高分子

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高分子(こうぶんし)または高分子化合物(こうぶんしかごうぶつ)(: macromolecule、giant molecule)とは、分子量が大きい分子である。国際純正・応用化学連合(IUPAC)の高分子命名法委員会では高分子macromoleculeを「分子量が大きい分子で、分子量が小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造」と定義し、ポリマー分子(: polymer molecule)と同義であるとしている[1]。また、「高分子から成る物質」としてポリマー(重合体、多量体、: polymer)を定義している[2]。すなわち、高分子は分子であり、ポリマーとは高分子の集合体としての物質を指す[3]。日本の高分子学会もこの定義に従う。

高分子の種類[編集]

高分子はその由来によって、自然界の産物である天然高分子(: natural macromolecule)と、人工的に合成された合成高分子(synthetic macromolecule)、天然高分子から化学的に誘導された半合成高分子(semisynthetic macromolecule)に分類される。さらに、高分子を構成する分子によって有機高分子(organic macromolecule)と無機高分子(inorganic macromolecule)にそれぞれ分けられる。天然の有機高分子は生物によって合成されるため、生体高分子とも呼ばれる。これらの分類方法とは別に、特に生体高分子において繰り返し構造の規則性での分類もある。ただ1種の構成単位が単一の連結法で繰返された構造を持つ化合物を規則性高分子(regular macromolecule)という。2種以上の構成単位の繰返しからなる構造をもつ、あるいは構成単位の連結法が単一でない構造をもつ高分子を不規則性高分子(irregular macromolecule)という。

天然高分子
有機かつ規則性高分子
ポリアミン、一部の脂質セルロースアミロースデンプンキチン天然ゴム
有機かつ不規則性高分子
ポリペプチドタンパク質DNARNA、一部の脂質リグニンアスファルテン
無機高分子かつ規則性高分子
二酸化ケイ素水晶石英)、雲母長石石綿、天然由来の炭素同素体(ダイヤモンド黒鉛)、閃亜鉛鉱ウルツ鉱
合成高分子
有機かつ規則性高分子
合成樹脂(プラスチック)(ポリ塩化ビニルポリエチレンフェノール樹脂など)、シリコン樹脂(シリコンゴム、シリコンオイル)、合成繊維ナイロンビニロンポリエステルポリエチレンテレフタラートなど)、合成ゴム
無機かつ規則性高分子
ポリシロキサンポリホスファゼンポリシラン窒化硫黄ポリマーガラス、合成ルビー、合成された炭素同素体(人工ダイヤモンド、人工グラファイトなど)
半合成高分子
有機かつ規則性高分子
三酢酸セルロース二酢酸セルロース硝酸セルロースセルロイド、再生高分子(再生繊維レーヨン

また、共重合体の単位構造配列による分類方法もある。

  • ランダム共重合体
  • 交互共重合体
  • ブロック共重合体
  • グラフト共重合体

高分子の分岐の程度で以下のように分ける[3]

線状高分子 (liner macromolecule)
実質的または概念的に、相対分子質量の小さい分子(単量体など)に由来する単位が線状に数多く繰返された構造をもつ高分子
星型高分子 (star macromolecule)
1個の分岐点から線状分子鎖(腕)が出ている高分子。星型高分子の腕が構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合、その高分子のことを規則性星型高分子 (regular star macromolecule)という。異なる場合は混合鎖星型高分子 (variegated star macromolecule) という。ただし、規則性星型高分子の規則性とは骨格構造の規則性であり、規則性高分子の規則性とは若干意味が異なる。
櫛型高分子 (comb macromolecule)
線状側鎖が出ている三叉分岐点(定義 1.54 参照)を主鎖(定義 1.34 参照)に数多くもつ高分子。主鎖中の分岐点間の副分子鎖および主鎖の末端の副分子鎖が構成(化学構造)および重合度に関して同じであり、側鎖も構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合は、その高分子を規則性櫛型高分子 (regular comb macromolecule) という。
ブラシ状高分子 (brush macromolecule)
少なくとも数個の分岐点が3よりも多く枝分かれしている高分子

構造[編集]

