リーマン予想

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リーマンのゼータ関数 ζ(1/2 + ix) の実部(赤色)と虚部(青色)を表したもの。自明でない零点x = ±14.135, ±21.022, ±25.011 に現れる。

リーマン予想(リーマンよそう、英:Riemann Hypothesis)は、ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって提唱された、ゼータ関数零点の分布に関する予想である。英語表記 Riemann Hypothesis の直訳であるリーマン仮説と表記したり、RH と略したりすることもある。数学上の未解決問題の一つであり、クレイ数学研究所ミレニアム懸賞問題の一つとしてリーマン予想の解決者に対して100万ドルの懸賞金を支払うことを約束している。

概要[編集]

リーマン素数の分布に関する研究を行っている際にオイラーが研究していた以下の級数をゼータ関数と名づけ、解析接続を用いて複素数全体への拡張を行った。

ゼータ関数を次のように定義する。

\zeta (s)=1+\frac{1}{2^s} +\frac{1}{3^s} +\frac{1}{4^s} + ... =\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}

1859年にリーマンは自身の論文の中で、複素数全体 (s ≠ 1) へゼータ関数を拡張した場合、

ζ(s) の自明でない零点 s は、全て実部が 1/2 の直線上に存在する。

と予想した。ここに、自明な零点とは負の偶数 (−2, −4, −6, …) のことである。自明でない零点は0 < Re s < 1[1]の範囲にしか存在しないことが知られており(下記の歴史を参照)、この範囲をクリティカル・ストリップという。

なお素数定理はリーマン予想と同値な近似公式[2]からの帰結であるが、素数定理自体はリーマン予想がなくとも証明できる。この注意は歴史的には重要なことで、実際リーマンがはっきりとは素数定理を証明できなかった理由はリーマン予想の正否にこだわっていたためであると思われている(素数分布とのゼータ関数との関係はゼータ関数素数定理リーマンの素数公式の項を参照のこと)。

現在もリーマン予想は解かれていない。数学における最も重要な未解決問題の一つである。リーマンのゼータ関数を特殊な場合に含む L 関数に対しても同様の予想を考えることができ、これを一般化されたリーマン予想(Generalised Riemann Hypothesis : GRH と略される)と呼んでいる。

最近では、虚部が小さい方から10兆個 (X. Gourdon and P. Demichel, 2004) までの複素零点は全てリーマン予想を満たすことが計算されており、現在までにまだ反例は知られていない。現在では多くの数学者が(当然のことだが、はっきりした根拠を持たずに)リーマン予想は正しいと考えているようである。しかし無限にある零点から見ればたかだか有限の数表などは零点分布の全容を明らかにするには至らないとして、この数値計算の結果に対して慎重な数学者もいる。歴史上有名な数学者の中でもリーマン予想を疑っていた数学者はいる[3]

数値計算手法がいくら進歩しても、その有限個の数値解の裏付けとして数学的に厳密な証明を与える必要があることには変わりない。

リーマン予想の歴史[編集]

リーマン予想から帰結する命題と同値命題[編集]

リーマン予想を実際に使うに当たり、リーマン予想が成立すれば正しいことが知られている命題や、リーマン予想と同値であることが知られている性質を記載する。

同値な命題[編集]

  • ある定数 C が存在して、十分大きな任意の x に対し、

|\pi(x)-\operatorname{li} x|\leq C\, \sqrt{x} \, \log x

が成り立つこと (Von Koch (1901))。ここに li x対数積分を表し、log x自然対数を表す。これは

\pi (x)=\operatorname{li} x+O(x^{\frac{1}{2}+\varepsilon} )

と表現しても同じことである。ただし、Oランダウの記号である。

  • 自然数 n の正の約数の和を σ(n)(約数関数)で表すとき、n > 5040 に対して

\sigma (n)<e^\gamma n\log \log n

が成り立つこと (Robin 1984)。ここに γ はオイラー定数を表す。

  • 任意の自然数 n に対して

\sigma (n)\le H_n +e^{H_n} \log H_n

が成り立つこと (Lagarias & Jeffrey 2002)。ここに Hnn 番目の調和数、すなわち

H_n =\sum_{k=1}^n \frac{1}{k}

で定義される有理数である。

素数分布[編集]

