血のワシ

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血のワシは後期スカルド詩に語られる儀式的な処刑法。サガで語られる二つの例によれば、犠牲者(どちらの例でも王族だった)をうつ伏せに寝かせ、刃物で肋骨を脊椎から切り離し、生きたまま肺を体外に引きずりだして翼のように広げるのだという。この処刑法が文学上の作り事なのか、それとも原文の誤訳に過ぎないのか、あるいは現実の歴史において行われていたものなのか、未だに議論の決着はついていない。[1][2][3]ただし、キリスト教化以前のスカンジナビア半島において何らかの生贄の儀式が行われていたのは事実である[4]

文献の記述[編集]

「血のワシ」の儀式は北欧文学において二つの例が確認されるのみであるが、同様の儀式を指すと解釈ができる間接的な言及が幾つか存在する。二つの例においては、犠牲者は貴人であり(長脛のハールフダン英語版ハーラル1世の息子であり、エッラ英語版ノーサンブリアの王であった)、父親を殺されたことの報復として儀式が行われる、という共通点が存在する。

エイナルとハールフダン[編集]

オークニーの人々のサガ英語版』では「血のワシ」はオーディンに人身御供を捧げる儀式であるとされている。トルフ・エイナル英語版ハーラル1世の息子長脛のハールフダン英語版をこの儀式で殺害している。

Þar fundu þeir Hálfdan hálegg, ok lèt Einarr rísta örn á baki honum með sverði, ok skera rifin öll frá hrygginum ok draga þar út lúngun, ok gaf hann Óðni til sigrs sèr.[5] Einarr made them carve an eagle on his back with a sword, and cut the ribs all from the backbone, and draw the lungs there out, and gave him to Odin for the victory he had won.[6]

スノッリ・ストゥルルソンヘイムスクリングラは『オークニーの人々のサガ』に記されたものと同じ出来事の記述を含むが、ここではエイナルは実際に彼自身の手によってハールフダンに「血のワシ」の儀式を施したのだとされる。

Þá gékk Einarr jarl til Hálfdanar; hann reist örn á baki honum með þeima hætti, at hann lagði sverði á hol við hrygginn ok reist rifin öll ofan alt á lendar, dró þar út lungun; var þat bani Hálfdanar.[7] それからエイナル侯はハルヴダンに歩みより、剣を背骨のわきの空洞部に差し込み、上から腰まで肋骨を全て切り裂き、そこから肺を引っ張り出すというやり方で〈血鷲の刑〉を実行した。それがハルヴダンの死であった。[8]

イーヴァルとエッラ王[編集]

ラグナルの息子たちの話英語版』では、ラグナル・ロズブロークエッラ英語版に殺害されたため、ラグナルの息子骨なしイーヴァル英語版はエッラを捕らえる。ヨークの支配権を巡る戦いの後に起きたエッラの殺害について、以下のように記されている。

They caused the bloody eagle to be carved on the back of Ælla, and they cut away all of the ribs from the spine, and then they ripped out his lungs.

参考文献[編集]

  1. ^ Frank, Roberta (1984). “Viking atrocity and Skaldic verse: The Rite of the Blood-Eagle”. English Historical Review (Oxford Journals) XCIX (CCCXCI): 332–343. doi:10.1093/ehr/XCIX.CCCXCI.332. http://ehr.oxfordjournals.org/content/XCIX/CCCXCI/332.full.pdf+html 2015年3月30日閲覧。. 
  2. ^ Tracy, Larissa (2012). Torture and Brutality in Medieval Literature: Negotiations of National Identity. DS Brewer. pp. 109–111. ISBN 9781843842880. http://www.boydellandbrewer.com/store/viewitem.asp?idproduct=13853 
  3. ^ Dash, Mike (2013年3月18日). “The Vengeance of Ivarr the Boneless”. Smithsonian.com. Smithsonian. 2015年3月30日閲覧。
  4. ^ ヘイウッド,ジョン『ヴァイキング時代百科事典』柊風社 2017 p.228
  5. ^ Guðbrandur Vigfússon, Sir George Webbe Dasent (English). Orkneyinga saga and Magnus saga, with appendices, Volume 1. Oxford University. H.M.S.O., 1887. https://archive.org/details/orkneyingasagaa00dasegoog 
  6. ^ Dasent, G.W. (1894). “Icelandic Sagas and Other Historical Documents Relating to the Settlements and Dsecents of the Northmen on the British Isles Vol III - The Orkneyinger's Saga”. Rerum Britannicarum Medii Ævi Scriptores, Or, Chronicles and Memorials of Great Britain and Ireland During the Middle Ages (London: Great Britain. Public Record Office) 88 (3): xxvi, 8–9. https://books.google.com/books?id=pqlEAQAAMAAJ 2015年3月30日閲覧。. 
  7. ^ Sturluson, Snorri. “Heimskringla in Old Norse”. 2018年1月11日閲覧。
  8. ^ 谷口幸男『ヘイムスクリングラ -北欧王朝史- (一)』プレスポート 2008 p.196