高分子の部分や官能基は、自己の他の部分や官能基と分子間力イオン結合水素結合双極子相互作用ファンデルワールス力)によって相互作用している。この相互作用は、高分子鎖の骨格に沿って近いもの(分子式上での隣接および近接部分)の間にも遠いものの間にも生じる。前者の相互作用を近接相互作用: next-nearest-neighbor interaction、後者を遠隔相互作用という。遠隔相互作用が生ずる理由は、高分子が折れ曲がることにより分子式上で遠く離れていても空間的に近づくためである。加えて、溶液の場合、溶媒や他の溶質とも分子間力や配位結合での相互作用が生じている。

これら相互作用は高分子の立体構造を決定的に支配する。相互作用が存在しない理想鎖の場合、高分子は無数の立体構造を取り得る。なぜなら、相互作用がなければ高分子の各結合は自由に回転できるためである。しかし、現実には相互作用により分子間回転は制限され、高分子が取り得る立体構造は制限されている。高分子の構造が決定されている例としてはタンパク質や核酸の四次構造である。

溶液中の高分子の立体構造は刻々と変化し、見掛け上、高分子は運動している。これは、熱運動する溶媒分子との衝突による。高分子のこの運動をミクロブラウン運動という。

位置規則性[編集]

単量体がアルケンであるビニル重合では、頭-尾結合(head to tail)と頭-頭結合(head to head)の2通りの結合様式が、置換基の立体障害や電子的特性に応じて生じる。これを位置規則性という。一方ラクトン環状エーテルなどのや環状化合物を単量体とする開環重合では、開裂が起こる場所によって頭-尾結合と頭-頭結合の起こる割合も変わる。

立体規則性[編集]

プロピレンなどの重合において、重合することによってできた四級炭素不斉炭素原子であり、重合法によってはこの不斉炭素の絶対配置に規則性が現れる。これを立体規則性(タクティシティー、tacticity)という。すべての不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造をイソタクチック(アイソタクチック)といい、絶対配置が交互に並ぶものをシンジオタクチックという。また、全くランダムになった構造をアタクチックという。立体規則性はNMRを用いることで評価ができる。

チーグラー・ナッタ触媒によって合成されたポリプロピレンはイソタクチックであるが、通常のラジカル重合で合成したポリプロピレンはアタクチック構造である。

幾何異性体[編集]

ジエン系モノマーの重合では、1,2-構造、シス 1,4-構造、トランス 1,4-構造といった異性体構造が生じる。

共重合体の構造[編集]

共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。 また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、これは幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。

多数の枝からなる樹木状(多分岐高分子)のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、ロタキサン、高分子カテナン水素結合静電気力配位結合のような弱い結合力で結びつけた自己集積型高分子、などの新構造高分子の合成も近年注目されている。

大きさ[編集]

ミクロブラウン運動により形が常に変化するため、高分子の大きさ(分子量ではない)も変化する。高分子の大きさはある瞬間の特定の立体構造での大きさではなく、可能性のあるすべての立体構造の大きさを平均した値(高分子鎖の広がり: average chain dimension)で評価される。高分子鎖の広がりは平均二乗両端間距離や平均二乗回転半径などで計算される。これらに加えて、分子内や溶媒との相互作用の平均力ポテンシャル、さらには排除体積効果も考慮されることがある[4]

分子量[編集]

合成高分子の分子量多分散を示す。つまり合成高分子は、同一の組成を持つが分子量は異なる分子の混合物であり、その分子量は通常、数平均分子量あるいは重量平均分子量で表される。分子量分布は、応用上分子量そのものと同様に重要であり、物性面では通常分子量分布が狭いことが望ましいが、加工の容易さからは分子量分布が広いことが有利になる場合も多く、分子量のみならずその分布も用途に応じて設計する必要がある。平均分子量の算出方法には分子1個あたりの平均の分子量として算出される数平均分子量や、重量に重みをつけて計算した重量平均分子量等がある。重量平均分子量と数平均分子量の比を分散比と呼び、これが1に近いほど分子量分布が狭いことを示す。

