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ガンマ関数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
y = Γ(x) のグラフ
Γ(x + iy) の絶対値
(グラフ中「Re」は x に相当、「Im」は y に相当)

(ガンマかんすう、: gamma function)とは、数学において階乗の概念を複素数全体に拡張した特殊関数。複素階乗とも。一般に と表記される。

自然数 に対しては、ガンマ関数と の階乗との間では次の関係式が成り立つ:

歴史

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階乗を整数以外に拡張する試みは1720年代にベルヌーイゴールドバッハにより検討され、1729年10月6日のベルヌーイからゴールドバッハへの手紙において、ベルヌーイは総乗記号を用いて記述することに成功している。 これは、負の整数以外の実数に対し明確に定義を与えている。

1729年にレオンハルト・オイラーは2つの異なる記述で定義を与えた。1つは負の整数以外のすべての複素数に対して無限積を用いることで定義される。この式は1729年10月13日付のゴールドバッハ宛の手紙に見られる。 さらに1730年1月8日のゴールドバッハ宛の手紙には、積分での表現を発見したことを記述している。 オイラーはさらに反射公式を含む、この関数の重要な機能的性質のいくつかを発見した。

カール・フリードリヒ・ガウスはオイラーの総積公式を次のように記述しなおした。 ガウスはこの公式を用いて乗法定理を証明し、楕円積分に関する研究につなげた。

「ガンマ関数」という名称と記号 は、1814年にルジャンドルが導入したものであり[1]、ルジャンドルはオイラーの積分による定義を現代的な形に書き直した。ガウスによるπ(総乗記号)を用いた記述は古い文献にしばしば見られるが、現代の文献ではルジャンドルの表記が主流である(ただし、 である)。

カール・ワイエルシュトラスはさらに別の記述を開発し、複素解析におけるガンマ関数の役割を確立した。 ここでγはオイラー・マスケローニ定数である。

フィリップ・J・デイヴィスは1963年のショーヴネ賞を受賞した論文でこの分野が歴史的に発展してきたこと、また今後も発展の余地が多いことを記述している。「それぞれの世代がガンマ関数について興味深いことを発見してきました。おそらく次の世代もそうすうるでしょう。」[2]

定義

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実部が正となる複素数 に対して、次の広義積分で定義される複素関数:

ただし複素数zの実部は正

ガンマ関数と呼ぶ[3]。この積分表示はオイラーの1730年1月8日の積分式を元にしたものであり、で置換積分した記述である。上述のようにガンマ関数の定義はこれ以外にも多数あり、本記事で紹介したものが全てではない。第二種オイラー積分とも呼ばれる。

一般の複素数 に対しては解析接続もしくは次の極限で定義される。

他にも互いに同値となるいくつかの定義が存在する。

基本的性質

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または負の整数でない、かつ実部が正の任意の複素数 に対して、

となることから、 が成り立つ。またさらに、

である。これらの性質から、任意の正の整数 に対して、

より が成り立つ。その意味でガンマ関数は階乗の定義域を複素平面に拡張したものとなっている。

歴史的には、ガンマ関数は「階乗の複素数への拡張となるもの」(複素階乗)の実例として、オイラーにより考案された。階乗の複素数への拡張となる関数は無数に存在するが「正の実軸上で対数凸である解析関数」という条件を付ければ、それは一意に定まりガンマ関数に他ならない(ボーア・モレルップの定理)。

右半平面においてオイラー積分で定義されたガンマ関数は全平面に有理型解析接続する。

ガンマ関数は零点を持たず、原点と負の整数に一位の極を持つ。その留数は、

である[4]

また、 に対するガンマ関数の値は、ガウス積分の結果に一致する。

これより、自然数 に対して、

が成立することがわかる。ここで 二重階乗を表す。この性質を利用して高次元の球の体積と表面積を求めることができる。また、

定義の整合性

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定義の積分表示と極限表示が一致することを示す。

とすれば

であるから直感的には

である。(厳密にははさみうちの原理によって証明される)t = nu の置換により

となる.nz を除く部分を gn(z) として


これにより

を得る。故に

である。

ワイエルシュトラスの乗積表示

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オイラーの乗積表示からオイラーの定数

を括り出すとワイエルシュトラスの乗積表示が得られる。ワイエルシュトラスはガンマ関数が負の整数にを持つことを嫌って逆数を用いた[要出典]。ガンマ関数の逆数は複素平面全体で正則である[5]

ハンケルの積分表示

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ガンマ関数は次の周回積分で表される[6]。積分経路は正の無限大から実軸の上側に沿って原点に至り、原点を正の向きに回り、実軸の下側に沿って無限大に戻るものとする。但し、その偏角はとする。

