濃度 (数学)

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数学でいう濃度(のうど、: cardinal number)とは、集合論において無限集合同士のサイズを比較するために、有限集合の要素の個数という概念を無限集合にも拡張させたものである。 一般に集合の濃度は基数 (cardinal number) と呼ばれる数によって表される。有限集合では要素の個数と濃度は等しい。 歴史的には、カントールにより初めて無限集合のサイズが一つではないことが見出された。

定義[編集]

それぞれの集合 A には A の濃度(|A|、card(A)、#A などで表される)と呼ばれるものが一つ割り当てられており、次の性質をみたす:

  1. 集合 A から集合 B への全単射が存在するとき、またそのときに限り |A| = |B|。
  2. A が有限集合のとき、|A| は A の要素の個数に等しい。

ある集合の濃度であるものを基数と呼ぶ。有限集合の濃度(すなわち自然数)を有限基数、無限集合の濃度を無限基数と呼ぶ。

この定義は濃度を集合論的対象として捉えられておらず、その意味で厳密ではない。 正式には、A の濃度とは、A との間に全単射が存在する順序数の中で最小のものであると定義される。実際、このように定義すれば上の性質をみたすことが示される。この定義では全ての集合が濃度を持つことを言うために選択公理が必要である。選択公理を仮定すればかなる集合X は整列可能であることから、ある順序数αに対して |X| = α なるαが存在する。 選択公理を仮定せず、正則性公理を使って濃度を定義する方法も知られている。それは、集合 A との間に全単射が存在するような集合で階数が最小のものをすべて集めた集合を A の濃度と定義する方法であり、これは発見者の名から「スコットのトリック」と呼ばれている。このように集合の濃度を定義する方法は一つではないが、必要なのは濃度が上の性質 1. と 2. をみたすということであって、それが具体的にどのように定義されたかは通常の数学を展開する上ではあまり重要視されない。そのため、数学基礎論以外の多くの文献では「A から B への全単射が存在するとき、AB は濃度が等しいと言う」のように集合の間の関係だけを定義し、濃度(基数)そのものについては具体的に定義せず扱っている。

無限集合の濃度[編集]

可算濃度とは自然数全体の集合の濃度である。通常、\aleph_0(アレフ・ゼロ)あるいは \mathfrak{a} と表記される。\alephヘブライ文字のアレフである。

定義より、可算濃度をもつ集合は自然数全体との間に一対一対応を付けることができ、これによって 1, 2, 3, … と順番に数えていくことができるため可算無限集合と呼ばれる。自然数全体、整数全体、偶数全体、奇数全体、有理数全体はいずれも可算無限集合である。有限集合と可算無限集合をあわせて可算集合と呼ぶ。

連続体濃度とは実数全体の集合の濃度である。\aleph あるいは \mathfrak{c} と表記される。カントールの対角線論法によって \aleph_0 < \aleph が成り立つことが証明される。

可算濃度には以下のような性質がある。

  • \aleph_0 は極小な無限基数である。すなわち、\kappa\aleph_0 より小さい基数ならば、\kappa は有限基数(すなわち自然数)である。
  • 選択公理を仮定すると、\aleph_0 は最小な無限基数である。すなわち、全ての無限基数 \kappa に対して、\aleph_0\leq\kappa が成り立つ。

基数の大小関係[編集]

基数の間に大小関係を定義する。基数 κ, λ に対して、 |A| = κ,|B| = λ である集合 A, B を取ったとする。A から B への単射が存在するとき κ ≤ λ と定義し、κ ≤ λ かつ κ ≠ λ のとき κ < λ と定義する。これは有限基数の範囲では通常の大小関係と一致する。任意の基数 κ, λ, μ に対して、κ ≤ κ と、 κ ≤ λ かつ λ ≤ μ ならば κ ≤ μ が成り立ち、また、次に述べるシュレーダー=ベルンシュタインの定理により、κ ≤ λ かつ λ ≤ κ ならば κ = λ が成り立つ。さらに、選択公理を仮定すれば、任意の基数 κ , λ に対して κ ≤ λ または λ ≤ κ が成り立つ。