生体高分子、天然高分子には、単一の分子量からなる単分散を示すものも多い。

分子量の測定法には以下のものがある。

クロマトグラフィー法(GPC法)
GPC(: gel permeation chromatography)法とはゲル状の粒子を充填したカラムに高分子の希薄な溶液を流し、分子の大きさによって流出するまでの時間が異なることを利用した分子量の測定法。分子の溶液中での大きさは分子量以外の要因(溶媒との相互作用の強さなど)によっても影響されること、また固定相と被測定高分子との各種の相互作用によっても保持時間は影響を受けることにより、絶対的な分子量の測定はできないが、分子量分布が容易に得られる利点がある。
粘度
高分子の溶液の粘度 η が以下のような平均分子量の関数であることを利用した測定法。この方法により求められる平均分子量を粘度平均分子量と言う。
η = kMαk および α は高分子に固有の定数)
末端基定量法
高分子の末端に何らかの官能基が存在する場合には末端基定量法を用いることが可能なことがある。例えば末端がカルボン酸の高分子であれば水酸化ナトリウムなどの塩基で中和滴定を行うことにより、存在する高分子の個数が分かる。これと全体の質量およびモノマーの分子量とから高分子一個あたりの質量、すなわち数平均分子量が分かる。また、近年ではNMRスペクトルの積分比から末端基の割合を測定することが可能である。
束一的性質を利用した方法(蒸気圧法・浸透圧法・沸点上昇法)
溶液の蒸気圧・浸透圧・沸点がそのモル濃度および質量モル濃度に依存することを利用した測定法。これらの方法により求められる平均分子量は数平均分子量である。
光散乱法
溶液中の分子に光が衝突すると光の散乱が起こり、散乱強度がその分子の質量に比例することを利用した分析法。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。
沈降速度法(超遠心法)
大きな重力場の中ではわずかな比重差でも重い粒子が沈むことを利用した分析法。非常に高速で回転する遠心分離機を用い、セル内部の分子の分布状態を光学的に検出することで分子量を測定する。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。

熱力学的特性[編集]

一般に高分子物質(ポリマー)において結晶性領域の融点は低分子物質よりも高く、また非結晶性の領域にガラス転移点と呼ばれる擬似相転移温度を示す。特に主鎖に芳香環などが入った分子において、分子間の相互作用が強く融点とガラス転移点が高くなる。

力学的特性[編集]

ポリマーの最大の特徴は、典型的な粘弾性体であることである。高分子濃厚溶液とポリマー溶融体(高分子濃厚系)はチキソトロピー流体であり、粘度は一定ではない[5]。剪断ひずみ速度が大きくなると粘度は小さくなり流動性は大きくなる。これは、低分子濃厚系はニュートン流体であって粘度は一定であることと対照的である。チキソトロピー性はポリマーの成型加工および、塗料や食品などの工業用品の性能に大きな影響を与える。

高分子の物性的な差によって屈曲性高分子、剛直性(棒状)高分子、半屈曲性高分子、塊(球)状高分子という分類ができる。

  • 屈曲性高分子 - よく曲がる高分子鎖があり、溶液中では糸まり状
  • 剛直性(棒状)高分子 - 高分子鎖が直線状であり持続長が長く硬い
  • 半屈曲性高分子 - 屈曲性高分子と剛直性高分子の中間
  • 塊(球)状高分子 - 球状の橋架け高分子

温度増加による粘弾性緩和[編集]

非晶性ポリマー固体の引張緩和弾性率の温度依存性

ポリマーに対して、引張試験などで静的粘弾性測定を行うとポリマーの粘弾性を解析することができる。定速度引張試験では、ポリマーを一定の引張速度で力を加え、剪断応力 σ と引張後長さLを測定する。そして、引張弾性率(ヤング率E を算出する。

ここで、L0 はポリマーの元長である。一般に、引張弾性率 E はポリマーの温度に依存し、σ は温度Tとともに減少する。この減少を粘弾性緩和(: viscoelastic relaxation、あるいは単に緩和)という。温度増加に伴うEの変化過程にはガラス状領域(glassy state)、転移領域(leathery state)、ゴム状平坦領域(rubbery plateau)、流動領域の4つの段階がある。転移領域では E は1~数GPaと大きく変化しない。転移領域になると E は数MPaまで急激に減少する。ガラス状領域から転移領域への変化をガラス変化 (glass transition) といい、これが起こる温度をガラス転移点 (Tg) という。転移領域ではポリマーは皮革状 (leathery state) である。ゴム状平坦領域では E は数MPaで一定となり温度に依存せず、ポリマーはゴム状となる。分子量が大きいポリマー、結晶性ポリマー、架橋ポリマーではこの領域が長くなり、より高い温度まで続く。流動領域では温度増加に伴い E は急激に減少し、ポリマーは高粘度の流動性を示す。

