクロネッカーのデルタ)であることを記憶にとどめておこう。この規約で、計量テンソルは下付き添字のみを持つほうのことである。gik から gik を得る正しい方法は、線型方程式 gijgjk = δik を解くことである。

接続がねじれを持たない(トーション・フリー)であるとは

\nabla_X Y - \nabla_Y X = [X,Y]

が成り立つことである。これは、クリストッフェル記号が二つの下付き添字に関して対称

\Gamma^i_{jk}=\Gamma^i_{kj}

であると言っても同じことである。テンソルの添字を用いない変換の性質は共変添字に対する引き戻しと反変添字に対する押し出しによって与えられる。

テンソルの共変微分[編集]

ベクトル場 Vm共変微分

\nabla_\ell V^m = \frac{\partial V^m}{\partial x^\ell} + \Gamma^m_{k\ell} V^k

で与えられる。また、スカラー場 φ の共変微分はただ

\nabla_i \varphi = \frac{\partial \varphi}{\partial x^i}

で与えられ、余ベクトル場 ωm の共変微分は

\nabla_\ell \omega_m = \frac{\partial \omega_m}{\partial x^\ell} - \Gamma^k_{\ell m} \omega_k

で与えられる。クリストッフェル記号の対称性は、ここでは

\nabla_i\nabla_j \varphi = \nabla_j\nabla_i \varphi

が任意のスカラー場で成立することを含んでいるが、一般には高階テンソルの共変微分は可換とはならない(曲率テンソルを参照)。

(2,0)-型テンソル場 Aik の共変微分は

\nabla_\ell A^{ik}=\frac{\partial A^{ik}}{\partial x^\ell} + \Gamma^i_{m\ell} A^{mk} + \Gamma^k_{m\ell} A^{im}

すなわち、

 A^{ik}_{;\ell} = A^{ik}_{,\ell} + A^{mk} \Gamma^i_{m\ell} + A^{im} \Gamma^k_{m\ell}

となる。混合テンソル場に対してその共変微分は

 A^i_{k;\ell} = A^i_{k,\ell} + A^{m}_k \Gamma^i_{m\ell} - A^i_m \Gamma^m_{k\ell}

で与えられ、またテンソル場が (0,2)-型ならば共変微分は

 A_{ik;\ell} = A_{ik,\ell} - A_{mk} \Gamma^m_{i\ell} - A_{im} \Gamma^m_{k\ell}

である。

変数変換[編集]

(x1, ..., xn) から (y1, ..., yn) への変数変換の下で、ベクトルは

\frac{\partial}{\partial y^i} = \frac{\partial x^k}{\partial y^i}\frac{\partial}{\partial x^k}\

と変換され、同様に

\overline{\Gamma^k_{ij}} =
\frac{\partial x^p}{\partial y^i}\,\frac{\partial x^q}{\partial y^j}\,
\Gamma^r_{pq}\,\frac{\partial y^k}{\partial x^r}
+\frac{\partial y^k}{\partial x^m}\, \frac{\partial^2 x^m}{\partial y^i \partial y^j}

となる。ここで、上線は y-座標系に関するクリストッフェル記号であることを表す。注意すべきは、クリストッフェル記号はテンソルとしての変換ではなく、ジェット束における元としての変換であるということである。

事実として、各点においてクリストッフェル記号がその点において消えているような座標系をとることができる[4]。この座標系を(測地的)正規座標と呼び、リーマン幾何学でしばしば用いられる。

一般相対論への応用[編集]

クリストッフェル記号はアインシュタインの一般相対論において頻繁に用いられる。一般相対論は時空を、レヴィ-チヴィタ接続を備えた、湾曲した 4-次元ローレンツ多様体によって表現する。(物体の存在によって時空の形状を決定するという)アインシュタインの場の方程式リッチテンソルを含み、クリストッフェル記号を計算することが本質的である。一旦形状が決定されたならば、粒子と光線の軌跡は(クリストッフェル記号が陽に現れる)測地的方程式を解くことによって計算できる。

関連項目[編集]

注記[編集]

  1. ^ 例えば (Spivak 1999) および (Choquet-Bruhat & DeWitt-Morette 1977) を見よ。
  2. ^ a b c Weisstein, Eric W., "Christoffel Symbol of the Second Kind" - MathWorld.(英語)
  3. ^ 例えば (Kreyszig 1991, p. 141) を見よ。
  4. ^ これには接続が(レヴィ-チヴィタ接続のように)対称であることが前提である。接続がトーションを持つならば、クリストッフェル記号の対称部分だけ消すことができる。

参考文献[編集]