毎月勤労統計調査

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毎月勤労統計調査及び同統計は、 厚生労働省が実施している調査統計であり、景気変動を探る経済指標の一つとして賃金や労働状況、雇用変動を明らかにすることを目的としている調査である。前身の調査は大正12年(1923年)から始まっており、統計法に基づき、国の重要な調査として行われている[1]物価変動を除いた実質賃金指数などの公表をしている。GDPの計算や保険などにも用いられる。またこのような重要な統計であるにもかかわらず、下記の不正においては統計の6割強が不適切であったとして問題となっている[2]

概要[編集]

常用労働者が5人以上の事業所を対象として毎月行う全国調査と都道府県別に行う地方調査が有る。

常用労働者が4人以下の事業所では一年に一回7月分について行う特別調査がある[1]

調査方法は事業所の規模(常用労働者人数)により郵送や訪問聞き取り、第一種及び第二種事業所についてはインターネットを利用しての提出も可能である。

調査対象の選定は無作為に選定され、一定期間ごとに見直される。調査は総務大臣により基幹統計に指定されているため[3]、統計作成のために必要な事項について報告を求められた個人又は法人その他の団体は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない(統計法第13条)。個人情報保護法を理由とした報告拒否も認められていない(統計法第52条により、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律及び独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律の適用が除外されている)。この規定の違反者は50万円以下の罰金に処せられる(統計法第61条)。

歴史[編集]

1923年より前身となる調査が始まる。

1993年 (平成5年) には、バブル経済崩壊に伴い雇用状況の変化によりこれまで正規雇用のみとしていた調査対象をパートタイム労働者にも拡大した[4]

2019年、不適切な調査が行われていたことが明らかになり根本匠厚生労働相が「政府統計への信頼を失い申し訳ない」と謝罪する事態となった。

統計不正調査問題[編集]

2019年の上記不正問題は、本来ならば従業員500人以上の事業所では全数調査しなければならないところを、2004年から東京都分に関して実際は約3分の1の抽出調査にしていた。そのため、2017年分までは抽出作業による数値を全数調査に近づける復元処理をしておらず平均賃金が低くなっていた[5]。これにより雇用保険労災保険などで述べ2000万人に対して約600億の支払い不足があったとされる[6]

毎月勤労統計調査の手引きには、2004年以降「東京は抽出調査でよい」と記載されていたが、2015年以降はこの記述が削除された[7]。また、2016年10月に厚生労働省が総務省に提出した書類では、「全数調査を継続する」と虚偽の記述がされている[7]

厚生省の元統計担当は「経済を左右するものだっていうことで自負を持って慎重にやってましたが、あそこまで政策に影響するとは正直思ってなくてびっくり」[8]というように大日本帝国時代の大本営発表のようなデータ軽視の悪癖を引き継いでいることが明らかとなった。

複数の問題が存在していることを指摘する意見がある[9][10][11]

時系列[編集]

前年2018年の9月28日、政府の「統計委員会」は会合を開き、統計上の賃金が大幅に伸びているのは実態を示していないという見解を示した[12]。また、この時点で高い成長率の数値に疑義を呈するエコノミストも存在した[12][13]

2018年の12月13日、厚生労働省の職員が総務省の統計委員会に対して、全数調査でないことを報告した[14]。厚生労働省の職員は、愛知や大阪などでも抽出調査に変更したいという意向を示していた[14]。12月20日に根本厚生労働相に問題を報告した[14]

12月28日、毎月勤労統計の調査の中で、従業員500人以上の事業所を全数調査せず、一部のみ抽出調査としていたことが報道された[15]

2019年の1月16日、厚生労働省は特別監査委員会を発足させた[16]。委員長には、労働政策研究・研修機構の理事長である樋口美雄が就任した。

1月17日、不正なデータを補正するための資料のうち、2004~2011年分が紛失もしくは破棄されており、再集計が困難であることが判明した[17]

