複素数平面におけるリーマンのゼータ関数。点
s における色が
ζ(s) の値を表しており、濃いほど
0 に近い。色調はその値の偏角を表しており、例えば正の実数は赤である。
s = 1 における白い点は
極であり、実軸の負の部分および臨界線
Re(s) = 1/2 上の黒い点は
零点である。
数学におけるリーマンゼータ関数(リーマンゼータかんすう、英: Riemann zeta function)とは、

で表される関数 ζ のことである。素数分布の研究を始めとした解析的整数論における重要な研究対象であり、数論や力学系の研究を初め数学や物理学の様々な分野で用いられているゼータ関数と呼ばれる一連の関数のうち、最も歴史的に古いものである。リーマンのゼータ関数とも呼ばれる。
ガンマ関数を用いれば、リーマンゼータ関数を
とも定義できる。(導出はメリン変換を参照)
すでにオイラーがこの関数を考察して主に特殊値に関する重要な発見をしていたが、のちにより重要な貢献をしたリーマンが用いたギリシャ文字の ζ による表記に因み、リーマンゼータ関数と呼ぶ。上記級数は s の実部が 1 より真に大きい複素数のときに収束する(s = 1 のとき調和級数である)が、解析接続によって s = 1 を一位の極としそれ以外のすべての複素数において正則な有理型関数となる。
ゼータ関数の特殊値[編集]
ゼータ関数に整数を代入したものをゼータ定数またはゼータ関数の特殊値と言う。任意の正の偶数 2n について

と表せる。ここで、B2n はベルヌーイ数である。また、n ≥ 1 の時、

が成り立つ。s が負の偶数であれば ζ(s) = 0 であり、これらをリーマン・ゼータ関数の自明な零点と呼ぶ。これらの表示はオイラーによる。
具体的には、
(→バーゼル問題)
が成り立つ。ここで、

とおくと、
が成り立つ。この漸化式はベルヌーイ数の漸化式から導かれる。
s が正の奇数のときの ζ(s) を表す簡潔な表現は得られていない。それでもラマヌジャンなどは次のような表示式を得ている。

小さい正の奇数については、
(→調和級数)
(アペリーの定数)
などが数値的に成り立っている。これらに関して、
という級数が知られている。アペリーの定理によると ζ(3) は無理数である(1978年、ロジェ・アペリ)。
級数との関係[編集]
ゼータ関数と級数の関係の視覚化。 黄色線はk=1...50に対する

を表し、これらの連結は級数を表す。赤の破線は

を表す。緑線はsの実数部を-0.5から1.5まで変化させたときの

の軌道を表す。オレンジの線は級数の軌道を表す。
ゼータ関数と級数の関係の視覚化。緑線はsの虚数部を0.01から10まで変化させたときの

の軌道を表す。
複素平面上で複素数はベクトルとして表され、和はベクトルの和で表される。このため級数
は
に対する
を連結したものとなる。この図形は
が大きくなると、
を中心とする螺旋に漸近する。実際に
が大きいとき以下の近似式が成り立つ。
このことは
が オイラー・マスケローニ定数の一般化とみなせることを示している。
のとき、
を変化させたときの
が描く軌跡は原点に収束する螺旋となり、
のとき、原点を中心とする半径
の円、
のとき、原点を中心として外に広がる螺旋となる。このために、級数は
で
に収束し、それ以外の場合は「
を中心として」発散する。
とし、
を 0 に近づけると、
の実数部はオイラー・マスケローニ定数に収束し、虚数部は
が正の方向から近づくとき
、
が負の方向から近づくとき
となる。
オイラー積[編集]
ゼータ関数と素数との最初の関連はオイラーによって示された。全ての素数 p をわたる無限積によってリーマンゼータ関数は

という表示を持つ。これをオイラー積あるいはオイラー表示という。この無限積が Re s > 1 のときゼータ関数に絶対収束していることは、幾何級数(等比級数)の公式

が絶対収束すること(特に有限和のように分配法則が成り立つこと)に注意して、十分に大きな素数 p を固定し、それ以下の素数 p をわたる有限積を作り、その p → ∞ とした極限を考えることで示すことができる。この部分有限積の展開について、自然数 n の最大素因数が p であれば、そこまでの有限積の中に n が含まれるため、上のようなゼータ関数のオイラー積表示が成り立っている。
ゼータ関数の表示と関数等式[編集]
ゼータ関数は次のような表示も持つ:

