メリン変換

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数学におけるメリン変換(メリンへんかん、: Mellin transform)とは、両側ラプラス変換乗法版と見なされる積分変換である。この変換はディリクレ級数の理論と密接に関連しており、数論漸近展開の理論においてよく用いられる。ラプラス変換フーリエ変換ガンマ関数特殊関数の理論と関係している。

この変換の名はフィンランドの数学者ヒャルマル・メリン英語版の名にちなむ。

定義[編集]

局所可積分な関数 f のメリン変換は

により定義される。 任意の小さな正の数 に対して、 のとき のとき と評価できるならば、上の積分は絶対収束する。さらに、 で解析的な関数となる。

また、メリン逆変換は

により定義される。記号は、複素平面上の縦軸に沿った線積分を意味している。ここで、 c を満たす任意の実数である。 このような逆が存在するための条件は、メリン逆定理英語版で与えられている。

他の変換との関係[編集]

両側ラプラス変換は、メリン変換を用いて

と表すことが出来る。反対に、メリン変換は両側ラプラス変換により

と表される。

メリン変換は、積分核 xs を用いた、乗法的ハール測度 についての積分と考えることが出来る。ここで は拡張 について不変であり、したがって が成り立つ。一方、両側ラプラス変換は加法的ハール測度 についての積分と考えられる。ここで は移動不変であり、したがって が成り立つ。

同様にフーリエ変換もメリン変換を用いて表すことが出来、またその逆も出来る。もし両側ラプラス変換を上述のように定義するなら、

が成立する。反対に

も成立する。メリン変換はまた、ニュートン級数英語版二項変換英語版を、ポアソン-メリン-ニュートン・サイクル英語版の意味におけるポアソン母関数と結び付ける。

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カヘン-メリン積分[編集]

および主枝英語版上の に対して、

が成立する。ここで ガンマ関数である。この積分はカヘン-メリン積分として知られている[1]

数論[編集]

数論における重要な応用例として、単関数 に対し

が成立する、ということが挙げられる。

ゼータ関数[編集]

メリン変換を用いることで、リーマンゼータ関数 についての公式を得ることができる。としたときよって

L2 上のユニタリ作用素として[編集]

ヒルベルト空間の研究において、メリン変換は少し異なった方法で定められる。Lp空間を参照されたい)の関数に対して、基本帯(fundamental strip)は常に を含む。そのため、線形作用素

によって定義することが出来る。言い換えると、集合

を定義することが出来る。この作用素は通常 とシンプルに記述され、「メリン変換」と呼ばれる。しかしここでは、上での記述と区別するために を記号として用いる。このときメリン逆定理英語版により、 は可逆であって、その逆は

と得られることが分かる。さらにこの作用素は等長であること、すなわち がすべての に対して成立することが分かる(この性質のために係数 が用いられている)。したがって、ユニタリ作用素である。

確率論において[編集]

確率論におけるメリン変換は、確率変数の積の分布の研究によく用いられる[2]X を確率変数とし、X+ = max{X,0} をその正の部分、X − = max{−X,0} をその負の部分としたとき、X のメリン変換は

として定義される[3]。ここで γ は、γ2 = 1 を満たすもの(formal indeterminate)である。この変換は、複素帯領域 D = {s: a ≤ Re(s) ≤ b}(ただしa ≤ 0 ≤ b)内のすべての s に対して存在する[3]

確率変数 X のメリン変換 は、その分布関数 FX を一意に定める[3]。確率論におけるメリン変換が持つ重要な性質として、次が挙げられる: X および Y を二つの独立な確率変数としたとき、それらの積のメリン変換は、それぞれのメリン変換の積と等しい[4]。すなわち、

が成立する。

応用[編集]

メリン変換は、そのスケール不変性のため、計算機科学の分野で広く用いられている。あるスケール変換を施された関数のメリン変換の絶対値は、もとの関数の絶対値と等しい。このスケール不変性は、フーリエ変換のシフト不変性とも同様である。時間に関してシフトされた関数のフーリエ変換の絶対値は、もとの関数のそれと等しい。

この性質は、画像認識を行う際に役に立つ。物体の画像は、その物体がカメラに近づいたり離れたりするだけで簡単にスケールが変わってしまうからである。

その他の例[編集]

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ Hardy, G. H.; Littlewood, J. E. (1916). “Contributions to the Theory of the Riemann Zeta-Function and the Theory of the Distribution of Primes”. Acta Mathematica 41 (1): 119–196. doi:10.1007/BF02422942.  (See notes therein for further references to Cahen's and Mellin's work, including Cahen's thesis.)
  2. ^ Galambos & Simonelli (2004, p. 15)
  3. ^ a b c Galambos & Simonelli (2004, p. 16)
  4. ^ Galambos & Simonelli (2004, p. 23)

参考文献[編集]

  • Galambos, Janos; Simonelli, Italo (2004). Products of random variables: applications to problems of physics and to arithmetical functions. Marcel Dekker, Inc.. ISBN 0-8247-5402-6 
  • Paris, R. B.; Kaminski, D. (2001). Asymptotics and Mellin-Barnes Integrals. Cambridge University Press 
  • Polyanin, A. D.; Manzhirov, A. V. (1998). Handbook of Integral Equations. Boca Raton: CRC Press. ISBN 0-8493-2876-4 
  • Flajolet, P.; Gourdon, X.; Dumas, P. (1995). “Mellin transforms and asymptotics: Harmonic sums”. Theoretical Computer Science 144 (1-2): 3–58. 
  • Tables of Integral Transforms at EqWorld: The World of Mathematical Equations.
  • Weisstein, Eric W. "Mellin Transform". mathworld.wolfram.com (英語).

外部リンク[編集]