飽和脂肪酸

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飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん,:saturated fatty acid)とは、炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(水素で飽和されている)脂肪酸のことである。飽和脂肪酸は同じ炭素数の不飽和脂肪酸に比べて、高い融点を示す[1]

飽和脂肪酸の例

脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法[2]に定義されている。

飽和脂肪酸の命名例 (Rule[2] Lip. Appendix A, Appendix B)
数値表現
(Numerical symbol)
示性式
CH3-(R)-CO2H
組織名 慣用名 略号 融点(℃)[3]
4:0 -(CH2)2- ブタン酸 酪酸(ブチル酸) Bu -7.9
5:0 -(CH2)3- ペンタン酸 吉草酸(バレリアン酸) Pe -34.5
6:0 -(CH2)4- ヘキサン酸 カプロン酸 Hx -3
7:0 -(CH2)5- ヘプタン酸 エナント酸(ヘプチル酸) Hp -7.5
8:0 -(CH2)6- オクタン酸 カプリル酸 Oc 15-17
9:0 -(CH2)7- ノナン酸 ペラルゴン酸 Nn 11-13
10:0 -(CH2)8- デカン酸 カプリン酸 Dec 31
12:0 -(CH2)10- ドデカン酸 ラウリン酸 Lau 44.2
14:0 -(CH2)12- テトラデカン酸 ミリスチン酸 Myr 53.9
15:0 -(CH2)13- ペンタデカン酸 ペンタデシル酸   51-53
16:0 -(CH2)14- ヘキサデカン酸 パルミチン酸 Pam 63.1
17:0 -(CH2)15- ヘプタデカン酸 マルガリン酸   61
18:0 -(CH2)16- オクタデカン酸 ステアリン酸 Ste 69.6
19 -(CH2)17- ノナデカン酸 ツベルクロステアリン酸    
20:0 -(CH2)18- イコサン酸 アラキジン酸 Ach 75.6
22:0 -(CH2)20- ドコサン酸 ベヘン酸 Beh 81.5
24:0 -(CH2)22- テトラドコサン酸 リグノセリン酸 Lig 86.0
26:0 -(CH2)24- ヘキサドコサン酸 セロチン酸 Crt  
28:0 -(CH2)24- オクタドコサン酸 モンタン酸 Mon  
30:0 -(CH2)26-   メリシン酸    

食品中の飽和脂肪酸

主な食品中の全脂肪における主な飽和脂肪酸の割合は次のとおりである。

食品中の全脂肪における主な飽和脂肪酸の割合[4]
食品 ラウリン酸(C12H24O2) ミリスチン酸(C14H28O2) パルミチン酸(C16H32O2) ステアリン酸(C18H36O2)
ヤシ油 47% 18% 9% 3%
バター 3% 11% 29% 13%
挽肉 0% 4% 26% 15%
ブラックチョコレート 0% 0% 34% 43%
キングサーモン 0% 1% 29% 3%
鶏卵 0% 0.3% 27% 10%
カシューナッツ 2% 1% 10% 7%
大豆油 0% 0% 11% 4%

植物油脂肪酸構成は次のとおりである。

植物油の脂肪酸構成
植物油の脂肪酸組成[5][6][7]
種類 飽和脂肪酸 一価不飽和脂肪酸 多価不飽和脂肪酸 オレイン酸
(ω-9)
発煙点
多価合計 α-リノレン酸
(ω-3)
リノール酸
(ω-6)
水素添加
キャノーラ油 7.365 63.276 28.142 10 22 62 400 °F (204 °C) [8]
ココナッツ油 86.500 5.800 1.800 - 2 6 350 °F (177 °C) [9]
コーン油 12.948 27.576 54.677 1 58 28 450 °F (232 °C) [8]
綿実油 25.900 17.800 51.900 1 54 19 420 °F (216 °C) [8]
オリーブ油 13.808 72.961 10.523 1 10 71 374 °F (190 °C) [10]
パーム油 49.300 37.000 9.300 - 10 40 455 °F (235 °C) [11]
ピーナッツオイル 16.900 46.200 32.000 - 32 48 437 °F (225 °C) [8]
ひまわり油
(中オレイン種)
9.009 57.334 28.962 0.037 28.705 57.029 510 °F (266 °C) [8]
大豆油 15.650 22.783 57.740 7 54 24 460 °F (238 °C) [8]
ベニバナ油
(高オレイン種)
7.541 75.221 12.820 0.096 12.724 74.742 510 °F (266 °C) [8]
米油 19.7 39.3 35 1.6 33.4 39.1 450 °F (232 °C)
[要出典]
グレープ
シード
オイル
9.6 16 69.9 0.1 69.6 15.8 421 °F (216 °C)
[要出典]
アマニ油
(フラックスシードオイル)
8.976 18.438 67.849 53.368 14.327 18.316 225 °F (107 °C)
[要出典]
ごま油 14.2 39.7 41.7 0.3 41.3 39.3 350 °F (177 °C)
~450 °F (232 °C) [12]
[要出典]
水素添加
綿実油
(水素添加)
93.600 1.529 0.587 0.2 0.287 0.957
パーム油
(水素添加)
[要出典]
47.500 40.600 7.500
大豆油
(水素添加)
[要出典]
21.100 73.700 0.400 0.096[5]
値は重量パーセント

