ジークフリート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
シグルズから転送)
ナビゲーションに移動 検索に移動
ファーヴニル竜を屠りその血を舐めるジークフリート(アーサー・ラッカム、1911年)

ジークフリートドイツ語: Siegfried)は、ゲルマン伝説に登場する英雄である。北欧ではシグルズ古ノルド語: Sigurðr)と呼ばれる。竜殺しの英雄として知られる。重要な典拠として、大陸では『ニーベルンゲンの歌』、スカンディナヴィアでは『エッダ』『ヴォルスンガ・サガ』がある。

大陸ゲルマンにおける伝承[編集]

ニーベルンゲンの歌[編集]

少年時代から王宮を出て征旅を行い、ノルウェーのニーベルンゲン族を倒してその呪われた財宝と魔法の隠れ蓑タルンカッペ、名剣バルムンクを奪う、悪竜を倒すなど、多くの軍功を立てる。この竜退治の際、魔力のこもった竜血を浴びて全身が甲羅のように硬くなり、いかなる武器も受け付けない不死身の体となる。しかしこの時、背中に菩提樹の葉が一枚貼り付いていて血を浴びられず、この一点のみが彼の弱点となった。

成人後、ブルグント王グンターの妹クリームヒルトの噂を聞いたジークフリートは、彼女に求婚すべくブルグントの国に渡る。その後、 デンマークとザクセンがブルグントに戦いを挑むという事件が起き、ジークフリートもブルグント軍に加わって多くの手柄を立てる。

これを認めたグンターは、さらにアイスランドの女王ブリュンヒルトと自分の結婚を手助けするように依頼する。男勝りで知られるブリュンヒルトは、自分に求婚した男と力比べをするのを常としていた。そして、もし男が勝てば求婚を受け入れるがこれに負ければ殺していたのである。ジークフリートは魔法の隠れ蓑でグンターに手助けして勝利に導き、ブリュンヒルトはグンターとの結婚を承諾する。これらの功績をあげたジークフリートはようやくクリームヒルトと結婚、ネーデルラントに帰って王位に就く。

10年後、ブルグントの王宮でグンター達と再会したジークフリートだが、ここでクリームヒルトとブリュンヒルトが言い争いを始める。クリームヒルトは、グンターとブリュンヒルトの結婚の際にジークフリートが不正を働いた事をばらし、ブリュンヒルトをうまく騙された愚か者と罵る。

ブリュンヒルトを侮辱されたブルグントの家臣の怒りは凄まじく、特に重臣ハーゲンは、ジークフリートの暗殺を計画する。彼は、クリームヒルトに「デンマークが再び攻めてきた」と嘘を言い、ジークフリートの弱点を聞き出す。こうしてハーゲンは投槍でジークフリートの背中を貫き、彼を暗殺する。

翌朝、ジークフリートの亡骸を見たクリームヒルトは、弱点の背中が貫かれている事からハーゲンが仇であると見抜き、夫の復讐を誓う。

北欧における伝承[編集]

ヴォルスンガ・サガ[編集]

ヴォルスンガ・サガ』によれば、英雄シグムンドとヒョルディースの息子でシンフィヨトリの異母兄弟である。父の形見の名剣グラムを振るい、さまざまな軍功を挙げた。

シグルズは母ヒョルディースがデンマークの王ヒアールプレク王の子アールヴと再婚した後、鍛冶のレギンの下で養育されることとなり王子にふさわしい教養を身に着けたが、あるときレギンにシグルズが王の息子であるにもかかわらず、自身で自由にできる財産に乏しい事実を仄めかされた。そして近くの竜の姿をした小人ファーヴニルを退治して勲しを上げると共に竜の守る莫大な富を入れて身分にふさわしい財を成すよう唆された[1]。シグルズはまず父の敵を討つ前に黄金に目が眩んだとフンディングの一族に笑われたくはないと言い、父の敵討ちをすると宣言した。養父レギンからグラムを受け取り(ヴォルスンガ・サガでは実父が使っていた剣の破片を母から受け取ってレギンに打ち直させた)、母ヒョルディースの再婚相手の父ヒアールプレク王から水軍を借りた。しかし途中で止まぬ嵐に遭い途中、岩礁の近くを航行していた。すると近くの崖からフニカルと名乗る男が船に乗せてもらいたいと呼びかけた。彼を船に乗せると嵐は止み、シグルズ達はフンディング一族の王国にたどり着いた。シグルズの軍は彼の国に猛攻をかけ、街も人も焼いた。フンディング達は国中の戦力を全て集めて対抗したが結局はシグルズに一族全員討ち取られることとなった。敵討ちを終えるとレギンはファフニールを討つことを急かした。そしてシグルズは竜を退治するが[2]、実はレギンはファーヴニルの弟で、兄の財産を独り占めにするためにシグルズを利用していた。しかしシグルズは、剣リジルで切り取られたファーヴニルの心臓の脂を口にしたため、その魔力で賢さと動物と会話する力を得た。そして、シジュウカラの言葉から、レギンの裏切りを知って眠っている間に彼の首を刎ね、グラニに剣フロッティを含む財宝を積んで旅に出た[3]