リーマンゼータ関数の零点を渡る項での与えられた数よりも小さい素数の個数リーマンの明示公式は、素数の期待値の周りの振動の大きさはゼータ関数の零点の実数部分により制御されるということになる。特に、素数定理の誤差項は零点の位置に密接に関連している。例えば、零点の実部の上限は、誤差が O(xβ) となるような数 β の下限である (Ingham 1932)。

Von Koch (1901) はリーマン予想は素数定理の誤差の「最善の」境界を意味することを証明した。 Schoenfeld (1976)による、コッホの結果の正確なものは、リーマン予想が正しければ次が成り立つことを言っている。全ての x ≥ 2657 に対し、

|\pi (x)-\operatorname{Li} x|<\frac{1}{8\pi} \sqrt{x} \log x.

Schoenfeld (1976) では、リーマン予想から次が言えることも示されている。全ての x ≥ 73.2 に対して、

|\psi (x)-x|<\frac{1}{8\pi} \sqrt{x} (\log x)^2

が成り立つ。ここに、ψ(x) は第二チェビシェフ関数である。

数論的関数の増加度[編集]

リーマン予想は多くの他の数論関数と、上記の素数計数関数の増加度への強い境界制限を意味する。

一つ例を挙げると、メビウス関数 μ がある。実部が 1/2 より大きな全ての s に対して、

\frac{1}{\zeta(s)} =\sum_{n=1}^\infty \frac{\mu(n)}{n^s}

が成り立ち、右辺が収束することは、リーマン予想と同値である。このことから、メルテンス関数英語版

M(x)=\sum_{n\le x} \mu (n)

により定義すると、全ての ε > 0 に対して、

M(x)=O(x^{\frac{1}{2}+\varepsilon})

となることと、リーマン予想は同値である (Titchmarsh 1986) と結論できる。(これらの記号の意味は、ランダウの記号を参照。)オーダー nレッドヘファー行列英語版の行列式は M(n) に等しいので、リーマン予想はこの行列式の増加の条件として記述することができる。Odlyzko & te Riele (1985) は、少し弱いメルテンス予想英語版が誤っていることを証明したので、リーマン予想は、M の増加の境界をより厳しく取っている。

|M(x)|\le \sqrt{x}

リーマン予想は、μ(n) 以外の数論的関数の増加度についての多く予想と同値である。典型的な例として、ロビンの定理 (Robin's theorem) (Robin 1984) があり、この定理は、約数関数 σ :

\sigma (n)=\sum_{d\mid n} d

が与えられると、全ての n > 5040 について

\sigma (n)<e^\gamma n\log \log n

が成立することと、リーマン予想が正しいことと同値である。ここに γ はオイラーの定数である。

ほかにも、ジェローム・フラネル英語版による例と、エドムンド・ランダウによる拡張がある(Franel & Landau (1924) を参照)。リーマン予想は、ファレイ数列の項が正規であることを示すいくつかの記述と同値である。そのような同値のうちの1つが次である。

Fn を自然数 n に対応するファレイ数列 (1/n, …, 1/1) とすると、全ての ε > 0 に対し
\sum_{i=1}^m |F_n (i)-\tfrac{i}{m} |=O(n^{\frac{1}{2}+\epsilon})
であることと、リーマン予想は同値である。ここに、
m=\sum_{i=1}^n \phi (i)
は、n に対応するファレイ数列の項数とする。

群論の例としては、g(n) を n対称群 Sn の元の最大位数により与えられるランダウ関数英語版とすると、Massias, Nicolas & Robin (1988) によると、リーマン予想は十分に大きい n に対して

\log g(n)<\sqrt{\operatorname{Li}^{-1} n}

と抑えられることに同値である。

リンデロフ予想とゼータ関数の増加[編集]

