ジュンサイ

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ジュンサイ
BraseniaAlt.jpg
ジュンサイの花と葉
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: ハゴロモモ科 Cabombaceae
: ジュンサイ属 Brasenia
: ジュンサイ B. schreberi
学名
Brasenia Schreb.1789[2]

Brasenia schreberi J.F.Gmel.1791[2]

シノニム
和名
蓴菜、純菜
英名
water shield[3][4], watershield[3], Schreber's watershield[3], water-target[3], watertarget[3], purple wendock[3]

ジュンサイ (蓴菜学名: Brasenia schreberi) は、スイレン目ハゴロモモ科 (ジュンサイ科ともよばれ[5]、またスイレン科に含められることも多かった[6]) に属する多年生水草の1種である[5]。本種のみでジュンサイ属 (学名: Brasenia) を構成する[7]。純菜や順才の字が充てられることもある[8]

スイレン (スイレン科) などと同様に水底にを張り水面にを浮かべる浮葉植物であり、水上にをつける (右図)。若いや葉は粘液質を分泌し、これで覆われた若芽を吸い物酢の物の食材とする。水温が一定のきれいな池沼に生育し、栽培されている場合もある[6][9]

ジュンサイの名は、漢名の「蓴 (チュン)」がなまった「ジュン」に、食用草本を意味する「菜 (サイ)」をつけたものに由来するとされる[10]。古くは「ぬなは、ぬなわ」(「沼の縄」の意) とよばれ、『古事記』や『万葉集』にも記述がある。

特徴[編集]

1. ジュンサイ (右上は果実)

ジュンサイは多年生水生植物であり、底にを張り水面にを浮かべる浮葉植物である[5][6]。太い根茎は底泥中を横にはい、節から根と水中茎を伸ばす[5][6][11][12][13]。根茎は越冬し、また水中茎の先端のが養分を貯蔵して肥厚し、親植物から離脱して越冬用の殖芽となる[6][13]。水中茎は細長く、春になるとを互生する[11][12][13][14]。葉は基本的に浮水葉であり、葉柄は紅紫色で長く (長さ 5-100 cm)、葉身の裏面中央付近につく (楯状)[4][5][13][15] (左図1)。葉身は全縁で楕円形、長さ 5-15 cm、幅 3-8 cm、表面は艶のある緑色 (下図2a)、裏面は紫色を帯びることが多い[5][6][11]。葉脈は放射状[4] (左図1)。最初の数枚の葉は水中にある沈水葉であり、長三角形から楕円形、小型 (3-6 x 1.5-4 cm) で薄い[6][13]。茎や葉柄、葉の裏面には分泌毛が存在し、水中にある部分は分泌された粘液質で覆われている[4][5][6]

日本での花期は6-8月、葉腋から生じた花柄 (長さ 4-15 cm) の先端に1個のをつけ、水面より上で開花する[4][5][6][11][15] (下図2b, c)。は基本的に3数性であり、放射相称の両性花、直径 1.5-2 cm ほどである[5][6] (左図1, 下図2b, c)。同花被花であり、花被片は長楕円形、紫褐色から暗赤色、10-20 × 2-7 mm、内外2輪に3枚ずつ配置する[5][6][15] (下図2b, c)。外花被片 (萼片ともよばれる) より内花被片 (花弁ともよばれる) の方がやや長く幅が狭い[4][15]雄蕊は12-24個、長さ約 1 cm、花糸は細長く、は赤色で外向する[4][5] (下図2c)。雌蕊は6-24個が離生し (離生心皮)、柱頭は線状で小毛が生えている[5] (下図2b)。雌蕊はそれぞれ子房内の背軸側に胚珠を2-3個つける[5]。雌性先熟であり、開花1日目は雌蕊が成熟した雌性期 (下図2b)、2日目は雄蕊が成熟した雄性期 (下図2c) となる[5][6]風媒花であると考えられている[6]。2日間開花した後に、花は花被を閉じて水中に没し、結実する[12][13]果実袋果状の非裂開果であり、長さ 6-15 mm、宿存性の花柱は細く尖る[5][6][15] (上図1)。果実内の種子は1-2個、褐色、楕円形で 2.5-4 x 2-3 mm[4][5][15]。染色体数は 2n = 72, 80[15][16]

