Γ(x + iy) の絶対値
(グラフ中「Re」は
x に相当、「Im」は
y に相当)
数学においてガンマ関数(ガンマかんすう、英: Gamma function)とは、階乗の概念を複素数全体に拡張した(複素階乗ともいう)特殊関数である。階乗との間では次の関係式が成り立つ:

互いに同値となるいくつかの定義が存在するが、1729年、数学者レオンハルト・オイラーが無限乗積の形で、最初に導入した[1]。
実部が正となる複素数 z について、次の広域積分で定義される複素関数
をガンマ関数と呼ぶ[2]。この積分は、ルジャンドルの定義にしたがって、第二種オイラー積分とも呼ばれる。元は階乗の一般化としてオイラーが得たもので、Γ という記号は、1814年にルジャンドルが導入したものである[1]。それ以前は Π(x) などと表記していた(ただし Π(x) = Γ(x + 1))。
一般の複素数 z については、解析接続もしくは次の極限で定義される。
基本的性質[編集]
0 と負の整数を除く任意の複素数 z に対して

が成り立つ。実際、Re(z) > 0 に対してはオイラー積分による定義から
![{\displaystyle {\begin{aligned}\Gamma (z+1)&=\int _{t=0}^{\infty }{t^{z}(-e^{-t})'}\,dt\\&=\left[-t^{z}e^{-t}\right]_{t=0}^{\infty }+z\int _{t=0}^{\infty }{t^{z-1}e^{-t}}\,dt\\&=z\Gamma (z)\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/1ca0d996dec7a0da6e85ba7cf1a22fa352c71760)
となる。また、
![{\displaystyle {\begin{aligned}\Gamma (1)&=\int _{t=0}^{\infty }{e^{-t}}\,dt=\left[-e^{-t}\right]_{t=0}^{\infty }\\&=1\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d1feb6a233d4051c5b7918cf69e39e7a262446ad)
である。従って、自然数 n について

が成り立ち、その意味でガンマ関数は階乗の定義域を複素平面に拡張したものとなっている。そもそもガンマ関数は「階乗の複素数への拡張となるもの」(複素階乗)の実例としてオイラーが考案したのである。実際には、そのような関数は無数に存在するが、正の実軸上で対数凸である解析関数という条件を付ければ、それは一意に定まりガンマ関数に他ならない(→ボーア・モレルップの定理)。右半平面においてオイラー積分で定義されたガンマ関数は全平面に有理型に解析接続する。ガンマ関数は零点を持たず、原点と負の整数に一位の極を持つ。その留数は、
である。また、非整数でのガンマ関数の値のうちでおそらく最も有名なのは、ガウス積分になる以下の場合である[要出典]。
これより、自然数 n について

が成立することがわかる。ここで !! は二重階乗を表す。この性質を利用して高次元球の体積と表面積を求めることができる。また、

定義の整合性[編集]
定義の積分表示と極限表示が一致することを示す。
とすれば

であるから直感的には

である。(厳密にははさみうちの原理によって証明される)t = nu の置換により
となる.nz を除く部分を gn(z) として
![g_{0}(z)=\int _{0}^{1}{u^{z-1}}du=\left[{\frac {u^{z}}{z}}\right]_{u=0}^{1}={\frac {1}{z}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/2dc4f9963184a3ea44e53f8dd3d582a517e17aea)
これにより
を得る。故に
である。
ワイエルシュトラスの乗積表示[編集]
オイラーの乗積表示からオイラーの定数

