フォン・ノイマン=ベルナイス=ゲーデル集合論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

数学基礎論において、フォン・ノイマン=ベルナイス=ゲーデル集合論 (NBG) とはツェルメロ=フレンケル集合論+選択公理 (ZFC)の保存拡大である公理的集合論である。NBGでは、量化子の範囲を集合に限定した論理式によって定義される集合の集まりとして、クラスの概念を導入する。NBGは、すべての集合というクラスやすべての順序数というクラスといった、集合よりも大きいクラスを定義できる。モース=ケリー集合論 (MK) は量化子の範囲がクラスである論理式によるクラスの定義を許容する。NBGは有限公理化できる一方、ZFCやMKではできない。

NBGのキーとなる定理はクラスの存在定理である。クラスの存在定理は、量化子の範囲を集合に限定した論理式それぞれに対して、論理式を満たす集合からなるクラスの存在を述べる。クラスは、クラスの論理式を一つずつ構築することで構成される。すべての集合論的な論理式は2種類の原子論理式所属関係等式)と有限個の論理記号から構築されるため、論理式を満足するクラスを構築するには有限個の公理があればよい。NBGが有限公理化できるのは、こうした理由による。クラスは他の概念の構築にも用いられ、集合論的パラドックスへの対処や、ZFCの選択公理より強い大域選択公理英語版の説明に用いられる。

ジョン・フォン・ノイマンは1925年に集合論にクラスを導入した。彼の理論の原始概念英語版関数と引数であった。これらの概念を用いて、フォン・ノイマンはクラスと集合を定義した。[1] パウル・ベルナイスはクラスと集合を原始概念とすることで、フォン・ノイマンの理論を再定式化した。[2] クルト・ゲーデルは、選択公理相対的無矛盾性の証明と一般連続体仮説を用いてベルナイスの理論を単純化した。[3]

集合論におけるクラス[編集]

クラスの使用例[編集]

NBGにおいてクラスはいくつかの使用例がある:

  • クラスによって集合論を有限公理化する。[4]
  • "非常に強い形の選択公理"を表現するのに用いられる。[5]—すなわち、大域選択公理英語版のことである。大域選択公理の内容は以下の通り:すべての空でない集合 に対して である、すべての空でない集合のクラス上に定義された大域選択関数 が存在する。大域選択公理はZFCの選択公理よりも強い。ZFCの選択公理の内容は以下の通り:任意の空でない集合の集合 について、すべての に対して である 上の選択関数英語版 が存在する。[注釈 1]
  • 集合でないクラスが存在することを認めると、集合論的パラドックスは解決される。例えば、すべての順序数のクラス を集合であると仮定する。すると、 整列された推移的集合となる。すなわち、定義から は順序数である。したがって、 であるが、これは で整列されていることに矛盾する。したがって、 は集合ではない。集合ではないクラスを真のクラスと呼ぶため、 は真のクラスである。[6]
  • 真のクラスは集合などの作成に便利である。 大域選択公理と一般連続体仮説の相対的非矛盾性の証明において、ゲーデルは構成可能集合を作るのに真のクラスを用いた。ゲーデルはすべての順序数のクラス上の関数を構成した。すなわち、各順序数について、構成済の集合に対して集合を作る処理を適用することで構成可能集合を作った。構成可能集合はこの関数のである。[7]

公理型とクラス存在定理[編集]

ZFCの言葉にクラスが加えられれば、ZFCをクラス付きの集合論に変換するのが容易になる。まず、クラス解釈の公理型を加える。この公理型は以下の通り:量化子の範囲を集合に限定したすべての論理式 に対して、論理式を満たす -からなるクラス が存在する—すなわち、 である。すると置換公理はクラスを用いる一つの公理で置き換えられる。最後に、ZFCの外延性の公理はクラスを扱う形に修正される:2 つのクラスが同じ元を持つならば、それらのクラスは等しい。ほかのZFCの公理は修正されない。[8]

この理論は有限公理化されない。ZFCの置換公理型は一つの公理で置き換えられるが、クラス解釈の公理はZFCに導入されていないからである。

この理論を有限個の公理で構築するには、まずクラス解釈の公理を有限個のクラス外延性の公理で置き換える。するとこれらの公理は、公理系中のどの公理をも含意するクラス存在定理に用いられる。[8] この理論の証明には 7 つのクラス存在公理があれば十分である。これらのクラス存在公理は、論理式の構成から論理式を満たすクラスの構成へ変換するのに用いられる。

NBGの公理化[編集]

クラスと集合[編集]

NBGにはクラスと集合という 2 種類の対象がある。直感的には、どの集合も同時にクラスである。これを公理化する方法は 2 通り存在する。ベルナイスは 2 ソートの多ソート論理を用いた。[2] ゲーデルはソートの代わりに原始述語を用いた: を「 はクラスである」ことを、 を「 は集合である」ことを表す述語とする(ドイツ語では集合は Menge である)。ゲーデルは「すべての集合はクラスである」という公理と、「クラス がクラスの元であれば、 は集合である」という公理を導入した。[9] 述語はソートの回避のためによく使われる。 エリオット・メンデルソン (Elliott Mendelson) はゲーデルの考え方を元に、全てをクラスとした上で、 を表す述語 で集合を表すことで修正した。[10] この修正によって、ゲーデルのクラス述語と 2 つの公理は不要になる。

ベルナイスの 2 ソートのアプローチのほうが最初は自然に見えるかもしれないが、こちらは複雑な理論になる。[注釈 2] ベルナイスの理論では、どの集合も 2 種類の表現を持つ:一つは集合として、もう一つはクラスとしてである。同時に、2 つの 帰属関係がある:一つは "∈" で表される 2 つの集合間の関係、もう一つは "η" で表される集合とクラスの間の関係である。[2] 異なるソートの変数は議論領域中で互いに素な部分領域の元となるため、この冗長性は多ソート論理に必要になる。

これらの 2 つのアプローチで証明できるものは変わらないが、証明の書かれ方は変わってくる。ゲーデルのアプローチでは、 がクラスであるとき は有効な表現である。ベルナイスのアプローチではこの表現は意味をなさない。しかし、 が集合であれば、等価な表現が存在する: 集合とクラスが同じ集合を元に持つならば、「集合 はクラス を代表する」と定義する。—すなわち、 。集合 がクラス を代表するという表現 は、ゲーデルの と等価である。[2]

本記事ではゲーデルのアプローチのメンデルソンによる修正版を用いて説明する。これは、NBG は等式を含む一階述語論理における公理系であることを意味し、原始概念英語版はクラスと帰属関係のみであることを意味する。

外延性の公理と対の公理の定義[編集]

集合は、少なくとも 1 つのクラスに属するクラスである: のとき、かつそのときに限り は集合である。 集合でないクラスは真のクラスと呼ぶ: のとき、かつそのときに限り は真のクラスである。[12] したがって、どのクラスも集合または真のクラスであり、両方同時に当てはまることはない。

