鹿の王

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

鹿の王』(しかのおう)は上橋菜穂子ファンタジー小説である。

概要[編集]

架空の世界を舞台に、ヴァンとホッサルの2人の男を中心にストーリーが展開されていく。

あらすじ[編集]

上巻[編集]

この物語は2人の男を中心としてストーリーが展開されていく。

一人は、飛鹿(ピユイカ)と呼ばれる鹿を操り、故郷を守るために戦った独角(どっかく)という集団の頭だった、ヴァン。しかし戦いに敗れ、地下のアカファ岩塩鉱で働かされていたのだが、ある晩、謎の獣が岩塩鉱を襲撃、獣は人々を次々と噛んでいった。その後、岩塩鉱で謎の病が流行しヴァンだけが生き残った。ヴァンは地上で侵入した家の竃の中からもう一人の生き残った幼児(女の子)を見つけ、ユナと名づけて一緒に生きることになる。

そして、もう一人の主人公は東乎瑠(ツオル)帝国の医術師ホッサル。ホッサルは病の原因究明のため岩塩鉱に行く。そこで脱走防止の足枷がひとつ外れているのが見つかりヴァンの脱走が発覚。同時に噛まれても病にかからない人もいる事がわかった。この一件でホッサルの従者であるマコウカンは生き延びたヴァンを捜索することになる。また、この病がかつてオタワル王国を滅ぼした黒狼熱(ミツツアル)ではないかとホッサルは疑いはじめる。

病に関する多くの謎を秘めたまま下巻へと続く。

下巻[編集]

何者かにユナを連れ去られその跡を追うヴァン。その先には〈火馬の民〉(アフアル・オマ)の族長のオーファンが待っていた。彼もまたヴァンと同じく故郷を追われた身であり、もう一度故郷を取り戻すためにとヴァンに協力を求める。

同じ頃、ホッサルの一行は王幡領の山地氏族に捕らえられていた。山地氏族は自分達には無害と思われていた黒狼熱が自分にだけ牙を剥くと知り、ホッサルに特効薬の製作を依頼するために連れ去ったのであった。

探していたユナは山地氏族の元にいたため、ユナを通じてホッサルとヴァンは出会う。

黒狼熱をめぐる陰謀、故郷を取り戻すために暴走しだした〈火馬の民〉、帝国に支配される前の国同士の関係性がヴァンやホッサルたちに絡みつく

時系列[編集]

  • 季節ごとに記載(具体的年数等がないため)
  • 間大きく期間が開く(作中で)場合か「〜空いた時間〜」と記載する。

《秋》 ヴァン:岩塩鉱に山犬の襲撃、三日後に奴隷、看守多くが死亡。ヴァン、ユナ岩塩鉱から脱走。

〜三日〜

ホッサル:岩塩鉱訪問、後にサエにヴァンの跡追いを依頼、しかしサエの消息がつかめなくなる。
ヴァン:トマと遭遇、カザン→オキ地方と旅を始める。
《冬》 ヴァン:トマの故郷オキ地方へ、そこで過ごす。

〜二年〜

《秋》 ホッサル:御前鷹ノ儀、山犬が襲撃しホッサルらが手当てをする。アカファ王に施療院を作る提案をする。鷹匠らが発病し次々亡くなる。イザム、オリム、スルミナも発症するがリムエッルにより回復。