フランケンへ向う旅の途上シグルズは、ヒンダルフィヨルの山の上に建つ炎に守られた館で、盾の垣の中で眠る身を鎧ったワルキューレ、ブズリの娘ブリュンヒルドを救い彼女と恋に落ち結婚を誓った[4][5]

しかしシグルズはライン河畔のギューキ王の宮廷で、王子グンナルをブリュンヒルドと、王女グズルーンをシグルズと結婚させようと目論む王妃グリームヒルドに忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルドを忘れてしまった[6]

シグルズはグズルーンと結婚し[7]、同じくギューキ王とグリームヒルドの子であるグンナル、ホグニと義兄弟の契りを交わした。そしてシグルズは義兄グンナルがかつての恋人ブリュンヒルドに求婚する旅に同行した。ブリュンヒルドの館を取り巻く炎をグンナルは飛び越えることが出来なかった。グリームヒルドに秘策を授けられていたシグルズはグンナルに姿を変え炎を飛び越え彼女にグンナルとして求婚した。ブリュンヒルドは自分の城を囲む炎を乗り越えてきた勇士と結婚する誓いを立てていたため、やむを得ずグンナルと結婚した。[8]。シグルズはブリュンヒルデとグンナルの結婚式の晩に記憶を取り戻したがそれを口にすることはなかった。

しかしその後グズルーンとの口論でブリュンヒルドは欺かれたことを知り[9]、誓約が偽計によって破られたのならば、シグルズか自分かグンナルのいずれかが死ななければならないと夫に告白した[10]。ブリュンヒルドはその日より部屋に閉じ籠るようになった。シグルズはブリュンヒルドの部屋に赴き、彼女と対談した。ブリュンヒルドとシグルズは互いの思いを吐露し、ブリュンヒルドが死ぬ覚悟を持っていると知ると彼女が死ぬくらいならば財産を捨て、グズルーンも捨ててブリュンヒルデと共にいようと提案したがブリュンヒルデは自分を不貞を犯すような人間にするつもりか、もう遅いとシグルズを拒絶した。ブリュンヒルドを失うことを恐れたグンナルは弟ホグニにシグルズをどう殺害するか相談したがホグニは義兄弟の契りを交わしていることとシグルズほどの武勇を持つ人間を失うことを嫌がりグンナルの相談を相手にしなかった。しかしグンナルは諦めず義兄弟の契りを交わしていないもう一人の弟グットルムにシグルズを暗殺させた[11]。グズルーンはグリームヒルドの忘れ薬で兄たちへの恨みは忘れたが、シグルズを忘れることはなかった[12]

シグルズがファーヴニルから奪ったアンドヴァリの呪われた遺産は、彼の死後も悲劇の原因となった[13]

ジークフリートが主題の文学作品[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 『アイスランドサガ』p.551-555「ヴォルスンガサガ」第13節-第15節。
  2. ^ 『アイスランドサガ』p.557-558「ヴォルスンガサガ」第18節。
  3. ^ 『アイスランドサガ」p.560-561「ヴォルスンガサガ」第19節 - 第20節。
  4. ^ 『アイスランドサガ』p.565-566「ヴォルスンガサガ」第22節。
  5. ^ シグルズは一度ブリュンヒルドと別れるが、彼女の養父ヘイミルの館で養父の元に戻った彼女と再会する。彼は結婚の意志を新たにするが、ブリュンヒルドは自分たちの恋は成就しないだろうと予言する(『アイスランドサガ』p.567-569「ヴォルスンガサガ」第25節)。
  6. ^ 『アイスランドサガ』p.571-572「ヴォルスンガサガ」第27節。
  7. ^ 『アイスランドサガ』p.572 - 573「ヴォルスンガサガ」第28節。
  8. ^ 『アイスランドサガ』p.572-575「ヴォルスンガサガ」第29節。
  9. ^ 『アイスランドサガ』p.575-577「ヴォルスンガサガ」第30節。
  10. ^ 『アイスランドサガ』p.581-582「ヴォルスンガサガ」第30節。
  11. ^ 『アイスランドサガ』p.582 -p.583「ヴォルスンガサガ」第32節
  12. ^ 『アイスランドサガ』p.586- p.587「ヴォルスンガサガ」第34節。
  13. ^ 菅原、p.251。

参考文献[編集]

  • 『アイスランドサガ』谷口幸男訳、新潮社、1979年。
  • 菅原邦城『ゲルマン北欧の英雄伝説 ヴォルスンガ・サガ』東海大学出版会、1979年。
  • 菅原邦城『北欧神話』東京書籍、1984年。