ゲーデルは大文字の変数をクラス上の変数、小文字の変数を集合上の変数とした。[9] また、ゲーデルは、すべての集合からなるクラス上に定義された関数や関係を含む特定のクラスは、大文字から始まる名前で表した。本記事ではゲーデルのこの表記法に従う。すると以下のように書ける:

  • の代わりに。
  • の代わりに。

以下の公理と定義はクラス存在定理の証明に必要である。

外延性の公理. 2 つのクラスが同じ元を持っていれば、それらは等しい。

[13]

この公理はZFCの外延性の公理をクラスに一般化したものである。

対の公理. が集合であれば、元が のみである集合 が存在する。

[14]

ZFCのように、外延性の公理は集合 がただ一つであることを含意する。これによって という表記ができる。

順序対は以下のように定義される。

対は順序対を使って再帰的に定義される:

[注釈 3]

クラス存在公理と正則性公理[編集]

クラス存在公理はクラス存在定理を証明するのに用いる:集合のみを量化する 個の集合の自由変数に関するすべての論理式について、その論理式を満たす -組のクラスが存在する。以下の例は、関数のクラスと合成関数を構築するクラスの 2 つのクラスから始める。この例はクラス存在定理を証明するのに必要な、クラス存在公理を導出する手法を説明する。

例 1: クラス が関数であるならば、合成関数 は以下の論理式で定義される: この論理式は 2 つの集合に関する自由変数 を持つため、クラス存在定理から以下の順序対のクラスの存在が導かれる:

この論理式は論理積 存在記号 を使って簡潔に構築されているので、簡潔な論理式を表すクラスを使って を含む論理式を表すクラスを生成するクラス演算が必要である。の論理式を表すクラスを作るには、であることから共通部分を用いる。の論理式を表すクラスを作るには、であることから領域を用いる

共通部分を求める前に、 にそれぞれ含まれる組において、共通した変数を持つように他の要素が必要になる。元 の組に、 元 の組に加える:

の定義において、変数 で制限されないため、 の定義域はすべての集合のクラス 上になる。同様に、 の定義において、変数 の定義域も 上になる。ここで与えられたクラスの組に(上の)追加の元を加える公理が必要になる。

次に、共通部分をとる準備として、変数を同じ順序で並べる:

から および から へは、2 種類の巡回が必要になる。ゆえに、組の元の巡回を扱う公理が必要になる。

の共通部分は で表現される:

として定義されるので、 の領域は で表現され、合成関数を生成する:

したがって、共通部分および領域の公理が必要である。

クラス存在公理は 2 つのグループに分かれる:述語に関する公理と、対に関する公理である。前者のグループには 4 つの公理が、後者のグループには 3 つの公理が含まれる。[注釈 4]

述語に関する公理:

帰属. 1番めの要素が 2 番めの要素の元になるような順序対すべてを含むクラス が存在する。

[18]

共通部分(連言). 任意の 2 つのクラス に対して、 にそれぞれ属する集合のみからなるクラス が存在する。

[19]

補集合(否定). 任意のクラス に対して、 に属さない集合のみからなるクラス が存在する。

[20]

領域(存在量化子). 任意のクラス に対して、 の順序対の最初の要素からなるクラス が存在する。

[21]

外延性の公理より、共通部分公理におけるクラス と補集合公理および領域公理におけるクラス はそれぞれただ一つ定まる。これらはそれぞれ以下のように表現される: and [注釈 5] 一方、帰属公理はクラス 上の順序対の集合のみを規定するため、外延性の公理は帰属公理におけるクラス には適用できない。

最初 3 つの公理は空クラスおよびすべての集合のクラスの存在を含意する:帰属公理はクラス の存在を含意する。共通部分公理および補集合公理は、空クラスである の存在を含意する。外延性の公理により、このクラスはただ一つ定まり、これを で表す。 の補集合はすべての集合のクラス であり、これも外延性の公理からただ一つ定まる。すると、 を表す集合述語 は、クラスを量化することなく と再定義される。

対に関する公理:

直積. 任意のクラス に対して、最初の要素が に属する順序対からなるクラス が存在する。

[23]

巡回置換. 任意のクラス に対して、 の 3-組に巡回置換 を適用して得られる 3-組からなるクラス が存在する。

[24]

転置. 任意のクラス に対して、 の 3-組の後ろ 2 要素を入れ替えて得られる 3-組からなるクラス が存在する。

[25]

外延性から、 の直積公理は で表されるただ一つのクラスの存在を含意する。この公理はすべての -組に対してクラス を定義するのにも用いる: そして がクラスならば、外延性は -組からなるただ一つのクラスであることを含意する。たとえば、帰属公理から、クラス が順序対ではない元を含むが、共通部分 の順序対のみからなるようにクラス を構成できる。

巡回置換公理と転置公理はクラス の 3-組であることのみを規定するため、ただ一つのクラスの存在を含意しない。 3-組を規定することで、これらの公理は に対して -組についても規定する。なぜならば:

対に関する公理と領域公理は以下の補題を含意する。この補題はクラス存在定理の証明に用いる。

組の補題 ― 

クラス存在定理の証明にはもう一つの公理、正則性公理が必要である。空クラスの存在が証明されるため、この公理のふつうの言明を用いる。[注釈 6]

正則性公理. 空でないどの集合も、共通部分の要素が空となる元を少なくとも 1 つ持つ。

この公理は集合が自分自身に属さないことを含意する: と仮定して と置く。すると であるので である。これは の唯一の元であることから、正則性公理と矛盾する。したがって、 である。また、正則性公理は集合の無限降下関係列の存在を禁止する:

ゲーデルは、自身の1940年のモノグラフで、集合ではなくクラスに関して正則性公理を述べた。これは1938年の講義に基づいたものである。[26] 1939年、ゲーデルは集合の正則性公理がクラスの正則性公理を含意することを証明した。[27]

クラス存在定理[編集]

クラス存在定理 ― を、集合を量化する論理式とする。この論理式は 以外に自由変数をもたないものとする(必ずしも すべてが自由変数でなくてもよい)。すると、すべての に対して、以下を満たす -組のクラス がただ一つ定まる:

クラス で表すことができる。[注釈 7]

この定理の証明は 2 ステップからなる:

  1. 与えられた論理式 を証明の帰納部分を簡略化する等価な英語版論理式に変換するため、変換規則を用いる。例えば、帰納部分で 3 ケースの論理記号のみを扱うため、変換後の論理式に用いる論理記号は , , のみとする。
  2. 変換後の論理式に対して、クラス存在定理を帰納的に証明する。変換後の論理式の構造を用い、クラス存在公理から論理式を満たす唯一の -組を構成する。