ベルンシュタインの定理[編集]

集合 A から集合 B への単射が存在し、B から A への単射も存在すれば、A から B への全単射が存在する。この主張は直観的には当たり前に感じられるかもしれないが、証明をするとなるとそれほど簡単ではない。

後続基数と極限基数[編集]

全ての基数 κ に対して、それより大きい基数 λ でその二つの基数の間には他の基数が存在しないようなものが存在する。つまり、λ は κ の次に大きな基数である。このような基数を κ の後続基数 (successor cardinal) という。ある基数の後続基数である基数のことを単に後続基数といい、どの基数の後続基数にもならないような基数を極限基数 (limit cardinal) という。

後続基数は常に正則基数になるが、一方で正則な極限基数(弱到達不能基数)の存在については未解決であるなど、後続基数と極限基数の間には大きな性質の違いが見られる。

基数の演算[編集]

基数の間には自然数の場合と同じく和、積、冪が定義できる。特に有限基数(自然数)の間の演算は通常のそれと一致する。

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κ, λ を基数とする。 集合 A, B を |A| = κ,|B| = λ,AB = ∅ をみたすように取ったとき、AB の濃度は A, B の特定の取り方によらず一定である。そこで |AB| を κ と λ のといい、これを κ + λ で表す。

基数の和について次が成り立つ:

  1. κ , λ が有限基数ならば、和 κ + λ は自然数の間の通常の和と一致する。
  2. κ + λ = λ + κ.
  3. (κ + λ) + μ = κ + (λ + μ).
  4. κ + 0 = 0 + κ = κ.
  5. κ ≤ λ ⇒ κ + μ ≤ λ + μ.

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κ , λ を基数とする。 集合 A, B を |A| = κ ,|B| = λ をみたすように取ったとき、A × B の濃度は A, B の特定の取り方によらず一定である。そこで |A × B| を κ と λ のといい、これを κ · λ で表す。

基数の積について次が成り立つ:

  1. κ, λ が有限基数ならば、和 κ · λ は自然数の間の通常の積と一致する。
  2. κ · λ = λ · κ.
  3. (κ · λ) · μ = κ · (λ · μ).
  4. κ · (λ + μ) = (κ · λ) + (κ · μ).
  5. κ · 1 = 1 · κ = κ.
  6. κ · 0 = 0 · κ = 0.
  7. κ ≤ λ ⇒ κ · μ ≤ λ · μ.

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κ , λ を基数とする。 集合 A, B を |A| = κ,|B| = λ をみたすように取ったとき、 BA の濃度は A, B の特定の取り方によらず一定である。そこで |BA| を κ の λ 乗といい、これを κλ で表す。

基数の冪について次が成り立つ:

  1. κ, λ が有限基数ならば、冪 κλ は自然数の間の通常の冪と一致する。
  2. κλ + μ = κλ · κμ,
  3. (κ · λ)μ = κμ · λμ,
  4. λ)μ = κλ · μ,
  5. κ0 = 1.
  6. κ ≠ 0 ⇒ 0κ = 0.

基数と順序数[編集]

有限集合に対しては濃度と順序数はどちらも自然数であり要素の個数に一致する。例えば、1, 2, 3, …, n と有限個の数を並べた場合、濃度は n、順序数は n である。これを並べ替えて、2, 3, …, n, 1 とした場合も濃度と順序数は変わらない。しかし無限集合ではそうはならない。例えば、すべての自然数を 0, 1, 2, 3, … と並べた場合の濃度は \aleph_0、順序数は ω である。これを並べ替えて 2, 3, …, 1 とした場合、濃度は変わらないが、順序数は ω + 1 になり、ω より大きくなる。

関連項目[編集]