1月22日、厚生労働省の特別監査委員会が報告書を公表した[18]。調査方法が計画と異なり、統計法に違反していると結論づけた。抽出調査に変更したことによって復元処理が必要となったが、復元が実施されなかったことについて、システムの改修が実施されていなかったと述べている。通常のシステム改修に際して、口頭で依頼をしており後から追跡可能でないこと、課長や課長補佐が関与しないことなど、体制に問題があることを報告している[18]。報告書では抽出調査に変更した理由として「大都市圏の都道府県からの要望に配慮した」「担当者の負担を考慮した」との記載がある[18]が、東京都側は要望を否定している[19]。この報告書では「延べ69人へヒアリングした」と記載してあるが実際は37人であった事がわかり、与野党から批判された。[要出典][20]また職員のメールが調査されておらず大臣政務三役にはヒアリングしていないなど、調査報告への信頼性も失われている。

報告書には複数の問題点が指摘された。

  • 一部のヒアリングを、外部の人間ではなく厚生労働省の職員が実施していた[21]
  • 報告書の原案を、厚生労働省が作成していた[21]

1月25日、必要に応じて行うと答弁していた根本匠厚生労働相は再調査を実行することを決定した。

1月26日、この問題に自民党国会対策委員長である森山裕は「今回はさほど大きな問題ではないと今のところ思う」と述べており[22]、その後「誤解を与えるような発言であったとすれば大変申し訳なかった」と発言している[23]

2月1日、厚生労働省で統計を担当していた政務調査官を政府は更迭した[24]

2月22日、総務省は「統計委員会の西村清彦委員長は多忙のため、国会審議には協力しない」という趣旨の文書を作り、野党に提示した。しかし、西村氏に無断で総務省が作成していたことが分かり、西村氏は「極めて遺憾だ。支障のない限り国会には協力する」と書面でコメントしている[25][26]

2月27日、特別監査委員会は2回目の報告書を公表した[27]。虚偽の説明であり、隠蔽ではないと報告している。監察委員の元名古屋高裁長官の荒井史男は「隠す意図はなかった」としつつも、「虚偽は隠蔽に勝るとも劣らない罪だ」と強調している[28]

4月26日、未修正のままだった2004~11年のデータについて、データを補完して推計する考えを示した。[29]

5月16日、総務省統計委員会の点検検証部会が行った追加調査の結果、288統計のうち問題があったのは6割強の178統計に上ったと発表している[2]

6月14日、参議院は2017年度決算を承認した。この際、7項目からなる「警告決議」を採択し、内閣に対して警告をした。毎月勤労統計の問題や、2018年7月の西日本豪雨で政府からの情報伝達が不十分であった問題などを含む[30][31]

脚注[編集]

