モッズ


モッズ(Mod、Mods、Modernist)は、イギリスの労働者階級の若者の間で、1950年代末に発生し、1960年代を中心に流行したサブカルチャーである。[1]
概要/起源
[編集]「モッズ」という言葉は、1950年代にビバップなどのモダン・ジャズの演奏者やファンを「モダニスト」と呼んだ用語が、「モッズ」と短縮されたことに由来する。[2]
初期のモッズはロンドンとその近郊の都市部で発生した。戦後の好景気により自由になる金銭を得た労働者の若者達から始まったと言われる。ヴィダル・サスーン、マリー・クヮント[注釈 1]、ビートルズ、ローリング・ストーンズらが活躍したスウィンギング・ロンドンの時代と、全盛期が重なっている。
ファッション
[編集]ミニスカートを利流行させたファッション・デザイナー、マリー・クアントはモッズ・ファッションにも貢献した。[3]モッズの典型的なファッションとしては、スキニー・タイ、ミリタリー・パーカー、ミリタリー・コート、60sジャケット、[4]ローファー、ビートル・ブーツ、グリースやポマードをつけず、髪を下ろした短髪のフレンチ・クルーカットや、細身のイタリアンな三つボタンのスーツ(ポケットやラペル、ベンツの形にこだわった)や、多数のミラーとヘッドライトで装飾されたスクーターがある[注釈 2]。そのスタイルには憧れの地であるイタリアやアメリカのものが多く取り入れられているのが特徴である。
モッズがスクーターに乗る際に着用したのが、米国製のミリタリー・パーカ、ミリタリー・コートである。彼らは自慢のスーツを汚さないように着用したと言われている。このパーカはモッズに愛用されたため、現在でも「モッズコート」もしくは「モッズパーカ」として知られている。また、スポーツ・カジュアルを日常生活でも使用する習慣のルーツも、モッズだった。サイクリング・シャツやボーリング・シューズもファッションに取り入れた。ジーンズでは、リーバイスの 606スリムパンツや 501もよく着用された。
ライフスタイル
[編集]モッズの若者は深夜営業のクラブに集まり、ダンスに興じ、お互いのファッションを自慢しあった。酒を飲み、アンフェタミンなどのドラッグにも手を出した。彼らの多くはスクーターを移動の手段とした。エンジンが剥き出しのオートバイではスーツが汚れてしまうためである。イタリア製のランブレッタやベスパといった車種に好んで乗った。[5]やがて彼らのスクーターは、多くのライトやミラーで飾り立てられていった。逆に全てのボディパーツが取り払われて、フレームと乗車・走行に必要な部分だけの骸骨のようなものも現れた。このスクーター文化は後のスクータリストたちやスキンヘッズたちに受け継がれていった。
音楽
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彼らが愛聴した音楽はアメリカから来たブラック・ミュージックであるR&B、ソウル・ミュージック[注釈 3]といった当時の最新ダンス・ミュージックである。他にはジャマイカのスカ[注釈 4]もよく聴いた。ブルースやモダン・ジャズを好む者たちも多くいた。
彼らはイギリスの音楽も愛聴した。人気があったのはザ・フー[6][注釈 5]、スモール・フェイセス[7][注釈 6]をはじめ、キンクス[注釈 7]、スペンサー・ディヴィス・グループ、ジョージィ・フェイムなどであった。
ビートルズのファッションは、デビュー前には労働者的で不良っぽいロカビリー・ファッションだった。しかしレコード・デビューに際しては、マネージャー、ブライアン・エプスタインの指示により、スーツ姿でデビューしステージでは深々とお辞儀をした。
ロッカーズとの対立
[編集]モッズは当時のイギリス社会に存在した、もう一つの若者集団ロッカーズと対立した。ロッカーズは1950年代後半にイギリスで誕生したバイカーの総称である。彼らは黒の革ジャケットと革パンツを着用して、オートバイを乗り回し、ロックンロールやロカビリーを愛聴した。モッズとロッカーズの対立抗争は新聞などのメディアに大きく取り上げられた。真のモッズはそのような抗争にはさして興味がなかったとも言われているが、一部のモッズは、ブライトンやマーゲートなどの海辺の行楽地に集まってロッカーズとの乱闘騒ぎを起こした。特に有名なのが1964年5月18日にブライトンビーチで起こった数千人規模の大乱闘である。両者の対立は作家アンソニー・バージェスに影響を与え、未来のアンチヒーロー小説『時計じかけのオレンジ』(1964)を誕生させた。[8]
この大乱闘は大きな事件としてメディアに取り上げられた。やがてロッカーズは、1960年代末から変質していった。髪をさらに短く刈り込んでスキンヘッドにし、レゲエを聴くようになった。そして、ドクターマーチンのブーツを履き、さらに暴力的なスキンヘッズ(スキンズ)へと変化していった。
映画
[編集]1979年に公開されたイギリス映画『さらば青春の光』(Quadrophenia)は1960年代全盛期のモッズの若者達を描いており[注釈 8]、彼らのライフスタイルを知る上で貴重な作品である。上記のブライトンビーチの大乱闘がクライマックス・シーンとして描かれている。この映画は日本やその他の国で、ネオ・モッズやモッズ・リバイバルとして多くのモッズ・フォロワーを産んだ。
日本のモッズ・バンド
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ミニスカートを販売し始めたのは60sよりも早く、1958年ごろからとされている
- ^ ランブレッタやベスパが人気だった
- ^ このソウル・ミュージック愛好は後のノーザン・ソウル・ムーブメントにつながっていった。
- ^ 多くのスカのレコードを出したレーベルの名にちなんで、ブルービートとも呼ばれる。
- ^ メンバーはモッズではなかった。彼らは1964年の初めにザ・フーとして活動を開始したが、初代マネージャーでモッズでもあったピーター・ミーデンの意見に従って、ザ・ハイ・ナンバーズと改名して活動していた。
- ^ メンバーも以前はモッズであった。
- ^ レイ・デイヴィスはモッズを嫌っていたという説がある。
- ^ ジミーという架空のモッズ青年を取り上げたザ・フーのアルバム『四重人格』(Quadrophenia、1973年)を原作にした。
出典
[編集]- ^ Dick Hebdige. “The Meaning of Mod”. Resistance Through Rituals: Youth Subcultures in Post-War Britain. Routledge. p. 71. ISBN 9780203357057
- ^ Mods!, Richard Barnes. Eel Pie (1979), ISBN 0-85965-173-8; Absolute Beginners (novel), Colin MacInnes
- ^ “Mary Quant, Queen of British Mod Fashion, Dies at 93”. 2025年9月2日閲覧。
- ^ Mods fasion 60s 2025年9月4日閲覧
- ^ モッズ ランブレッタ dig-it.media 2025年9月2日閲覧
- ^ Townshend, Pete (2012). Who I Am. London: HarperCollins. pp. 51, 58, 65, 68, 70-71. ISBN 978-0-00-747916-0
- ^ Jones, Kenney (2019). Let The Good Times Roll. London: Blink Publishing. pp. 22-23, 24-25, 45. ISBN 9781911600664
- ^ Mods and Rockers gradesaver.com 2025年9月2日閲覧