エンバク

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エンバク
Avena-sativa.jpg
エンバクの小穂
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 単子葉植物綱 Liliopsida
: カヤツリグサ目 Cyperales
: イネ科 Poaceae
: カラスムギ属 Avena
: エンバク A. sativa
学名
Avena sativa L.
和名
エンバク(燕麦)
英名
Oat
エンバク[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 1,590 kJ (380 kcal)
69.1 g
食物繊維 9.4 g
5.7 g
飽和脂肪酸 0 g
一価不飽和脂肪酸 0 g
多価不飽和脂肪酸 0 g
13.7 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
(0) μg
(0%)
0 μg
チアミン (B1)
(17%)
0.20 mg
リボフラビン (B2)
(7%)
0.08 mg
ナイアシン (B3)
(7%)
1.1 mg
(26%)
1.29 mg
ビタミンB6
(8%)
0.11 mg
葉酸 (B9)
(8%)
30 μg
ビタミンB12
(0%)
(0) μg
ビタミンC
(0%)
(0) mg
ビタミンD
(0%)
(0) μg
ビタミンE
(5%)
0.7 mg
ビタミンK
(0%)
(0) μg
ミネラル
カルシウム
(5%)
47 mg
鉄分
(30%)
3.9 mg
マグネシウム
(28%)
100 mg
リン
(53%)
370 mg
カリウム
(6%)
260 mg
ナトリウム
塩分の可能性あり)
(0%)
3 mg
亜鉛
(22%)
2.1 mg
他の成分
水分 10.0 g

成分名「塩分」を「ナトリウム」に修正したことに伴い、各記事のナトリウム量を確認中ですが、当記事のナトリウム量は未確認です。(詳細

%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
100g中の食物繊維[1]
項目 分量
炭水化物 69.1 g
食物繊維総量 9.4 g
水溶性食物繊維 3.2 g
不溶性食物繊維 6.2 g

エンバク(燕麦、学名:Avena sativa)はイネ科カラスムギ属穀物一年草。英語名のOatから、オートムギオーツ麦オートとも呼ばれる。また、同属の野生種 A. fatuaカラスムギ)の栽培種であるため、価値が高い・本物という意味のマ(真)をつけてマカラスムギとも呼ばれる[2]

特徴[編集]

稈長は 60 - 150 cm となり、止葉の上の節間が長い[3]。葉は幅広く、葉耳を欠く[3]。穂長は 20 - 25 cm 程度で、穂型は一般的には散穂型であるが、片穂型の品種もある[3]。1個の小穂は2個の苞頴を有し、小花 1 - 4 を包む[3]

栽培は秋蒔きと春蒔きとに分かれる。エンバクは冷涼を好むものの、ライムギとは異なり耐寒性は高くないため、寒冷地では凍害を受け冬を越せないことが多い。そのため、温暖な土地では秋蒔き、寒冷地では春蒔きを行うことが通例である。

歴史[編集]

コムギオオムギ畑の雑草であった雑草型エンバクが約 5,000 年前中央ヨーロッパで作物となった[4]。初期鉄器時代に本格的に栽培されるようになり、厳しい気候の北ヨーロッパで作物のエンマーコムギに置き換わって栽培されるようになってから、栽培型の普通エンバクが成立した[4]。このような成立過程によりヴァヴィロフは二次作物と分類している[4]

また、裸性栽培型エンバク(ハダカエンバク)の起源は中国山岳地域と考えられている[4]。このハダカエンバクは莜麦(ユーマイ)と呼ばれ、中国北部の内モンゴル自治区などで広く栽培されている。一般のエンバクは燕麦と呼ばれ、莜麦とは区別されるが、中国で栽培されるエンバクのほとんどは莜麦である[5]