変換規則. 以下の規則 1 と 2 において、 はそれぞれ集合とクラスの変数を表す。これらの 2 つの規則で の前のすべてのクラス変数とすべての等号を除去する。規則 1 や 2 をサブ論理式に適用する際は、 が論理式中の他の変数と異なるように を選ぶ。3 つの規則はサブ論理式に適用できなくなるまで適用を繰り返す。これによって、 , , , 、 集合変数、 の前に現れないクラス変数 論理式のみからなる論理式を構成する。

  1. に変換する。
  2. 外延性公理を用いて、 に変換する。
  3. 論理的同一性を用いて、 and が含まれるサブ論理式を のみが含まれるサブ論理式に変換する。

変換規則:束縛変数. 例 1の合成関数論理式について、集合の自由変数を に置き換えることを考える: 。帰納的証明で論理式 をなす が取り除かれる。しかし、クラス存在定理は添字つき変数を使って表されているため、この論理式は帰納法における仮定として期待される形式にならない。この問題は変数 で置き換えることで解決できる。ネストされた量化子内の束縛変数を扱うには、量化子ごとに添字の数字を 1 ずつ増やしていけば良い。これによって規則 4 が導出される。規則 1 と 2 で量化された変数が増えるため、規則 4 はほかの規則よりもあとに適用しなければならない。

  1. 論理式に 以外の自由変数が含まれなければ、 個の量化子内にネストされた束縛変数を に置き換える。これらの変数は (量化子)ネスト深さ である。

例 2: の形のすべての集合からなるクラスを定義する論理式 に規則 4 を適用する。すなわち、少なくとも を含む集合と を含む集合— 例えば、 (ここで は集合である)。

が唯一の自由変数であるため、 である。量化された変数 がネスト深さ 2 の で 2 回現れる。 であるので、この下付き添字は 3 である。2 つの量化子の範囲が同じネスト深さの場合、それらは同一か互いに素である。 の 2 回の出現は量化子の範囲が互いに素であるためで、それゆえ互いに干渉することはない。

クラス存在定理の証明. 証明は与えられた論理式に変換規則を適用して、論理式を変換することから始める。この論理式は与えられた論理式と等価であるので、変換済みの論理式を証明すればクラス存在定理の証明が完了する。

ゲーデルは、クラス存在定理は「メタ定理英語版である。すなわち、システム(NBG)に関する定理であり、システム内の定理でではない…」と指摘した。 [30] NBG 論理式の帰納によるメタ理論の中で証明されるため、クラス存在定理は NBG に関する定理である。また、その証明は、有限個の NBG 公理を持ち出す代わりに、与えられた論理式を満たすクラスを構築するためのNBG 公理の使い方を帰納的に表現する。すべての論理式に対して、こうした表現は NBG 内の存在の構成的証明に変えられる。したがって、このメタ理論で NBG のクラス存在定理の使い方を置き換えた NBG の証明を作ることができる。

再帰的なコンピュータプログラムで、与えられた論理式からクラスを簡単に構成することができる。このプログラムの定義はクラス存在定理の証明によらない。しかし、プログラムによって構成されるクラスが与えられた論理式を満たし、公理から構成されたかを確認するには、定理の証明が必要である。このプログラムのPascal形式のcase文を用いた擬似コードを以下に示す。[注釈 9]

を 例 2 の論理式とする。関数呼び出し でクラス を作成するが、以下で と比較する。クラス の構成は、それを定義する論理式 の構成を反転することがわかる。

クラス存在定理の拡張[編集]

ゲーデルはクラス存在定理を、クラスの関係(例えば 単項関係 )、特別なクラス(例えば )、演算(例えば )を含む論理式 に拡張した。[32] クラス存在定理を拡張するには、関係、特別なクラス、演算を定義する論理式が集合上で量化されていなければならない。すると クラス存在定理の仮説を満たす等価な論理式に変換される。

以下の定義は論理式での関係、特別なクラス、演算の定義方法を特定する。

  1. 関係 を以下のように定義する:
  2. 特別なクラス を以下のように定義する:
  3. 演算 を以下のように定義する:

en:Term (logic)は以下のように定義される:

  1. 変数と特別なクラスは項である。
  2. 変数の演算でかつ が項であるならば、 は項である。

以下の変換規則は、関係、特別なクラス、演算を消去する。規則 2b, 3b, 4 をサブ論理式に適用する際は、 が論理式中の他の変数と異なるように を選ぶ。規則はサブ論理式に適用できなくなるまで適用を繰り返す。 は項を表すものとする。

  1. 関係 を定義論理式 で置き換える。
  2. を特別なクラス の定義論理式とする。
    1. で置き換える。
    2. で置き換える
  3. を演算 の定義論理式とする。
    1. で置き換える。
    2. で置き換える。
  4. 外延性の公理を用いて、 に変換する。
例 3: を変換する。

例 4: を変換する。

この例は各規則がどのように演算を消去するのか示すものである。

定理 ―  を集合のみを量化する論理式とし、 以外に自由変数を持たず、集合のみを量化する論理式によって定義された関係、特別なクラス、操作を含みうるものとする。すると、すべての に対して以下を満たす -組のクラス がただ一つ存在する:

[注釈 10]

 

集合公理[編集]

クラス存在定理に必要だった対の公理と正則性公理は、上記の通り与えられている。NBG はほかに 4 つの集合公理を含む。このうち 3 つは集合に適用されるクラス演算として扱われる。

定義.以下が成り立てば 関数である

集合論において、関数を定義する際に始域と終域を特定する必要はない(関数(集合論)を参照)。NBG の関数の定義では、 ZFC の定義のうち、順序類の集合を順序対のクラスに一般化したものになる。

ZFC における和集合冪集合といった集合演算の定義もクラス演算に一般化される。 によるクラス の像は である。 この定義は を必要としない。クラス の和は となる。クラス の冪集合は となる。クラス存在定理の拡張版はこれらのクラスの存在を含意する。置換、和集合冪集合の各公理は、これらの操作が集合に適用したときに集合となることを含意する。[34]

置換公理. が関数で が集合であるならば、 による は集合である。

の定義に必要条件 がなければ、以下の証明に用いる強い形の置換公理となる。

定理(NBGの 分出公理 ―  が集合であり、 の部分クラスであるならば、 は集合である。

  

和集合の公理. が集合であるならば、 を含む集合が存在する。

冪集合公理. が集合であるならば、 を含む集合が存在する。

[注釈 11]

定理 ―  が集合であるならば、 は集合である。

 

無限公理. のすべての元 に対して、 の真部分集合である の元 が存在するような、空でない集合 が存在する。

無限公理と置換公理から空集合の存在が導かれる。クラス存在公理に関する議論において、空クラス の存在は示されている。ここで が集合であることを示そう。関数 と、無限公理で与えられる集合 を仮定する。置換公理より、 による の像は、 と等しい集合である。