《冬》 ヴァン:ヴァンが谺主の元を訪れる。その後裏返りを体感する。ナッカにユナが攫われる。ヴァン矢毒を受ける。

ホッサル:オタワル聖領の深学院へ、その後東乎瑠の移民が住む街へ向かう途中またも山犬に襲われた末捕えられ拉致される。その後調査をする中でユナと出会う。

ヴァン:矢毒を受けるもサエに救われる、ユナを追うなかで火馬の民と出会う。東乎瑠との戦いに立ち会うもケノイに矢を射たサエを救い駆け出す。結果火馬の民を裏切る。

ホッサル:ミラルが黒狼熱にかかる。

ヴァン:ナッカを発見し、ユナの元へ案内させる。

ヴァンホッサル:二人が出会う。ホッサルが黒狼熱の解釈を伝え、また会うことを約束し、ヴァンはユナ、サエと共にオキ地方へ帰路につく。

ヴァン:ヨミダの森へ着く

〜四日〜

ヴァン:谺主と再会、その後オキ地方へ帰りトマと再会した後ホッサルの元へ向かう。

ホッサル:オタワル聖領でヴァンを待つ途中トマソルとシカンが来訪する。

ヴァンホッサル:再会、シカンの企みの可能性を察知する。

ヴァン:シカンを追う。

《春》 ヴァン:玉眼来訪、祭事を襲撃してきた犬とオーファンを退ける。ヴァンが火弾の爆風で意識を失う。シカンの目論見が黒狼熱を持つダニであることを知る。

ホッサル:一連の黒狼熱の事変の黒幕が祖父リムエッルであると知りリムエッルの元を訪れる。王阿候を犬に襲わせる企みに気付く。

ヴァン:黒狼熱を持った犬、及び犬を噛んだダニを人から遠ざけるために犬を率いて飛鹿〈暁〉と犬と山の奥へ消える。

ホッサル:マルジの息子によって犬の襲撃は防がれシカンも弓で射殺された後現場を訪れる。

〜二日〜

ホッサル:薬の生成について考えながら過ごす。

書籍情報[編集]

単行本[編集]

  • 『鹿の王 上 ―生き残った者―』(2014年9月25日、KADOKAWA)
  • 『鹿の王 下 ―還って行く者―』(2014年9月25日、KADOKAWA)

登場人物[編集]

