グリース

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グリース(grease)またはグリスとは、液状潤滑油、またはその他の液状潤滑剤に増稠剤(増稠剤)が添加、均一に混合させられたものである[1]潤滑剤の一種で、よりも粘度が高く流動性が低いため常温では半固体または半流動体である。

使用方法[編集]

グリースの用途は、主にすべり軸受転がり軸受ベアリング)、あるいは潤滑面が動くために液体潤滑剤では潤滑剤の膜が付着した状態を保つのが難しい摺動面である。

グリースは使用中に異物の混入や高温による劣化などがあるため定期的な更新が必要。平滑面では定期的な洗浄と再塗布、転がり軸受けではグリースガンを用いて新しいグリースを注入し、古いグリースを押し出す方法が一般的。

組成[編集]

グリースは基油、増稠剤、添加剤の三要素から成る[2]

添加剤[編集]

基本的にグリースには性能の向上や付加のために添加剤が混入されている。

  • 清浄分散剤:エンジンなどの運転で生成する有害な不純物を潤滑面から取り除き、エンジン等内部を清浄に維持する。不純物とは不溶性金属粉(スラッジ)であり、金属表面が摩擦すると微少ながら金属が削れて溶解性金属分子のスラッジ前駆体(スラッジプリカーサ)が現れる。スラッジ前駆体がグリース中に蓄積していくと多数の前駆体が重合して高分子量の不溶性成分となる。不溶性成分が凝集若しくは沈殿してスラッジとなる。潤滑面に存在すると摩擦や磨耗の原因となり、グリースに混入するとグリースの酸化や劣化の原因となる。すると、機械の焼き付きや故障につながる。一般的に清浄分散剤を使用するとエンジン等の寿命が長くなる。

性質[編集]

潤滑剤として一般潤滑油と比較した特徴を列記する。

  • 比較的低速度・大荷重に適する
  • 密封性が良い
  • 飛散・漏洩が少ない
  • 抵抗が大きい
  • 放熱性・冷却性が悪い
  • 温度や速度の条件が変わると、稠度が大きく変化する。
  • 増稠剤は金属への高い親和性を有しているので液状潤滑油よりも金属部材への吸着性が良い。

塑性固体[編集]

グリースは非ニュートン流体塑性流体であり、加わられる剪断応力[注釈 1]によってその粘度を変化させる[3]。これに対して液体の潤滑油はニュートン流体であり、一定の温度では剪断応力に関わらず粘度が一定である。潤滑油のようなニュートン流体の(絶対)粘度はニュートンの粘性法則比例定数(粘性係数)であり、計算者は剪断速度と掛けることによって剪断応力を導き出すことができる。このようにニュートン流体とグリースで粘度の意味合いと用途が大きく異なる。絶対粘度と区別するため、グリースのような非ニュートン流体の粘度は見かけ粘度(apparent viscosity)という。

剪断応力がない、または非常に小さいとき、グリースは固体である。流動性はない。このとき、グリース内部では増稠剤の繊維状の高分子同士は化学的な相互作用により結合している。この結合の発生を架橋(cross-linking)という。この相互作用により繊維は網目状の立体構造(網目構造、network structure)を形成している。グリース内部で基油は網目構造の間隙を満たしている。この網目構造が、微小な剪断応力範囲でグリースを固体にしている。網目構造が形成されてグリースが固体となっている状態をゲル状態といい、網目構造による高い粘性を構造粘性(structural viscosity)という。

剪断応力がある量以上となるとグリースは液体(ゾル状態)となる。この状態変化の境界、ゲル状態がゾル状態へ変化するための最低の剪断応力の大きさを降伏値(yield value)という[4]。降伏値を上回る剪断応力が加えられると、グリースの繊維間の相互作用は切断され、網目構造は崩壊する。このとき構造粘性は消失している。そしてグリースは液体のゾル状態になる。

ゾル状態では剪断応力が大きくなるほど見かけ粘度は小さくなる。この粘度低下をずり流動化(ずり減粘、shear-thinning)という。ずり流動化の原因はゾル状態では繊維は徐々に分離し方位性配列するためである。方位性配列とは、分離が進行して繊維が剪断応力の方向に並び、粘度への寄与を小さくすることである。

一方、ゾル状態で剪断応力が小さくなると見かけ粘度は増加する。この粘度増加をずり粘稠化(shear thickening)という。ずり粘稠化は繊維の方向が無秩序に戻ることに伴う。剪断応力が降伏値を下回った時、再び繊維間は架橋し、立体構造は復活する。そしてグリースはゲル状態に戻る。