NBG の無限公理は ZFC の無限公理から含意される: であるため、 ZFC 公理の論理積の第1項、つまり が NBG 公理の論理積の第1項を含意する。ZFC 公理の論理積の第2項、すなわち が NBG 公理の論理積の第2項を含意する。 NBG の無限公理から ZFC の無限公理を証明するには、ほかの NBG 公理が必要である(弱い選択公理を参照)。[注釈 12]

大域選択公理[編集]

クラスの概念により、NBG では ZFC より強い選択公理が許容される。 選択関数は、空でない集合の集合 上の関数 であり、 を満たすものとして定義される。ZFC の選択公理は、すべての空でない集合の集合に対する選択関数が存在することを述べる。 大域選択関数はすべての空でない集合のクラス上で定義された関数 であり、すべての空でない集合 に対して を満たすものとして定義される。大域選択公理は大域選択関数が存在することを述べる。この公理は ZFC の選択公理を含意する。なぜならば空でない集合のすべての集合 に対して、 への制限)は の選択関数となるからである。1964年、ウィリアム・B・イーストン (William B. Easton) は強制法を使い、選択公理と NBG の大域選択公理以外のすべての公理を満たすモデルを構築することによって、大域選択公理が選択公理よりも強いことを証明した。[38] ZFC の選択公理がどの集合も整列可能であることと等価であるのと同様に、大域選択公理はどのクラスも整列可能であることと等価である。[注釈 13]

大域選択公理. すべての空でない集合から 1 つずつ元を選択できる関数が存在する。

歴史[編集]

refer to caption
NBG 集合論を導いた手法の変遷

フォン・ノイマンの1925年の公理系[編集]

フォン・ノイマンは自身の公理系に関する入門的な論文を1925年に発行した。1928年、彼は公理系の詳細な説明を与えた。[39] フォン・ノイマンの公理系は、関数と引数という原始概念英語版の 2 領域に基づく。これらの領域は重複する—両方の領域に属するものは引数関数と呼ばれる。関数が NBG におけるクラスに対応し、引数関数が集合に対応する。フォン・ノイマンの原始的演算は、a(x) ではなく [ax] で表される関数適用である。ここで a は関数、 x は引数を表す。この演算から引数が生成される。フォン・ノイマンはクラスと集合を、AB の2値の引数関数を使って定義した。また、 [ax] ≠ A ならば x ∈ a であると定義した。[1]

集合論におけるフォン・ノイマンの仕事はゲオルグ・カントールの論文やエルンスト・ツェルメロの1908年の集合論公理アドルフ・フレンケルトアルフ・スコーレムによって独立に発表された1922年のツェルメロ集合論への批評によって広められた。 フレンケルとスコーレムはいずれも、ツェルメロの公理は集合 {Z0Z1Z2, ...} の存在を証明できないと指摘していた。ここで、 Z0自然数の集合であり、 Zn+1Zn冪集合である。そして彼らはそのような集合の存在を保証する置換公理を導入した。[40][注釈 14] しかし、彼らはこの公理を適用しようとは思わなかった:フレンケルは「置換公理は『一般集合論』には強すぎる」とする一方、「スコーレムだけは置換公理を『導入できうる』と書いていた」と述べている。[42]

フォン・ノイマンはツェルメロ集合論の問題点に対処し、解決策を与えた:

  • 順序数の理論
    • 問題点:ツェルメロ集合論に置換公理が不足しているため、カントールの順序数の理論をツェルメロ集合論内で展開できない。[注釈 15]
    • 解決策: フォン・ノイマンは ∈-で整列可能な集合を用いて順序数を定義することで、カントールの理論を復活させ、[注釈 16] そしてキーとなる定理、すなわちすべての順序付け可能な集合が順序数について順序同型英語版であるような順序数に関する定理を、置換公理を用いて証明した。[注釈 15] フレンケルとスコーレムとは対照的に、フォン・ノイマンは集合論における置換公理の重要性を強調していた:「実際、この公理なしに順序数の理論は不可能だと思う」[45]
  • 集合としては大きすぎるクラスを特定する基準
    • 問題点:ツェルメロはそのような基準を示していなかった。ツェルメロ集合論では、パラドックスを引き起こす大きなクラスが排除されていたが、フレンケルとスコーレムが指摘したような、多くの集合が除外されていた。[注釈 17]
    • 解決策:フォン・ノイマンは基準を導入した:クラスが集合として大きすぎるのは、クラスからすべての集合のクラス V への全射が存在するときで、かつそのときに限る。フォン・ノイマンはこのような大きなクラスを元に持つ任意のクラスを許可しないことで、集合論的パラドックスを回避できることを知っていた。この制限と彼の基準を組み合わせることで、サイズ制限公理を得た: クラス C はどのクラスの元でもないのは、 C から V への全射が存在するとき、またそのときに限る。[48][注釈 18]
  • 有限公理化
    • 問題点:ツェルメロは彼の分出公理において、「定値命題関数」の不正確な概念を用いていた。
    • 解決策:スコーレムはのちに ZFC で用いられる分離の公理型を導入し、フレンケルは等価な解決策を用いた。[50] しかし、ツェルメロは「彼自身の観点では、集合論の土台となる自然数の概念をも暗に巻き込む部分があるため」いずれの方法も拒否した。[注釈 19] フォン・ノイマンは「定値命題関数」の概念を有限個の公理から構築できる関数で定式化することにより、公理型を除外した。これによって、フォン・ノイマンの理論は有限公理化できるようになった。[51] 1961年、リチャード・モンタギューは ZFC が有限公理化できないことを証明した。[52]
  • 正則性公理
    • 問題点:ツェルメロ集合論は空集合と無限集合から議論を始め、対の公理の反復、和集合、冪集合、分出公理、選択公理によって新たな集合を得る。しかし、この集合論では集合をこれらの形に制限していない。例えば、集合 xx ∈ x を満たすような、整礎でない集合の存在が許容される。[注釈 20]
    • 解決策:フレンケルはこうした集合を除外するために公理を導入した。フォン・ノイマンはフレンケルの公理を分析し、「厳密な定式化」がなされていないと大雑把に指摘した:「集合に加えて ... その存在は公理に対して絶対必要になる、これ以上に集合はなく。」[54] フォン・ノイマンは正則性公理を整楚でない集合を除外する方法として提案したが、ツェルメロ公理系には取り入れられなかった。1930年になって初めて、ツェルメロは正則性公理を取り入れた公理系を発表した。[注釈 21]

フォン・ノイマンの1929年の公理系[編集]

refer to caption
ジョン・フォン・ノイマン

1929年、フォン・ノイマンは NBG につながる公理を含む論文を発表した。この論文はサイズ制限公理の無矛盾性に対する懸念がきっかけだった。この公理をフォン・ノイマンは「たくさん、実際には多すぎる」と述べている。また、分出公理と置換公理は整列可能定理を含意するほか、濃度V より小さいどのクラスも集合であることをも含意する。フォン・ノイマンは後者について、カントール集合論を越えたと考え、以下のように結論づけた:「ゆえに(公理の)無矛盾性は、それが問題にならないかだけではなく、必須となるカントールのフレームワークを越えない集合論の公理化となるかを議論しなければならない。」[57]