飽和脂肪酸の生成、変換

脂肪酸シンターゼによってアセチルCoAマロニルCoAから直鎖の飽和脂肪酸が作られる。順次アセチルCoAが追加合成されるので原則脂肪酸は偶数の炭素数となる[13]。体内で余剰の糖質、タンパク質等が存在するとアセチルCoAを経て、飽和脂肪酸の合成が進む。脂肪酸合成が炭素数18(ステアリン酸)に達すると、ステアリン酸の中央に二重結合が生成されて体内で一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が生成される。例えば豚の体脂肪であるラードにはオレイン酸が豊富に含まれている。このオレイン酸から、植物では、二重結合が一個増えてリノール酸ω-6脂肪酸)が生成され、ついで二重結合がもう一つ増えてα-リノレン酸ω-3脂肪酸)が生成される。動物の体内にはリノール酸もα-リノレン酸も作る酵素が存在しないので、これらの不飽和脂肪酸を必須脂肪酸として摂取しなければならない[14]

健康への影響

飽和脂肪酸を取り過ぎると、カロリー不足でない限り血清総コレステロール濃度を上昇させ、虚血性心疾患を起こしやすくすると言われている[15]

アメリカ心臓協会は、心臓病と闘うための健康的な食事と生活スタイルを勧告している(心臓病#アメリカ心臓協会による2006年版の食と生活の勧告参照)[16]。脂質関連項目を以下に抜粋する。

  • 脂質は、全カロリーの25~35%までとし、大部分は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸とすべき。
  • 飽和脂肪酸トランス脂肪酸を含む食物を、一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸を含む食物に替える。
  • 飽和脂肪酸の摂取を制限するために、肉は皮が取り除かれていて脂肪の少ないものを選ぶ。また、低脂肪の乳製品を選ぶ。
  • 少なくとも週2回は魚を食べる。魚の油は多価不飽和脂肪酸のω-3脂肪酸を含み、心臓疾患のリスク低下と相関関係がある。
  • トランス脂肪酸を含むものを減らす。固形マーガリンを含む食べものや、フライドポテトを制限する。
  • コレステロールは1日に300mg以下にする。

日本の国立がん研究センターが4万3000人を追跡した大規模調査では、乳製品の摂取が前立腺癌のリスクを上げることを示し、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取が前立腺癌のリスクをやや上げることを示した[17]

飽和脂肪酸の多い食事はインスリン抵抗性を生じさせ、糖尿病の罹患が増加する可能性が示唆されている。また、日本人において飽和脂肪酸摂取量が少ない人では脳出血罹患の増加が認められる。大腸がん及び膵臓がんの罹患との関連は認められていない。飽和脂肪酸について全カロリーの4.5%が摂取下限、7%が摂取上限であると考えられている[18]

デンマークでは2011年10月1日から、脂肪税として、飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品に対して、飽和脂肪酸1キログラムあたり16クローネを課税し、施行前には飽和脂肪酸の多い食品であるバターピザ、肉、牛乳といった食品に買い込み需要が高まった[19][20]

脚注

  1. ^ 不飽和脂肪酸
  2. ^ a b IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature (CBN) Nomenclature of Lipids(Recommendations, 1976)
  3. ^ 板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年 ISBN 4-254-43514-2
  4. ^ U.S. Department of Agriculture, Agricultural Research Service. 2007. USDA National Nutrient Database for Standard Reference, Release 20. Nutrient Data Laboratory Home Page
  5. ^ a b USDA National Nutrient database, Release 24,28”. United States Department of Agriculture. 2012/3/26,2016/03/21閲覧。
  6. ^ Fats, Oils, Fatty Acids, Triglycerides”. Scientific Psychic (R). 2012年3月26日閲覧。
  7. ^ 特に引用の表示がない場合、脂肪酸の値はUSDA National Nutrient databaseの値を掲載している。ω3-ω9の値については一部Scientific Psychic(R)の値となっている。
  8. ^ a b c d e f g Wolke, Robert L. (2007年5月16日). “Where There's Smoke, There's a Fryer”. The Washington Post. http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/05/15/AR2007051500398.html 2011年3月5日閲覧。 
  9. ^ Nutiva, Coconut Oil Manufacturer,http://nutiva.com/the-nutiva-kitchen/coconut-oil-recipes/
  10. ^ The Culinary Institute of America (2011). The Professional Chef. New York: Wiley. ISBN 0-470-42135-5 
  11. ^ Scheda tecnica dell'olio di palma bifrazionato PO 64.
  12. ^ 精製度により発煙点は大きく変わる
  13. ^ 脂肪酸の合成
  14. ^ http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic1.pdf
  15. ^ http://www.lib.nakamura-u.ac.jp/syoku/12.htm
  16. ^ Our 2006 Diet and Lifestyle Recommendations (英語) (AHA - American Heart Association)
  17. ^ 乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について―概要― PMID 18398033
  18. ^ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)
  19. ^ Julian Isherwood デンマークで世界初の「肥満税」、牛乳にも課税(AFPBB、2011年10月03日)
  20. ^ http://gigazine.net/news/20111003_denmark_fat_tax/

関連項目