国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案

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国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案(こっかひみつにかかるスパイこういとうのぼうしにかんするほうりつあん)は、1985年の第102回国会で自由民主党所属議員により衆議院議員立法として提出されたものの、第103回国会で審議未了廃案となった法律案。通称は「スパイ防止法案[1]

概要[編集]

全14条及び附則により構成される。外交・防衛上の国家機密事項に対する公務員の守秘義務を定め、これを第三者に漏洩する行為の防止を目的とする。また、禁止ないし罰則の対象とされる行為は既遂行為だけでなく未遂行為や機密事項の探知・収集といった予備行為や過失(機密事項に関する書類等の紛失など)による漏洩も含まれる。最高刑は死刑または無期懲役(第4条)。

スパイ防止法への反対行動を起きたが、運動開始後の最初の選挙(第38回衆議院議員総選挙第14回参議院議員通常選挙)で自民党は大勝した。そのため、反対派は選挙で信任を得た自民党によるスパイ防止法の法案再提出と成立を危惧したものの、法案再提出はされなかった[2]

法案審議とその後の経緯[編集]

西山事件[編集]

1972年4月8日参議院予算委員会首相佐藤栄作は、西山事件に際して、「国家の秘密はあるのであり、機密保護法制定はぜひ必要だ。この事件の関連でいうのではないが、かねての持論である」と主張した。そこで、スパイ内部告発などによる国家情報漏洩を防ぐ目的での立法が、与党・自民党内において1980年代前半から活発に議論されるようになり[注 1]、当時の内閣の元でその気運が高まった。しかし本法案が一般国民の権利制限に直結する法律であることや報道の自由が侵害されることに対する懸念から、大多数のマスメディアが反対に回った[注 2]。そのため、政府は内閣法案(内閣法第5条に基づき、首相が内閣を代表して国会に提出する法律案)として提出することを断念したものの、通常国会の閉会を間近に控えた1985年6月6日に伊藤宗一郎ら10名が衆議院に議員立法として法案を提出した。

これに対し、当時の野党日本社会党公明党民社党日本共産党社会民主連合他)は断固反対を主張。また自民党内部で谷垣禎一ら12人が反対し「わが国が自由民主主義にもとづく国家体制を前提とする限り、国政に関する情報は主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない」と述べる[3]など、法案は継続審議となる。

反対運動後の自民党大勝[編集]

しかし、総評や社会党などによってスパイ防止法反対運動が起きていたものの、1986年7月6日の第38回衆議院議員総選挙と第14回参議院議員通常選挙において、自民党は大勝利をした[2]。しかし、同年10月に開会した第103回国会でも野党は徹底して審議拒否を貫いた結果、12月21日の閉会に伴い廃案となった。1988年2月19日自民党四役が国会再提出を断念した。翌1989年にはリクルート事件による支持喪失が大きな原因で第15回参議院議員通常選挙にて自民党は大敗した。

自衛隊法改正[編集]

その後、2001年自衛隊法が改正されて、従来の第59条における「秘密を守る義務」規定に加え第96条の2に「防衛秘密」規定が新設され、廃案となったスパイ防止法案の一部と同趣旨の規定が盛り込まれた。2003年5月に個人情報保護法関連五法が成立。2007年2月には航空自衛隊一佐読売新聞記者に機密情報を漏洩し、この規定に違反したとして警務隊が事情聴取や家宅捜索を行ったと報じられている[4]

2008年に結成された改革クラブ(現・新党改革)が公約としてスパイ防止法の成立を掲げていた。2009年の民主党の政権交代にて、連立与党入りした。 

野田内閣[編集]

また2011年10月、民主党政権の野田内閣が「秘密保全法制」を提案した。2012年1月に野田首相は法務省を含めた政府内で検討中という状況とし、「その推移を見守っていきたいというふうに思います。」と述べている[5]

安倍内閣[編集]

2013年第185回国会で「特定秘密の保護に関する法律案」(特定秘密保護法案)が第2次安倍内閣によって提出され、同年12月6日に成立した。

賛否[編集]

賛成派・容認派[編集]

警察庁・国家公安委員会[編集]

平成24年5月31日に警察庁第4会議室における国家公安委員会定例会議にて、米仏独韓中などの諸外国でスパイ行為を取り締まるための関係法令が制定されているが、スパイ防止法係がない日本国の警察として、「スパイ行為に係る法制の整備は、我が国の国益を守る上で重要な課題」としている[6]

日本政府・内閣安全保障室長[編集]