揺変性[編集]

グリースのずり流動化の程度は剪断速度のみで一意に決まらず、荷重がかかる時間も関与する。例えば軸の回転速度を一定にして回転を続けたとき、軸と軸受けの間を満たすグリースの粘度は一定でない。時間経過とともに粘度は減少する。この性質を揺変性(チクソトロピー)という。揺変性は、グリースのゾル状態は時間とともに段階的に進行することに由来する。荷重の間に時間経過とともに増稠剤繊維の分離と方位性配列は進行する。

性状指標[編集]

グリースの性状と性能を客観的に文書で明示するため、様々な指標が存在する。一般的に、これら指標は性状表という文書にまとめられており、グリースの購入前に仕入れ先から閲覧することができる。

稠度[編集]

稠度(cone penetration)とはグリースの硬さや流動性の指標である。潤滑油の動粘度にあたる性能で、使用するグリースの選定は主に稠度によって決められる。日本工業規格の「JIS K 2220:2013 グリース 7 ちょう度試験方法」に測定方法が定められている[5]。同規格では、稠度を000号~6号の9区分に分類している。これら区分を稠度番号という。グリース製品の呼び方と表示において、稠度番号を明示することがJIS規格で定められている[5]

滴点[編集]

滴点(dropping point)とは、グリースを詰められて加熱された規定の容器からグリースが滴下する温度である。グリースはある温度以上になると構造粘度を失い、液体となる。このとき、粘度は急激に減少する。滴点はグリースが液体となる温度といえる。滴点の測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 8 滴点試験方法」で規定されている[5]。滴点はグリースの耐熱性の指標であり、滴点以上の使用は摩擦摩耗の原因となる。

銅板腐食[編集]

グリースの銅板腐食とは、そのグリースの金属腐食性の指標である。グリースの基油には硫黄窒素化合物が含まれており、高速の摩擦を受けると摩擦熱でそれぞれ硫酸硝酸になり得る。これら酸が金属を腐食させる原因となる。この試験では、研磨した規定の銅片にグリースを塗布し、銅片やグリースの腐食や変色の程度を評価する。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 9 銅板腐食試験方法」で規定されている[5]

蒸発量[編集]

グリースの蒸発量は、規定の条件でのグリースからの成分の蒸発による重量の損失分率である。グリースからは水分や軽質油分が蒸発しており、蒸発は熱や剪断により促進される。蒸発量が大きいと長期使用で潤滑性やその他性能が低下する虞がある。このため、蒸発量が小さいグリースは長期使用上望ましい。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 10 蒸発量試験方法」で規定されている[5]

離油度[編集]

離油度は、静的な状態でのグリースの構成基油の分離性の指標である。基油が分離するとグリースは硬化する。これが進行すると、グリースの潤滑性が無くなり使用できなくなったり、機械の故障や焼き付きの原因となったりする。このため、離油度はグリースの貯蔵安定性や寿命の指標となる。ただし、ある程度の基油の分離性は潤滑効果を高める[6]。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 11 離油度試験方法」で規定されている[5]

酸化安定度[編集]

グリースの酸化安定度とは、酸素圧755kPaのボンベ中にグリースを置き99℃に加熱して100時間後の酸素圧の減少量を5kPaの整数倍で表し数値である。酸化に対する強さを表す。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 12 酸化安定度試験方法」で規定されている[5]

混和安定度[編集]

混和安定度(worked stability)とは、グリースを25℃で10万回混和した後に60往復混和した直後の稠度である。混和安定度は、潤滑に長期間使用したときの稠度の寿命の指標となる。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 15 混和安定度試験方法」で規定されている[5]。グリースは長期間剪断を受けると、その構造が破壊されて軟化する傾向にあるという問題がある。混和安定度は長期使用での軟化の傾向の程度を示す。実際にはグリースは非常に複雑な条件で使用されていることが多く、実際の寿命と混和安定度との相関はあまりないとされる[6]。一般的に、混和安定度測定用の電動混和装置と稠度測定用(60回混和用)のそれとは異なる。

水洗耐水度[編集]

水洗耐水度とは、グリースの耐水性の指標である。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 16 水洗耐水度試験方法」で規定されている[5]。この試験では、グリースを塗布した玉軸受を63±3 rad/sに回転させながら、玉軸受に38±1.7℃または79±1.7℃の水を10秒間噴射する。グリース重量の減少分率(%)を水洗耐水度とする。