フォン・ノイマンは無矛盾性の調査を1929年の公理系を導入することで始めた。この公理系はサイズ制限公理以外は1925年の公理系すべてを含む。彼は、サイズ制限公理は、そこから得られる 2 つの結果である、置換公理と選択公理に置き換えた。フォン・ノイマンの選択公理は以下の通り:「どの関係 R も、 R と同じ定義域の写像を部分クラスとしてもつ。」[58]

S をフォン・ノイマンの1929年の公理系とする。フォン・ノイマンは公理系 S + Regularity (S と正則性公理からなる)を導入し、自身の1925年の公理系が S相対的に無矛盾であることを示した。また、以下を証明した:

  1. S が無矛盾であれば、 S + Regularity は無矛盾である。
  2. S + Regularity はサイズ制限公理を含意する。Since これは1925年の公理系のうち S + Regularity にない唯一のものであるため、 S + Regularity は自身の1925年の公理系の公理すべてを含意する。

これらの結果は以下の内容を含意する: S が無矛盾であれば、フォン・ノイマンの1925年の公理系は無矛盾である。証明: S が無矛盾であれば、 S + Regularity は無矛盾である(結果 1)。背理法を用いて、1925年の公理系が矛盾である、つまり1925年の公理系が矛盾を含意すると仮定する。 S + Regularity は1925年の公理系を含意する(結果 2)ので、 S + Regularity も矛盾を含意する。しかし、これは S + Regularity の無矛盾性に反する。したがって、 S が無矛盾であれば、フォン・ノイマンの1925年の公理系も無矛盾である。

S は彼の1929年の公理系であるので、フォン・ノイマンの1925年の公理系は(カントール集合論に近い)1929年のものと相対的に無矛盾である。カントール集合論と1929年の公理系の大きな違いは、クラスとフォン・ノイマンの選択公理である。公理系 S + Regularity はベルナイスとゲーデルによって修正され、NBG と等価な公理系となっていった。

ベルナイスの公理系[編集]

パウル・ベルナイス

1929年、パウル・ベルナイスはフォン・ノイマンの新しい公理系を、クラスと集合を原始概念とすることで修正し始めた。ベルナイスは自身の仕事を 1937年から1954年にかけて、一連の論文として発表した。[59] ベルナイスは以下のように述べている:

フォン・ノイマンの公理系を修正する目的は、元のツェルメロ公理系の構造に近いまま維持するほか、論理学者に馴染みのあるシュレーダー論理英語版プリンキピア・マテマティカの集合論的概念を同時に活用するためである。見ての通り、この仕事によって、注目すべき簡略化ができた。[60]

ベルナイスは集合とクラスを2-ソート論理で扱い、2 つの原始的帰属概念を導入した:一つは集合の関係で、もう一つはクラスの関係である。これらの原始概念によって、ベルナイスはフォン・ノイマンの1929年の公理系を簡略化した。ベルナイスはまた、その公理系に正則性公理を導入した。[61]

ゲーデルの公理系 (NBG)[編集]

refer to caption
クルト・ゲーデル、1926年頃

1931年、ベルナイスは自身の集合論に関してクルト・ゲーデルに手紙を送った。ゲーデルはベルナイスの理論を、集合をすべてクラスで置き換え、1ソートで1つの原始概念(帰属関係)からなる理論に簡略化した。ゲーデルはまた、ベルナイスの公理のいくつかを弱め、フォン・ノイマンの選択公理を大域選択公理と等価なものに置き換えた。[62][注釈 22] ゲーデルは、1940年の大域選択と一般連続体仮説の相対的無矛盾性に関するモノグラフの中で、自身の公理系を使った。[63]

ゲーデルが自身のモノグラフの中で NBG を用いた理由はいくつか考えられる:[注釈 23]

  • ゲーデルは数学的理由を与えた—NBGの大域選択公理から、より強い無矛盾な定理が導かれる:「この強い形式の(選択)公理は、他の公理に対して無矛盾であれば、当然弱い形式についての無矛盾性を含意する。」[5]
  • ロバート・ソロヴェイ英語版は以下のように予想した:「私が思うに、彼(ゲーデル)は公理的集合論内でモデル理論の基本を発展させることに関連する、細部の議論を避けたかった。」[67][注釈 24]
  • ケネス・キューネンはゲーデルが議論を避けた理由を以下のように考えている:「L構成可能集合)に関する組み合わせ論的アプローチもたくさんある、例えば ... (1940年のモノローグの中でゲーデルは)論理学者以外に説明することを試みていた。 ... このアプローチは L を扱う際に、論理の痕跡を残さないというメリットがある。」[68]
  • チャールズ・パーソンズ (Charles Prsons) はゲーデルの選択に哲学的理由を考えた:「この(「集合の特徴」が集合論の原始概念であるという)見方は、ゲーデルの(モノグラフのように)クラス変数をフレームワークとする理論の選択に反映されているかもしれない。」[69]

ゲーデルの成果と詳細な説明により、その後20年間にわたって NBG が発展した。[70] 1963年、ゲーデルの作り上げたNBGの無矛盾性証明を援用して、ポール・コーエンはZFの独立性を証明した。[71] その後、 ZFC が NBG よりも一般的になった。これにはいくつかの要因があり、その一つは NBG において強制法を扱うには追加の仕事が必要だったためである。[72] これに関するコーエンの1966年の強制法の発表では、ZFが用いられた。[73][注釈 25] 他の要因としては、NBG が ZFC の保存拡大であることが証明されたからである。[注釈 26]

NBG, ZFC, MK[編集]

NBG は論理的に ZFC と等価ではない。なぜなら、NBG の言葉は表現的であるからである。NBG ではクラスに関して表現できる一方、ZFC ではできない。しかし集合に関しては、 NBG も ZFC で同じ内容の表現を含意する。したがって、NBG は ZFC の保存拡大である。 NBG は ZFC が含意しない定理を含意するが、 NBG は保存拡大であるため、これらの定理は真のクラスに関するものでなければならない。例えば、大域選択公理は 真のクラス V は整列可能であり、どの真のクラスも V と一対一対応することを含意するが、これは NBG の定理である。[注釈 27]

保存拡大の帰結の一つは、 ZFC と NBG が無矛盾性同値であることである。 この証明には爆発原理(矛盾からは、何でも証明可能である)を用いる。 ZFC か NBG のいずれかが無矛盾でないと仮定する。すると無矛盾でない理論は集合に関する、矛盾 する表現 ∅ = ∅ かつ ∅ ≠ ∅ を含意する。保存拡大の特性から、もう一方の理論もこれらの表現を含意する。したがって、こちらも無矛盾ではない。ゆえに、 NBG はより表現的であるものの、 ZFC と無矛盾性同値なのである。この結果とフォン・ノイマンの1929年の相対的無矛盾性の証明を合わせると、彼の1925年の公理系にサイズ制限公理を加えたものが ZFC と無矛盾性同値であることが含意される。ZFCはカントール集合論のフレームワークに含まれるため、この事実は完全にこの強力な公理の相対的無矛盾性に関するフォン・ノイマンの懸念を払拭するものである。

