グルヴェイグ

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Lorenz Frølichによって描かれたグルヴェイグの処刑。
アンカー・エリ・ペーターセン(en)によって描かれたグルヴェイグの処刑。フェロー諸島2003年に発行された郵便切手より。

グルヴェイグ[1]グッルヴェイグ[2]とも。Gullveig)は北欧神話に登場する、おそらくはヴァン神族の一員の女神である。その名前は「黄金の力」[3]を意味する。彼女は『古エッダ』の『巫女の予言』に登場する。

解説[編集]

グルヴェイグはオーディンの館の広間に現れて、魔術で神々をたぶらかした。そのため、神々は彼女の体を槍で3回突き刺し、また3回焼いたが、そのたびに彼女は蘇った。それを何度も繰り返しても彼女を殺すことができなかった、と語られている。

さらにグルヴェイグは、ヘイズ(en)と名乗って(人間の?)家々を回り、セイズという魔法を使った。それは悪い女性たち(『巫女の予言』の別の節に出てくる「いまわしい3人の巨人の女性」だと考えられている)に性的な悦びをもたらしたとも語られている。

このグルヴェイグの正体は女神フレイヤであろうというのが一般的な見方のようである。フレイヤもまたセイズを使うことができ、オーディンにその使い方を教えたとされている[4]

これとは別に、グルヴェイグが登場する節より前の節に、神々は黄金で作られたものには何不自由なかったといった記述がある。そこへやって来たグルヴェイグ(黄金の擬人化)により神々は黄金に対する欲望をかきたてられ、それが後の節で語られるアース神族とヴァン神族との抗争の一因になったと考える研究者もいる[5]

水野知昭によれば、グルヴェイグを貫いた槍は実はアース神族の男性器(ファロス)の隠喩であって、つまり集団レイプがあったことから、彼女を誰かアースの男神の花嫁にと送り込んだヴァン神族を怒らせたとも解釈できるという[6]

こうしてグルヴェイグがアース神族から傷つけられたこと、あるいはグルヴェイグの魔法によりアース神族が侮辱されたことから、アース神族とヴァン神族との間で抗争が始まった。

ジョルジュ・デュメジルはこの戦争を、ローマ伝説のローマ人とサビニ人の抗争と同一起源である(印欧時代に遡る)と考えた。この説によれば、グルヴェイグはローマを裏切りサビニ人に砦を明け渡した女性タルペーイアに相当する(グルヴェイグには「黄金」という意味が含まれるが、タルペーイアも黄金を要求してローマを裏切った)。

この戦争はどうやらヴァン神族のほうが優勢だったようで、アースガルズの防備壁は彼らに破壊されてしまった。終戦後、和解した両者は人質交換をしたが、スノッリ・ストゥルルソンの『ユングリング家のサガ』では人質としてヴァン神族が送ってきたのがニョルズフレイの二人とされている。しかしフレイヤは父、兄とともにアース神族の仲間入りをしている。その記述に従うとすれば、フレイヤはグルヴェイグという名ですでにアースガルズにいたから名前が省かれたと推測できると考える研究者もいる[4]

脚注[編集]

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  1. ^ 『北欧の神話』、V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳、新潮社、1973年)などにみられる表記。
  2. ^ 『生と死の北欧神話』、『巫女の予言 エッダ詩校訂本』などにみられる表記。
  3. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』168頁。
  4. ^ a b 『北欧の神話』122-123頁。
  5. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』87-88、168-185頁。
  6. ^ 『生と死の北欧神話』101-105、112-114頁。

関連項目[編集]

参考文献[編集]