粘弾性緩和の原因は各温度で高分子鎖の分子運動 (molecular motion) が異なるためである。ガラス状領域では高分子のミクロブラウン運動は凍結している。ガラス転移時には、凍結されていた分子運動は局所的に開放され、セグメントのミクロブラウン運動が始まる。流動領域では高分子の絡み合いがほぐれ始め、分子鎖の運動が激しく起こる。分子鎖間の相対位置を変化させるマクロブラウン運動が起こり始め、ポリマーは流動性となる。

ガラス領域と転移領域における粘弾性の挙動は、分子量がある臨界値より大きければ分子量と分子量分布に依存しない。転移領域における速い緩和は、分子全体ではなく分子の一部分の運動に関連しているためである。一方、ゴム状平坦領域と流動領域における挙動は分子量と分子量分布の影響を受ける。分子量が低い非晶性ポリマーでは、転移領域から流動領域への遷移が急激である。架橋ポリマーではゴム弾性により弾性率は温度の増加で僅かに増加するが、架橋の熱分解が起こるまで架橋ポリマーは流動しない。熱分解まで弾性率の低下は観測されない。この分子量・分子量分布依存性は、転移領域から流動領域への遅い緩和が分子全体の運動に依存していることによる。

時間経過による粘弾性緩和[編集]

単分散線状ポリマー溶融体の線形剪断緩和弾性率 G(t) の時間 t 依存性

ポリマーの粘弾性は時間にも依存する。温度をガラス転移点(結晶性高分子の場合には融点)以上で一定にして段階的な剪断ひずみγを加えると、剪断応力 σ が時間 t とともに減少する。この減少もまた粘弾性緩和の典型例である。剪断ひずみが小さければ、ひずみに依存しない剪断緩和弾性率 (shear relaxation modulus, G(t))で粘弾性緩和を図示することができる。

高分子か低分子かに関わらず、ガラス転移点以上の温度で剪断緩和弾性率 G(t) は時間経過に伴って急激に減少する速い緩和が起こる。分子量が大きいとき、速い緩和の後に遷移領域の緩和、ゴム状平坦領域への移行、そして遅い緩和が現れる。ゴム状平坦領域では G は分子量に依存しない。しかし、遅い緩和と流動化の時間は分子量によって異なる。一方、低分子の場合、ガラス転移点通過後すぐの速い緩和過程で G(t) は完全に減衰し、流動化する。このような低分子量の分子を非絡み合い鎖(nonentangled chain)と呼ぶ。

動的弾性率[編集]

静的粘弾性測定では、力を加えられた瞬間のポリマーの粘弾性変化を評価する。これとは別に、ひずみが一定周波数で与えられたときの粘弾性が求められることもある。動的粘弾性測定英語版では、振幅 γ0角周波数 ω でひずみを周期的に(ひずみ-時間関数が正弦波となるように)長時間にわたって物質に加える。このとき、ひずみは γ = γ0 sinωt と表わされる。応力 σ の測定値は、試料が完全弾性体ならばひずみと同位相であり、完全粘性体ならばひずみと π/2 の位相差を持つ。ポリマーのような粘弾性体ならば位相差 δ0 から π/2 の範囲に存在する。

  • 完全弾性体:
  • 粘弾性体 :
  • 完全粘性体:

粘弾性体の剪断応力の式は以下のように変形できる。

右辺第一項は弾性、第二項は粘性に対応する。それぞれの係数は G′, G″ と表す。

弾性的な成分の係数 G′(ω)剪断貯蔵弾性率 (shear storage modulus)、粘性的な成分の係数 G″(ω)剪断損失弾性率 (shear loss modulus) と呼ばれる。それぞれ、力を加えられたときに仕事としてポリマーに蓄えられるエネルギー、としてポリマーから失われるエネルギーに対応する[6]。剪断貯蔵弾性率も剪断損失弾性率も G(t) と等価な量である[7]

動的粘弾性の分散[編集]