ヴァン
本作の主人公。ピュイカ(飛鹿)を操り、故郷を守るために戦う「独角(どっかく)」という集団の頭。
戦いに敗れニカのアカファ岩塩鉱で奴隷として働かされている。
山犬(オッサム)が岩塩鉱を襲撃したときに生き残り脱走した。
その際に1-2歳の女の子を拾いユナと名付けた。
ユナと共にカザンを目指そうとする道中トマと出会い、トマの誘いで彼の故郷であるオキ地方の盆地へと向かいそこで冬を越し、一時の平穏な生活を送るが再度山犬と対峙する。その時“自分がふたつに分かれた”それにより山犬を追い払った。それをきっかけに<谺主(こだまぬし)>に呼ばれヨミダの森へ赴き、そこでその時の自分がふたつに分かれる感覚が「裏返し」というものだと知る。その後岩屋に入ってきた山犬と対峙しなんとかこれを追い払うがその間にユナを攫われ、それを追うが矢毒で倒れサエに助けられるがそこでサエが跡追いであると知る。しかし捕えられずに足跡を残され、疑心を抱きながらもその跡を追うと火馬の民、そしてその族長オーファンと出会う。そして彼に言われるがまま連れられた先にいた義兄と再会する。半月ほどオーファンらと過ごすが犬を使って東乎瑠を追い払った時ケノイに矢を放ったサエを助けて逃げ出す。そしてナッカを見つけユナの元に案内させたところでホッサルと出会う。ホッサルから黒狼熱のことを聞くとホッサルに協力するためにカザンの医院に向かいホッサルと再び会うことを約束し、サエ、ユナとオキに帰る旅をした、その後カザンの医院でホッサルと再会、そこでシカンの企みに気付く。シカンを追いカザンの街へ向かった。その時は「玉眼訪来」という祭典で賑わっており、そこを犬の襲撃があったがそれらを抑える。その後再度行われたシカンの襲撃も抑え、犬を率いる事が出来れば黒狼熱を抑える事が出来ると考えるようになり犬を連れて人の届かないところまで消えていった。
ユナ
岩塩鉱でヴァンが拾った元気のいい幼子。
岩塩鉱をヴァンと共に抜け出しオキ地方の盆地へと向かいその後ヨミダの森へと向かう。そこでナッカに攫われる。そしてナッカの手によりユナの叔母の元に届けられ面倒を見てもらっていたが、1人で抜け出し夜帰ってくるなど手を焼いた末にホッサル一行と出会う。そして発症したミラルと共にいたところでナッカに案内されたヴァンと再会する。それからヴァンが犬を連れて山奥に消えるまでヴァンと行動を共にする。アッシミが光って見える。
トマ
怪我をして動けなかったところをヴァンに助けられた青年。ヴァンとユナに故郷であるオキ地方へ来るように誘う。ヴァンに鹿の乗り方を教わり「玉眼来訪」に出場する。
オーファン
ヴァンが導かれた先で出会った〈火馬の民〉の族長。「キンマの犬(黒狼熱を持つ犬)」を「神の使い」と信仰している。故郷である「ユカタの野」へ帰る事を目的としておりそのためにヴァンを必要とする。ヴァンを義兄に合わせた。しかしヴァンが裏切り、ケノイが亡くなりこれ以上手がなくなってなお戦うことをやめずシカンと手を組み、犬を使って「玉眼訪来」を襲撃する。その際矢に射られ命を落とす。
ケノイ
〈火馬の民〉の元族長、犬の王。東乎瑠と戦う犬を率いていたがその最中命を落とす。
スオッル
〈谺主〉。ワタリガラスに魂を乗せて飛ぶヨミダの森に住む老人。ヴァンに裏返りや黒狼熱についての助言をする。
ホッサル
本作のもう一人の主人公である、高名な医術師である祖父リムエッルの薫陶を受け、東乎瑠帝国の支配階層に名を轟かせる医術師。
山犬による謎の病の原因究明のため岩塩鉱へ向かう。岩塩鉱を訪れた際に最初に黒狼熱の可能性と逃亡奴隷のヴァンが噛まれて尚生きていることを指摘する。そこで跡追いのサエにヴァンの追跡を頼む。
御前鷹ノ儀に参加した時、山犬の襲撃に遭遇しその後の治療に奔走。またアカファ王にジカルの狩猟用の館を施療院にすることを進言する。発生原因を探る為東乎瑠の移民が住む街へ向かう途中またも山犬に襲われた末捕えられ拉致される。そこで山犬を使ったトゥーリムらに病を収めて欲しいと頼まれる。そこでユナと出会う。しばらく黒狼熱を調査している内に従者のミラルが発病し治療に当たる中で偶然遭遇したナッカに薬を持ってくるよう指示すると薬とともに連れてきたヴァンとの対面を果たす。ヴァンが黒狼熱に罹らない理由の説明をするとヴァンの血液サンプルを手に入れる。カザンの医院でヴァンと再会を果たすと今度は祖父であるリムエッルの元を訪れ祖父の口からシカンに手を貸したと証言を聞く。そこでリムエッルから重ねてオタワル医術の危機を聞かされる。その後二度目のシカンの襲撃の後に噛まれた者たちの治療に当たる。
マコウカン
〈奥仕え〉の家系にありながら闘技場の賭け闘士として戦う日々を送っていく中で重傷を負ったところをホッサルに助けられ以後従者となる。岩塩鉱に向かうホッサルに同行しその後ホッサルが頼んだサエの跡追いにも同行するがサエを見失い死んだと思いこむ。それからは絶えずホッサルに同行するが発生原因を探るため東乎瑠の移民が住む街へ向かう最中山犬に襲われ、立ち向かうも吹き矢を受け、ホッサル共々攫われる。そこでマコウカンの姉と再会を果たす。その後調査する中でユナと遭遇し気に入られる。そしてヴァンがホッサルと合う時にはサエにタッツリ(睡眠薬)を盛られ眠らされる。事あるごとに災難な目に合いながらもホッサルの従者として尽力する。
サエ
跡追い狩人マルジの娘。ホッサルからヴァンの跡追いを頼まれる。跡追いの最中マコウカンとはぐれ、怪我を追い湯治の最中に偶然ヴァンと出会う。その後矢毒に倒れたヴァンを助け、ヴァンにユナの元へ続く手がかりを残す。オーファンら〈火馬の民〉と東乎瑠の戦いの時、ケノイに矢を放ちオーファンに殺されそうなところを間一髪ヴァンに助けられる。またヴァンとホッサルを合わせるのにマコウカンら従者にタッツリを盛って眠らせた。その後もヴァンが犬を連れて山奥に消えるまでヴァンと行動を共にした。
ミラル
ホッサルの従者。オタワル人。ホッサルと共に施療院で治療に励む。ホッサルと偽ったトゥーリムに呼ばれて〈火馬の民〉の元に訪れる。身分の違うホッサルのことを慕っている。その後調査を続ける中でユナと遭遇し気に入られる。黒狼熱を持ったダニに噛まれ黒狼熱にかかるがホッサルの治療の末回復する。
イリア
マコウカンの姉でオタワルの(奥)に仕えてきたシノック家の家業を継いだチイハナに火馬の民を探ることを命じられている。山犬の襲撃を企てた側の人間で、オタワル聖域の(奥)を裏切っていた。
リムエッル
ホッサルの祖父、高名な医術師で皇帝の愛妃を救ったことがある。施療院に赴きホッサルと共にスルミナと緒利武の治療に当たる。しかしシカンとキンマの犬を裏で操っていた張本人である。
トゥーリム
アカファ王の懐刀、山犬を使い東乎瑠、ムコニアからの解放を考える。ホッサルに黒狼熱の特効薬を作るように頼み込む。
トマソル
ホッサルの兄、オタワル深学院院長。オタワル聖領付近で黒狼の調査をシカンと共にした。