佐々淳行初代内閣安全保障室長は精一杯スパイを摘発し、逮捕・起訴してもスパイ防止法が無いために本来は「国家に対する重大犯罪であるスパイ活動など」が、執行猶予付の懲役1年の罪になり、裁判終了後には堂々と出国される実態を述べている。他の国にはある『スパイ防止法』がないため、出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法など刑の軽い特別法や一般刑法での起訴となり、野放し状態となっている。旧ソ連KGBの少佐(アメリカへ亡命)は「日本はKGBにとって、もっとも活動しやすい国だった」、元北朝鮮工作員(韓国に亡命した)は「昔から北朝鮮の工作員は日本に潜入し、在日朝鮮人をスパイに仕立て上げ、日本から多くの情報を吸い上げ、軍事強化に活用してきた。そして、今もスパイ活動は継続されている」と証言している[7]

アメリカ政府[編集]

アメリカ亡命後にユーリー・ラストヴォロフは記者会見を開き、1950年までにソ連のエージェント誓約した日本人が約500名におよび、その他の情報提供者まで含めた在日本ソ連エージェントは8,000人を超えているという日本におけるソ連の情報収集活動の実態を暴露した。このラストボロフ事件発生直後の1954年3月、日本と相互防衛援助協定など4つから構成される「MSA協定」を締結した。アメリカ政府は日本へ防衛力の強化を求め、日本国内ではMSA協定に伴う機密保護法制定の是非が論議された。「戦後政治裁判史録2」にてラストボロフ事件に関して「亡命に端を発したこの国際スパイ事件を契機として、国家機密を守るための機密保護法を制定する動きも出た」と記している[8]。軍事力を強める中国に対抗するため、日本が強い政府となることを望んでいるために特定秘密保護法、憲法改正による9条改正に賛成表明しているが、日本のファイブアイズ入りも目指しているアメリカとしてはスパイ取締り自体を主目的としたスパイ防止法についても賛成している[9]テンプル大学ジャパンキャンパスジェームズ・ブラウンはアメリカ合衆国が望んでいるのに、日本をファイブアイズへ加入出来ていない障害となっているとして、敵のスパイ活動への防御力が弱い日本も「シックスス・アイ」となることを希望するなら、日本の機密情報保持の文化と能力に大幅な変更を加えるためにスパイ防止法が欠かせないと述べている[10]

統一教会・勝共連合[編集]

統一教会(現・世界平和統一家庭連合)およびその関連団体である国際勝共連合は本法案に賛成の立場を取っており、推進運動に関与していた[11][12][13][14][15]。 1979年2月24日、国際勝共連合[注 3]などの団体が「スパイ防止法制定促進国民会議」を結成。6月から主役を生長の家から勝共連合に変えて、各県に県民会議、さらに市町村にそれぞれ母体をつくり、地方自治体へスパイ防止法実現のための要望、決議を行う戦略をとってきた。自民党は1980年4月2日に第一次案を、1982年7月2日に第二次案を発表した。後者は一次案に増して防衛秘密の枠が広く、単純漏せつ罪を新設して市民にも適用することにしたから一挙に政治問題化した。これに力を得て国民会議は活発化。1982年9月末には1400の地方議会が早期法制化を求める意見書を採択した。1984年5月15日、岸信介会長の法律制定促進議員・有識者懇談会[注 4]と共済で全国代表者会議が行われた。8月6日に自民党は第三次案を発表し、防衛だけでなく外交秘密も対象とした。12月末までに「スパイ防止法制定の意見書」決議を行った県議会は27、市議会1122、町議会983、村議会366、合計2498に達した。1985年後半から反対運動も活発化し、地方議会での反対決議も増えた[16]

国際ジャーナリスト[編集]

中国人の元留学生によるJAXAへのサイバー攻撃事件が発覚し、「レンタルサーバーを偽名などで契約した」罪として中国共産党員の30代男が書類送検されたが、既に帰国していた。男は「国に貢献しなさいと(中国人民解放)軍の関係者から迫られた」と明かしている。事件を受けて、サイバー安全保障に知見のある国際ジャーナリストの山田敏弘は、「スパイということで摘発ができないため、窃盗罪や不正競争防止法の違反とかという形でしか逮捕ができない」ことを指摘し、スパイ防止法という形で日本の安全保障に対する脅威を摘発できるような体制は作っていかなくてはいけないと述べている[17]

反対派[編集]

日弁連[編集]

日弁連は昭和60年10月19日に反対声明を決議している[18]。 

総評・日本社会党等[編集]