中世ヨーロッパにおいて三圃式農業が成立すると、エンバクはオオムギとともに1年目の春耕地に蒔かれ、主に飼料用として利用された。以後も19世紀にいたるまで、利用はの飼料用が中心であり、主に食用とするのはスコットランドなどいくつかの地域に限られていた。北アメリカ大陸には17世紀にはすでに移入されていたものの、スコットランド移民中心の地域を除き食用とはされていなかった。18世紀に入ると気候の寒冷化と人口増加により食生活に変化が起き、スコットランドではの消費量の急減と時を同じくしてエンバクの消費量が急増した。エンバクの薬効は古くから知られていたものの、19世紀まではアメリカの料理本にはオートミールはほとんど載っていないほどであったが、1870年代にエンバクを工業的にフレーク化する技術が開発され、エンバクの押麦(ロールドオーツ)が発明されると、食品会社がオートミールの大量生産に乗り出し、19世紀末以降アメリカ中に急速に普及した[6]。さらに1880年ごろにジョン・ハーヴェイ・ケロッグが、それまでグラハム粉を使用していたグラニューラという食品をエンバクのフレークを使用するように改良し、グラノーラが誕生した。グラノーラはいわゆるシリアル食品のはしりであり、以後さまざまなシリアル食品が開発される元となった。ついで1900年ごろにはスイス人医師のマクシミリアン・ビルヒャー=ベンナーがミューズリーを開発した。グラノーラやミューズリーはコーンフレークなどほかのシリアル食品に押されて生産が減少していたが、1960年代ヒッピームーブメントによって健康面から見直されるとともに改良が加えられ、多く消費されるようになった。

生産[編集]

エンバクの生産量上位10ヶ国 — 2005年
(100万トン)
ロシアの旗 ロシア 5.1
カナダの旗 カナダ 3.3
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 1.7
ポーランドの旗 ポーランド 1.3
フィンランドの旗 フィンランド 1.2
オーストラリアの旗 オーストラリア 1.1
ドイツの旗 ドイツ 1.0
ベラルーシの旗 ベラルーシ 0.8
中華人民共和国の旗 中国 0.8
ウクライナの旗 ウクライナ 0.8
世界総生産量 24.6
Source: FAO
世界のエンバク生産図

2005年の全世界生産は2460万トンで、小麦トウモロコシ大麦ソルガムについで6番目に生産高の多い穀物である。世界で最も生産高が多いのはロシアで510万トンとなっており、以下カナダ330万トン、アメリカ170万トン、ポーランド130万トン、フィンランド120万トンと続く。冷涼で湿潤な夏の気候に適応しているため、高緯度地帯で多く生産される。

現在はロシアを除いてどの主要生産国でも生産量は減少を続けており、1965年から1994年までの間に生産量は世界全体で23%、作付面積は27%も減少し、生産量ではソルガムに抜かれた。生産減少の理由としては、大豆トウモロコシとの競合による飼料用需要の減少などがあげられる[7]

一人当たりエンバクの消費量が最も多い国はフィンランドであり、次いでデンマークスウェーデンイギリスとヨーロッパ北部の国々が続く[8]

利用[編集]

種子飼料または食用として、また、は飼料として利用される。

食用[編集]

食用とする場合、エンバクは利用しやすいよう押し麦や引き割り麦とするか、製粉される。脱穀し乾燥させて粒としたあと、加熱してローラーをかけるとフレーク(ロールドオーツ)となる。エンバク粉にする場合、粒としたあと、加熱して製粉をおこなう。この粉をふるいにかけ、エンバク粉とフスマ(オートブラン)とに分けて、どちらも食用とする。[9]

エンバクを食用に主に用いていた国は、スコットランドベラルーシなどである。ベラルーシにおいてはエンバクは最も利用された穀物であり、主にカーシャ)に使用された。ただし、パンを焼くときはより膨らみやすいライムギが主に使用された。また、ベラルーシの伝統的スープであるジュールはエンバク粉から作られる[10]アルプス山脈の農村においても、エンバクは主な食料とされた。この地方ではエンバク、ライムギ、コムギをつくっていたが、コムギはほとんど取れず、ライムギの収量もそれほど多くはなかったので、日常食としてエンバクを食べ、ライムギパンも日常食ではあるがより高級なものとして扱い、そしてコムギのパンは祝日にしか食べていなかった。この地方ではエンバクはパンまたは粥にして食べていたが、パンといってもエンバクは上述の通り膨らまないので、小麦粉をつなぎに少しだけ使用して厚さ2㎝程度の薄いパンというよりビスケット状のものにして食べていた。これは風味は良かったが非常に硬いものであり、1950年代から1960年代にかけて交通網の整備などにより安いライムギ粉や小麦粉が入ってくると、この地方でエンバクを食することはほとんどなくなった[11]