リーマン予想はリーマン予想よりも弱い結論を持っている。その一つがクリティカルライン上のゼータ関数の増加率についてのリンデレーフ予想英語版である。任意の ε > 0 に対して、t → ∞ では

\zeta \left( \frac{1}{2} +it\right) =O(t^\varepsilon )

となる。

リーマン予想はまた、他のクリティカル・ストリップでのゼータ関数の増加率の非常に鋭い境界を意味する。例えば、このことは、

 e^\gamma \le \limsup_{t\rightarrow +\infty}\frac{|\zeta (1+it)|}{\log \log t} \le 2e^\gamma
\frac{6}{\pi^2} e^\gamma \le \limsup_{t\rightarrow +\infty} \frac{1/|\zeta (1+it)|}{\log \log t} \le \frac{12}{\pi^2} e^\gamma

を意味するので、ζ(1 + it) とその逆数の増加率は、2倍の範囲内で分かっている (Titchmarsh 1986)。

大きな素数ギャップ予想[編集]

素数定理は、平均すると、素数 p とそれより大きな素数の間の英語版は log p であることを意味している。しかし、素数の間の差は、平均よりも非常に大きいことがあるかもしれず、ハラルド・クラメール(Harald Cramér)は、リーマン予想を仮定すると、全ての差が \mathcal{O}(\sqrt{p} \log{p}) であることを示した。この場合は、リーマン予想を使って証明できる最もよい境界を選んでも、正しいと思えるものよりも非常に弱い。クラメール予想英語版は、全てのギャップは \mathcal{O}((\log p)^2) であり、このことは平均ギャップよりは大きい一方で、リーマン予想の意味する境界より非常により小さくなることを意味している。数値的な根拠がクラメール予想を支持している (Nicely 1999)。

リーマン予想と同値な評価条件[編集]

リーマン予想に同値な多くの命題が見つかっていて、今までそれらの内でどれも証明される(あるいは、誤りが証明される)ことへ向けての大きな前進はない。いくつかの典型的な例は下記のようになる。(他は、約数関数の漸近増加率 (approximate growth rate of divisor function) σ(n) を含んでいる。)

リースの評価条件英語版は、Riesz (1916) で提出され、次の式が全ての ε > 0 に対して成立することと、リーマン予想が成立することと同値であることを示した。

-\sum_{k=1}^\infty \frac{(-x)^k}{(k-1)! \zeta(2k)} = O\left( x^{\frac{1}{4}+\epsilon}\right)

Nyman (1950) は、リーマン予想が成り立つことと、次の形の関数のなす空間が単位区間上で二乗可積分関数のヒルベルト空間 L2(0, 1) で稠密であることとが同値であることを示した。

f(x)=\sum_{\nu=1}^nc_\nu \rho \left( \frac{\theta_\nu} {x} \right)

ここに ρ(z) は z のフラクタル部分で 0 ≤ θν ≤ 1 であり、

\sum_{\nu =1}^nc_\nu \theta_\nu =0

とする。Beurling (1955) はこの結果を、ゼータ関数は実部が 1/p より大きな零点を持たないことと、この関数空間が Lp(0, 1) の中で稠密であることを示すことで拡張した。

Salem (1953) はリーマン予想が成立することと、1/2 < σ < 1 に対して、積分方程式

\int_0^\infty \frac{z^{-\sigma -1} \phi (z)\, dz}{{e^{x/z}} +1}=0

が非自明な有界な解 φ を持たないことが同値であることを証明した。

ヴェイユの評価条件英語版は、ある関数の正値性がリーマン予想と同値であることを言っている。リの評価条件英語版では、ある数列の正値性がリーマン予想と同値であることを言っている。

Speiser (1934) では、リーマン予想と ζ(s) の導関数 ζ'(s) が次の帯状領域の中に零点を持たないことと同値であることを証明した。

0<\operatorname{Re} s<\frac12

ζ が直線 Re s = 1/2 上に位数 1 の零点しか持たないことは、(定義により)その導関数 ζ' が直線 Re s = 1/2 上に零点を持たないことと同値である。