NBG は ZFC の保存拡大であるものの、定理は NBG のほうが ZFC より短くエレガントに証明可能である(逆もしかり)。この側面について知られている結果の調査結果は Pudlák 1998 を参照。

モース=ケリー集合論は、量化子の範囲がクラスである論理式を含む理解の公理型を有する。MK は NBG の無矛盾性を証明できるため、 NBG より強力な理論である一方、[76]ゲーデルの第二不完全定理から NBG は NBG自身の無矛盾性を証明できない。

NBG に関する存在論的な議論や哲学的な問題、特に ZFC と MK との比較については、Potter 2004の Appendix C を参照。

モデル[編集]

ZFC、NBG、MKは累積的階層 Vα および 構成可能階層 Lα の言葉で表現可能なモデルを持つ。 V到達不能基数 κ を含み、 XXVκ であると仮定して、 Def(X) は X のパラメータによる1次の定義可能部分集合のクラスを表すとする。記号として "" は領域 と関係 のモデルを表し、 "" は満足関係(en:Structure_(mathematical_logic)#Satisfaction_relation)を表すものとする:

このとき:

  • (Vκ, ∈) と (Lκ, ∈) は ZFC のモデルである。[77]
  • (VκVκ+1, ∈) は MK のモデルであり、ここで Vκ はモデルの集合からなり、 Vκ+1 はモデルのクラスからなる。[78] MK のモデルは NBG のモデルであるため、このモデルも NBG のモデルである。
  • (Vκ, Def(Vκ), ∈) は、NBG の大域選択公理を ZFC の選択公理に置き換えた、メンデルソン版の NBG のモデルである。[79] (Vκ, ∈) は ZFC のモデルであるため、ZFC 公理はこのモデル内で真である。特に、ZFC の選択公理が成り立つが、 NBG の大域選択公理は成り立たないかもしれない。[注釈 28] 存在を主張するクラスは1次の定義で定義できることから、NBG のクラス存在公理はこのモデル内で真である。例えば、 が以下のように定義されるため、帰属公理が成り立つ:
  • (Lκ, Lκ+, ∈) (κ+ は κ の後続基数)は NBG のモデルである。[注釈 29] NBG のクラス存在公理は (LκLκ+, ∈) の中で真である。例えば、 が以下のように定義されるため、帰属公理が成り立つ:
    ゆえに、 E ∈ 𝒫(Lκ) である。一般連続体仮説L の中で真というゲーデルの証明において、ゲーデルは 𝒫(Lκ) ⊆ Lκ+ であることを証明した。[81] したがって、 E ∈ Lκ+ であり、ゆえに (LκLκ+, ∈) の中で帰属公理は真である。同様に、ほかのクラス存在公理も真である。(順序数のクラスを構成可能集合に移す)ゲーデルの関数を κ 未満の順序数に制限することによって Lκ が整列可能であるため、大域選択公理は真である。したがって、 (LκLκ+, ∈) は NBG のモデルである。

圏論[編集]

NBG の基本概念体系は「大きな対象」をパラドックスのおそれなしに議論する足場を提供する。例えば、圏論の進展において、「大きい圏」は対象が真のクラスをなす圏として定義される。一方、「小さな圏」は対象と射が集合の要素になる圏である。このように、NBG で大きな圏を扱えるため、「すべての集合の圏」や「すべての小さい圏の圏」をパラドックスのおそれなしに議論できる。