漏洩度[編集]

グリースの漏洩度とは、規定量だけグリースを充填されたホイールハブを規定の条件で回転したときにホイールハブおよび軸受から漏洩したグリースの総重量である。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 17 漏えい度試験方法」で規定されている[5]

低温トルク[編集]

グリースを詰めた規定の開放形玉軸受の内輪を、ある温度および回転数(毎分 1 rpm)で回転させたとき、その軸受の外輪を制止させるのに必要な力(トルク)は、そのグリースのその温度での低温トルクという。低温トルクは低温でのグリースの流動性を示す。値が小さいほど低温での流動性が高い。グリースは低温で硬くなり潤滑性が悪くなるため、寒冷での使用に低温トルクは重要である。

測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 18 低温トルク試験方法」で規定されている[5]。測定には低温トルク測定機が必要であり、規格はJIS等で定められている。低温トルクは2種類存在し、一つの試験で両方とも得られる。起動トルク:回転起動時に得られる最大トルク。装置を起動して摩擦や摺動直前の、何も力を加えられていない静止状態でグリースは最も硬い。回転トルク:規定時間回転した後に得られるトルクの平均値。時間だけ剪断を受けるとグリースは流体となり潤滑性を示すが、回転トルクはこのときの流動性と潤滑性を示す。起動トルクは起動開始直後の測定値と、回転トルクは回転10 分間の最後の15 秒間における測定値とハウジングのトルク半径の積である。

見掛け粘度[編集]

見掛け粘度とは、ハーゲン・ポアズイユの式で計算するずり速度(剪断率)に対するずり応力(剪断応力)の比である。グリースは非ニュートン流体であるため、見掛け粘度はずり速度によって異なる。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 19 見掛け粘度試験方法」やASTM D 1092 「Apparent Viscosity of Lubricating Grease」 で規定されている[5]。測定には見掛け粘度試験機が必要であり、規格はJIS等で定められている。

吸引性と圧送性[編集]

一般的に潤滑目的のグリースの供給(給脂)はメンテナンスの観点から定期的に行わなければならない。集中給脂装置による給脂の良否は吸引性(slumpability)および圧送性(pumpability)という用語により表される[4]

吸引性とは、グリースタンクからポンプによってグリースが吸い込まれる場合の良否をいう。吸引性が低いと給脂装置および給脂箇所への供給が非効率である。典型的な場合、吸い込み側に真空部分ができたりポンプが空気だけを吸い込んだりする。このような状態が続くと、潤滑箇所にグリースが十分に給脂されず、給脂装置は油切れを起こす。

吸引性は稠度や、増稠剤の繊維の大小による。一般に、長繊維のグリースでは短繊維のものと比べて吸引性が優れている。また、不混和稠度が大きいほど、降伏値が小さいほど、吸引性は高い。しかし、実際は給脂装置を改善することでグリース吸引の問題は解決することが多い。装置の改善方法としては例えば、ポンプを真空度の高いものと交換する、配管を短かくする、配管の径を大きくする等である。

圧送性は、グリースが配管内を圧送されるときの流動の効率である。流動性が低いほど、圧送に要する圧力が大きくなる。圧送性は、数百メートルにもおよぶ集中給脂や自動車の集中給脂などで特に重要である。圧送性はグリースの見かけ粘度の大小による。グリースの圧送に所要する圧力はグリースの見かけ粘度に比例するためである。

用途別分類[編集]

JIS規格に基づく分類[編集]

日本工業規格では用途別にグリースを7種類に分類している[5]。各分類項ではグリースの成分、性能、および稠度番号が定められている。

表タイトル
用途別 種別 稠度番号 使用温度範囲(℃) 低荷重 高荷重 衝撃 水との接触 適用例
一般用グリース 1種 1号、2号、3号、4号 −10~+60 一般低荷重用
2種 2号、3号 −10~+100 一般中荷重用
転がり軸受用グリース 1種 1号、2号、3号 −20~+100 汎用
2種 0号、1号、2号 −40~+80 低温用
3種 1号、2号、3号 −30~+130 広温度範囲用
自動車用シャシーグリース 1種 00号、0号、1号 2号 −10~+60 自動車シャシー用
ホイールベアリンググリース 1種 2号、3号 −20~+120 自動車ホイールベアリング用
集中給油用グリース 1種 00号、0号、1号 −10~+60 集中給油式中荷重用
2種 0号、1号、2号 −10~+100 集中給油式中荷重用
3種 0号、1号、2号 −10~+60 集中給油式高荷重用
4種 0号、1号、2号 −10~+100 集中給油式高荷重用
高荷重用グリース 1種 0号、1号、2号、3号 −10~+100 衝撃高荷重用
ギヤコンパウンド 1種 1号、2号、3号 −10~+100 オープンギヤ及びワイヤロープ用