一般化されたリーマン予想の結果[編集]

応用として、リーマン予想というよりも数体のゼータ関数やディリクレの L-級数の一般化されたリーマン予想を使うものがある。リーマンゼータ関数の多くほ基本的性質は、容易にディリクレの L-級数全てへ一般化することができるので、リーマンのゼータ関数に対して証明された方法がディリクレの L-級数の一般化されたリーマン予想として活用できる。まず一般化されたリーマン予想を使い証明されたいくつかの結果が、一般化されたリーマン予想を使わずに無条件での証明が後に与えられたが、通常はるかに難しかった。次のリストに記載した結果の多くは、Conrad (2010) から取っている。

  • 1913年、グロンウォールは、一般化されたリーマン予想からガウスの類数 1 の虚二次体のリストが完全であることが従うことを示した。ベイカー、スタークやヒーグナーは後に、一般化されたリーマン予想を使うことなしにこれを無条件で示した。
  • 1917年、ハーディとリトルウッドは、一般化されたリーマン予想からチェビシェフの予想
\lim_{x\to 1^-}\sum_{p>2} (-1)^{\frac{p+1}{2}} x^p =+\infty
が従うことを示した。この予想は、ある意味で、4 を法として 1 と合同な素数よりも 3 と合同な素数の方がより一般的であることを言っている。
  • 1923年、ハーディとリトルウッドは、一般化されたリーマン予想が奇数に対する弱い形のゴールドバッハ予想を含んでいることを示した。全ての十分に大きな奇数は、3つの素数の和で表される。1937年、ヴィノグラードフは一般化されたリーマン予想を前提にしない方法で証明した。 1997年、ジャン・マーク・デショーラー英語版、エフィンガー、テ・リエールとジノヴィエフは一般化されたリーマン予想が 5 よりも大きな全ての奇数が 3つの素数の和で記述されることを含んでいることを証明した。
  • 1934年、チョーラは、一般化されたリーマン予想が正しければ、m を法として a と合同な最小の素数は、固定された定数 K に対して、高々 Km2 log(m)2 であることを示した。
  • 1967年、フーリィは、一般化されたリーマン予想がアルティンの原始根の予想英語版を含んでいることを証明した。
  • 1973年、ワインバーガーは、一般化されたリーマン予想がイドニール数英語版のオイラーによるリストが完全であることを示した。
  • Weinberger (1973) は、代数体全てのゼータ関数の一般化されたリーマン予想が類数 1 の任意の数体がユークリッド環であるか、判別式が −19, −43, −67, もしくは −163 である虚二次体であることを含んでいることを示した。
  • 1976年、G. ミラーは、一般化されたリーマン予想がミラー-ラビン素数判定法により多項式時間で素数判定が可能であることを示した。2002年、マニンドラ・アグラワル、ニーラッジ・カヤル、ニティン・サクセーナはこの結果を無条件下でAKS素数判定法を使い証明した。
  • Odlyzko (1990) は、どのように一般化されたリーマン予想を使い、数体の判別式と類数の評価をより改善することができるかを議論している。
  • Ono & Soundararajan (1997) は、一般化されたリーマン予想がラマヌジャンの整数二次形式英語版 x2 + y2 + 10z2 が、ちょうど 18 個の数だけを除き、それが局所的に表す全ての整数を表すことができることを意味することを示した。

排中律[編集]

リーマン予想の結果の中には、リーマン予想の否定の結果でもあるものがあり、したがってそれは定理である。ヘッケ(Hecke)、ドイリング(Deuring)、モルデル(Mordell)、ヘイルブロン(Heilbronn)の定理の議論の中で、(Ireland & Rosen 1990, p. 359) は次のように言っている。

The method of proof here is truly amazing. If the generalized Riemann hypothesis is true, then the theorem is true. If the generalized Riemann hypothesis is false, then the theorem is true. Thus, the theorem is true!!     (punctuation in original)
ここの証明の方法は本当に驚くべきものである。もし一般化されたリーマン予想が正しいならば、この定理は正しい。もし一般化されたリーマン予想が誤りでも、この定理は正しい。従って、この定理は正しい!!

