朝鮮民主主義人民共和国ウォン
朝鮮民主主義人民共和国ウォン | |
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조선민주주의인민공화국 원 | |
ファイル:1000 North Korean Won.JPG | |
ISO 4217 コード | KPW |
中央銀行 | 朝鮮民主主義人民共和国中央銀行 |
使用 国・地域 | 北朝鮮 |
補助単位 | |
1/100 | チョン(전/錢) |
通貨記号 | ₩ |
複数形 | この通貨の言語に形態学的な複数形区別はない。 |
硬貨 | |
広く流通 | ₩1 |
流通は稀 | 1, 5, 10, 50 錢 |
紙幣 | |
流通は稀 | ₩5 ₩10 ₩50 ₩100 ₩200 ₩500 ₩1,000 ₩2,000 ₩5,000 |
ウォン | |
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₩ | |
各種表記 | |
ハングル: | 원 |
発音: | ウォン |
ローマ字: | Won |
朝鮮民主主義人民共和国ウォン(ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくウォン)は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の通貨単位。別名北朝鮮ウォン。
北朝鮮では漢字表記が廃止されているために公式な漢字表記は存在しないが、中国語圏においては繁体字で「朝鮮圓」または「朝鮮元」、簡体字で「朝鲜圆」または「朝鲜元」と書く。
韓国ウォンと共通の事柄(名称、分断前の歴史など)についてはウォンも参照。
概要
ソ連軍政下、北朝鮮のウォン(北朝鮮中央銀行券)は1947年12月6日、それまで流通していた朝鮮銀行券(日本統治時代の通貨)と置き換える形で導入された(表に保障文言「本銀行券は銀行所有の金貴金属およびその他財産もしくは北朝鮮人民委員会の保証書でもってこれを保障する」、裏に民主朝鮮とハングル表記)。
北朝鮮中央銀行は、朝鮮民主主義人民共和国中央銀行と改称し、1959年には通貨切り下げ(デノミネーション)が行われ、それまでの100ウォンを新しい1ウォンと交換している。以後、2009年までこの新ウォンが通用した。政府は1979年と1992年に新紙幣を発行し、それまでの紙幣と1対1で交換させる改革を行っている。
米外交専門誌のフォーリン・ポリシーは、世界で最も価値が低い通貨に選定している[1]。
2009年11月30日には、1959年以来の新しい北朝鮮ウォンが導入され、交換比率100対1の通貨切り下げが行われた[2][3]。タンス預金の発覚を恐れた市民が、人民元や米ドルへの両替を求めて闇市に殺到、大混乱に陥った[4]。外貨流通の突然の停止と物資の絶対的不足により、北朝鮮の市場は閉鎖され、商品の流通は麻痺状態に陥り、デノミネーションの直後からハイパーインフレーションになった。新ウォン価値はデノミネーション実施2ヶ月で、10分の1以下になったようである[5][6]。
2010年2月5日、北朝鮮の金英逸首相は、平壌人民文化宮殿において、人民班長などに対し今回の貨幣改革で、準備や情勢判断の不備と人民に苦痛を与えたことについて異例の謝罪を行い、誤った措置を是正する意向を示したといわれる[7]。そして、2010年3月12日には、朝鮮労働党計画財政部長朴南基が、デノミネーションに伴う経済混乱の責任を問われ処刑された[8]。また、2013年12月に粛清された張成沢の処刑理由の一つには、朴南基をそそのかしたというものがある[9]。
北朝鮮の住民は、1990年代より慢性的な飢饉に苦しめられており、その対策として、闇市などの資本主義による手法で、北朝鮮ウォンを銀行に預金せず、タンス預金していた。しかし北朝鮮の人々は、このデノミネーションによって、突如として溜め込んでいた資金が紙屑になる苦難を味わった。このため、デノミネーション以降、北朝鮮の住民は自国通貨を信用しなくなり、人民元や米ドルやユーロや日本円など、外国の通貨を求めるようになった[10]。
為替レート
