モラル・パニック

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モラル・パニック(moral panic)とは、「ある時点の社会秩序への脅威とみなされた特定のグループの人々に対して発せられる、多数の人々により表出される激しい感情」と定義される[1]。社会学者スタンリー・コーエンは、以前から存在する「出来事、状態、人物や集団」が、最近になってから「社会の価値観や利益に対する脅威として定義されなおされる」ことと定義する[2]

用例[編集]

1972年英国社会学スタンリー・コーエンStanley Cohen)が、1960年代の英国でマスメディアがモッズロッカーズといった荒れる若者達をどう報道しどう過剰反応したかを記述する際にこの語を使用した[2]。しかしコーエン以前に、彼の同僚であるジョック・ヤングがロンドンのノッティング・ヒルでドラッグを吸う人々に対する社会の反応を「モラル・パニック」と表現した例がある[1]。1978年スチュアート・ホールらは、アメリカで発生していた路上での強奪(mugging)がイギリスにも出現したことに対する社会の反応を研究し、コーエンの「モラル・パニック」を援用して、「犯罪率が上昇している」という議論が、社会の管理化を行うイデオロギー上の機能を果たしているとし、犯罪に関する統計は政治的・経済的目的で歪められ、「危機を取り締まる」ことへの大衆的支持を作りだすためにモラルパニックが起こされるとし、メディアはそのためのニュース生産に中心的役割を果たすとした[3]

また、1925年に開始された「ミドルタウン・スタディーズMiddletown studies)」というアメリカ合衆国都市についての事例研究case study)では、アメリカの小さな町の社会的・宗教的指導者達が、当時の最新技術であるラジオ自動車を「非道徳的な振る舞いを起こすもの」として非難していたことを報告している。例えば、この研究の際にインタビューを受けた牧師は、自動車を「車輪のついた売春宿」と表現し、この新発明を教会に出るべき時間に街の外へドライブに出かける手段を市民に与えるものとして非難している。

パニックの進行[編集]

モラル・パニックにはコーエンのいう「逸脱を増幅するスパイラル」という要素、すなわちメディア批評家の定義によれば「反社会的行動に分類される出来事やその他望ましくない出来事についての報道が更に次の報道を起こし拡大する螺旋状の進行」という要素がある[2]

  1. 関心 - モラル・パニックが起こるには、まず世間に、ある疑わしい集団や文化があり、社会に対し害をなす可能性がある、という認識があることが必要である。
  2. 敵意 - そうした集団や文化に対する敵意が高まり、「フォーク・デビル」へとされてゆく。「やつら」と「わたしたち」の明確な区分が形成される。
  3. 合意 - 国民的なものとはならないまでも、「これらの文化や集団は社会に対する現実的な脅威である」という認識が広まり受容される必要がある。このとき、「道徳事業家」たちの声が大きく、その一方で「フォーク・デビル」の声は社会に届かず組織化もされていないことがモラル・パニック発生には重要である。
  4. 不均衡 - 大衆は、非難されている集団が持つ実際の脅威に比べて不均衡な統計や情報を与えられる。
  5. 揮発性 - モラル・パニックは揮発性が高いため、激しく燃え上がるが終わる時も早く、大衆やメディアの関心は次の事件やニュースへ向かう[1]

モラル・パニックは社会に緊張を起こすような論争の副産物でもあり、またモラル・パニックに対し疑問を呈することは社会の敵を擁護するものとしてタブー扱いされ、公の場での論争ができないこともある[4]


批判[編集]

コーエンの「モラル・パニック理論」に対して起こった批判は「パニック」という言葉に関するもので、この語が不合理さや混乱などの意味を内包してしまっているというものだった[2]。コーエンは、パニックという語はメタファーとして使った時にはぴったりくる言葉だと主張している[2]。他の批判は不均衡性に関するもので、ある文化や集団に対する不均衡な反応の「不均衡」とはどれくらいの程度のものか、測る方法がないことを問題としている[2]。コーエンが同書で述べているフォーク・デビルの例のうち、すべてが弱者であったり不当に中傷されたものであったりしたわけではないことを批判する者もいる。

Jewkesは「モラル」や「モラリティ」という語に関する問題、この語が「モラル・パニック」論において疑問なしに受容されている問題を挙げている[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b c Jones, M, and E. Jones. (1999). Mass Media. London: Macmillan Press
  2. ^ a b c d e f Cohen, Stanley. 『Folk devils and moral panics』. London: Mac Gibbon and Kee社, 1972年. ISBN 0415267129 、9ページ
  3. ^ Hall, S., et al. 1978. Policing the Crisis: Mugging, the State and Law and Order. London: Macmillan Press. ISBN 0333220617 (paperback) ISBN 0333220609 (hardbound)
  4. ^ Kuzma, Cindy. "Rights and Liberties: Sex, Lies, and Moral Panics". AlterNet. September 28, 2005. Accessed March 27, 2007.
  5. ^ Jewkes Y (2004). Media and crime. Thousand Oaks, Calif: Sage, 76-77. ISBN 0-7619-4765-5.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]