恐怖

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マリア・ヤクチコワ Fear. 1893-95年頃の作品

恐怖(きょうふ)、または恐れ(おそれ)(: fear)とは、動物人間のもつ感情の一つで、こわいと思うことやその気持ち[1]

概説[編集]

ブリタニカ国際百科事典によると、恐れとは典型的な情動のひとつで、有害な事態や危険な事態に対して有効に対処することが難しいような場合に生じる、とのことである[2]河合隼雄は、「人間は自分の人生観世界観システムを持ちながら生きているが、それをどこかで揺り動かすもの」と定義したうえで、恐怖はない方がいいように見え、ずっとそういう状態が続くと安心ではあるが、死んでいるのと同じである。生きる体験の中には必ず恐怖が入ってくる。存在を揺るがされるということは、うまくすれば、新しいことが開かれるが、下手をすれば破局を迎える。つまり、恐怖はその両者のちょうど境目になる。さらに、例えば恐怖の対象に「」があるが、気分的に死への傾倒が強い人には、それは恐怖たりえず、それにどんどん寄り添っていくと生と死の境界自体がなくなり、恐怖は消える。そうなれば、も死も何の役にも立たなくなると述べている。現代人は本来的な恐怖というものが非常に少なくなっており、現代人の状態は非常にアンビバレンスであるとしている[3]

事態から逃避しようとする行動の傾向、心拍数の増加、顔面から血の気が引く、震え発汗などといった身体的反応が伴う[2]。恐れが強い場合は、行動に麻痺が起きる[2]

恐怖される状態、恐怖の対象[編集]

14世紀から18世紀ごろの西ヨーロッパではペスト(黒死病)にかかることが非常に恐れられた。18世紀末のフランスではロベスピエールらによって一方的に「反対者」と見なされて処刑されることが恐れられた(恐怖政治)。19世紀英国において最も恐れられた事態は、人々に忘れ去られ、死んだのに誰にも嘆かれず、貧困状態で死に、最後には解剖台に乗せられることであった。20世紀では、多くの人が小児麻痺、身体の一部を不具にし、残りの人生で動かなくなるという病気を患うことを恐れた。2001年9月11日以降のアメリカ(やヨーロッパ)では、テロリズムに対する恐怖が大きく広がった。

人は、トラウマが残るような事故によって、特定の対象に対し恐怖するようになることもある。

特定の事態やものに対して強い恐怖を感じる状態を(それを本人が不都合と感じている場合などに)疾患として位置づける場合、恐怖症と言う。 恐怖症は認知行動療法などによって治療できる場合がある。

他の感情との関係[編集]

ブリタニカ国際百科事典によると、恐れの中でも具体的な事態になっておらず明確な対象があるがものが「心配」だという。また、具体的な事態になっておらず、かつ明確な対象もないものが「不安」だという[2]

反応・行動[編集]

恐怖状態において、人は以下のような様々な反応を示す[4]

  • 瞳孔の拡大(恐怖に対する視覚の対応)
  • の細気管支の拡張(酸素吸収を高める)
  • 血圧心拍の急上昇(脳と筋肉にエネルギーを供給する)
  • 肝臓グリコーゲン分解(瞬発力を高める)
  • アドレナリンを含む血流の大放出(生理的防御力の向上)
  • 脾臓の収縮(白血球を供給する準備)
  • 膀胱結腸を空にする準備(エネルギー消費の準備)
  • 消化器官の毛細血管の収縮(血流を筋肉側に集中させる)
  • 立毛(鳥肌が立つなど、毛が逆立つ現象。敵に対して体を大きく見せていた名残りと考えられる)

恐怖に対する反応は大脳辺縁系扁桃体と、脳の機能の中では比較的古い部分である小脳扁桃の活動にリンクしており、扁桃体より発せられた警告が中枢神経自律神経にさまざまな生理的応答を促す[4]。 扁桃体に異常をきたしたウルバッハ・ビーテ病の患者は恐怖を感じることがないという[5]

人間は恐怖によって怯えた状態になり、他者の望むことに一方的に従ってしまうことがある。その一方、人間は同様に暴力的にもなり、命を懸けて戦うこともある。

心理学的説明・研究[編集]

ジョン・ワトソンパウル・エクマンなどの心理学者は、恐怖を、ほかの基礎的な感情である喜び怒りとともに、これらをすべての人間に内在する感情だ、と述べた。 通常、恐怖は特定の刺激に対する反応である[要出典]

心理学において、恐怖の対象を覚えさせることが、「恐怖条件付け (en:fear conditioning) 」として研究されている。その最初のものはワトソンが1920年に行ったリトルアルバート実験 (en:Little Albert experiment)で、この研究では、生後11ヶ月の幼児が実験室の白鼠に対し恐怖を感じるように条件付けることに成功した。

研究により、特定の対象(例:動物、高さ)が他の対象(例:)に比べより恐怖を引き起こしやすいことが発見されている。また、被験者にこれらの対象に対し恐怖を植付けることもより容易である。

動物[編集]

恐怖状態にあるネコ

「追い詰められた」は恐怖状態の良い例である。鼠は捕食者によって(最終的に追い詰められるまでは)逃走を図ろうとするが、追いつめられると好戦的な態度に転じ、逃走できるか捕らえられるまで反撃をするようになる[要出典]

ジョゼフ・ルドゥーの研究によると、扁桃体は恐怖や脅威、危険といった記憶を意識下に格納する部位でもあり、戦うか逃げるか反応などの条件性恐怖を司る。ほとんどの脊椎動物には小脳があることから、それらの動物の小脳扁桃は全て同様の働きをしていると考えられる[4]

脚注[編集]

  1. ^ goo辞書「恐怖」
  2. ^ a b c d ブリタニカ国際百科事典、【恐れ、fear】
  3. ^ 河合隼雄『対話する生と死』(大和書房 2006年2月15日発行)
  4. ^ a b c ドナ・ハート、ロバート・W・サスマン『ヒトは食べられて進化した』伊藤伸子訳 化学同人 2007 ISBN 9784759810820 pp.104-108.
  5. ^ 恐怖をまったく感じない女性、PTSD治療にヒントか - AFP BB News 2010年12月20日

関連項目[編集]