各分類項について説明する。

  • 一般用グリース
    • 1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、耐水性が高いグリース。1号、2号、3号、4号で滴点はそれぞれ80℃以上、85℃以上、85℃以上、90℃以上であり、熱に弱い。水洗耐水度(38度、1時間)は質量分率20%以下。水分の規定上限が存在する。
    • 2種 ― 増稠剤にナトリウム石鹸を用い、耐熱性が高いグリース。滴点は170℃以上。水に弱い。水洗耐水度の規定は無い。
  • 転がり軸受用グリース
    • 1種 ― 主に基油と増稠剤から成り、機械的安定性、耐水性、および防錆性が良好なもの。
    • 2種 ― 1種の特性に加え、低温性が優れているもの。
    • 3種 ― 2種の特性に加え、耐熱性が優れているもの。
  • 自動車用シャシーグリース1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、耐荷重性と圧送性が良好なもの。
  • 自動車用ホイールベアリンググリース1種 ― 主に基油と増稠剤から成り、耐熱性、耐水性、機械的安定性および耐漏洩性が良好なもの。
  • 集中給油用グリース
    • 1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、圧送性が良好なもの。
    • 2種 ― 主に基油と増稠剤から成り、圧送性、耐熱性、耐水性、および機械的安定性が良好なもの。
    • 3種 ― 増稠剤がカルシウム石鹸で極圧添加剤が配合されており、圧送性と耐荷重性が良好なもの。
    • 4種 ― 極圧添加剤が配合されており、圧送性、耐熱性、耐荷重性、および機械的安定性が良好なもの。
  • 高荷重用グリース1種 ― 二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤が配合されており、耐荷重性、機械的安定性および耐熱性が良好なもの。
  • ギヤコンパウンド1種 ― 主に基油とアスファルトから成るもの。

シャーシーグリース[編集]

自動車のシャーシーの軸受や摺動部に用いられるグリースをシャーシーグリースと呼ぶ。シャーシーグリースには高い耐水性が要求される一方、高い耐熱性は必要とされない。一般的にシャーシーグリースにはカルシウムグリースリチウムグリースなどが用いられている。一方、ブレーキ用のグリースにはゴムに対する潤滑性や化学的安定性が必要とされるため、ラバーグリースが採用される。

ラバーグリース[編集]

ゴム用のグリース。特徴として、ゴムの潤滑性を特に高め、化学的にゴムを侵さない。シリコーングリースグラファイトグリースなどである。自動車のブレーキなど、特に荷重が大きい箇所へのラバーグリースには二硫化モリブデン有機モリブデンなどの極圧剤が配合される。

耐樹脂性グリース[編集]

樹脂への影響が小さくなるよう設計されたグリース。樹脂と接触する(樹脂-樹脂、樹脂-金属の潤滑)、あるいは接触する可能性のある個所での潤滑に使用される。耐樹脂性がないグリースでは樹脂の潤滑においてスティックスリップ、異音、摩耗が生じやすい。特にエステル系グリースの場合、エステル系の基油は樹脂組織に浸透しやすく、樹脂折れやひび割れを起こす。耐樹脂性グリースは塗布面近傍への基油の拡散が少なく(このことを、耐拡散性が高いと表現する)、AV・OA機器等の光学部品やテープの汚染防止につながる。また、手触りが滑らかかつべたつきがない(このことを、フィーリング性が高いと表現する)。フィーリング性は、ステレオボリューム等、手動操作時の滑らかさが必要な摺動部品で必要とされる。耐樹脂性グリースの例として、基油として合成炭化水素油、増稠剤として汎用型のリチウム石鹸系と耐熱性型のジウレア系が採用されている[7]

実験室用グリース[編集]

実験室で使われるグリース。左はクライトックス、右はシリコングリース。使いやすいように注射器に入れられている

アピエゾン (Apiezon)、シリコングリースフルオロエーテルグリースがコックやガラス器具のすり合わせ用の潤滑剤として一般的に用いられる。グリースはすり合わせが固まって取れなくなることを防いだり、高真空系での空気漏れを防ぐ。