これをハンケルの積分表示と呼ぶ。このハンケルの積分表示は、積分経路を適当に変形し、数値積分でガンマ関数の値を求めるために使われることがある[7]

ハンケルの積分表示の導出

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極座標表示 を用いると、実軸の上側に沿う部分は から まで、原点を回る部分は から まで、実軸の下側に沿う部分は から までとなる。

とすると であるから

である。しかし、左辺の被積分関数は が有界であるかぎり正則であるから、左辺は複素平面全体に解析接続する。従って、

である。 とすれば、同様にして

を得る。また、相反公式により、

を得る。

スターリングの公式

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での漸近展開として、ガンマ関数はスターリングの公式で近似される。この漸近近似は複素平面全体(負の実数を除く)で成立するが、に近づくにつれ近似の誤差が大きくなる(極限の収束が遅くなる)ため、応用上は相反公式などを用いて程度に制限することもある。


相反公式

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次の恒等式相反公式(reflection formula)という[8]

相補公式とも呼ばれる[9]。 この恒等式はオイラーの乗積表示から得られる。

この分母は正弦関数の無限乗積展開であるから、

である。相反公式にを代入すれば

となり

を得る。

ルジャンドルの倍数公式

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次の恒等式をルジャンドルの倍数公式と呼ぶ。これはガウスの乗法公式の特別な場合である。

証明

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ベータ関数は以下のように表される。

ここで とおくと、

とおくと

は偶関数なので

ここで

とすると

よって

よって

よって以下の式が成り立つ。

乗法公式

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次の恒等式をガウスの乗法公式(multiplication formula)という。

証明

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両辺の比をとすると


故に、任意に大きな自然数についてが成立する。スターリングの公式により

途中で

を適用した。

であり、故に

が成立する。

微分方程式

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を変数とする多項式に対し、

の形で表される微分方程式を代数的微分方程式という。ガンマ関数はいかなる代数的微分方程式も満たさないことが知られている[8]。このことはヘルダーが1887年に最初に証明を与えた後 [10]E. H. ムーア[11]A. オストロフスキ英語版[12][13]E. バーンズ英語版[14]ハウスドルフ[15]により、別証明や一般化がなされた。

いくつかの特殊値

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ポリガンマ関数

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ガンマ関数の対数微分

ディガンマ関数(Digamma function)と呼ぶ。同様の対数微分を繰り返した関数

を、ポリガンマ関数(Polygamma function)と呼ぶ。

脚注

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  1. ^ Whittaker & Watson 1927, p. 235.
  2. ^ Davis, P. J. (1959). “Leonhard Euler's Integral: A Historical Profile of the Gamma Function”. American Mathematical Monthly 66 (10): 849–869. doi:10.2307/2309786. JSTOR 2309786. オリジナルの7 November 2012時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20121107190256/http://mathdl.maa.org/mathDL/22/?pa=content&sa=viewDocument&nodeId=3104 2016年12月3日閲覧。. 
  3. ^ Wolfram mathworld: Gamma Function
  4. ^ 福原 1951, p. 94.
  5. ^ 福原 1951, p. 97.
  6. ^ Springer Online Reference Works: Gamma-function
  7. ^ Schmelzer & Trefethen (2007), Computing the Gamma function using contour integrals and rational approximations
  8. ^ a b 小松 (2004)、第2章
  9. ^ 神保 2003, 定理 5.15.
  10. ^ Otto Ludwig Hölder, "Über die Eigenschaft der Gammafunction keiner algebraischen Differentialgleichung zu genügen," Math. Ann., 28, (1887) pp. 1–13. doi:10.1007/BF02430507
  11. ^ Eliakim Hastings Moore, "Concerning transcendentally transcendental functions," Math. Ann., 48 (1897), pp. 49–74. doi:10.1007/BF01446334
  12. ^ A. Ostrowski, "Neuer Beweis der Hölderschen Satzes, dass die Gammafunktion keiner algebraischen Differntialgleichung genügt." Math. Ann. 79 (1919), pp. 286–288. doi:10.1007/BF01458212
  13. ^ A. Ostrowski, "Zum Hölderschen Satz über Γ(x). Math. Ann. 94 (1925), pp. 248–251. doi:10.1007/BF01208657
  14. ^ E. W. Barnes, "The theory of the Gamma function," Messenger of Math. 29 (1900), pp. 64–128.
  15. ^ F. Hausdorff, "Zum Hölderschen Satz über Γ(x)," Math. Ann. 94 (1925), pp. 244–247. doi:10.1007/BF01208656

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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