ホッサルとヴァンがシカンを疑ったおりにはシカンの事情を知っていたため庇ったがヴァンとホッサルの説得の末にシカンのことを話す。

シカン
トマソルの助手、〈火馬の民〉の出身。肉親を惨殺された過去を持つ。トマソルの助手をしながらリムエッルの指示で山犬と黒狼熱をばら撒く。ケノイの死後オーファンと手を組み玉眼訪来を襲撃するも失敗、その後も襲撃を試みるもその際に跡追い狩人のマルジの息子たちに殺された。
ピュイカ(飛鹿)
鹿。断崖を下るなど山では馬よりも行動しやすい。
山犬(オッサム)
謎の獣。山犬の牙にかかった人間は謎の病にかかり死んでしまう。
土葬した動物の死骸を掘り起こして食べる習性がある。

黒狼熱について[編集]

元々の黒狼熱[編集]

病素はアカファ王国やその近辺に生息するダニがもっていた。飛鹿、火馬、トナカイなどは生息地に生える地衣類()を食べており、それにより体内に黒狼熱への免疫をもっていた。またアカファ王国民や各山地民は飛鹿、火馬、トナカイなどの乳製品を普段から口にしており、そこから黒狼熱に免疫をもっていた。オタワル王国にはそのダニが生息しておらず、東乎瑠帝国は宗教上の理由で乳製品を口にしないので免疫をもっていなかった。

東乎瑠帝国の侵略と毒麦事件[編集]

東乎瑠人の入植により各地で東乎瑠人が口にする黒麦が栽培され始めた。東乎瑠人が持ち込んだ黒麦と、古くからその土地で〈火馬の民〉が栽培しているアカファ麦とが自然と交配された。その結果、新しいアカファ麦には毒穂がつきやすい毒麦となった。毒麦とは知らずに火馬は毒麦を食べ、火馬が死んだ。また、これが毒麦事件へと発展する。しかし毒麦事件の中、毒麦を食べても死なない火馬や羊がいた。

〈火馬の民〉の風習と〈キンマの犬〉[編集]

山犬と黒狼をつがわせて半仔である〈キンマの犬〉が生まれた。〈火馬の民〉は火馬や羊が病んで死んだとき、塚に埋めてその肉を掘り出して母犬に食べさせる(獣の中にできた抗体や病素を接種させて強い子犬を産ませるため)。火馬には黒狼熱への免疫があり、その肉を食べた母犬から産まれた子犬もまた免疫をもつ。毒麦を食べても死ななかった火馬や羊が他の病で死んだときも同様に母犬に食べさせた、このとき生まれた子犬は黒狼熱と免疫、毒麦の毒と免疫の両方を得た。またこの子犬は賢く育ちが早く、新しい〈キンマの犬〉となった。

アカファ人の食生活の変化[編集]

東乎瑠帝国の入植でトナカイの乳が手に入りにくくなっている。その結果アカファ人の黒狼熱への免疫が薄くなってきている。

新しい黒狼熱[編集]

新しい〈キンマの犬〉によって元々の黒狼熱と毒麦の毒が合わさり、新しい黒狼熱が生まれた。元々免疫をもっていたヴァンたちに変化が訪れたのは新しい黒狼熱による影響。アカファ人は黒狼熱に罹らないはずであったが、免疫が弱まり黒狼熱も強力化したことでアカファ人にも感染するようになった。

受賞歴[編集]

脚注[編集]

外部リンク[編集]