総評日本社会党などスパイ防止法への反対行動を起こしている。しかし、「スパイ防止法」反対運動開始後の最初の選挙(第38回衆議院議員総選挙第14回参議院議員通常選挙)で自民党は大勝した。そのため、反対派は選挙で信任を得た自民党によるスパイ防止法の法案再提出と成立を危惧したものの、法案再提出はされなかった[2]。現在も社会党の後継組織で党員議員一名の社民党党首福島瑞穂が反対を表明。

スパイ天国の現状[編集]

本案が審議された当時、日本国内における、外国による諜報活動間接侵略シャープパワー)が暴露されたレフチェンコ事件などの動きがあった。現在、日本では本法のような、スパイ活動そのものを取り締まる法律が存在しないため、防衛秘密の漏洩を含むスパイ活動事件を取り締まることができない実情がある。制定賛成派はこの現状を「スパイ天国」と揶揄することがある(この言葉自体は時の首相・中曽根康弘も用いている)。その後も、対日有害活動を含む国際的な諜報活動に関する詳細を記したミトロヒン文書の公開のほか、日経新聞記者北朝鮮拘束事件の際にも公的機関からの情報漏洩が発覚している。

なおスパイの黒幕は、ほとんどの場合大使館の書記官や駐在武官、つまり外交特権保持者なので逮捕はできず、可能なのはペルソナ・ノン・グラータ通告で“退去・帰国お願い”をすることだけである。さらに対象はロシア・中国などの“仮想敵国”のみで、中央情報局アメリカ軍の情報部、イギリス秘密情報部など友好国の活動は一切咎められない[注 5]

スパイ摘発時に用いる法律[編集]

スパイの逮捕に成功した場合さえも、他の国にはある『スパイ防止法』が日本には無いために、本来は国家に対する重大犯罪であるスパイ行為を、出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法を違反した罪で起訴している。これらはほとんど執行猶予の付く懲役1年の罪など軽い刑罰しか与えられないため、スパイ野放し状態である[6]

政府情報の守秘義務に関する法律[編集]

現在の日本の法律では、国家公務員法地方公務員法、裁判所職員臨時措置法、外務公務員法自衛隊法の守秘義務(「秘密を守る義務」)規定で、それぞれ一般職国家公務員、一般職地方公務員裁判所職員外交官自衛隊員を対象とする情報漏洩防止に違反した者に対して刑事罰が規定されている。また、上述のとおり、自衛隊法第96条の2において「防衛秘密」に関する規定が定められ、防衛大臣が「防衛秘密」を指定するものとしている。さらに同法第122条においては、防衛秘密を取り扱うことを業務とする者(業務としなくなった後も同様)を対象として、漏洩の既遂、未遂及び過失犯について、罰則を設けている。また、税務職員についても、一部の税について税務調査事務又は税務徴収事務で知ることのできた事実について情報漏洩防止に違反した者に対して、刑事罰が規定されている。この漏洩罪は、共謀教唆又は煽動についても罰せられ、さらに、刑法(明治40年法律第45号)第3条の例により、日本国民の国外犯も罰せられる。

だが、これらの法律は日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法と日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法を除いて、機密情報を漏洩する公務員の存在を前提としたものであるため、公務員が機密情報を漏洩しない形でのスパイ活動を規制したものではない。また裁判所職員、外交官、自衛隊員を除く特別職公務員(公職政治家、国務大臣副大臣等、国会議員公設秘書、副首長等)の機密情報漏洩について秘密保護法における「特別防衛秘密」と刑事特別法の「合衆国軍隊の機密」を除き刑事罰規定はない。

それ以外の法律[編集]

それ以外のスパイ活動に関連する法律には以下のものがある。

文献[編集]

賛成・反対の双方の立場から書かれているものを挙げる。

賛成の立場[編集]

  • 『スパイ防止法案―その背景と目的』(自由民主党広報委員会出版局、1982年)
  • 河西徹夫・日高明『間接侵略の危機―日本だけにないスパイ防止法』(日本工業新聞社、1982年)
  • スパイ防止法制定促進国民会議『機密保護と現代―スパイ防止法はなぜ必要か』(啓正社、1983年)、『誰にもわかるスパイ防止法―正しく学ぶ三つの章』(世界日報社、1987年)

反対の立場[編集]

  • 『国家秘密法〈スパイ防止法〉―いま資料の時代 国家秘密法案阻止のマニュアル集』(晩稲社、1985年)
  • 『暗黒時代を再現する自民党の「スパイ防止法案」に反対しよう』(自由人権協会、1985年)
  • 『エッ! わたしがスパイ? ―あなたも「スパイ防止法」に狙われる』(東京弁護士会、1985年)
  • 『あなたの目、耳、口ふさぐ国家機密法』(日本共産党中央委員会出版局、1985年)
  • 荒井荒雄『悪魔(サタン)があやつる“スパイ防止法”と霊感商法』(青村出版社、1985年)