一般化されたリーマン予想が誤っているということの意味を理解するには注意を要する。正確にどのディリクレ級数のクラスが反例となるかを特定する必要がある。

リトルウッドの定理[編集]

これは素数定理の誤差の符号に関係している。全ての x ≤ 1023 に対し π(x) < Li(x) であることが計算されており、π(x) > Li(x) となる x は知られていない。π(x), x / ln x, li(x) の表を参照。

しかしながら、1914年、リトルウッドは

\pi (x)>\operatorname{Li} x+\frac13 \frac{\sqrt x}{\log x} \log \log \log x

を満たす任意に大きい x が存在し、

\pi (x)<\operatorname{Li} x-\frac13 \frac{\sqrt x}{\log x} \log\log\log x

を満たす任意に大きい x も存在することを証明した。従って、差 π(x) − Li x は無限回にわたり符号を変える。スキューズ数は、最初に符号を変えることに対応する x の値の見積もりである。

リトルウッドの証明は 2つの場合に分かれ、一つはリーマン予想は偽であると仮定し( Ingham 1932, Chapt. Vのページのおよそ半分)、もう一つはリーマン予想は真であると仮定する(およそ10ページ)。

ガウスの類数予想[編集]

これは、類数問題(Class number problem)という予想であり(最初に言及したのはガウスの Disquisitiones Arithmeticae の記事 303 である)、そこには与えられた類数をもつ虚二次体は有限個しかないことが記載されている。このことを証明する方法の一つは、判別式が D → −∞ となるときに、類数 h(D) → ∞ となることを示すことである。

リーマン予想に関わる以下の一連の定理は、Ireland & Rosen 1990, pp. 358–361に記載されている。

定理(ヘッケ (Hecke); 1918). D < 0 を虚二次体 K の判別式とする。全ての虚二次体のディリクレ指標の L-関数についての一般化されたリーマン予想を仮定すると、ある定数 C が存在して、

h(D)>C\frac{\sqrt{|D|}}{\log |D|}
となる。

定理 (ドイリング (Deuring); 1933). リーマン予想を偽と仮定すると、|D| が十分に大きいと h(D) > 1 である。

定理 (モルデル (Mordell); 1934). リーマン予想を偽と仮定すると、D → −∞ のとき h(D) → ∞ となる。

定理 (ハイルブロン (Heilbronn); 1934). ある虚二次体のディリクレ指標の L-関数に対して一般化されたリーマン予想が偽であると仮定すると、D → −∞ のとき h(D) → ∞ となる。

(ヘッケとハイルブロンの仕事の中では、 L-関数は虚二次体の指標についてのL-関数だけであり、一般化されたリーマン予想が正しいか、誤っているかを問題としているのはそれらの L-関数に対してだけである。厳密には、3次のディリクレ指標のL-関数についての一般化されたリーマン予想が誤っているということは、一般化されたリーマン予想が誤りであることを意味する。しかし、ヘイルブロンの考えていた一般化されたリーマン予想が誤っているということではないので、彼の仮定は単に「一般化されたリーマン予想は誤りである」というものよりも限定されたものであった。)

1935年、カール・ジーゲルは、リーマン予想や一般化されたリーマン予想を使わずにより強い結果を示した。

オイラーのトーシェント関数[編集]

1983年、J. L. ニコラスは (Ribenboim 1996, p. 320) で、無限に多くの n に対し、

\varphi(n) < e^{-\gamma}\frac {n} {\log \log n}

となることを証明した。ここに \varphi(n)オイラーの(トーシェント)関数であり、γ はオイラーの定数である。

リーベンボイムは次のように注意している。

証明の方法は、不等式はまずはリーマン予想が正しいことを前提として示され、次にはリーマン予想が誤りであることを前提にして示されている点で、興味深い。

リーマン予想の一般化と類似する予想[編集]

ディリクレのL-級数と他の数体[編集]