アピエゾンや類似の炭化水素を主成分とするグリースは高真空を作る際に最も適している。また、大部分の有機溶媒に可溶である。そのためペンタンヘキサンを使ってふき取ることが容易であるが、反応混合物を汚染しやすい。

シリコングリースはアピエゾンやフルオロエーテルグリースよりも安価である。比較的不活性であり、普通は反応に影響を及ぼすことはないが、これも反応混合物を汚染しやすく、化合物の構造決定に用いられる 1H NMR で δ 0 付近のピークとして検出される。溶媒を使ってふき取るか、細かい構造を持つ器具の場合はアルカリバスに浸すことによって除去できる。

フルオロエーテルグリースは溶媒、酸、塩基、酸化剤に対して安定である。しかしながら高価であり、また除去することが困難である。

食品機械用グリース[編集]

アメリカ国立科学財団(NSF)は、食品機械用潤滑剤の規格を定めている。この規格は「食品工場用潤滑油 NSFガイドライン」と呼ばれる。現在、この規格が食品機械用潤滑剤の規格として唯一である[8]。日本においても食品機械用グリースの販売に際して同規格は参照されている。食品工場用潤滑油 NSFガイドラインの内容を以下に示す[9][8]

  • H1:Lubricants with incidental contact: 食品に接触するべきではないが混入しても安全な潤滑剤。言い換えれば食品との偶発的接触が許諾される潤滑剤。原材料は、米国食品医薬局(FDA)の規格21CFR 178.3570に記載された物質および、FDAが安全基準合格証(GRAS)を与えた物質(GRAS物質)のみでなければならない。
  • H2:Lubricants with no contact: 食品に絶対に接触してはならない潤滑剤。ただし、食品と接触する可能性のない箇所(食品工場内部や周囲で食品の置かれていない所)では使用が可能。鉛化合物などの明らかに人体に有害である物質を含まない。
  • H3:Soluble oils: 食肉等を吊すフックやレールに引っ掛けるトロリーに塗布する防錆用オイル限定の規格。原材料はFDA規定の食用油(大豆油コーン油など)やGRAS物質のみでなければならない。
  • HT1:Heat transfer fluids with incidental contact: 偶発的に食品に触れる可能性がある箇所で使用できる熱媒体油。原材料はFDAの21CFR 178.3570に記載された物質、172、182及び184で規定された物質のみでなければならない。
  • HT2:Heat transfer fluids with no contact: 食品に触れる可能性がない箇所でのみ使用できる熱媒体油。鉛化合物などの明らかに人体に有害である物質を含まない。
  • 3H: 直接食品に接触する目的で使用される潤滑剤。食品との直接接触する離型剤、グリルやフライパン等の上で焦げ付きを防ぐ植物油など。

NSFは各規格の潤滑剤を登録している[10]。衛生管理基準の国際的な規格FSSC22000は食品や包装容器メーカーを対象に、食品への意図的な異物混入の防止策などを規定している。FSSC22000では食品への潤滑剤混入リスク対策としてNSF H1登録潤滑剤の使用を推奨している。食品機械用グリースの用途としては煮物釜、オーブン、ミキサー、ミンチ機、食肉加工機、洗瓶機、瓶詰機、缶詰機、食品用コンベアなどである。

水溶性グリース類[編集]

グリースが持つ潤滑剤としての性能や高い粘度を有し、かつ毒性が無く油を主成分としない物質が必要とされる場合がある。カルボキシメチルセルロース (carboxymethyl cellulose, CMC) はそのような場合に用いられる水溶性グリース類の1つである。CMC は溶液けん濁剤および潤滑剤として使われ、さらに潤滑能が求められる場合はシリコングリースが添加される。外科的処置等に用いられるこの種の潤滑剤のうち、最も一般的なものはKYゼリーである。

接点用グリース[編集]

接点用のグリース

電子部品の摺動接点部に用いる、導電性のあるグリース。

増稠剤・基油別分類[編集]

JIS規格による用途分類とは別に、増稠剤や基油による分類方法が一般的に用いられている。

増稠剤別分類:石鹸型[編集]

石鹸型グリースは増稠剤として金属石鹸を配合されている。金属石鹸の高級脂肪酸が網目構造を形成しており、構造粘度を成り立たせている。基本的に、機械的安定性、耐水性、耐熱性は金属石鹸の種類によって決まる。

