光学迷彩
光学迷彩(こうがくめいさい、英: optical camouflage; active camouflage)は、SF作品等に登場する技術。科学的な何らかの手段により視覚的(光学的)に対象を透明化する技術で、その原理にはいくつかのバリエーションがある。2000年代になり、完全には透明にはならないものの、メタマテリアルなどの新素材を用いることによって、一定の迷彩が実現されており、科学者たちによって可能性が模索されている技術である。軍事利用だけでなく、コンピュータ支援外科の分野でも研究が進められている。
「光学迷彩」という呼称とそのルーツについて
- 自然界・民話・伝承
- 自身の衣類や機体等の色や模様を、背景に合わせリアルタイムに変更することにより視覚的に偽装する、または光を透過・偏向させ視覚できなくするといった概念自体は洋の東西を問わず古くから存在しており、その例として前者は動物のカメレオンやイカ、タコ等の擬態、後者は民話や伝承に残る「ハーデースの隠れ兜」や「天狗の隠れ蓑」等があげられる。
- 文芸等創作物
- 比較的近年の作品に登場するものとして、フィリップ・K・ディックのSF作品に登場する「ジャンプスーツ」や、ウィリアム・ギブスンの作品中に登場する「擬態ポリカーボン」等や、映画『プレデター』で異星人が使用するクローキング技術、また戦艦サイズでは『スタートレック』に登場する宇宙戦艦用の遮蔽装置や、映画『アイ・スパイ』でテロリストとの取引に利用される戦闘機に施した視覚的ステルス、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズに登場するステルス迷彩、等の例があげられる。他にも、ドラえもんが取り出す道具の中にも幾つかの(しかも全く別個の用途とそれに見合った仕掛けを持つ)アイテムとして登場している。例えば、「透明マント」などは、魔法・科学(前者は『ハリー・ポッター』、後者は『ドラえもん』)の両面の物語で登場する。
- 攻殻機動隊による名称化
- これらの「隠れ蓑」的技術に対し、日本では長らく定まった呼称が存在していなかった(英語ではcamouflageやcloakingと言われる)が、士郎正宗の『攻殻機動隊』で「熱光学迷彩」と呼ばれる特殊な機能を持つ装備が登場。日本国内(特に漫画・アニメ・軍事オタクの間)では、映画化以降本作品がメジャー化したことによってこの呼称が定着した。ちなみに「熱」と付くのは赤外線領域まで背景と同化することによって、暗視装置・サーモグラフィー等にも感知させないという意味合いがある。
光学迷彩のアイデア
- カメレオン型
- カメレオンのように周囲の色・模様に応じて体表の色彩を変化させる。これはセンサーとコンピューターを併用することで、可能性としては一番現実的である。同様に、立体映像で全体を包み込むというアイデアもあるが、立体映像の技術自体が確立されていないので、様々な問題がある。
- 光の透過・回折型
- 光を完全に透過・回折させる(過去のSF作品などに登場するガジェットでは、特殊な素材や構造を持つ繊維などによって、使用者の周辺の光を透過させるといった説明が行われる例などがある。またいわゆる透明人間などは、これの究極的な姿と言える)。しかし、この方法の場合、相手から見えないだけでなく、こちらから相手を見ることもできない。
- 空間歪曲型
- 空間歪曲などによって光自体の進路を変えてしまう(空間そのものを歪める必要があるので、現在の物理理論では実用の際は巨大なエネルギー(質量)を必要とし、一番現実性が低い方法)。ただし、物質を使って回折させる手法は空間歪曲と数学的に等価な表現であるため(Transformation Opticsと呼ばれる座標変換理論を参照)、前述の回折型とも解釈できる。
- 電磁波吸収型
- 可視光を含む電磁波を吸収してしまう素材を用いる。一部のSF作品などでこう解説される事があるが、現実には黒く見えるだけなので、根本的に間違っている。ただし原理上、レーダー等には有効な場合もある。
光学的迷彩技術の研究
「光学迷彩」という用語そのものは本来、作品中に登場する架空の技術を表すものだが、現実世界においても東京大学などにおいて同様の技術の研究が行われている。アメリカ軍も、光学的な迷彩技術の研究をマサチューセッツ工科大学に依頼している。
光学的な迷彩の対象となる物体に、再帰性反射材(微細なガラスビーズ等によって、光が入射した方向に反射する素材)を塗布し、物体の背後の映像を外部よりプロジェクタで投影することで、ある程度の実現を見ている。
