炭水化物

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穀物製品は炭水化物を多く含んでいる。

炭水化物(たんすいかぶつ、: carbohydrates: Kohlenhydrate)または糖質(とうしつ、: saccharides)は、単糖を構成成分とする有機化合物の総称である。有機栄養素のうち炭水化物、たんぱく質脂肪は、多くの生物種で栄養素であり、「三大栄養素」とも呼ばれている。

炭水化物の多くは分子式が CmH2nOn で表され、Cm(H2O)n と表すと炭素が結合した物質のように見えるため炭水化物と呼ばれる(かつては含水炭素とも呼ばれた)。 定義としては、炭水化物はおよびその誘導体の総称であり、分子式 CmH2nOn で表されない炭水化物もある。そのような例としてデオキシリボース C5H10O4 が挙げられる。また、分子式が CmH2nOn ではあっても、ホルムアルデヒド (CH2O, m = n = 1) は炭水化物とは呼ばれない。今日では総称として糖質ないしは糖とよばれる場面の方が多くなっている。

栄養学的あるいはエネルギー代謝以外の糖質の事項については(例えば、化学的、分子生物学的性質)記事 に詳しい。

炭水化物は主に植物光合成でつくられる。

概要

1グラムにつき4キロカロリーのエネルギーがある。炭水化物は、単糖類多糖類に分けられる。通常、炭水化物は、多糖類であるデンプンを多く含んでいる。炭水化物はもっとも多く必要とされる栄養素で、日本の食生活指針で炭水化物が多く含まれる食品が主食とされる[1]。 2003年のWHO/FAOの報告では、2型糖尿病肥満のリスクを減らすとして、食物繊維の摂取源として野菜や果物と共に全粒穀物も挙げられている[2]。全粒穀物は血糖負荷が低く血糖値を急激に上げにくいという特徴がある。食物繊維の重要性を報告していたバーキットは、1975年にトロウェルと一緒に『精製炭水化物と病気-食物繊維の影響』[3]を出版し、精白していない全粒穀物の重要性を訴え、以降このことは科学的研究によって追認・支持されていく[4]砂糖は炭水化物以外の栄養素がほとんど含まれていないため、あまり多く摂取しないように言われている。また砂糖の主成分である蔗糖は糖類の中でもう蝕(虫歯)のリスクを最も高める。WHO/FAOでもう蝕との関連が指摘され、砂糖の多い食品は肥満との関連も指摘され、また砂糖の摂取量は全エネルギーの10%未満にすべきだと報告されている[2]薬物依存症との関連から砂糖依存症に関する研究報告がされており、砂糖依存症と肥満との関連が示唆される。

果物に含まれる果糖は中性脂肪を増やす効果が高いので、生活習慣病において摂取制限が指導される場合がある[5]。オリゴ糖などの腸内で分解されやすい糖類は、プレバイオティクスとして知られ、有用な腸内細菌を増やす作用がある。

炭水化物に分類されるもの

栄養表示による分類

日本では、健康増進法に基づく栄養表示基準で、消費者向けに販売される食品に栄養成分を表示する際には表示方法が規定されている。「炭水化物」や「糖質」及び「食物繊維」の含有量の表示が認められている。

また、これとは別に、状況に応じ「糖類」の含有量が表記される場合がある。例えば、「シュガーレス(無糖・ノンシュガー・糖類ゼロの表示も同じ意味)」「低糖・従来比糖類○○%カット」などの表記をする場合に用いられることがある。

分類は下記の通りとなる。

例えば、ある食品の栄養成分表示に、炭水化物○○g、糖質□□g、食物繊維△△g、糖類××gと書いてあれば、糖質と食物繊維の含有量□□・△△は、炭水化物含有量○○の内数であり、更に糖類含有量××は、糖質含有量□□の内数である。

化学的分類

より厳密には、炭水化物とは以下を包括する一般名称である。

炭水化物の生理作用

炭水化物は生物にとって大きく分けて3種類の働きを持つ。

  1. エネルギー源
  2. 形態構築の材料
  3. 分子的な「標識」

炭水化物を摂取すると小腸でグルコースに分解され、大量のグルコースが体内に吸収される。単糖であるグルコース細胞の主なエネルギー源である(ただし、脂肪中間代謝物のケトン体も肝臓を除く脳・筋肉でエネルギー源となりうる)。体内でのグルコースは、エネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さのため生体内のタンパク質と反応して生体に有害な作用(糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症の微小血管障害)をもたらすため、インスリンの分泌によりその濃度(血糖)が常に一定範囲に保たれている[8]