しかし、NBG は「すべての圏の圏」を扱えない。大きな圏は「すべての圏の圏」の要素となりえて、かつ NBG は真のクラスが何かの要素になることを許容していないためである。このような「圏」を形式的に議論するための基本概念体系の一つの拡張がクラスの集まりとしての複合体(conglomerate)である。このとき「すべての圏の圏」は、すべての圏からなる複合体を対象全体とし、AB が対象全体を動くときに A から B へのすべての射からなる複合体[82]を射の全体として定義される。 圏論のためにクラスを集合と同様の基本概念体系に含めるのが妥当であるのかどうかについては、 Muller 2001 を参照せよ。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ なぜ「強い」かは大域選択公理の節で説明する。
  2. ^ 歴史的な経緯として、当初は2 ソートのアプローチのほうが一般的に見られた。ベルナイスが自身の理論を展開するにあたり、以下のように述べている。「フォン・ノイマン集合論の考えによると、「集合」と「クラス」という 2 種類のものを扱う必要がある」[11]
  3. ^ ゲーデルは と定義した。[15] これによって定義や公理、定理の書かれ方が変わるものがある。本記事ではメンデルソンの定義にしたがう。[16]
  4. ^ ベルナイスのクラス存在公理ではクラスがただ一つ定まる。ゲーデルは、ベルナイスの公理のうち3つ(共通部分、補集合、領域)を除くすべてで、双条件法論理包含で置き換えることで条件を弱めた。これはクラスの順序対または 3-組のみ特定することを意味する。本節の公理はベルナイスが(順序対のクラスをただ一つ定めるという点で)強めたVの直積以外はゲーデルのものである。ベルナイスの公理によってクラス存在定理の証明が簡単になる。ゲーデルの公理 B6 は組の補題の4番目として現れる。のちにベルナイスは自身の公理の一つが冗長であると気づいた。つまり、ゲーデルの公理の一つも冗長であることが導かれる。ほかの公理を使って、公理 B6 を公理 B8 から証明することができ、また B8 は B6 から証明することができ、これらは互いに冗長な公理とみなせる。[17] 対に関係する公理の名前はフランス語版Wikipediaの記事にならったThéorie des ensembles de von Neumann
  5. ^ a b 本記事ではブルバキの補集合記号と相対補集合記号を用いた。[22] 相対補集合は、クラス存在定理で論理否定() を反転させるために使っている。
  6. ^ ゲーデルは、空集合の存在を証明する前にこの公理に言及しているため、空集合を使わずに述べている。[5]
  7. ^ 本節と次節の証明はゲーデルの証明に基づく。これはゲーデルがプリンストン高等研究所で説明したものである。彼はそこで「数理論理学に精通した聴衆を頼りにすることができた。」[28] ゲーデルの証明を読者にわかりやすくするため、いくつか修正を加えている。本節と次節の目標はゲーデルの M4 (4番めのクラス存在定理)を証明することである。本説の証明はおおむね M1 の証明に従うが[29]、M3 と M4 の証明の手法も使っている。この定理はM1のような特別なクラスではなくクラス変数で述べられている(クラス変数上の全称量化は、クラス変数のどの例化に対しても真であることと等価である)。M1 の証明との主な違いは以下の通り: -組のクラスが基礎・帰納の各ステップの最後にただ一つ生成される点(このステップではベルナイスの強い形の の直積公理が必要である)、そして束縛変数が自由変数の番号に続く添字付き変数で置き換えられること。束縛変数は帰納部分では自由変数となるため、自由変数となるならば、もとの自由変数と同じように扱えるものとみなせる。この証明の利点の一つは、クラスの構成がその定義式の構成の反転となることを示す関数 Class の出力例である
  8. ^ この証明には一部詳細部分が抜けている。 として定義されているので、ゲーデルの表記法が使われている。この論理式はクラス上で量化するため、等価な に置き換えなければならない。すると、証明中の の形の 3 つの論理式は になり、有効な証明ができる。
  9. ^ 擬似コードで書かれた再帰的プログラムは純粋数学でも用いられている。例えば、ハイネ・ボレルの被覆定理や他の解析学の定理を証明するのに用いられる。[31]
  10. ^ この定理はゲーデルの定理 M4 である。彼はまず M1 (自由クラス変数ではなく特別なクラスの記号を使ったクラス存在定理)を証明することで M4 を証明した。M1 から を満たすすべての -組を含むクラスが生成されるが、-組 でない元も含まれうる。定理 M2 はこの定理を関係、特別なクラス、演算を含む論理式に拡張する。特別なクラスを自由変数で置き換えることで、定理 M2 から M3 が得られる。ゲーデルは M3 で
    を定義した。これは外延性の公理からただ一つ定まる。彼は を使って を定義した。M3 で得られるクラスと の共通部分を取って、与えられた論理式を満足する-組の唯一のクラスを生成することで、定理 M3 から M4 が得られる。ゲーデルのアプローチ、特にM3 で を定義することで、ベルナイスの強い形の の直積公理が不要になる。[33]
  11. ^ ゲーデルはベルナイスの和集合・冪集合公理(和集合・冪集合の存在を主張する)を、和集合を含む集合と、冪集合を含む集合の存在を主張する上記の公理に弱めた。[35] ベルナイスはゲーデルのあとに自身の公理系を発表したが、その内容は1931年にゲーデルに送っていたものである。[36]
  12. ^ ZFCの公理は空集合の存在が必要であるため、空集合が不要である点がNBGの公理の長所である。メンデルソンの公理系はZFCの無限公理を用いており、空集合の公理も含む。[37]
  13. ^ 整礎な が大域選択公理を含意することはサイズ制限公理の導出英語版を参照。大域選択公理が任意のクラスの整列関係を含意することは Kanamori 2009, p. 53を参照。
  14. ^ 1917年、ディミトリー・ミリマノフ英語版は濃度の等価性に基づく形式の置換公理を発表した。[41]
  15. ^ a b 1928年、フォン・ノイマンは以下のように述べた。「私の理論に密接に関係する順序数の取り扱いをツェルメロは1916年に知っており、私は個人的なやり取りで教わった。言うまでもなく、各整列集合に対してそれに類似の順序数が存在するという基礎的な定理は、置換公理が知られていなかったので厳密に証明できなかった。」[43]
  16. ^ von Neumann 1923. フォン・ノイマンの定義は整列集合の理論でも使われている。のちに、彼の定義は現代的なものに簡略化された。つまり、順序数を ∈ で順序付けられた推移的集合とするものである。[44]
  17. ^ 累積階層en:cumulative hierarchichy)の導入後、フォン・ノイマンはツェルメロの公理が非可算無限個の継承可算集合英語版を含む順序数 α ≥ ω + ω の存在を証明できないことを示していたかもしれない。この事実はスコーレムの Vω+ω がツェルメロの公理を満たすという結果[46]と、 α ∈ Vβ が α < βを含意するという結果から従う。[47]
  18. ^ フォン・ノイマンは、自身の公理を等価な関数の形で述べている。[49]
  19. ^ スコーレムのアプローチでは暗黙に自然数を使っている。なぜならば公理型の論理式が数学的帰納法を自然数に拡張した構造的帰納法によって構成されているからである。
  20. ^ ミリマノフは1917年に整楚集合を定義した。[53]
  21. ^ アキヒロ・カナモリ英語版はベルナイスが1929〜1930年に自身の公理系に基づいて講義を行ったことと、「…彼とツェルメロはほぼ同時期に基礎(正則性)を組み込む考えに至っていたに違いない」と指摘している。[55]しかし、ベルナイスは1941年まで正則性を自身の公理系に組み込んだものは発表しなかった。[56]
  22. ^ フォン・ノイマンの公理が大域選択公理を含意することの証明: とする。フォン・ノイマンの公理より、 なる関数 が存在する。すべての空でない集合 に対して であるので、関数 は大域選択関数である。
    大域選択公理がフォン・ノイマンの公理を含意することの証明: を大域選択関数として、 を関係とする。 に対して、 とする。ここで はすべての未満の階数を持つ集合の集合である。とする。すると、 はフォン・ノイマンの公理を満たす。なぜならば でありかつ であるからである。
  23. ^ ゲーデルは1938年の自身の相対非矛盾性定理において、フォン・ノイマンの1929年の公理を用ったほか、「Tプリンキピア・マテマティカのシステムとすると関連する定理が成り立つ」と述べた。[64] ゲーデルの1939年の証明のスケッチはツェルメロ集合論およびZFに対するものであった。[65]複数の形式体系における定理の証明はゲーデル馴染みのないものであった。例えば、彼はプリンキピア・マテマティカのシステムに対して不完全性定理を証明したが、「広い形式体系で成り立つ ... 」と述べている。[66]
  24. ^ ゲーデルの非矛盾性の証明は構成可能集合を構成する。ZFの中でこれを構成するには、いくつかのモデル理論が必要である。ゲーデルはモデル理論なしにNBGの中でこれを構成した。ゲーデルの構成については Gödel 1940, pp. 35–46 や Cohen 1966, pp. 99–103 を参照。
  25. ^ コーエンはZFを用いてゲーデルの相対非矛盾性定理の証明も与えた。[74]
  26. ^ この保存拡大定理は1960年代にポール・コーエン、ソール・クリプキ、ロバート・ソロヴェイによって独立に証明された。コーエンの1966年の著書において、この定理について言及し、証明に強制法が必要であると述べている。この定理はロナルド・ジェンセン英語版とウルリッヒ・フェルナー(Ulrich Felgner)によっても独立に証明され、1971年に発表されている。[75]
  27. ^ どちらの結論も、どの真のクラスもすべての順序数のクラスと一対一対応できるという結論から導かれる。この証明の概要はKanamori 2009, p. 53 を参照。
  28. ^ イーストンはZFCの選択公理が成り立つが大域選択公理が成り立たないメンデルソン版NBGのモデル英語版を構成した。
  29. ^ 累積階層 Vκ において、 Vκ の部分集合は Vκ+1 に含まれる。構成可能階層 Lκ の部分集合の生成され方は Vκより遅いが、これは Lκ の部分集合が Lκ+1 ではなく Lκ+ に含まれるからである。[80]