光学迷彩はまだ難しい技術だが、「手術中の医師の手袋に患部を投影し、患部がいつでも目視できるようにする(医師の手が患部の上にかぶさり、患部が見えなくなるのを防ぐ)」といった、コンピュータ支援外科など限定的な用途での研究はかなり進んでいる。
- 各国の研究
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- 米デューク大学などの米英のグループは、特殊な金属繊維を使って光を反射せず、後方へ迂回させるという研究を行っている。これが実現すれば理論上はあたかも物体が透明になったかのように見えるという。
- 富山大学とはこだて未来大学、英セント・アンドルーズ大学の3人の研究者は「左手系メタマテリアル」を使って周波数限定ながら電磁波による完全な透過効果が得られる物体の作成に成功し、理論上は可視光線域での実現が行なえるとした。[1]
- イギリス軍では、早ければ2012年にも、光学迷彩を搭載した主力戦車を実戦配備するという[2]。
- 米・カリフォルニア大学バークレー校でも開発に成功したことを2008年8月11日に明らかにした[3]。
- 英・セント・アンドルーズ大学の研究チームは New Journal of Physics 11月号に「可視光線の領域」で光を曲げることができる物質の作成に成功したとする論文を発表した[4]。
光学迷彩が登場する作品
科学的手法を用いた光学的な迷彩技術
テレビ・映画
- 名称は特にない。
- ボンドカーに装備されたカモフラージュ機能
- 『アイスパイ』
- 視覚的ステルス
- 『ウルトラマン』
- ジャミラの宇宙船 - 作中、高速回転による不可視化だと説明されている。イデ隊員のスペクトルα線、スペクトルβ線、スペクトルγ線の照射で可視化されてしまう。
- 『ウルトラセブン』
- 忍者怪獣サータン - 体の組織が中性子でできているという設定。影は写る。ウルトラマンジャックの透視光線で可視化。
- オプチカムフラージュ
- 船用および個人用遮蔽装置(ステルス装置)
- ステルス装置(パドル・ジャンパーに標準装備)
- 『スタートレック』
- 視覚確認無効(最新鋭ステルス戦闘機ノヴァ)
- 『プレデター』
- 光学迷彩であるとする説と、光そのものを重力波により曲げてしまうという、更に高度なハイテクとする説(光跡曲折説)がある。シリーズ3では公式HPには光学迷彩説を掲げているが、シリーズ2では作品中の登場人物(科学者)により光跡曲折説が説明されている。
- マッスルスーツ
- ステルススイッチ
- 光学迷彩スクリーン
漫画・アニメ
- 『GANTZ』
- 周波数変更
- 外部迷彩皮膜
- 『ケロロ軍曹』
- アンチバリア
- 『成恵の世界』
- エイドロン
- 『攻殻機動隊』
- 京レ製全天候型2902(式)熱光学迷彩「隠れ蓑」及び東セラ製3302(式)熱光学迷彩
- 政府機関関係重要施設内での使用は重罪となっている。人間が装着する物としては義体と呼ばれる人工ボディーその物が透明化する他、レインコート状の手軽に装着可能なタイプもある。戦車やパワードスーツなど比較的大型の物にも装備されている。
- 『ゴルゴ13』
- 光学迷彩 - 「カメレオン部隊」に登場。ヘルメットに内蔵された日本製CCDカメラにより周囲360度の風景を撮影し、全身の有機ELディスプレイに投影する。ゴルゴ13は照明弾を用いて光学迷彩中の兵士の影を作り狙撃した。
- ECS(電磁迷彩)
- 『ジョジョの奇妙な冒険第2部 戦闘潮流』
- 敵キャラクターのワムウは肺の水蒸気を胸から出し、これで体の周りを覆って光を屈折させ、短時間ながら透明人間のようになれる。
- 『ゾイドシリーズ』
- ホロテック、光学迷彩(ヘルキャット、ライガーゼロイクス等)
- 設置型の物も存在するが、設営に多少の時間を要する。透明になるだけでなく、岩のような自然物に見せかける物もある。
- エレクトロ・ディスラプター
- サイバトロン諜報員リジェの装備。音や地面への影響は隠蔽できず、足音が聞こえる、柔らかい地面の上に足跡が残るといった描写がある。
- ステルスマント
- 『ドラえもん』
- 透明マント、かくれん棒、とうめいペンキ、透明人間目薬、透明ハンド、透明ボディーガードプラモなど
- 石ころぼうし、モーテン星については第三者に意識されなくなるという点で視覚的に消えるわけではない。“心理迷彩”と呼ばれる。1時間経つと効き目が切れる。
- ステルスバリア(漫画版ではステルスフィールド)
- デュポン製機能性色素コーティング
- ヘルメットワーム
- ガミガミローバーDURAN
- ホログラフィックカモフラージュ
- ファントムカモフラージュ
- 『蒼穹のファフナー』
- 偽装鏡面
- ヴェルデ(・トラス・パレンツァ)が使用している。