動的粘弾性のパラメーターである剪断貯蔵弾性率G′と損失正接tan δは温度と周波数に依存する。動的弾性率が温度により変化する挙動を温度分散(: temperature dispersion)、周波数により変化する挙動を周波数分散(: frequency dispersion)という。剪断貯蔵弾性率の自然対数log G′は幾つかの特定温度・特定周波数で急激に減少する。特定温度と次の特定温度、特定周波数と次の特定周波数の間では変化しない。近傍の温度・周波数でtan δは極大値を示す。

非晶性ポリマーではガラス転移点でlog G′の急激な減少と、tan δの急激な高さのピークが観測される。結晶性ポリマーではこの現象はガラス転移点から高温にずれたところで観測される。また結晶性ポリマーではlog G′の減少幅とtan δのピーク高さは非晶性ポリマーより小さい。非晶性ポリマーでは融点の前でlog G′の急降下とtan δの急上昇が見られる。結晶性ポリマーでは融点近傍でこの現象が起こる。

粘弾性緩和による相分離[編集]

温度の関数としての貯蔵弾性率 G′ あるいは損失正接 tan δ のピーク温度は、ポリマーブレンド共重合体といった多層系高分子の相分離状態の評価に有用である。ブロック共重合体やグラフト共重合体では、ある構成ポリマーのガラス転移点に温度が達したとき、その構成ポリマーは皮革状やゴム状となるのに対して、他の構成ポリマーはガラス状のままである。この状態の相違により相分離が起こる。

ブロック共重合体グラフト共重合体で熱による構成ポリマーの相分離が生じたとき、G′ は急激に減少し、tan δ は極大となる。例えば、ポリスチレン (PS) のホモポリマーは 373 K付近、ポリブタジエン (PBD) のホモポリマーは 183 K付近で G′ の著しい低下と tan δ の極大を示す。PSとPBDのジブロック共重合体あるいはグラフト共重合体ではそれぞれのホモポリマーと同じ温度領域で同じ現象が観察される。

ランダム共重合体の場合、相分離は生じない。その組成が 1:1 であれば、PSとPBDのランダム共重合体は、PSとPBDの各ガラス転移点の中間温度で G′ の著しい低下と tan δ の極大を示す。2成分の相を混合させたポリマーブレンドでも同様の現象が起こる。相混合が不均一であれば、tan δ のピークの幅が広くなる。

粘弾性と機械的性質[編集]

温度増加、時間経過、あるいは特定周波数によりポリマーは緩和され、最終的に破壊されるが、このとき粘弾性特性の変化が顕著に観察される。このため、粘弾性特性の評価により機械的性質、例えば破断強度、摩擦特性、衝撃強度、疲労特性を解析することができる。温度、時間、あるいは周波数を変数としたとき、角周波数ωと緩和時間τの積が1となると、弾性率の分散と粘弾性吸収が起こる。

破壊包絡線[編集]

線型粘弾性における時間-温度換算則が、架橋エラストマーの多くの破壊現象においても成り立つ。例えば、一軸引張破壊において、破壊時応力σBと破壊時伸長比λBの関係曲線は包絡線破壊包絡線、failure envelope)となる。破壊包絡線は温度と伸長速度によって変化する。温度を低下させたとき、または伸長速度を増加させたとき、σBに対してλBが大きくなる。σBーλB曲線が包絡線となるには、破断までの変位が平衡状態に近いときに限られる。高温、または平衡状態に近いような遅い伸長速度ではσBーλB曲線は包絡線と一致する。一方、低温または高速では曲線は包絡線とならなくなる。これは、低温または高速ではネッキングが発生したり伸長が不均一となったりして破壊時応力の測定値のばらつきが大きくなるためである。

衝撃強度[編集]

ポリマーにおいて、衝撃破壊に至るひずみが小さい場合、衝撃強度は線型粘弾性と相関し、衝撃強度は高分子の緩和と密接に関連する。例えば、ポリプロピレンの衝撃強度は、低温からガラス転移点(主分散が生じる温度)に向かって増加する。副分散の発現温度が非常に大きい場合、ガラス転移点以下であっても副分散の発現温度に向かい衝撃強度は急上昇する。これは、高分子の緩和部位が衝撃を吸収するため、運動体積が大きくなった分子運動が外部からのエネルギーを吸収するためと考えられている。