構造粘度の成分に高級脂肪酸の金属石鹸のみを利用したものが通常の石鹸型である。これとは別に、高級脂肪酸とともに低級脂肪酸またはその他の有機酸を組み合わせた複合石鹸型がある。複合石鹸型の網目構造において構成繊維が太く、かつ高密度に絡まり、構造粘度は高い。このため通常の石鹸型よりも複合石鹸型は耐熱性が高い。

カルシウムグリース[編集]

別名カップグリース。増稠剤にカルシウム石鹸が用いられている。製造工程では、鉱油と脂肪酸、水酸化カルシウム及び水が混合され、加熱されて十分に鹸化された後、水分を調節されてカルシウム石鹸基グリースが製造される。特徴として、耐水性に優れている。熱に弱く、滴点が低い。60℃以下で比較的低速・低荷重の一般滑り軸受等の潤滑、特に、耐水性に優れていることから水を使用する箇所の潤滑に適している。自動車のシャーシ用として特に一般的に用いられ、そのほかの使用例に車輌や建設機械の足回り、水用やコンクリート用のポンプ摺動部などがある。石鹸に牛脂系脂肪酸が用いられている場合、使用可能な最高温度は70℃である。なぜなら、牛脂系脂肪酸の網目構造は構造安定に1%前後の水分を必要とし、80度以上では水分が分離してグリースが液体化するためである[11][12]。石鹸にひまし油系脂肪酸が用いられている場合、グリースは水分無しでも安定な構造を作るため、約100℃まで使用できる。

カルシウム複合グリース[編集]

増稠剤はカルシウム複合石鹸であり、これには高級脂肪酸と、酢酸といった低級脂肪酸が組み合わされている。万能型でころがり軸受けや滑り軸受けに使用される。EP剤が添加されている場合、極圧グリースとして使われる。最高使用可能温度は120~150℃であり、複合化処理をされていないカルシウムグリースと比べて耐熱性は高い。しかし、経時または高温で硬化する傾向にある[13]

ナトリウムグリース[編集]

増稠剤がナトリウム石鹸であるグリース。繊維状構造を持ち、ファイバーグリースとも呼ばれる[2]。最高使用可能温度は120~150℃であり、耐熱性は高い。製造条件によって繊維を長く太いものから短いものまで製造できる[14]。耐水性が低く、水に触れる箇所には使用できない。なぜなら、ナトリウム石鹸は水に接触すると乳化するためである。転がり軸受けなどに使用されている。

アルミニウムグリース[編集]

増稠剤がアルミニウム石鹸であるグリース。金属への粘着性が良い。最高使用可能温度は80℃であり、耐熱性は低い[13]。耐熱性を強化したアルミニウム複合グリースがよりよく用いられる。自動車シャーシ開放歯車に使われる。

アルミニウム複合グリース[編集]

増稠剤がアルミニウム複合石鹸であるグリース。アルミニウム複合石鹸は、水酸化アルミニウムステアリン酸安息香酸を反応させて生産される。最高使用可能温度は120~180℃と、石鹸型の中で特に耐熱性が高い[13]。耐水性と機械的安定性も非常に優れており、撥水性と圧送性も良い[11]。欠点として、長時間熱に曝されると軟化する傾向にある。

リチウムグリース[編集]

増稠剤がリチウム石鹸であるグリース。最高使用可能温度は130~150℃と耐熱性に優れ、さらに耐水性や機械的安定性も高い。最も欠点が少ないグリースとされ、万能型グリースや汎用グリース(マルチパーパスグリース multi purpose grease)と位置づけられる。リチウムグリースの使用で潤滑分野の80%は満足することができると考えられている[13]。特に、中小型のボールベアリングに広く採用されている。グリースの中でとりわけ生産量が高く、米国で58%(2004年)[15]、日本で58%(2014年)[16]である。リチウム石鹸には牛脂系とひまし油系があるが、ひまし油系でより機械的安定性は高い。他の石鹸型グリースと混合すると性質が著しく変わる可能性が高い。

リチウム複合グリース[編集]

増稠剤がリチウム複合石鹸であるグリース。リチウム複合石鹸は、水酸化リチウムに高級脂肪酸と二塩基酸あるいは無機酸ホウ酸など)を反応させて生産される。耐熱性が非常に高い。滴点が260度以上のものも存在する[17]

増稠剤別分類:非石鹸型[編集]

石鹸型のグリースの多くで使用温度が70–150℃に対して200℃まで使用可能である。

ベントナイトグリース[編集]