リーマン予想は、リーマンのゼータ関数を形式的には似ているが非常に一般的な大域的 L-関数に置き換えることで一般化することができる。この幅広い設定では、大域的 L-関数の非自明なゼロ点の実部が 1/2 であると期待できる。リーマンのゼータ関数のみに対する古典的なリーマン予想よりも、これらの一般化されたリーマン予想こそが数学で真の重要性を持っていると考えられている。

一般化されたリーマン予想 (generalized Riemann hypothesis) は、全てのディリクレの L-関数へリーマン予想を拡張したものである。特に、このことはジーゲルの零点英語版 (Siegel zero) (1/2 と 1 の間にある L 関数の零点)が存在しないという予想を含んでいる。

拡張されたリーマン予想 (extended Riemann hypothesis) は、リーマン予想を代数体の全てのデデキントのゼータ関数へと拡張したものである。有理数体のアーベル拡大に対する拡張されたリーマン予想は、一般化されたリーマン予想と同値である。リーマン予想は数体のヘッケ指標(Hecke character) の L-関数へ拡張することもできる。

大リーマン予想英語版は、ヘッケ固有形式英語版 (Hecke eigenform) のメリン変換のような、全ての保型形式のゼータ関数へリーマン予想を拡張したものである。

有限体上の多様体の関数体とゼータ関数[編集]

Artin (1924) は、(2次の)関数体の大域的ゼータ関数を導入し、これらに対するリーマン予想の類似を予想した。種数 1 の場合は Hasse が証明し、一般の場合は Weil (1948) が証明した。例えば、位数 qq は奇数)の有限体の二次指標のガウス和の絶対値は

\sqrt{q}

であるという事実は、実は関数体の設定でのリーマン予想の例となっている。このから、Weil (1949) は、全ての代数多様体に対する類似の予想を導いた。このヴェイユ予想は、Pierre Deligne (1974, 1980) により証明された。

セルバーグのゼータ関数[編集]

Selberg (1956) では、リーマン面のセルバーグのゼータ関数が導入された。これらはリーマンのゼータ関数に似ていて、関数等式をもち、素数ではなく閉測地線を渡る、オイラー積に似た無限積を持っている。セルバーグ跡公式は素数の理論の明示公式の類似物である。セルバーグは、セルバーグのゼータ関数が、リーマン面のラプラシアンの固有値に関係するゼロ点の虚部についての、リーマン予想の類似を満たすことを証明した。


その他のゼータ関数[編集]

リーマン予想の類似は他のゼータ関数にも多くの例があり、それらのうちのいくつかは既に証明されている。関数体のゴスのゼータ関数英語版 (Goss zeta function) にもリーマン予想があり、Sheats (1998) で証明された。岩澤理論主予想は、バリー・メイザー (Barry Mazur) とアンドリュー・ワイルズ (Andrew Wiles) によって円分体に対して証明され、ワイルズにより総実体に対して証明されたが、p-進 L-関数の零点をある作用素の固有値と同一視するものであり、従って p-進 L-関数に対するヒルベルト・ポリア予想の類似物と考えることができる (Wiles 2000)。

リーマン予想の証明への試み[編集]

何人かの数学者がリーマン予想の解決を発表したが、どれも正しい解答として受け入れられていない。Watkins (2007) にはいくつかの誤った解がリストアップされていて、さらに frequently announced には、常に更新されている。


Schumayer & Hutchinson (2011) のサーベイは、リーマンゼータ関数に関連する適当な物理的なモデルを構成するいくつかの試みについて記載されている。

リー・ヤンの定理[編集]

リー・ヤンの定理は、統計力学のある分配関数の全ての零点が、実部が 0 の「クリティカルライン」上にあることを言っていて、これはリーマン予想との関係についてある見方を与える (Knauf 1999)。

非可換幾何学[編集]

Connes (1999, 2000) は、リーマン予想と非可換幾何学との関係を述べ、アデール類の空間上のイデール類群の作用のセルバーグ跡公式 (Selberg trace formula) の類似物からリーマン予想を導けることを示した。これらのアイデアの一部は、Lapidus (2008) に詳述されている。

