グラムロック
グラムロック(glam rock)は、主にイギリスで1970年代前半から中盤にかけて流行した、ロック・スタイル。由来は、魅惑的であることを意味する英語の"glamorous"から来ている。日本のロックやファッションシーンにも影響を与えた。
概要
一概には言えないが、男性でも濃い(時には装飾的な)メイクを施し、煌びやかで(けばけばしい)、古い映画やSFをモデルにしたような、懐古趣味的な衣装をまとうのが特徴である。キャンプ 的であるともいわれる。また宇宙趣味、未来趣味も混在している。
主に男性的な力強さや激しさを表現するハードロックや、演奏技術や楽曲の構成力を強調していたプログレッシブ・ロックが主流だった1970年代において、それらとは異なった中性的なファッションや振る舞いを施し、単純で原始的なビートやキャッチーなサウンドをみせていたのがグラムロックのミュージシャンたちであった(この傾向が、後のパンク・ロックの出現に大きく影響することになる)。また、サックスでリフを刻むことが多いことも、グラムの特徴の1つである。
ただ、ジャンルとしてはルックスやステージングなどの面で区別されることが多いため、サウンドや楽曲の作風、音楽的志向などは、かなり異なり、大きな共通性はない。このような経緯から、クイーンも登場当初はグラムロックバンドと見る者もいた。
詳細・歴史
マーク・ボランやデヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックが英国における代表的なアーティストである。日本でもグラムロックは人気があり、オールジャパン・ポップ20のような番組のチャートを賑わせていた。だが、マーク・ボランは、グラムロックの盛衰と自身の音楽活動が同時進行してしまい、グラム・ロックの衰退期の1977年、交通事故により29歳で死亡してしまった。デヴィッド・ボウイはグラムロック衰退以降も音楽活動を継続した。また、ボウイは映画『地球に落ちてきた男』(1976年)にも出演した。ボウイはモット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」(1972年)を作曲している。ボウイがジギー・スターダストというキャラクターを作った際には、スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』や『2001年宇宙の旅』をモデルにした。またボウイはこの頃、ザ・ストゥージズの『ロウ・パワー』やルー・リードの『トランスフォーマー』などのプロデュースも担当した。他にも、シルヴァーヘッドやホークウィンドなどがグラムロック系のバンドとされている。
ブームを作ったアーティストたちの音楽的な変化や、パンク・ロックの盛り上がりや1970年代末のニュー・ウェイヴ・ブームの勃興により、グラム・ロックという名称は自然消滅することとなった。
時代背景
時代背景としては、それまでのヒッピーやウッドストックなどに代表される自然回帰運動への反動として、「人工的なもの」への志向が生じたのではないかとする説もある。アンディ・ウォーホールのPorkという映画・舞台がグラム発生に決定的な影響を与えたともいわれる。ウォーホールは異性装(トランスヴェスチズム)を好んでおり、またアンディ・ウォーホルの映画に数多く出演していたイーディ・セジウィックも中性的なイメージを持っていた。
また、1960年代後半のロンドンのアンダーグランド・シーンの影響も見られる。ナイトクラブでの演奏を通じて、メジャー・シーンへと進出を果たしたアーティストも多い。中でも、シド・バレット(ピンク・フロイド)の存在は大きく、デヴィッド・ボウイやマーク・ボランに多大な影響を与えた。
影響
影響を受けたローリング・ストーンズも当時は濃いメイクをしていた。ヴィジュアル面では80年代前半に起こったニューロマンティックやLAメタル、日本のヴィジュアル系の先駆けとなったという見方もあるが、音楽的にはむしろその直後のパンク・ロックへの影響が大きい。なお、オーストラリア出身のハードロックバンドAC/DCのボーカリスト、ブライアン・ジョンソンは、イギリスのグラムロックバンド・ジョーディ(Geordie)に所属していた。
アメリカのグラムロック
アメリカにおいて、グラムロックでの商業的な成功を収めたのはアリス・クーパーだった。さらに1973年にはニューヨークドールズがデビューし、ルー・リードやイギー・ポップなどもグラムロックに影響されたステージを見せた。ほかにはキッスのジーン・シモンズが、スレイドからの影響を公言している。
日本への影響
国内では、1970年代の日本からの最も早い回答である沢田研二、忌野清志郎、サディスティック・ミカ・バンドがいた。また1980年代前半には、土屋昌巳の一風堂が登場し、1980年代後半には、本田恭章や中川勝彦などがいた。しかし、いずれも「グラム・ロック」と呼ばれることはなく、1990年代以降の「ヴィジュアル系」バンドの登場によって、初めてジャンルとしてカテゴライズされるようになる。1990年代以降のバンドとしては、THE YELLOW MONKEY、マルコシアス・バンプ、ROLLY率いるすかんち、LOVE MISSILE、毛皮のマリーズ、X JAPANなどがいた。
なお、秋間経夫らの発案により、毎年マーク・ボランの命日である9月16日に「マーク・ボラン追悼~グラムロックイースター」というイベントが行われる。常連参加者には、頭脳警察にいたPANTA、ROLLY、マルコシアス・バンプの旧メンバーなどがいる。
グラムロック・アーティスト
- T.Rex
- デヴィッド・ボウイ
- ロキシー・ミュージック
- クイーン
- モット・ザ・フープル
- アリス・クーパー
- スウィート
- スレイド
- シルヴァーヘッド
- ゲイリー・グリッター
- ニューヨーク・ドールズ
- ホークウインド
- ルー・リード
- コックニー・レベル
- 沢田研二
- 土屋昌巳
映画
- デヴィッド・ボウイ映画『ジギー・スターダスト』(1973年)
- トッド・ヘインズ監督の映画『ベルベット・ゴールドマイン』(1998年)
- T.Rexのドキュメンタリー『ボーン・トゥ・ブギー 』
- ゲイリー・グリッター映画『Remember Me This Way』
- スレイド『Flame』
脚注
出典
- Philip Auslander, Performing Glam Rock: Gender and Theatricality in Popular Music Ann Arbor, University of Michigan Press, 2006 ISBN 0-472-06868-7
- Rock, Mick, Glam! An Eyewitness Account Omnibus Press, 2005 ISBN 1-84609-149-7
- A Biased History of UK Glam Rock
関連項目
- スージー・クアトロ
- ハードロック - 同時代に全盛期
- プログレッシブ・ロック