2a. ジュンサイの浮水葉
2b. ジュンサイの (雌性期): 白い部分は雌蕊
2c. ジュンサイの花 (雄性期)

分布・生育環境[編集]

3. ジュンサイが水面を覆っている池 (カナダ)

北米から南米東アジアから南アジアオーストラリアアフリカ熱帯から温帯域に散在的に分布している[4][5][6][7]。日本では北海道から琉球まで報告されているが[5]、水域の富栄養化などにより減少し、既に絶滅した地域もある[6][17] (下記参照)。

水質が中性からやや酸性で腐植質 (底に植物遺体など有機物が堆積している)、または貧栄養から中栄養の淡水の池沼に生育する[5][6][10][11][12][18] (左図3)。

保全状況評価[編集]

ジュンサイは日本全体としては絶滅危惧種に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅のおそれが高く、また既に絶滅した地域もある[17]。絶滅・減少の要因としては、池沼の開発や水質の富栄養化等があげられる[6][11]。以下は2020年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している[17] (※埼玉県東京都では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。

利用[編集]

食用[編集]

吸い物の実としたジュンサイ
スーパーで販売されるジュンサイ
ジュンサイの瓶詰 (中国産)
じゅんさい/若葉/水煮びん詰
100 gあたりの栄養価
エネルギー 15 kJ (3.6 kcal)
1.0
食物繊維 1.0
0
0.4
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
29 µg
チアミン (B1)
(0%)
0 mg
リボフラビン (B2)
(2%)
0.02 mg
ナイアシン (B3)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸 (B9)
(1%)
3 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンD
(0%)
0 µg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ビタミンK
(15%)
16 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
2 mg
カリウム
(0%)
2 mg
カルシウム
(0%)
4 mg
マグネシウム
(1%)
2 mg
リン
(1%)
5 mg
鉄分
(0%)
0 mg
亜鉛
(2%)
0.2 mg
(1%)
0.02 mg
マンガン
(1%)
0.02 mg
他の成分
水分 98.6

日本食品標準成分表2020年版(八訂)[19]
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

ジュンサイは世界各地に広く分布しているが、食用にしている地域は中国と日本くらいである[20]

ガラクトマンナンを主成分とするゼリー状の粘液質で覆われた若芽 (若い) はぷるんとした独特のぬめりがあり、日本料理食材として珍重される[8][9][21][22][23][24][25]。味は淡白で低カロリー (右表)[19]ポリフェノールを含む[23]。日本では、食材として以下のように調理される。

中国では胃潰瘍など胃腸病の病後によいとされ、スープとして食される[22]

栽培[編集]

水が豊富な地域において、沼地や水田を掘り下げたものを利用して栽培される[6][26]。植え付けは6-7月に行われ、3年目以降の6-8月に若い葉を収穫する[26]。収穫は小舟(じゅんさい舟)に乗って水中を覗き込みながら、手作業で行われる[26]。従事者の高齢化や減少が課題となっている。秋田県三種町では観光客のジュンサイ摘み採り体験を行っており[27]、また「世界じゅんさい摘み採り選手権大会」が開催されている[14]。ジュンサイを食害する病害虫としては、トラフユスリカ (ハエ目)、マダラミズメイガ (チョウ目)、ジュンサイハムシ (甲虫目) が知られる[26]

日本国内で流通するジュンサイの8割は中国産である[25]。日本での生産量は秋田県が最も多く、次いで青森県山形県であり、この3県で国内生産の99%を占める (2010年当時)[8][28]秋田県三種町では、1986年昭和61年)度で約270トン[9]だった生産量は、町が転作作物として1987年(昭和62年)から3年かけて奨励事業を行ったことにより急速に増え[9]、最盛期となった1991年平成3年)度には約1260トンに達した[9]。しかし、その後は減少傾向に転じており、2016年(平成28年)度は約440トンへ大きく落ち込んでいる[9]。三種町では、ジュンサイの栽培に必要な引水に山手の地域では沢水を利用し、その他の地域では地下水や白神山地にあるダム湖の水を利用している[29]