中国においてエンバクを使用するのは内モンゴル自治区山西省など北西部の一部に限られるが、食用とする地域においては餃子をはじめ、エンバク粉を用いた多彩な料理が存在している。

穀物食品の中ではミネラルタンパク質食物繊維を最も豊かに含むが、ビスケットなどには使われるものの、グルテンを持たないため小麦ほどパンの原料には向かない。 粗挽きもしくは圧扁したもの(オートミール)を水や牛乳などで炊いたポリッジは、朝食として定番のシリアルである。またビールウィスキーの材料としても使われる。

また、オートミールに玄米などを混ぜ、蜂蜜を混ぜて焼き、さらにドライフルーツを混ぜてできあがったものがグラノーラであり、フレーク状で食される。またそれを固めて棒状にしたグラノーラ・バーもおやつや健康食品として市販されている。また、ふやかしたオートミールに果物ナッツを混ぜたミューズリーもシリアル食品となっている[12]。グラノーラとミューズリーの差は、加熱処理の有無である。こうしたシリアル食品とは別に、オートミール自体を製菓原料とすることもある。ケーキなどの生地に混ぜ込むほか、オートミールクッキーなどは代表的なエンバクの菓子であり、欧米では各社から販売されている。

また、エンバクのフスマをオートブランと呼び、欧米では水溶性食物繊維の代表格として健康食品となっている。

エンバクは一般的に健康的な食品とみなされ、それを利用した健康食品は栄養価が高いとして宣伝されている[13]。エンバクの水溶性食物繊維の大部分はβグルカンである。エンバク由来のβグルカンについて血中コレステロール値上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、血圧低下作用、排便促進作用、免疫機能調節作用などが欧米を中心に多数報告されている[14]。このコレステロール低減という特質が確定されたこと[15][16]は、健康食品としてエンバクが受け入れられる原因となった。

その他利用[編集]

エンバクの用途のうち最も重要なものは飼料用であり、特にの飼料として盛んに利用されたが、軍馬の生産がほぼ停止した現代では馬の飼育数が激減し、そのためエンバクの栽培が減少傾向をたどる主因ともなっている。

畑で生育中のエンバクをそのまま土壌に鋤きこみ、緑肥としても利用される。緑肥として用いられるエンバクのうち、野生種エンバクとよばれるものはセイヨウチャヒキAvena strigosa)であり、ネグサレセンチュウなど土壌病害虫を防除する手段として栽培され、コンパニオンプランツバンカープランツとしても利用される。

エンバクの新芽を食べる猫がいることから、飼い猫用に猫草栽培キットとして、またはすでに10数cm程発育したものがペットショップやDIYショップなどで売られていることもある。[17]

また最近ではカドミウムをはじめとする重金属の吸着にすぐれている性質を利用して、稲やソルガム(モロコシ)とともにカドミウムによる土壌汚染の修復(バイオレメディエーション)に利用される。

オオムギとエンバク、およびそれらを原材料とする食品
エンバクの穂。風媒花の特徴をもち、よく風になびく(品種:ミエチカラ)

日本での利用[編集]

日本には明治時代初期に導入され、特に北海道において栽培された。日本での利用は馬の飼料、特に軍馬の飼料として栽培が奨励されたため、戦前には栽培面積が10万ヘクタールを割り込むことはなく、特に第二次世界大戦中の1940年から1944年にかけては131080ヘクタールを数え最高を記録したが、戦後は栽培面積が激減した。[18]

人間の食用とされる例は少ない。その数少ない例として、昭和天皇洋食タイプの朝食にはいつもオートミールが供されており[19]、映画『日本のいちばん長い日』によると、1945年8月15日の朝食もオートミールであり、思いのほか質素な食事であると作中で言及されている。

現在、日本においては北海道で生産されており、国内向けのオートミール用に出荷されている。ほかに日本各地で栽培はおこなわれているが、輪作の一環として飼料用や緑肥用とされるのがほとんどであり、食用としての収穫はほぼなされていない。飼料用としての栽培は多く、サイレージ用や青刈りなどで牧草として使用され、冬作飼料作物としての栽培はイタリアンライグラスに次ぐものである[20]。主に温暖な地域では秋播きして越冬させるが、寒冷な地域では春播きして夏または秋に収穫する。