増稠剤が有機化ベントナイトであるグリース。最高使用可能温度は150~200℃と耐熱性が非常に高い。水の存在下で発錆しやすい。長期間高温で使用すると炭化する。他の石鹸型グリースと混合すると性質が著しく変わる可能性が高い。

シリカゲルグリース[編集]

最高使用可能温度は150~200℃と耐熱性が非常に高い。水の存在下で発錆しやすい。耐水性や機械的安定性は低い。

ウレアグリース[編集]

分子内にウレア結合を2個以上有する有機化合物(ジウレアテトラウレア化合物またはポリウレア)が増稠剤である[11]。最高使用可能温度は150~200℃と耐熱性が非常に高い。耐水性や機械的安定性も高い。リチウムグリース以上の万能性を有し、リチウムグリースの耐熱限界となる潤滑箇所に主に利用される。使用例は製鉄メーカーの連続鋳造設備、圧延機、自動車部品、電装部品などである。欠点として、高温で硬化する傾向がある。

ナトリウムテレフタレートグリース[編集]

増稠剤がナトリウムテレフタレートであるグリース。油分離性が特に大きい。分離した際、稠度が小さくなるだけでなく、金属錯体を含有するため酸化劣化する。

基油別分類[編集]

グリースの多くは基油を鉱油としている。合成油は鉱油と比べて高価であるが、硫黄といった不純物を含まない。合成油は特殊な用途の場合に採用される。

PAO系グリース[編集]

基油がポリ‐α‐オレフィン(PAO)のグリース。PAOは潤滑性、粘度温度特性、低温流動性、耐熱性、および酸化安定性に優れる。増稠剤は主にウレア化合物かリチウムヒドロキシステアレートである。PAOグリースの使用温度限界はウレア化合物で200℃、リチウムヒドロキシステアレートで150℃である。200℃の使用環境ではウレア系増稠剤と有機酸エステルの組み合わせはより高い潤滑性と酸化安定性を示すが、エステル系グリースは耐油性と耐水性に劣り、また高粘度のエステル油が多く存在しない。このため、高温環境ではPAO系のウレアグリースがより多く使用される[18]。PAOは比較的樹脂への影響が小さいが、70℃でもPC樹脂やPC/ABSアロイ樹脂を侵す。

エステル系グリース[編集]

基油が有機酸エステル(ジエステルまたはポリオールエステル)のグリース。有機酸エステルは一般に流動点が低く、粘度指数と引火点が高い[19]。このため、エステル系グリースは低トルク性と低摩擦性に優れる[20]。高引火点のため、難燃性を要する分野に利用される。熱安定性が高く、長期間の使用に耐え得る。有機酸エステルのエステル基は金属と結合して分子レベルの潤滑膜を形成するため、エステル系グリースは潤滑性に特に優れる。一般にジエステルよりもポリオールエステルの潤滑性が高い。有機酸エステルは一般に広い使用温度範囲を持つが、ジエステルは低温性が、ポリオールエステルは高温性がより強い。エステル系グリースはシリコーングリースよりも低価格で潤滑性に優れるため、シリコーングリースの代替品として利用されることがある[19]。欠点として、耐油性と耐水性が低い。また、有機酸エステルはゴムを膨潤させる傾向がある[17]

フッ素グリース[編集]

基油がパーフルオロアルキルエーテル(PFAE)であるグリース。増稠剤にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用する。フッ素グリースは耐熱性、耐水性、機械的安定性ともに非常に高い。特に200℃以上の使用環境で多く使用される[18]。PFAEは酸化劣化や揮発しにくく、長期使用に有効である。フッ素グリースは温度変化による性質の変化が小さく、低温から高温まで幅広く使用できる。基油は蒸気圧が小さいのでフッ素グリースは真空やクリーンルームで使用できる。不燃性であり、強酸や強塩基といった薬品や溶剤に対して強い。プラスチックやゴムを侵さず、それら部品の潤滑に適合する。欠点として、PFAEは多種の合成油や鉱物油に溶けない。このため、フッ素グリースを防錆剤や他のグリースが残っている場所に使用するとグリースがなじまずに摩擦や摩耗が生じる場合がある[21]。また、高温(300℃程度)で熱分解すると有害なガスが発生する恐れがある。

シリコーングリース[編集]

基油が、耐熱性・耐寒性・化学的安定性等に優れているシリコーンオイルであるグリース。シリコーンオイルはゴムやプラスチックを侵さないため、ゴム部品やプラスチック部品の潤滑に利用される。増稠剤は金属石鹸などである。