北朝鮮のウォン(朝鮮民主主義人民共和国中央銀行発行)は朝鮮人民のみの流通に限定されており、外国人が使用できないが、1997年から、羅先に限って、1ドル=2.16ウォン(金正日総書記の誕生日2月16日に因む。のちに200ウォン程度まで下げている)の固定相場を設定し、これが唯一の公式な両替として認められている。ただし実際には闇両替取引も存在し、その相場は物価などから推定された、公式相場をはるかに下回る、最近の経済難・食糧難の深刻化が反映された相場で行われている。
2015年現在、公定レートは1ドル=100ウォン前後、市場レートは1ドル=8,000ウォン前後と言われている。外国人が両替、外貨で支払う際には、前者の公定レートで計算される[11]。
いずれにしても、同じく「ウォン」と称する韓国の通貨(大韓民国ウォン)とは、全く為替レートが異なる。さらに北朝鮮では、ウォンの下にチョン(銭;韓:전)という補助単位が存在し、1ウォン=100チョンとなっているが、近年の急激なインフレーションにより、チョンは実質機能していない。
外国人による使用
1997年以降の羅先を除けば、北朝鮮のウォンはあくまで現地人のみが使用する通貨であり、北朝鮮を訪れた外国人に関してはかつては兌換ウォン(外貨兌換券。朝鮮貿易銀行発行。通称: パックントン)が発行されていたが、2002年7月に外国人との取引は外貨を北朝鮮内で直接流通させる方法に切り替えられ、外国人の使用する兌換ウォンは廃止された。
北朝鮮内で流通される外貨は公式にはユーロであるが、開城工業団地での北朝鮮従業員への給与や開城、金剛山観光地での支払い等では米ドルによる決済が行われ、また各地の市場では人民元、米ドル、日本円も流通しているのが実情である。2009年11月30日のデノミネーション実施以降、外貨の流通が全面禁止され、外国人も直接北朝鮮ウォンで支払うようになった[12]。ただし、開城工業地区においては、現在も米ドルが流通している[13]。
2013年現在、北朝鮮国内では北朝鮮ウォンより、人民元や米ドルの使用率の方が圧倒的に高い。この状況に、北朝鮮当局も打つ手がなく、黙認している状態である。北朝鮮の人民が、米ドルなどの外国通貨を使用するのは違法であるが、ヒューマン・ライツ・ウォッチが実施した脱北者の聞き取り調査によると、外国通貨を使用して罰則を受けた者は居ないとの事である[14]。
2010年末頃から、電子マネーを導入し、外国人は直接外貨による支払か、この電子マネーカード「ナレ」(発行は朝鮮民主主義人民共和国貿易銀行)での支払いを求められているという情報が、外国人旅行者から伝えられている。電子マネーへの入金は、北朝鮮ウォンにて行われるが、外貨からの換金は、実勢為替レートとかけ離れた国定為替レートによって行われている[15]。
流通貨幣
2009年12月1日通用開始の新通貨
紙幣
(額面・表/裏のデザイン・記年の順)
- 5ウォン(学生と科学者 図案化された地球儀・原子/ダム発電・2002年)
- 10ウォン(陸海空軍兵士 人民軍徽章/祖国解放戦争勝利記念塔・2002年)
- 50ウォン(農工民とインテリ 主体思想塔/朝鮮労働党創建記念塔・2002年)
- 100ウォン(オオヤマレンゲ/額面数字・2008年)
- 200ウォン(千里馬像/額面数字・2008年)
- 500ウォン(凱旋門/額面数字・2008年)
- 1,000ウォン(金正淑生家/三池淵・2008年)
- 2,000ウォン(白頭山密営/白頭山天池・2008年)
- 5,000ウォン(金日成/万景台金日成生家・2008年)
- 5,000ウォン(万景台金日成生家/国際親善展覧館・2014年)
硬貨
アルミニウムで鋳造されており、以下の種別がある。
- 1チョン(国章/クロフネツツジ・主体91年(2008)年)
- 5チョン(国章/モクレン・主体91年(2008)年)
- 10チョン(国章/つつじ・主体91(2002)年)
- 50チョン(国章/金正日花・主体91(2002)年)
- 1ウォン(国章/金日成花・主体91(2002)年)
旧通貨
下記は2009年11月30日のデノミネーション実施以前のものである。
紙幣
(額面・表/裏のデザイン・発行年の順)
- 第1次発行分(1947年)
- 100ウォン(赤 農民と労働者/民主朝鮮・山)
- 10ウォン(緑 農民と労働者/民主朝鮮・山)
- 5ウォン(青 農民と労働者/民主朝鮮・山)
- 1ウォン(橙 農民と労働者/民主朝鮮・山)
- 50チョン(青 北朝鮮中央銀行券・額面・発行年/民主朝鮮・額面)
