大いなるC

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大いなる“C”』(おおいなるC、原題:: Big ”C”)は、イギリスのホラー小説家ブライアン・ラムレイによる短編ホラーSF小説。

1990年のアンソロジー『ラヴクラフトの遺産』のために書き下ろされた。寄生エイリアンによる侵略SFホラーである。ソ連が残っていたり、核ミサイルの鉄道発射システムが運用されていたりと、執筆当時の戦争観が反映されている。

東雅夫は「バカSFホラー」「""(キャンサー)と"クトゥルー"のダブル・ミーニングとも解釈しうる」と表現した[1]

あらすじ[編集]

オキーチョビー湖の周辺エリアはCによって占拠される

人類の宇宙進出は、月に基地を作り、火星に有人到達するまでになっていた。2013年に新たに小天体<第二の月>が発見され、しかも人々の狂気を誘発するらしい統計データが採取される。2015年には米英ソが合同で調査員を派遣するも、彼らは地球帰還後に発狂する。

各国は2016年に再び調査隊を送り込み、今度は第二の月に直接降り立って成分を持ち帰って来る。作業にあたったスマイラーという男は、27歳のイギリス人で、全身に(Cancer)を抱えており死をまぬがれない病身であった。しかし帰還時に体を調べたところ、癌が全く無くなっており、皆は困惑する。本人を含めた誰もが、スマイラーは死ぬと予測していたし、英雄を安楽死させる準備もとられていたが、死ななかった。

死ぬはずのスマイラーを生かしている謎の器官は「大いなる"C"」と仮名され、医師たちはスマイラーの体内の癌が大いなる"C"に変わったと結論付ける。スマイラーを宿主としているCは、独自の意思と知性を持っていた。スマイラーは、変異した癌がスマイラーの肉体を捨てて外に飛び出そうとしていると言う。医師たちは、Cがスマイラーの体内から離脱したタイミングで滅ぼそうと計画するが、察知したCは軍のMIRVを奪い取り[注 1]、世界を脅迫する。スマイラーを中心に、不定形のCは触手を伸ばして支配域を広げ、ついにはフロリダの特定エリアを占拠し、さらに領土を要求する。

核戦争を怖れる世間からはCの要求を受け入れろという声が挙がり、ソ連はたとえCの手によるものでもアメリカからソ連に核ミサイルが発射されたら撃ち返すと主張する。スマイラーは、Cの言葉を代弁して、刺激しないようにと人類を説得する。かくして事態はゆきづまる。政府は何度かCを殺そうと工作するも全て失敗し、Cは報復として核をハワイに落とす。

スマイラーの友人であるNASAの職員・ピーターは、領土交渉のために何度かスマイラーの元を訪れる。そのうちに、ピーターもまた癌に冒され、最後の任務に志願する。ピーターは、捨て身作戦を実行すべく核爆弾を積んだ自動車を走らせ、奇怪な生きたトンネルを通ってスマイラーの元に行く。だがCは先手を打って、爆弾の性質を変えて無効化してしまう。それどころか、スマイラーの人格は既に消滅してCが成り代わっていた上、スマイラーの身体はCの脳どころかダミーか末端程度の部位に成り下がっていた。Cはピーターの癌もCによるものであると説明し、人類に勝利宣言をする。

登場人物[編集]

  • ピーター - 語り手。NASAの職員。スマイラーの友人。
  • ベンジャミン・<スマイラー>・ウイリアムズ - イギリス人宇宙飛行士。癌に冒されている。Cの宿主。
  • 大いなる“C” - 第二の月に含まれていた物質の作用で、スマイラーの体内の癌が変質して意思を持った存在。フロリダオキーチョビー湖の周辺エリアを、アメーバ状の肉体で占拠する。MIRV6基を核ジャックし、世界中を射程に収めて人類を威嚇する。

収録[編集]

関連項目[編集]

  • ピースキーパー (ミサイル) - アメリカの核ミサイル。鉄道移動式の運用が検討されたが、ソ連が崩壊して冷戦が終結したために実現しなかった。
  • RT-23 (ミサイル)- 別名SS-24。旧ソ連の核ミサイル。鉄道移動式とされた。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2000年代の米ソ冷戦下にて、オキーチョビー湖の周辺地域に核ミサイルの鉄道輸送ネットワークが運用されていた、という設定。

出典[編集]

  1. ^ 東雅夫『クトゥルー神話事典 第四版』507ページ。