通常、食事で炭水化物を摂取し血糖値が上がると、膵臓からインスリンが出されて、血糖グリコーゲンに変換し筋肉などに蓄える[9]。そして、運動するときのエネルギーとしてグリコーゲンを使う。さらに、筋肉に蓄える分が一杯になると、今度は中性脂肪として脂肪細胞に蓄える[9]。そして、血糖値が下がる。 しかし、このメカニズムはインスリン抵抗性が高まっていると正常に働かなくなる。肥満になるほどインスリン抵抗性が高まり、インスリンが多く作られ高インスリン血症となる。このため脂肪として蓄えられやすく悪循環になってしまう[10]。また、血糖値が下がり低血糖症になるため、体はエネルギーが足りないと感じ、食欲が出てくる。この状態を「炭水化物中毒」と呼んでいる。インスリンのメカニズムが暴走し、甘いものが見境いなく欲しくなる状態である[11]。また低血糖症の時には気分が優れない。 インスリンをつくりすぎて膵臓が疲れると、インスリンを作れなくなり血糖値を下げることができない糖尿病になる[12]。最終的にインスリンの注射が必要になる。

グルコースは植物ではデンプン、動物ではグリコーゲンとして、高分子として体内に蓄えられる。 植物の体はセルロースという多糖によって構成されている。セルロースはデンプンと同じグルコースの多量体であるが、結合様式が異なるため、化学的に極めて強靭な構造を持つ。セルロースは細胞壁の主成分として活用されている。

また、細胞の表層には、糖鎖と呼ばれる糖の多量体が結合している。これはタンパク質に対する受容体ほど強くは無いものの、生体内である種の「標識」としてはたらいている。

炭水化物の代謝

食事摂取基準

人間が1日に必要とする炭水化物は総エネルギー必要量の50%から70%を目標にすべきとされる[13]。食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上である[14]。またWHO/FAOの2003年のレポートで、砂糖は総エネルギー必要量の10%未満にすべきだと勧告されている[2]

炭水化物の摂取基準
標準男性 標準女性
生活強度 低い[15] 普通[16] 高い[17] 低い 普通 高い
18~29(歳) 288~400g 331~464g 381~534g 219~306g 256~359g 294~411g
70以上(歳) 200~280g 231~324g 263~368g 169~237g 194~271g 219~306g

一日のエネルギー必要量は、男性では2660(kcal)、女性では1995(kcal)であり[18]、炭水化物のエネルギー量は4 kcal/gであり、仮に60%の値を当てはめると、以下のとおりとなる。

  • 男性では、2660 kcal/日 x 0.6 / 4 kcal/g =400 g/日(白米3.3/日に相当)
  • 女性では、1995 kcal/日 x 0.6 / 4 kcal/g =300 g/日(白米2.5合/日に相当)

脚注

  1. ^ 食事バランスガイド 厚生労働省・農林水産省決定 フードガイド(仮称)検討会報告書』(PDF) 第一出版、2005年12月。ISBN 4-8041-1117-4
  2. ^ a b c Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation 2003 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "who2003report"が異なる内容で複数回定義されています
  3. ^ BURKITT D.P, TROWELL H.C Refined Carbohydrate Foods and Disease: Some Implications of Dietary Fibre, 1975 . ISBN 978-0121447502
  4. ^ Marquart L, Jacobs DR Jr, Slavin JL. "Whole Grains and Health: An Overview" Journal of the American College of Nutrition Vol.19(90003), 2000, pp289-290. PMID 10875599
  5. ^ 生活習慣病予防のための各学会のガイドラインの整理 (PDF) (厚生労働省)
  6. ^ 栄養表示基準において「食品の重量から、たんぱく質脂質灰分及び水分の量を控除して算定」した値と規定されている。従って、体内での働きが一般の炭水化物とは異なる成分、例えばクエン酸なども炭水化物の含有量として表示される事に注意が必要である。
  7. ^ 正式には「食品の重量から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除して算定」した値と規定されている。
  8. ^ インスリン
  9. ^ a b ロバート・アトキンス 『アトキンス式低炭水化物ダイエット』 2005年6月。ISBN 978-4309280141。60頁。
  10. ^ ロバート・アトキンス 『アトキンス式低炭水化物ダイエット』 2005年6月。ISBN 978-4309280141。61-62頁。
  11. ^ ロバート・アトキンス 『アトキンス式低炭水化物ダイエット』 2005年6月。ISBN 978-4309280141。51-53頁。
  12. ^ ロバート・アトキンス 『アトキンス式低炭水化物ダイエット』 2005年6月。ISBN 978-4309280141。62頁。
  13. ^ 日本人の食事摂取基準(2005年版) (厚生労働省)
  14. ^ 「日本人の食事摂取基準」(2010年版)厚生労働省 (PDF)
  15. ^ 低い:生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
  16. ^ 普通:座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
  17. ^ 高い:移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合
  18. ^ 栄養

関連項目


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