秋田県三種町の農作物直売所「じゅんさいの館」
新潟県新潟市のじゅんさい池

古くは、京都深泥池がジュンサイの産地として知られていた[22]北海道七飯町にある大沼国定公園には、大沼三湖のひとつである蓴菜沼があり、ジュンサイの瓶詰は大沼国定公園の名物として売られている[30]。「じゅんさい沼」と呼ばれる湖沼は、山形県村山市[31]秋田県湯沢市[32]にもある。また新潟県新潟市東区阿賀野市には「じゅんさい池」がある[33][34] (上図)。

文化[編集]

日本ではジュンサイは非常に古くから知られており、「ぬなは、ぬなわ (奴奈波、沼縄、蓴)」の名で『古事記』や『日本書紀』、『長屋王家木簡』、『正倉院文書』にも記述がある[35][36][37]。この名は、ジュンサイが沼に生育し、縄のように長い茎をもつことに由来するされる[10]。『万葉集』にも、ジュンサイは下記の歌に詠まれている[38]

わが情 ゆたにたゆたに 浮ぬなは 辺にも奥にも 寄りかつましじ(巻7・1352番、作者不明)

(意味: わたしの心は、ゆらゆらと浮くジュンサイ。近寄ることも、遠のくこともできない)

近畿方言では、「捉えどころが無い」転じて「どっちつかず」「でたらめ」「いい加減」という意味で「じゅんさい」という語が使われることがある[39]。ジュンサイはぬめりがあってで掴みにくいことからこの方言が生まれたとされる[39]

「じゅんさいの日」は7月1日である[40]。2012年に秋田県三種町の「三種町森岳じゅんさいの里活性化協議会」が制定した記念日であり、日付は英語で6月を意味する「ジューン (June)」と、31を「さい」と読む語呂合わせで6月31日としたが、6月31日は存在しないため翌日の7月1日を選定した。また、この時期にジュンサイの収穫が最盛期を迎えることも理由の1つである[40]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

出典[編集]