- インヒューレントスキル シルバーカーテン
- 全身モニタースーツ
- 特殊光学迷彩服(アニメ第6話では「オプチカル・カムフラージュ・ジャケット」)
- 気配は消せないため、足音等でばれてしまうこともある。ヘルメットが外れたりすると機能が停止する。
- 『ミラ・クル・1』
- 反重力ボード
- 飛行中は反重力場によって光を曲げて搭乗者を見えなくする。
ゲーム
- プリズム結晶化セラミック製偏向レンズ(敵ユニットとして出現する空中要塞グレイプニル、フェンリアのみ使用)
- 「スパイクローク」という名称で登場。
- 時限式の装置で、使うと透明人間に近い状態になるが、透過する背後の空間は微妙に歪んで見える。
- また、銃器や素手などで攻撃を仕掛けると、一定時間迷彩が解除されてしまう。
- OCS 光学迷彩システム(optical camouflage system)、OCSパネル
- エスタを国ごと(大陸1つほど)隠すという大規模な光学迷彩が行われている。
- 『ファンタシースターオンラインEP2』
- フォトン迷彩
- フェード・エパダーミス
- 装甲表面の特殊被膜にかける電圧を変化させる事によって色を変化させ、カメレオン的に周囲と同化するシステム。完全に姿が消える訳ではない。
- ブルーオーブ、アクティブカモフラージュ
- 『ポケットモンスターシリーズ』
- 『メタルギアソリッドシリーズ』
- ステルス迷彩 装備することによって完全に透明になることが出来、装備した状態で敵兵の目の前を通っても気づかれない。しかし、敵兵と接触すると装備が外れて姿が見えてしまう。また、『MGS4』において、ステルス迷彩は「装備時に有害な電磁波が出ているため人体に悪影響を及ぼす」という設定が付加されている。
- オクトカム 接触した物体の模様パターン・温度等をコピーできる迷彩服で、完全な不可視化ではない。
- 停泊中であるサムスのスターシップは光学迷彩によりカモフラージュされている。
- 『2SPICY』
- シックスや、ストーリーモードでの黒い服の男(シャドウ)が使用。
- 『バーチャコップ3』
- ゲイルが使用している。
- 『鋼鉄の咆哮シリーズ』
- 光学迷彩戦艦リフレクト・プラッタ(2)およびシャドウプラッタ(3)、パーフェクトプラッタ(ガンナー2)
- 本体は完全に見えなくなるが、艦体そのものは存在するため航跡は見える。
- O・C・T・Gear(オクト・ギア、Optical・Camouflage・Transparent・Gear) 静止状態で透明化
- 過去の大戦で失われたロストテクノロジーの1つ(名称不明)として登場する。
- 光学迷彩・試作型 光学迷彩・実用型
- 姿を消せるのは自機のみで、ブースターの噴射炎などは消すことができない。
- 『CRYSISシリーズ』
- NANOスーツの機能の一つ「クローク」として登場。
- 装備品の一つとして登場。
小説
- 『ニューロマンサー』
- 擬態ポリカーボン。姿を消すだけでなく、表面に映像を再生してファッションとして用いるなど、戦闘以外の利用も描写されている。1984年と光学迷彩を登場させたものとしては比較的初期の作品だが、スタートレックで使われた「クローキング」程には名称が広まらなかった。
- 偏光迷彩
- 『暗闇のスキャナー』
- ジャンプスーツ
- 教皇庁国務聖省特務分室(Ax)派遣執行官“ノウ・フェイス”が有する能力。
- ECS 不可視モード(Electromagnetic Camouflage System、電磁迷彩システム)
- ECS自体は光学迷彩用の装備ではなく、レーダー波や赤外線等、他の電磁波全般を欺瞞するステルスと同様のものという設定。M9等の第3世代ASに搭載された新しいタイプのECSには光学迷彩機能(不可視モード)が追加された。ECSに対抗する技術としてECCSがある。
- 遮蔽装置。クローキング装置とも呼ばれる。
- 『緋弾のアリア』
- 光屈折迷彩
その他の手法を用いた光学的な迷彩技術
- 『多数の説話・昔話』
- 隠れ蓑
- 『ハリー・ポッター』
- 透明マント
- 『デメント』
- 妖精のイヤリング 静止状態で透明化
- 『ワンダと巨像』
- 紛れの前掛け 影は残る
- 『ぼくは王さま(とうめい人間の10時)』
- 透明人間になる薬
- 周囲に形成した重力フィールドによって光を屈折させる、“魔法使い”三姉妹の特殊能力。
- 『ドラえもん』
- 隠れマント、透明マント
その他、下記関連項目も参照
脚注
関連項目
外部リンク
- 東京大学 舘研究室による光学迷彩の説明 - 同ページでは参考文献に『攻殻機動隊』を挙げている。
- 電気通信大学 稲見研究室