その他のグリース[編集]

上記のもの以外に、室温では柔らかい固体であるような潤滑剤もしばしばグリースと呼ばれる。しかしながら、それらは油・脂肪酸塩グリースとは異なり塑性流体であるとは限らない。ワセリンのような石油ゼリーもグリースと呼ばれることがあり、食品類を扱うような機械・装置に一般的に用いられている。

シリコングリース[編集]

ヒートシンク用のシリコングリース

シリコングリースは不定形シリカフュームを添加したポリシロキサン化合物であり、潤滑剤として用いられ、腐食されにくい。油を主成分としないためゴムシールなど油に弱い部位にしばしば使われる。高温でも安定であり、純粋な形で、または酸化亜鉛等熱伝導率の高い粒子を添加してコンピュータのGPUやCPU 用のヒートシンクを接着する際等に使われる(放熱グリス)。

フルオロエーテルグリース[編集]

エーテル (C−O−C) 結合を持つフッ素樹脂は柔軟性に富み、化学的に安定であることから環境調和型のグリースとしてしばしば使用される。デュポン社のクライトックス (Krytox) などが知られる。

歴史[編集]

  • 1845年 米国で鉱油と増稠剤(獣脂または石灰)からカルシウムグリースが開発された[12]
  • 1853年 英国で鉱油と増稠剤(牛脂またはソーダ)からナトリウムグリースが開発された。
  • 1912年 日本で初めてグリース(カルシウム石鹸基グリース)の生産が開始された。リチウムグリースが発明されるまで、熱に弱いが耐水性のカルシウムグリースと、水に弱いが耐熱性のナトリウムグリースとが使い分けられていた[13]
  • 1938年 リチウム石鹸基グリースが開発された。熱にも水にも強い最初の万能型グリースとして世界で普及し始めた。
  • 1952年 アルミニウム複合グリースが発明された。既存のグリースを超える耐熱性グリースとして普及し始めた。
  • 1954年 米国にて、世界で初めてウレアグリースが発明された。

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ある平面にグリースを塗布して平面だけを動かしたとき、グリースにおける平面との接触面に、平面の運動方向と平行な力が加わる。この力を剪断力という。剪断力の大きさを接触面の面積で割った数値を剪断応力という。剪断応力の単位はPa、またはN/m2である。例えばグリースを塗布した軸に軸受けをはめた後に軸を高速回転させた場合、回転の描く円の接線方向でグリース(の接触部)に生じる力が剪断力である。

脚注[編集]

  1. ^ グリース基礎知識”. 中央油化株式会社. 2016年5月12日閲覧。
  2. ^ a b グリースの基礎知識 ”. 株式会社ラブノーツ. 2017年1月7日閲覧。
  3. ^ ニュートン流体とは”. ジュンツウネット21. 2017年1月7日閲覧。
  4. ^ a b グリースのチキソトロピー性と流動性とは”. ジュンツウネット21. 2017年1月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m JIS K 2220:2013”. kikakurui.com. 2017年1月7日閲覧。
  6. ^ a b グリースの性状や性能を試験する方法”. ジュンツウネット21. 2017年1月10日閲覧。
  7. ^ 耐樹脂性グリース(なぜ必要か)”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  8. ^ a b 食品機械用潤滑剤のリスク管理と市場動向”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  9. ^ NSFガイドライン”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  10. ^ 食品機械用潤滑油等の NSF登録 に関して”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  11. ^ a b c グリースの分類と特性”. 共同油脂株式会社. 2017年1月8日閲覧。
  12. ^ a b 潤滑剤の基礎知識”. 友信貿易. 2017年1月8日閲覧。
  13. ^ a b c d e グリースの種類と使用方法について”. ジュンツウネット21. 2017年1月8日閲覧。
  14. ^ グリース”. 油脂技術委員会. 2017年1月9日閲覧。
  15. ^ 特集記事 「グリースの市場動向」2005/11”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  16. ^ グリースの生産実績推移”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  17. ^ a b グリースについて”. 2017年1月9日閲覧。
  18. ^ a b 合成系グリース(どのような用途に向くか)”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  19. ^ a b エステル系合成潤滑油の使い方”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  20. ^ 【工業用】エステル系グリース”. 住鉱潤滑剤株式会社. 2017年1月9日閲覧。
  21. ^ フッ素系合成潤滑油の特長”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。