  1. ^ a b 厚生労働省:毎月勤労統計調査って何?”. www.mhlw.go.jp. 2019年2月9日閲覧。
  2. ^ a b 全政府統計の6割強不適切 プログラムミス、ルール違反、公表遅延など” (日本語). 毎日新聞. THE MAINICHI NEWSPAPERS.. 2019年6月4日閲覧。 “総務省統計委員会の点検検証部会は16日、毎月勤労統計(厚生労働省)の不正調査問題を受けた政府統計の追加点検結果を発表した。特に重要度の高い「基幹統計」(56統計)を除く「一般統計」(232統計)のうち154統計で不適切な対応があったと認定した。基幹統計の不適切対応(24統計)と合わせ、問題があったのは政府の288統計の6割強の178統計に上った。”
  3. ^ 基幹統計一覧総務省
  4. ^ 小項目事典,知恵蔵mini,日本大百科全書(ニッポニカ),世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典. “毎月勤労統計調査(まいつききんろうとうけいちょうさ)とは” (日本語). コトバンク. 2019年2月9日閲覧。
  5. ^ アベノミクスは嘘だったのか? 「毎月勤労統計」不正の影響を政治家の発言から追う 2018年の実質賃金伸び率が大半でマイナスだった可能性 - 大山 くまお” (日本語). BLOGOS. 2019年2月9日閲覧。
  6. ^ 毎月勤労統計の不正調査:時事ドットコム” (日本語). 時事ドットコム. 2019年2月9日閲覧。
  7. ^ a b 組織的関与、疑い強まる 勤労統計の不適切調査” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年1月17日). 2019年2月27日閲覧。
  8. ^ https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4248/index.html
  9. ^ 実質賃金についてどのように考えるか?――「統計不正」と「実感なき景気回復」のあいだ | SYNODOS -シノドス-” (日本語). synodos.jp. 2019年6月18日閲覧。
  10. ^ 小峰隆夫氏「統計委を独立組織に」(統計不信)” (日本語). 日本経済新聞 電子版. 2019年6月18日閲覧。
  11. ^ 毎月勤労統計の問題について|大竹文雄|note” (日本語). note(ノート). 2019年6月18日閲覧。
  12. ^ a b 厚労省の賃金統計「急伸」 実態表さずと認める 政府有識者会議” (日本語). 東京新聞 TOKYO Web (2018年9月29日). 2019年2月12日閲覧。
  13. ^ 算出方法変更で賃金大幅伸び 今年の勤労統計 大企業多く反映” (日本語). 東京新聞 TOKYO Web (2018年9月22日). 2019年2月12日閲覧。
  14. ^ a b c 統計不信(上)「多忙」盾に ルール無視” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年1月16日). 2019年2月10日閲覧。
  15. ^ 毎勤統計、都内分を全数調べず 厚労省が調査ミス” (日本語). 日本経済新聞 (2018年12月28日). 2019年2月10日閲覧。
  16. ^ 統計不正、第三者委調査は最低ランク 身内調査に限界” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年3月8日). 2019年3月12日閲覧。
  17. ^ 勤労統計の資料を廃棄 厚労省04~11年分、再集計は困難” (日本語). 毎日新聞 (2019年1月17日). 2019年2月10日閲覧。
  18. ^ a b c 毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書について” (日本語). www.mhlw.go.jp (2019年1月22日). 2019年2月10日閲覧。
  19. ^ 毎月勤労統計、組織的隠蔽なお疑問 統計法違反は認定” (日本語). 日本経済新聞 (2019年2月13日). 2019年2月24日閲覧。
  20. ^ 厚労相、一転再調査=「お手盛り」批判受け-統計不正” (日本語). 時事ドットコム. 時事通信. 2019年2月9日閲覧。 “「こんなお手盛りの調査があるか」と、客観性や信頼性に対する疑問が与野党から噴出した。”
  21. ^ a b 厚労省、調査手法も「不適切」 統計問題 聴取やり直しへ” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年1月25日). 2019年3月12日閲覧。
  22. ^ 自民国対委員長、統計不正「さほど大きな問題はない」” (日本語). 朝日新聞デジタル. 朝日新聞デジタル. 2019年2月9日閲覧。
  23. ^ くまお, 大山. “(2ページ目)アベノミクスは嘘だったのか? 「毎月勤労統計」不正の影響を政治家の発言から追う”. 文春オンライン. 2019年2月9日閲覧。
  24. ^ 厚労省局長級幹部を更迭 賃金構造統計の報告漏れで” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年2月1日). 2019年2月27日閲覧。
  25. ^ 「統計委員長 国会に協力しない」 総務省、無断で文書作成” (日本語). 東京新聞 TOKYO Web. 2019年3月22日閲覧。
  26. ^ 「独断」で文書、野党に提示=後に修正、陳謝-総務省:時事ドットコム” (日本語). 時事ドットコム. 2019年3月22日閲覧。
  27. ^ 毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書について” (日本語). www.mhlw.go.jp (2019年2月27日). 2019年3月12日閲覧。
  28. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年2月27日). “統計不正「隠蔽」否定、「虚偽」と矮小化 追加報告書公表” (日本語). 産経ニュース. 2019年3月15日閲覧。
  29. ^ 厚労省、勤労統計を修正へ 2004~2011年分” (日本語). 日本経済新聞 電子版 (2019年4月26日). 2019年4月26日閲覧。
  30. ^ 決算に関する議決等:参議院”. www.sangiin.go.jp. 2019年6月16日閲覧。
  31. ^ 参議院、内閣に対する「警告決議」を採択” (jp). TBS NEWS. 2019年6月16日閲覧。

関連項目[編集]