副分散での衝撃強度の増加はビスフェノールA-ポリカーボネート(BPA-PC)において観察される。ポリカーボネートのガラス転移点は423Kと高いが、副分散は120-220Kで生じる。この温度域では剪断損失弾性率G″の急上昇があり、粘弾性吸収が生じる。衝撃強度もここで急激に増加する。対して、降伏強度はG″の増加に伴って激しく減少する。温度がG″の極大点よりも増加してG″が減少していくと、衝撃強度と降伏強度は緩やかに減少する。一方、ポリスチレンは低温で大きな粘弾性吸収が存在しないため、衝撃強度は低い。

摩擦特性[編集]

ポリマーの摩擦特性は粘弾性の特性に依存する。アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)の一面をガラス面と摩擦接触させ、各温度で1.0×10-4-1.0cm/sの範囲で滑り速度を変えて動摩擦係数μを測定すると、滑り速度の常用対数log Vとμの関数は特徴的な曲線を示す。log Vの増加に伴いμは、20℃以上で増加し、0℃以下で減少する。5-10℃では正の極大点がある。

ここで、横軸をlog Vで左を減少、右を増加方向とし、縦軸をμで下を減少、上を増加方向とする。20℃での曲線を基準として、それより高温での曲線を左へ、低温での曲線を右へ横軸に平行移動させると、1本の合成曲線が得られる。このときの横軸に沿う移動量は基準温度の関数としてWLF式に従う。同様の結果は天然ゴムスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、およびそれらのカーボンブラック充填ゴムでも成り立つ。また、この合成曲線でガラス転移点をほぼ確実に予測することができる。

疲労特性[編集]

ポリマーを含む固体材料はひずみを繰り返し長時間与えられるといずれ破壊される。この現象を疲労という。ポリマーはひずみを与えられると内部で発熱を生じ、動的粘弾性を変化させる。動的粘弾性の急激な変化は疲労破壊とその直前で観察される。

ポリマーにひずみ(引張と圧縮)を繰り返し与えると、引張貯蔵弾性率E、損失正接tan δおよび表面温度上昇量θ(表面温度と周囲温度の差)は時間との関数曲線を示す。ひずみの振幅が小さい、周囲温度が低い、または周囲への放熱が良好な場合、脆性破壊が起こる。疲労開始の初期で表面温度は定常温度まで増加し、以降、θは脆性破壊まで一定の値を保つ。Etan δは破壊直前までは一定で、直前でEは急上昇して極大を、tan δは急減少して極小を示す。その後、僅かな時間でEは極大値から急減少し、tan δは極小値から急上昇してポリマーは脆性破壊される。この過程の大部分は、クラックが巨視的に成長していない段階で進む。クラックの成長はEの極大直後から始まり、脆性破壊までの僅かな時間で急激に起こる。このEの極大化とtan δの極小化は高分子の局所的な配向、あるいは物理的劣化に対応していると考えられている。

ひずみの振幅が大きい、周囲温度が高い、またはポリマーが断熱環境にある場合、延性破壊が起こる。延性破壊では破断面の塑性変形が顕著である。破壊までEは減少し、tan δとθは増加する。ポリマーの延性破壊はポリマー内部の温度上昇と起因すると考えられている。

主分散温度が室温より20-40Kほどであるポリマーの場合、延性破壊の原因となる条件が与えられると、表面温度が主分散となったときにポリマーは著しく軟化して破壊される。この現象を熱破壊と呼ぶ。

ゴム弾性[編集]

一部のポリマーはゴム弾性を示す。ガラス転移点以上の温度となるとゴムはガラス状態からゴム状態となり、エネルギー弾性からエントロピー弾性を示す。ガラス状態とゴム状態では張力の温度依存性が変化する。長さを固定したとき、ガラス状態(エネルギー弾性)では温度と張力は比例する。

ワイセンベルク効果[編集]

ワイセンベルク効果。ニュートン流体(左)に棒を浸して棒を回転させると、棒に近いほど液面は沈み、あたかも棒を中心に液面がへこむように見える。しかし、濃厚な高分子溶液や溶融ポリマー(右)では、棒に近いほど液面は上がり、液体が棒を這い上がる。液中の矢印は、棒の回転により生じている張力の方向である。

高分子の濃厚溶液やポリマーの溶融体をゆっくり流動させると、流体はわずかに変形するが、流れに沿った(流動方向に平行な)面だけに応力(剪断応力)が生じる。これは、流動方向の平行面と垂直面への応力がほとんど等しいためである。しかし、高速で流動させると流体は流れの方向へと伸長する。このとき、流体は元の形に戻ろうとし、張力が生じる。