- 20チョン(黄 北朝鮮中央銀行券・額面・発行年/民主朝鮮・額面)
- 15チョン(赤 北朝鮮中央銀行券・額面・発行年/民主朝鮮・額面)
- 第2次発行分(1959年)
- 100ウォン(緑 国章・工場・額面/金剛山)
- 50ウォン(紫 国章・川と鉄橋・額面/稲を収穫する農民)
- 10ウォン(赤 国章・大同門・額面/リンゴを収穫する農民)
- 5ウォン(緑 国章・建築物・額面/額面)
- 1ウォン(赤 国章・漁船・額面/額面)
- 50チョン(青 国章・額面/額面)
- 第3次発行分(1978年)
- 第4次発行分
硬貨
アルミニウムで鋳造されており、以下の種別がある。
- 1959年発行分
- 1チョン(国号・国章・発行年/額面)
- 5チョン(国号・国章・発行年/額面)
- 10チョン(国号・国章・発行年/額面)
- 1978年発行分
- 50チョン(国号・国章・額面/「千里馬像」と太陽・発行年)
- 1987年発行分
- 1ウォン(国号・国章・額面・発行年/人民大学習堂)
- 2005(主体94)年発行分
- 5ウォン(国号・国章・額面・発行年/額面)
- 10ウォン(国号・国章・額面・発行年/額面)
- 50ウォン(国号・国章・額面・発行年/額面)
- 100ウォン(国号・国章・額面・発行年/額面)
1959年発行のチョン硬貨には、星印によって使用者が異なるマーキングがあった。無印は北朝鮮国民用、1つ星は社会主義国からの訪問者用、2つ星は資本主義国からの訪問者用とされたが、次第に星印に関わらず流通するようになっていったようである。
記念貨幣
各種の記念硬貨が発行されているが、貨幣商を通じて外国の収集家に販売されたものがほとんどである。これらには通常貨幣では発行されていない金貨、銀貨、銅貨、黄銅貨などの素材があるが、いずれも額面を無視した収集型金貨のようなものである。また通常発行の紙幣に記念題名を重ねて印刷しただけの記念紙幣も存在する。
その他
- 金日成の図案が用いられている紙幣は、その肖像部分を折り曲げると不敬罪に問われる[16]。
- 中華人民共和国の丹東市などの北朝鮮と国境を接する地域では、「お土産」として北朝鮮の紙幣が販売されている例が見受けられる。価格も、実勢レートとは無関係な販売価格となっている。
- 大韓民国内に許可なく北朝鮮の紙幣を持ち込むことは、大韓民国の法律で禁止されている。
脚注
- ^ 2007年6月14日 西日本新聞夕刊
- ^ 共同通信「北朝鮮がデノミ、100対1 外国大使館に通知」2009年12月1日
- ^ AFPBB News「北朝鮮が17年ぶりにデノミ断行、市民はパニックに 韓国報道」2009年12月1日
- ^ “北朝鮮がデノミ 旧新100対1で経済大混乱”. 読売新聞. (2009年11月30日) 2009年12月1日閲覧。
- ^ 中央日報「北朝鮮、貨幣改革から2カ月…異常なまでの影響」2010年2月4日
- ^ 中央日報「北朝鮮の新貨幣、2カ月間で10分の1に暴落」2010年2月10日
- ^ 朝鮮日報「北朝鮮デノミ:金英逸首相、人民班長らを前に謝罪」2010年2月11日
- ^ “北、デノミ問責で朴南基氏を平壌で公開銃殺”. 中央日報. (2010年4月5日) 2014年2月23日閲覧。
- ^ 藤和彦 (2014年2月14日). “北朝鮮についにオオカミが来てしまうのか? 通貨の信認失墜の大きすぎる代償”. 日本ビジネスプレス 2014年2月22日閲覧。
- ^ ダニエル・チューダー; ジェームズ・ピアソン (2015年4月15日). “コラム:飢きんが種まいた北朝鮮「資本主義」”. Reuters 2015年4月19日閲覧。
- ^ 東洋経済オンライン「北朝鮮で「Suica」型カードが超人気の理由」2015年06月30日
- ^ 中央日報「北朝鮮、外貨流通全面禁止」2009年12月5日
- ^ 朝鮮日報「開城工団:韓国側関係者が伝える最近の様子」2010年06月10日
- ^ “焦点:外貨まん延に屈する北朝鮮、非公式経済拡大に打つ手なし”. Reuters. (2013年6月4日) 2013年6月4日閲覧。
- ^ アジアプレス・ネットワーク「<北朝鮮>外国人の両替レートは実勢の80倍 入手「明細書」でからくり明らかに」2015年06月8日
- ^ Zakzak 北朝鮮見本市顔に折り目を入れると不敬罪「紙幣図鑑」 2009年12月10日