出典[編集]

  1. ^ a b von Neumann 1925, pp. 221–224, 226, 229; English translation: van Heijenoort 2002b, pp. 396–398, 400, 403.
  2. ^ a b c d Bernays 1937, pp. 66–67.
  3. ^ Gödel 1940, p. [要ページ番号].
  4. ^ Gödel 1940, pp. 3–7.
  5. ^ a b c Gödel 1940, p. 6.
  6. ^ Gödel 1940, p. 25.
  7. ^ Gödel 1940, pp. 35–38.
  8. ^ a b "The Neumann-Bernays-Gödel axioms". Encyclopædia Britannica.
  9. ^ a b Gödel 1940, p. 3.
  10. ^ Mendelson 1997, pp. 225–226.
  11. ^ Bernays 1937, p. 66.
  12. ^ Mendelson 1997, p. 226.
  13. ^ Gödel's axiom A3 (Gödel 1940, p. 3).
  14. ^ Gödel's axiom A4 (Gödel 1940, p. 3).
  15. ^ Gödel 1940, p. 4).
  16. ^ Mendelson 1997, p. 230.
  17. ^ Kanamori 2009, p. 56; Bernays 1937, p. 69; Gödel 1940, pp. 5, 9; Mendelson 1997, p. 231.
  18. ^ Gödel's axiom B1 (Gödel 1940, p. 5).
  19. ^ Gödel's axiom B2 (Gödel 1940, p. 5).
  20. ^ Gödel's axiom B3 (Gödel 1940, p. 5).
  21. ^ Gödel's axiom B4 (Gödel 1940, p. 5).
  22. ^ Bourbaki 2004, p. 71.
  23. ^ Bernays' axiom b(3) (Bernays 1937, p. 5).
  24. ^ Gödel's axiom B7 (Gödel 1940, p. 5).
  25. ^ Gödel's axiom B8 (Gödel 1940, p. 5).
  26. ^ Gödel 1940, p. 6; Kanamori 2012, p. 70.
  27. ^ Kanamori 2009, p. 57; Gödel 2003, p. 121. 両文献ともにゲーデルの集合を含むが、カナモリのもののほうが現代的な用語を用いる分読みやすい。
  28. ^ Dawson 1997, p. 134.
  29. ^ Gödel 1940, pp. 8–11
  30. ^ Gödel 1940, p. 11.
  31. ^ Gray 1991.
  32. ^ Gödel 1940, pp. 11–13.
  33. ^ Gödel 1940, pp. 8–15.
  34. ^ Gödel 1940, pp. 16–18.
  35. ^ Bernays 1941, p. 2; Gödel 1940, p. 5).
  36. ^ Kanamori 2009, p. 48; Gödel 2003, pp. 104–115.
  37. ^ Mendelson 1997, pp. 228, 239.
  38. ^ Easton 1964, pp. 56a–64.
  39. ^ von Neumann 1925, von Neumann 1928.
  40. ^ Ferreirós 2007, p. 369.
  41. ^ Mirimanoff 1917, p. 49.
  42. ^ Kanamori 2012, p. 62.
  43. ^ Hallett 1984, p. 280.
  44. ^ Kunen 1980, p. 16.
  45. ^ von Neumann 1925, p. 223 (footnote); English translation: van Heijenoort 2002b, p. 398 (footnote).
  46. ^ Kanamori 2012, p. 61
  47. ^ Kunen 1980, pp. 95–96. Vβ ではなく R(β) という表記になっている。
  48. ^ Hallett 1984, pp. 288–290.
  49. ^ von Neumann 1925, p. 225;英語版:van Heijenoort 2002b, p. 400.
  50. ^ Fraenkel, Historical Introduction in Bernays 1991, p. 13.
  51. ^ von Neumann 1925, pp. 224–226; English translation: van Heijenoort 2002b, pp. 399–401.
  52. ^ Montague 1961.
  53. ^ Mirimanoff 1917, p. 41.
  54. ^ von Neumann 1925, pp. 230–232; English translation: van Heijenoort 2002b, pp. 404–405.
  55. ^ Kanamori 2009, pp. 53–54.
  56. ^ Bernays 1941, p. 6.
  57. ^ von Neumann 1929, p. 229; Ferreirós 2007, pp. 379–380.
  58. ^ Kanamori 2009, pp. 49, 53.
  59. ^ Kanamori 2009, pp. 48, 58. ベルナイスの論文は Müller 1976, pp. 1–117 で再発行されている.
  60. ^ Bernays 1937, p. 65.
  61. ^ Kanamori 2009, pp. 48–54.
  62. ^ Kanamori 2009, p. 56.
  63. ^ Kanamori 2009, pp. 56–58; Gödel 1940, p. [要ページ番号].
  64. ^ Gödel 1990, p. 26.
  65. ^ Gödel 1990, pp. 28–32.
  66. ^ Gödel 1986, p. 145.
  67. ^ Solovay 1990, p. 13.
  68. ^ Kunen 1980, p. 176.
  69. ^ Gödel 1990, p. 108, footnote i. この脚注を含む段落は、なぜゲーデルが「集合の属性」を集合論の原始概念とみなして、どのように自身の存在論に合わせこんだかを含む。「クラスの属性」はNBGにおける「クラス」概念に対応する。
  70. ^ Kanamori 2009, p. 57.
  71. ^ Cohen 1963.
  72. ^ Kanamori 2009, p. 65: 「強制法自体は、どの形式的なクラス理論のダウングレーディングにおいてもかなりの距離を置いていた。一般に拡張させるクラスを特定しなければならないためである。」
  73. ^ Cohen 1966, pp. 107–147.
  74. ^ Cohen 1966, pp. 85–99.
  75. ^ Ferreirós 2007, pp. 381–382; Cohen 1966, p. 77; Felgner 1971.
  76. ^ Mostowski 1950, p. 113, footnote 11. 脚注はハオ・ワンの NQ 集合論を参照している。NQ 集合論はのちに発展し MK となった。
  77. ^ Kanamori 2009b, pp. 18, 29.
  78. ^ Chuaqui 1981, p. 313 では (VκVκ+1, ∈) が MKTR + AxC のモデルであることを証明している。 MKT は、選択公理や置換公理を含まない MK におけるタルスキの公理である。MKTR + AxC は MKT に置換公理と選択公理を加えたものであり(Chuaqui 1981, pp. 4, 125)、これは MK と等価である。
  79. ^ Mendelson 1997, p. 275.
  80. ^ Gödel 1940, p. 54; Solovay 1990, pp. 9–11.
  81. ^ Gödel 1940, p. 54.
  82. ^ Adámek, Herrlich & Strecker 2004, pp. 15–16, 40.

参考文献[編集]

外部リンク[編集]