  1. ^ Maiz-Tome, L. (2016年). “Brasenia schreberi”. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T185681A78457027. 2021年4月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Govaerts, R., Dransfield, J., Zona, S., Hodel, D.R. & Henderson, A.. “World Checklist of Selected Plant Families”. Royal Botanic Gardens, Kew. 2021年4月21日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i GBIF Secretariat (2021年). “Brasenia schreberi J.F.Gmel.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年4月28日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i Brasenia schreberi”. Plant of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年4月20日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 伊藤元巳 (2015). “ジュンサイ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 45. ISBN 978-4582535310 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 角野康郎 (1994). “ジュンサイ”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. p. 108. ISBN 978-4829930342 
  7. ^ a b Stevens, P. F.. “Cabombaceae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年4月17日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g じゅんさい”. 日本の食べ物用語辞典. 2021年4月17日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h 緒方麦 (2017年6月13日). “ジュンサイ摘み、楽しい「宝探し」 三種の農園の沼、新米記者が収穫体験”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): p. 秋田全県版 
  10. ^ a b c 林 弥栄 & 門田 裕一 (監修) (2013). “ジュンサイ”. 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社. p. 17. ISBN 978-4635070195 
  11. ^ a b c d e f 星川清親 (2018年6月19日). “ジュンサイ”. 日本大百科全書 (ニッポニカ). 小学館. 2021年4月18日閲覧。
  12. ^ a b c d 浜島繁隆・須賀瑛文 (2005). “ジュンサイ”. ため池と水田の生き物図鑑 植物編. トンボ出版. p. 57. ISBN 978-4887161504 
  13. ^ a b c d e f 松岡成久 (2014年11月15日). “ジュンサイ”. 西宮の湿生・水生植物. 2021年4月23日閲覧。
  14. ^ a b “~世界一の栄冠は誰の手に!!~”. ATCニュース (東北農政局 秋田地域センター) 1: 1-3. https://www.maff.go.jp/tohoku/osirase/zimusyo/index_ak/pdf/atc_news_no1.pdf. 
  15. ^ a b c d e f g Brasenia schreberi”. Worl Flora Online. 2021年4月20日閲覧。
  16. ^ Weipei, W. P. C. & Ruiyang, C. (1993). “Chromosome numbers of the members in the family Nymphaeaceae”. Journal of Nanjing Normal University (Natural Science Edition) 3. 
  17. ^ a b c ジュンサイ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2021年4月18日閲覧。
  18. ^ 角野康郎 (1982). “水草と pH (2)”. 水草研究会報 8: 8-10. NAID 10030093944. 
  19. ^ a b 食品詳細 野菜類/じゅんさい/若葉/水煮びん詰”. 食品成分データベース. 文部科学省. 2021年4月20日閲覧。
  20. ^ 原田治 (1978). 中国料理素材辞典 野菜・果実編. 柴田書店. p. 78. ISBN 978-4388056989 
  21. ^ 角田万里子 & 三崎旭 (2004). “"じゅんさい" 多糖類の構造特性 (特集 食品における多糖類の構造と物性 (3))”. 食品・食品添加物研究誌 209 (4): 298-304. NAID 40006185371. 
  22. ^ a b c ジュンサイ”. 食の医学館. 小学館. 2021年4月18日閲覧。
  23. ^ a b じゅんさいとは”. じゅんさいJAPAN. 2021年4月18日閲覧。
  24. ^ 福留庸友 (2016年6月14日). “恵みの水面、摘み頃 秋田・三種、ジュンサイの収穫が最盛期”. 朝日新聞 夕刊 (朝日新聞社): p. 10 
  25. ^ a b c “【産直の旅】じゅんさい*浮かぶ小舟ぷるん手摘み/天ぷら・鍋に、ぬめり楽しむ”. 日本経済新聞 朝刊: p. 日経+1(土曜別刷り)9面. (2017年6月17日) 
  26. ^ a b c d 山菜類”. 野菜栽培技術指針~あきたブランド野菜づくりの手引き~. 秋田県農林水産部. 2021年4月18日閲覧。
  27. ^ じゅんさい摘み採り体験のご案内”. じゅんさいJAPAN. 2021年4月18日閲覧。
  28. ^ 平成22年産地域特産野菜生産状況”. e-Stat. 2021年4月18日閲覧。
  29. ^ 山本ゆりこ (2019年8月1日). “ふるさと食紀行 暑い夏に頂く贅沢な逸品「じゅんさい鍋」”. ふれあい (全国農協観光協会) (2019年8月号): pp. 12-13 
  30. ^ 日暮山と蓴菜(じゅんさい)沼”. 大沼国定公園ガイド まるごと大沼. 大沼国定公園情報発信システム運営協議会. 2021年4月18日閲覧。
  31. ^ じゅんさい”. 村山 旬の市. 2021年4月18日閲覧。
  32. ^ 湯沢じゅんさい沼”. 日本湖沼めぐり. 2021年4月18日閲覧。
  33. ^ じゅんさい池公園”. 新潟市 (2020年5月11日). 2021年4月18日閲覧。
  34. ^ 【新発田】農業水利百選:清らかな水とジュンサイの村岡のため池「じゅんさい池」”. 新潟県 (2020年5月11日). 2021年4月18日閲覧。
  35. ^ 岡田喜久男「記紀歌謡に歌われたもの 2 : 植物を中心に(上)」『日本文学研究』第27号、梅光女学院大学日本文学会、1991年、 1-10頁、 ISSN 02862948NAID 110000993817
  36. ^ 伊藤寿和「大和国における古代・中世の多様な山菜類の採集と食の実態に関する基礎的研究」『日本女子大学紀要. 文学部』第68号、日本女子大学、2019年3月、 69-83頁、 ISSN 0288-3031NAID 120006605994
  37. ^ 吉野政治「ひつじ草(睡蓮) : 「日花(ゾンネブルーム)」について」『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』第12号、京都、2012年3月、 1-12頁、 doi:10.15020/00000914ISSN 1884-9296NAID 120005651667
  38. ^ 萩原義雄 (2019年8月1日). “第148回|ジュンサイ・ぬなは【蓴菜】の環境とは”. 教授コラム「愛語」. 駒澤大学. 2021年4月22日閲覧。
  39. ^ a b 札埜和男 (2006). 大阪弁「ほんまもん」講座. 新潮社. p. 131. ISBN 978-4106101601 
  40. ^ a b じゅんさいの日”. じゅんさいJAPAN. 2021年4月18日閲覧。

外部リンク[編集]