整関数のヒルベルト空間[編集]

Louis de Branges (1992) はリーマン予想は整関数の作るあるヒルベルト空間の正値性から導けるということを示した。しかし Conrey & Li (2000) はこの正値性条件は満たされないことを示した。

零点の軌跡[編集]

零点の数[編集]

偏角の原理と関数等式によって、虚部が 0 と T の間にあるゼータ関数の零点の数は、s = 1/2 + iT として、次で与えられる。

N(T)=\frac{1}{\pi} \operatorname{Arg} \xi (s)=\frac{1}{\pi} \operatorname{Arg} \left(\Gamma\left(\frac{s}{2} \right)\pi^{-\frac{s}{2}} \zeta (s)\frac{s(s-1)}{2}\right)

ここに偏角は、偏角 0 の ∞ + iT から出発し Im s = T の直線に沿って連続的に変化させることで定義される。これは、大きいがよくわかっている項

\frac{1}{\pi} \operatorname{Arg} \left(\Gamma \left(\frac{s}{2} \right)\pi^{-s/2} \frac{s(s-1)}{2}\right) =\frac{T}{2\pi} \log \frac{T}{2\pi} -\frac{T}{2\pi} +\frac{7}{8} +O(\frac{1}{T})

と小さいがミステリアスな項

S(T)=\frac{1}{\pi} \operatorname{Arg} (\zeta (\frac{1}{2} +iT))=O(\log T).

の和として表される。従って、虚部が T の近くの零点の密度は、おおよそ log(T)/2π であり、関数 S は、これとの小さな差を記述する。 カラツバ英語版 (Anatolii Alexeevitch Karatsuba) は1996年、H \ge T^{\frac{27}{82}+\varepsilon} に対し、全ての区間 (TT + H] は、関数 S(t) が符号を変える点を少なくとも

 H(\log T)^{\frac{1}{3}} e^{-c\sqrt{\log\log T}}

個持つことを証明した。

Selberg (1946) は、S の偶数べきの平均モーメントが次の式で与えられることを示した。

\int_0^T |S(t)|^{2k} dt=\frac{(2k)!}{k!(2\pi)^{2k}} T(\log \log T)^k + O(T(\log \log T)^{k-1/2}).

このことは、S(T)/(log log T)1/2 が平均 0 で分散 2π2ガウス分布に似ていることを示している(この事実は、Ghosh (1983)により証明された)。特に、|S(T)| は普通は (log log T)1/2 の近くにあるが、ときには非常に大きくなる。S(T) の増加度の正確なオーダーは知られていない。

数値計算では、S が非常にゆっくりと増加することが確かめられている。T < 280 に対し |S(T)| < 1, T < 6800000 に対し |S(T)| < 2 が示されていて、今のところ見つかっている |S(T)| の最大値は 3 よりそれほど大きくない(Odlyzko 2002)。

リーマンの評価 S(T) = O(log T) は、零点の間のギャップは有界であることを意味している。リトルウッド (Littlewood) はこれを少し改善して、それらの虚部の間のギャップが 0 に向かうことを示した。

零点の存在しない領域[編集]

De la Vallée-Poussin (1899–1900) は、σ + it がリーマンのゼータ関数の零点であれば、ある定数 C > 0 に対して 1 − σ ≥ C/log t であることを証明した。言い換えると、零点は直線 σ = 1 に近すぎるところには存在し得ず、この直線の近くには零点のない領域が存在する。

クリティカルライン上のゼロ点[編集]

Hardy (1914)Hardy & Littlewood (1921) は、クリティカルライン上に無限に多くのゼロ点が存在することを、ゼータ関数に関連するある関数のモーメントを考えることにより示した。Selberg (1942) は、少なくとも(小さな)正の割合の零点はクリティカルライン上にあることを証明した。Levinson (1974) は、ゼータ関数の零点とゼータ関数の微分の零点を関連付けることにより、この結果を 1/3 に改良し、Conrey (1989) はさらに 2/5 に改善した。

