媒介変数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

数学において媒介変数(ばいかいへんすう、パラメータ、パラメタ、parameter)とは、主たる変数(自変数)あるいは関数に対して補助的に用いられる変数のことである。なおこの意味でのパラメータは助変数(じょへんすう)とも呼び、また古くは径数(けいすう)とも訳された(後者はリー群の一径数部分群(1-パラメータ部分群)などに残る)。母数と呼ぶこともある。

媒介変数の役割にはいくつかあるがその主なものとして、主たる変数たちの間に陰に存在する関係を記述すること、あるいはいくつもの対象をひとまとまりのものとして扱うことなどがある。前者では関数の媒介変数表示とか陰関数などとよばれるもの、後者では集合族とか数列などが一つの例である。後者の意味を持つ媒介変数はしばしば文字の肩や斜め下に本文より少し小さな文字 (script style) で書かれ、添字 (index) と呼ばれる。

陰関数[編集]

陰関数(いんかんすう、implicit function)とは、

y=f(x_1,x_2,\ldots,x_r)

のような陽な(明示的な)従属関係(これを陰関数に対して、陽関数 explicit function ということがある)で表されないような関数関係をいう。陰関数は一般に、関数の零点として

F(x_1,x_2,\ldots,x_n) = 0

のような形で与えられる。ここで、媒介変数 t1, ..., tm を導入して

\begin{cases}
x_1 = f_1(t_1,\dots,t_m), \\
x_2 = f_2(t_1,\dots,t_m), \\
\quad \ \, \vdots \\
x_n = f_n(t_1,\dots,t_m)
\end{cases}

のように、各変数を媒介変数の陽関数としてあらわすことができる場合がある。これをもとの陰関数の媒介変数表示とよぶ。

[編集]

x2 + y2 = 1 という陰関数表示をもつ関数は

\begin{cases}
  x = \cos\theta,\\
  y = \sin\theta
\end{cases}

と媒介変数表示される。なおこの陰関数は媒介変数を用いずに

y=\pm\sqrt{1-x^2} \quad(-1\leq x \leq 1)

という二つの陽関数の組としても表されるので 0 ≤ u ≤ 1 なる媒介変数を用いて

\begin{cases}
  x^2 = u,\\
  y = \pm\sqrt{1-u}
\end{cases}

と表すこともできる(ただしこれは陽な表示とは言えない)。

例2[編集]

陰関数表示の1階常微分方程式[1][2]

F\Bigl(\,a+bx+cy, \; \; \frac{\,dy\,}{dx} \; \Bigr) = 0

の一般解は,媒介変数 t を用いて,

\begin{cases}
\; x =\displaystyle \int \dfrac{\dfrac{\;d\phi(t)\;}{dt}}{\;\;b+c\,\psi(t)\;\;} \, dt+C_1,\\[2.2ex]
\; a+bx+c\,y=\phi(t),\\[1.2ex]
\; F(\phi(t),\; \psi(t) )\equiv 0\\[1.2ex]
\end{cases}

と書ける。 これは解を媒介変数表示する実例となってる。 a,\;b,\;c は実数で,C_1 は積分定数である。 この微分方程式 F\bigl(\,a+bx+c\,y, \; \; dy/dx \; \bigr) = 0 は,媒介変数を用いなければ解を表示できない。なお,F は既知関数である。

例3[編集]

陰関数表示の2階常微分方程式[1]

F\Bigl(\,y, \; \; \frac{d^2 y}{dx^2} \; \Bigr) = 0

の一般解は,媒介変数 t を用いて,

\begin{cases}
\; x = \pm \displaystyle \int \dfrac{\,d\phi(t)\,}{dt}
  \left(C_1 + 2 \displaystyle \int\psi(t) \cdot \dfrac{\,d\phi(t)\,}{dt}\,dt \right)^{\!\! -1/2}dt+C_2,\\[1.5ex]
\; y=\phi(t),\\[1.2ex]
\; F(\phi(t),\; \psi(t) )\equiv 0\\[1.2ex]
\end{cases}

と書ける[2]。 これは解を媒介変数表示する実例となる。 C_1,\, C_2 は積分定数である。 この微分方程式 F\bigl(\,y, \; \; {d^2 y}/{dx^2} \, \bigr) = 0 は,媒介変数を用いなければ解を表示できない。 実に,媒介変数の重要性を示している例である。なお, F は既知関数である。

例4[編集]

2種類の媒介変数を用いる例を以下で示す。 陰関数表示の連立常微分方程式[1][2]

\begin{cases}
\; F \Bigl( z,\; \dfrac{\,dy\,}{dx} \Bigr)=0,\\[1.5ex]
\; G \Bigl( y,\; \dfrac{\,dz\,}{dx} \Bigr)=0
\end{cases}

は,媒介変数 st を用いて,一般解が,

\begin{cases}
\; \; x=C_1 + \displaystyle \int \Bigl( \dfrac{1}{\,\eta{}(s)\,} \cdot \dfrac{\,d\phi(t)\,}{dt} \Bigr)\, dt,\\[1.5ex]
\; \; y=\xi{}(s),\\[1.5ex]
\; \; z=\phi{}(t),\\[1.5ex]
\; \; \displaystyle \int \Bigl( \dfrac{\,d\phi(t)\,}{dt} \cdot \psi{}(t) \Bigr)\, dt
    = \displaystyle \int \Bigl( \dfrac{\,d\xi(s)\,}{ds} \cdot \eta{}(s) \Bigr)\, ds + C_2,\\[2.5ex]
\; \; F \bigl( \phi(t),\; \psi{}(t)  \bigr) \equiv{}0, \; \; \; \; \;
\; \; G \bigl( \xi{}(s),\; \eta{}(s) \bigr) \equiv{}0 \\[1ex]
\end{cases}

で表示される[2]。なお,F, \; G は既知関数であり,C_1,\, C_2 は積分定数である。

座標変換[編集]

解析幾何学において座標系 (x1, ..., xn) が与えられているとき、m 個の助変数 t1, ..., tm を用いて各座標の値を

\begin{cases}
x_1 = f_1(t_1,\dots,t_m), \\
x_2 = f_2(t_1,\dots,t_m), \\
\quad \ \, \vdots \\
x_n = f_n(t_1,\dots,t_m)
\end{cases}

のように媒介変数表示で与えることによって、図形を描くことができる。m = 1 ならば曲線が、m = 2 ならば曲面が一般に得られる。またこの表示は座標系 (t1, ..., tm) で表される空間から座標系 (x1, ..., xn) で表される空間への写像を与えるものであり、このような写像を座標変換と呼ぶ。変換を与える写像 (f1, ..., fn) によっては変換に特別の名前がついていることもある。たとえば、全て斉一次式ならば線形変換、全て一次式ならばアフィン変換と呼ばれる。

例えば、


\begin{cases}
x = r\cos \theta \\
y = r\sin \theta
\end{cases}

極座標系 (r, θ) から直交座標系 (x, y) への座標変換を与える。

微分幾何学などにおいては、座標変換において逆変換を持たない点を特異点と呼ぶ。特異点は関数行列式を用いて記述することができる。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c 長島 隆廣 『常微分方程式80余例とその厳密解』 近代文芸社、2005年 ISBN 978-4-7733-7282-3 (4773372826)。
  2. ^ a b c d 長島 隆廣 『数学セミナー』 日本評論社,1986年5月号,第25巻,第5号,通巻294号,pp.94-95。

関連項目[編集]