文化[編集]

イングランドでは小麦は食用、燕麦は飼料用のイメージが強かった。一方でその北にあるスコットランドにおいては、エンバクは主食としての地位を確立していた。

スコットランド人嫌いの詩人・批評家サミュエル・ジョンソンが同時代の辞書に残した燕麦の有名な定義がある。

Oats : A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland appears to support the people. (Samuel Johnson, 1755, A Dictionary of the English Language)

訳:燕麦 穀物の一種であり、イングランドでは馬を養い、スコットランドでは人を養う

これにはスコットランド人も激怒し、サミュエル・ジョンソンの弟子でもあったジェイムズ・ボズウェルはお返しに、ユーモアを込めて次のように反論したという。

Which is why England is known for its horses and Scotland for its men.

訳:それ故に、イングランドはその産する馬によって名高く、スコットランドは人材において名高い

スコットランド英語においては、エンバクは「コーン」(corn)と呼ばれることがある[21]。これは、英語においてはその地方で最も重要な穀物をしばしばcornと呼ぶことがあるからである[22]。なお、アメリカ英語においては、他国で「メイズ」(maize)と呼んでいたものを「インディアンコーン」と呼び、これが転じて「コーン」はトウモロコシのことを指すようになった[22]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b 五訂増補日本食品標準成分表
  2. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p315 2003年3月20日初版第1刷 小学館
  3. ^ a b c d 後藤寛治 (1977)、p.162
  4. ^ a b c d 森川利信 (2010)、p.203
  5. ^ 「地域食材大百科第1巻 穀類・いも・豆類・種実」p121 社団法人 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  6. ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店  2004年9月10日 第2版第1刷 pp.75-78
  7. ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店  2004年9月10日 第2版第1刷 p.63
  8. ^ 「地域食材大百科第1巻 穀類・いも・豆類・種実」p121 社団法人 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  9. ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店  2004年9月10日 第2版第1刷 p.76
  10. ^ 沼野充義、沼野恭子『ロシア』p151(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)
  11. ^ 「パンの文化史」pp161-163 舟田詠子 講談社学術文庫 2013年12月10日第1刷発行
  12. ^ 「地域食材大百科第1巻 穀類・いも・豆類・種実」p122 社団法人 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  13. ^ Nutrition for everyone: carbohydrates”. Centers for Disease Control and Prevention, US Department of Health and Human Services (2014年). 2014年12月8日閲覧。
  14. ^ 大麦の生理作用と健康強調表示の現況、荒木茂樹ほか、栄養学雑誌Vol.67 (2009) No.5
  15. ^ Oats”. World's Healthiest Foods, The George Mateljan Foundation (2014年). 2014年12月8日閲覧。
  16. ^ Whitehead A, Beck EJ, Tosh S, Wolever TM (2014). "Cholesterol-lowering effects of oat β-glucan: a meta-analysis of randomized controlled trials". Am J Clin Nutr 100 (6): 1413–21. doi:10.3945/ajcn.114.086108. PMID 25411276. 
  17. ^ 無印良品ネットストア 猫草栽培キット等、他の猫関連商品も参考
  18. ^ 『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 pp293-294
  19. ^ 渡辺誠『昭和天皇のお食事』文春文庫、2009年
  20. ^ 「新訂 食用作物」p226 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  21. ^ Partridge, Eric; Janet Whitcut (ed.) (1995). Usage and Abusage: A Guide to Good English (1st American ed. ed.). New York: W.W. Norton, 1995. p. 82. ISBN 0-393-03761-4. http://books.google.com/books?id=icnKIlILT4oC&pg=PA82&vq=corn&source=gbs_search_r&cad=1_1&sig=gDb63y1bG3c40htw8rMw_1_v4GI. 
  22. ^ a b NA (2007). Shorter Oxford English Dictionary. Oxford: Oxford University Press. p. 522. ISBN 978-0-19-920687-2. 

参考文献[編集]

  • 後藤寛治 「ムギ類及び雑穀」『食用作物学』 佐藤庚ほか、文永堂、1977年、pp.141 - 180
  • 森川利信 「エンバクの来た道」 『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、pp.197-219 ISBN 978-4-8329-8190-4

関連項目[編集]

外部リンク[編集]