関連項目[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 後述の「推進活動」の節を参照。
  2. ^ 推進の立場を表明した主なマスメディアには、『暗号名黒猫を追え!』を後援した世界日報がある。
  3. ^ 1億6000万円を出資。政治資金報告書によると1988年には4386万円を拠出(会議総収入の63%)。
  4. ^ 主要メンバーは次の通り。
    まず顧問。春日一幸有末精三宇野精一木内信胤稲山嘉覧井本台吉細川隆元
    次に副会長。三原朝雄大槻文平弘津孝輔
    幹事は箕輪登、副幹事は堀江正夫
    そして常任幹事。有馬元治亀井静香森清黛敏郎奥原唯弘梶栗玄太郎安部鹿蔵二宮信親平沼赳夫石橋一弥他。
  5. ^ 2006年12月の防衛事務次官通達『部外者からの不自然な働き掛けへの対応要領について』Q&A集では、“部外者”とは他国の武官や政府職員は元より日本の記者・国会議員・他省庁職員をも、即ち自衛隊員以外の全ての人物を指すとされ、一方でアメリカ合衆国政府機関職員は接触するに当たって上司への伺いを要する対象から除外されているという。秘密保護法案 記者、国会議員の接触 報告求める通達 防衛省 調査活動を監視 “報道の自由配慮”は空手形 しんぶん赤旗2013年7月15日、“「軍機保護法」の復活か〜秘密保護法の怖さ”. 東京新聞. (2013年10月8日) 

出典[編集]

  1. ^ 遅れる“スパイ天国”日本の法整備 知る権利確保になお不安も 産経ニュース、2013年10月25日、2013年10月25日観覧
  2. ^ a b c https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/research/dglb/rn/rn_list/rn1987-389.pdf 法政大学
  3. ^ 中央公論1987年4月号『われら自民党議員「スパイ防止法案」に反対する』
  4. ^ 防衛省、読売新聞に機密漏洩の疑いで一佐宅を捜索」(ジェイ・キャスト
  5. ^ 野田内閣総理大臣記者会見 -首相官邸ホームページ-”. www.kantei.go.jp. 2022年8月21日閲覧。
  6. ^ a b https://www.npsc.go.jp/pressconf24/05_31.htm 国家公安委員会
  7. ^ 避けて通れぬ『スパイ防止法』への議論【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」『株式会社フィスコ【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】』、2020年9月7日。2022年9月16日閲覧。
  8. ^ 新, 小池. “「シベリアで魂を売った」「手先になった日本人は誰か」暴露を続けた極北の“スパイ”とその最期”. 文春オンライン. 2022年8月21日閲覧。
  9. ^ 「最後の勝機: 救国政権の下で、日本国民は何を考え、どう戦うべきか」p34-36, 小川榮太郎 ,2014
  10. ^ 日経ビジネス電子版. “日本がファイブ・アイズの一員に簡単にはなれない理由” (日本語). 日経ビジネス電子版. 2022年8月7日閲覧。
  11. ^ 新・男女共同参画案ジェンダーフリーが蠢動 専業主婦狩り・夫婦別姓・過激性教育…「家族破壊」策持ち込む”. 世界平和連合(FWP)公式ウェブサイト (2010年5月1日). 2010年12月1日閲覧。
  12. ^ 外国人参政権いま付与する時でない 残存する国際共産主義 主権と安全が脅かされる”. 世界平和連合(FWP)公式ウェブサイト (2010年2月1日). 2010年12月1日閲覧。
  13. ^ 有田芳生『原理運動と若者たち』教育史料出版会 p152~173
  14. ^ 久保木修己 プロフィール”. 2022年7月21日閲覧。
  15. ^ 「安倍氏は三代にわたって付き合いがあった」マスコミが書かない容疑者・統一教会・自民党をつなぐ点と線”. 2022年7月21日閲覧。
  16. ^ 堀幸雄 『最新 右翼辞典』 柏書房 2006年11月 P 108-110
  17. ^ TIMES編集部, ABEMA. “もう尾行はしない?スパイ活動もデジタル化へ 巧妙化するサイバー攻撃の手法を専門家に聞く | 国内”. ABEMA TIMES. 2022年8月7日閲覧。
  18. ^ 日本弁護士連合会:「国家機密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」に反対する決議” (日本語). 日本弁護士連合会. 2022年8月7日閲覧。

外部リンク[編集]