ハーティとリトルウッドの予想[編集]

1914年、ハーディ (G. H. Hardy) は \zeta\left(\tfrac{1}{2}+it\right) は無限に多くの実数の零点を持つことを示した。

グラムの点[編集]

グラムの点英語版は、クリティカルライン 1/2 + it 上の点であり、ゼータ関数が零でない実数である点をいう。クリティカルライン上のゼータ関数のこの表現を使うと、ζ(1/2 + it) = Z(t)e − iθ(t) となる。ここにハーディの関数 Z英語版 は実数 t に対し実数となり、θ はリーマン・ジーゲルのテータ関数英語版である。これから sin θ(t) = 0 のときに、ゼータ関数が実数となることがわかる。これは、θ(t) が π の整数倍ということであり、式をθについて解くことによって、グラムの点の位置をかなり簡単に計算することができる。グラムの点は、普通、n = 0, 1, ... に対して gn と番号づけられ、gn は θ(t) = nπ の一意的な解である。

グラムは、2つのグラムの点の間にゼータ関数の零点がしばしばちょうどひとつ存在することに気づいた。ハッチンソンはこれをグラムの法則と呼んだ。他にもいくつかグラムの法則と呼ばれることのある密接に関連するステートメントがある。例えば、(−1)nZ(gn) は通常正である、あるいは、Z(t) は、通常、連続したグラムの点では反対の符号を持っている。下の表は最初のいくつかの零点の虚部 γn(青色)と最初のいくつかのグラムの点 gn である。

g−1 γ1 g0 γ2 g1 γ3 g2 γ4 g3 γ5 g4 γ6 g5
0.000 3.436 9.667 14.135 17.846 21.022 23.170 25.011 27.670 30.425 31.718 32.935 35.467 37.586 38.999
この図は、0 ≤ t ≤ 34 に対して ζ(1/2+it) の値を複素平面において示している。(t=0 に対し、ζ(1/2) ≈ -1.460 は、赤い曲線の最も左の点に対応している。)グラムの法則は、曲線が零点の間で通常一度実軸と交わることを言っている。

グラムの法則が最初に成り立たないのは、127番目の零点とグラムの点 g126 であり、「間違った」順番になっている。

g124 γ126 g125 g126 γ127 γ128 g127 γ129 g128
279.148 279.229 280.802 282.455 282.465 283.211 284.104 284.836 285.752

リーマン予想の肯定/否定の議論[編集]

リーマン予想に関する数学の論文はそれが真であるかどうか注意深く明言しない傾向にある。Riemann (1859)Bombieri (2000) のように、意見を述べる人の大半は、リーマン予想は正しいと予想(あるいは少なくとも期待)している。これについて深刻に疑っていることを表明する人は少なく、その中には Ivić (2008)Littlewood (1962) がいる。Ivić は懐疑的に考えている理由を並べている。また Littlewood は、誤りであると信じており、正しいという何らの証拠がない、正しいことを示す想像できる理由も全く存在しない、ときっぱり述べている。サーベイの論文 (Bombieri 2000, Conrey 2003, Sarnak 2008) の共通認識としては、リーマン予想が正しいという証拠は、強いが圧倒的ではないので、おそらく正しいであろうが、これを疑うのも妥当であるとしている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ Re は複素数の実部を示す記号
  2. ^ 素数の個数関数 π(x) の対数積分による近似公式を指す。同値命題の節の第一の命題を参照。リーマンの素数公式より、π(x) の対数積分による近似の誤差項はゼータ関数の零点がクリティカル・ストリップの両端から遠ければ遠いほど小さくなることが分かる。この距離が最大限に遠いということ、即ち全てのゼータ零点がクリティカル・ストリップの中心線上に整列しており、近似の誤差がその方針で考え得る限り最も小さくなるだろうということがリーマン予想のそもそもの意味である。
  3. ^ ダービーシャー (2004, pp. 309, 411).

関連文献[編集]

外部リンク[編集]