高分子の濃厚溶液やポリマーの溶融体に棒の一部を浸して棒を回転させると、液面は棒の近くほど勾配的に上昇する。見掛け上、液体は棒に巻き付きながら這い上がる。この現象をワイセンベルク効果: Weissenberg effect)と呼ぶ[8]。これは、棒の回転により液体が流動している部分では張力の合力は内向き(棒に向かう方向)に働くために起こる。ニュートン流体の場合、合力は外向き(棒から離れる方向)に働き、棒の近くほど液面はへこむ。

バラス効果[編集]

バラス効果の説明

成形機の押出機のダイ(押出機出口の口金)から溶融ポリマーを押し出すと、出てきたポリマーの径はダイの径よりも大きい。この現象をバラス効果 (: Barus effect) またはダイスウェル(: Die Swell)と呼ぶ。膨張量はダイの径と長さ、押出速度によって変わる。一定の長さまでならダイが長くなるほど膨らみの程度は小さくなり、一定以上となるとポリマーの径は変わらなくなる。バラス効果は、製品寸法を規格通りにしなければならない高分子工業で重要な問題である。

バラス効果の要因は二通りある。一つは、ポリマーはダイを出たあと、ダイを通る前の形に戻ろうすることである。ポリマーはダイを通る前は液体溜めに入っており、液体溜めの径はダイのものよりも大きい。このため、ポリマーはダイよりも大きい径になろうとする。この効果を弾性流入効果という。弾性流入効果はダイが短いときに現れる。ダイが長くなり、ポリマーがダイの径に変形されている時間が長くなると元の形状の記憶が失われていくため、弾性流入効果は小さくなる。

もう一つの要因は張力効果である。ダイを通っている間、ポリマー内部では速度勾配があり、中心部で最も張力が大きく、外側に行くにつれ張力が小さくなる。このため、外側に向けて圧力が生じる。ダイを出た後、この圧力によってポリマーは膨らむ。ダイが短いとき弾性流入効果が、長いとき張力効果がバラス効果の主な要因となる。

光学的特性[編集]

高分子の溶液は温度と組成に関わらず光を強く散乱させる。散乱光の強度は高分子溶液の分子量に比例する。このため、高分子溶液の散乱光強度の測定は、その高分子の分子量と広がりを測定する標準的な方法として一般的に用いられている。この方法を光散乱法といい、静的光散乱法と動的光散乱法とがある。

合成法[編集]

分子内にあらかじめ反応点を2つ以上持たせておく方法と、反応中に活性点を連鎖的に発生させる方法がある。

高分子でできた素材[編集]

高分子に関するノーベル賞[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ IUPAC Gold Book, macromolecule (polymer molecule)”. IUPAC. 2017年4月16日閲覧。
  2. ^ IUPAC Gold Book, polymer”. IUPAC. 2017年4月16日閲覧。
  3. ^ a b 国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集”. 公益社団法人高分子学会. 2017年4月17日閲覧。
  4. ^ 倉田道夫 (1983). “高分子鎖の広がりと排除体積効果”. 高分子 32 (1): 26-29. doi:10.1295/kobunshi.32.26. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/32/1/32_1_26/_article/-char/ja/. 
  5. ^ 榮永 義之 (2010/4/4). 高分子流変学. http://www.molsci.polym.kyoto-u.ac.jp/archives/PolymRheol.pdf. 
  6. ^ 五十野善信 (2001). “動的粘弾性とは何か”. 日本ゴム協会誌 74 (6): 212-217. doi:10.2324/gomu.74.212. https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/74/6/74_6_212/_pdf. 
  7. ^ 小澤美奈子 (2006). 社団法人高分子学会. ed. 基礎高分子化学. 東京: 東京化学同人. ISBN 978-4-8079-0635-2. 
  8. ^ 田村 幹雄, 倉田 道夫, 小高 忠男, 山本 三三三 (1957). “ワイセンベルク効果について”. 材料試験 6 (43): 227-231. doi:10.2472/jsms1952.6.227. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1952/6/43/6_43_227/_article/-char/ja/. 

外部リンク[編集]