ここで ρ に関する積はリーマン・ゼータ関数の複素零点全体をわたるものとする。この式から、

は整関数であることが分かる。実際

ここで γ はオイラーの定数、γi はスティルチェス定数と呼ばれているものである。オイラーは1749年に

という式を推測している。
またゼータ関数は、リーマンの1859年の論文『与えられた数より小さい素数の個数について』の中で

という関数等式を持つことが示された。ここで Γ はガンマ関数である。これは複素解析的関数の解析接続が初めて明示的に行われた例である。
s = −2n (n は正の整数)を代入すると

- sin (−nπ) = 0 であり他の因子は有限値なので ζ(−2n) = 0 である。したがって −2n はゼータ関数の零点である。
次のように修正されたゼータ関数(これは実質的にリーマンによって導入され、完備化されたゼータ関数と呼ばれる)

は s と 1 − s に関する以下のような対称的な関数等式を持つ:

(リーマンのクシー関数も参照。)
関数等式の導出[編集]
関数等式は以下のようにして求まる。ガンマ関数の定義と変数の置き換えにより

であるならば、以下の式の和と積分を入れ替えることができる。

ここで
とおくと
となる。ここで
とおくと、
はフーリエ変換に対し不変である。
また、フーリエ変換の定数倍の公式より、
のフーリエ変換は
である。
よってポアソン和公式から以下が成り立つ。

よって

である。よって

は以下の式と等しい。

つまり

よって

この式はすべての
について収束する。また、右辺は
を
に変えても変化しないことから以下の等式が成り立つ。

ガンマ関数の乗法公式および相反公式より

よって

ゼータ関数と数論的関数[編集]
ゼータ関数を適当に組み合わせることにより、様々な数論的関数を係数とするディリクレ級数の母関数を得ることができる。
たとえば、ゼータ関数の逆数はメビウス関数 μ(n) を用いて

と表せる。この式と ζ(2) の値から、分布が一様であるという仮定の下、任意に取り出した2つの整数が互いに素である確率は
であることが証明できる。
自然数 n の(正の)約数の個数を d(n)、全ての約数の和を σ(n) で表すとき、

が成り立ち、また、n と互いに素な n 以下の自然数の個数を
オイラーのφ関数 φ(n) で表すとき、

なども成り立つ。
ゼータ関数と素数の個数関数[編集]
以下に素数分布、すなわち素数の個数関数 π(x) とゼータ関数との関係を述べる。
まずゼータ関数のオイラー積表示の両辺において対数をとり、テイラー展開で和の中の対数を展開する:

ここで各 n ≥ 1 について

と変形して、先の式に代入すると
通常

と置いて、最終的に上式は次のように書かれる。

この公式に、メリン変換などと呼ばれる積分の反転公式を使うと、π(x) を表示する公式を求めることができる。この公式は、リーマンの素数公式、あるいは明示公式 (explicit formula) などと呼ばれている。なおメビウスの反転公式によって π(x) は
と書けることを注意しておこう。
ゼータ関数の零点の分布に関する未解決問題であるリーマン予想は、素数公式の近似精度に関連している。この予想は純粋数学における最も重要な未解決問題であると考える数学者は多い。
参考文献[編集]
- 本橋洋一、解析的整数論 I -- 素数分布論 --、朝倉書店、東京 2009. ISBN 978-4-254-11821-6
- Motohashi, Yoichi, "Spectral Theory of the Riemann Zeta-Function". Cambridge University Press, 1997. ISBN 9780521445207
- Harold M. Edwards, Riemann's Zeta Function, Dover Publications, 2001. ISBN 0486417409
- E. C. Titchmarsh, The Theory of the Riemann Zeta-Function, Oxford University Press: USA, 2nd ed. (rev. by D. R. Heath-Brown), 1987. ISBN 0198533691
- 日本数学会 『岩波数学辞典(第3版)』 岩波書店、1985年。ISBN 4000800167
- 松本耕二 『リーマンのゼータ関数』 朝倉書店、2005年。ISBN 4254117310
- 小山信也 『素数とゼータ関数』 共立出版、2015年。ISBN 9784320112001
関連項目[編集]
外部リンク[編集]