を括り出すとワイエルシュトラスの乗積表示が得られる。ワイエルシュトラスはガンマ関数が負の整数に極を持つことを嫌って逆数を用いた[要出典]。ガンマ関数の逆数は複素平面全体で正則である。
ハンケルの積分表示[編集]
ガンマ関数は次の周回積分で表される[3]。積分経路は正の無限大から実軸の上側に沿って原点に至り、原点を正の向きに回り、実軸の下側に沿って無限大に戻るものとする。但し、その偏角は
とする。
これをハンケルの積分表示と呼ぶ。このハンケルの積分表示は、積分経路を適当に変形し、数値積分でガンマ関数の値を求めるために使われることがある[4]。
ハンケルの積分表示の導出[編集]
極座標表示
を用いると、実軸の上側に沿う部分は
で
から
まで、原点を回る部分は
で
から
まで、実軸の下側に沿う部分は
で
から
までとなる。
とすると
で
であるから
である。しかし、左辺の被積分関数は
が有界であるかぎり正則であるから、左辺は複素平面全体に解析接続する。従って、
である。
とすれば、同様にして
を得る。また、相反公式により、
を得る。
スターリングの公式[編集]
での漸近展開として、ガンマ関数はスターリングの公式で近似される。この漸近近似は複素平面全体(負の実数を除く)で成立するが、
に近づくにつれ近似の誤差が大きくなる(極限の収束が遅くなる)ため、応用上は相反公式などを用いて
程度に制限することもある。

相反公式[編集]
次の恒等式を相反公式(reflection formula)という[5]。
相補公式とも呼ばれる。
この恒等式はオイラーの乗積表示から得られる。
この分母は正弦関数の無限乗積展開であるから、
である。相反公式に
を代入すれば
となり
を得る。
ルジャンドルの倍数公式[編集]
次の恒等式をルジャンドルの倍数公式と呼ぶ。これはガウスの乗法公式の特別な場合である。
ベータ関数は以下のように表される。

ここで
とおくと、

とおくと

は偶関数なので

ここで

とすると

よって

よって

よって以下の式が成り立つ。

乗法公式[編集]
次の恒等式をガウスの乗法公式(multiplication formula)という。
両辺の比を
とすると

故に、任意に大きな自然数
について
が成立する。スターリングの公式により
途中で
を適用した。
であり、故に
が成立する。
微分方程式[編集]
を変数とする多項式
に対し、
の形で表される微分方程式を代数的微分方程式という。ガンマ関数はいかなる代数的微分方程式も満たさないことが知られている[5]。ヘルダーが1887年に最初に証明を与えた後
[7]、E. H. ムーア(英語版)[8]、A. オストロフスキ(英語版)[9][10]、E. バーンズ(英語版)[11]、ハウスドルフ[12]により、別証明や一般化がなされた。
いくつかの具体的な値[編集]









ポリガンマ関数[編集]
ガンマ関数の対数微分

をディガンマ関数(Digamma function)と呼ぶ。同様の対数微分を繰り返した関数

を、ポリガンマ関数(Polygamma function)と呼ぶ。
- ^ a b E. T. Whittaker and G. N. Watson (1927), Chapter XII, §12.1
- ^ Wolfram mathworld: Gamma Function
- ^ Springer Online Reference Works: Gamma-function
- ^ Schmelzer & Trefethen (2007), Computing the Gamma function using contour integrals and rational approximations
- ^ a b 小松 (2004)、第2章
- ^ Otto Ludwig Hölder, "Über die Eigenschaft der Gammafunction keiner algebraischen Differentialgleichung zu genügen," Math. Ann., 28, (1887) pp. 1–13. doi:10.1007/BF02430507
- ^ Eliakim Hastings Moore, "Concerning transcendentally transcendental functions," Math. Ann., 48 (1897), pp. 49–74. doi:10.1007/BF01446334
- ^ A. Ostrowski, "Neuer Beweis der Hölderschen Satzes, dass die Gammafunktion keiner algebraischen Differntialgleichung genügt." Math. Ann. 79 (1919), pp. 286–288. doi:10.1007/BF01458212
- ^ A. Ostrowski, "Zum Hölderschen Satz über Γ(x). Math. Ann. 94 (1925), pp. 248–251. doi:10.1007/BF01208657
- ^ E. W. Barnes, "The theory of the Gamma function," Messenger of Math. 29 (1900), pp. 64–128.
- ^ F. Hausdorff, "Zum Hölderschen Satz über Γ(x)," Math. Ann. 94 (1925), pp. 244–247. doi:10.1007/BF01208656
参考文献[編集]
関連項目[編集]
外部リンク[編集]