除草剤

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除草剤(じょそうざい)は、不要な植物雑草)を枯らすために用いられる農薬である。接触した全ての植物を枯らす非選択的除草剤と、農作物に比較的害を与えず対象とする植物を枯らす選択的な除草剤に分けられる。植物ホルモン類似の効果で雑草の生長を阻害するものもある。

歴史[編集]

広く使われた最初の除草剤は2,4-ジクロロフェノキシ酢酸 (2,4-D) で、第二次世界大戦直後から使われた。これは製造が簡単で、広葉(双子葉)植物を枯らすのに対し、イネ科植物には影響を与えず、現在でも用いられる。多くはアミン塩やエステルの形がとられる。2,4-Dの選択性はあまり高くなく、対象でない植物にも害を与える。また一部の広葉雑草やつる植物スゲ類などには効果が低い。

1970年代にはアトラジンが導入されたが、これはヨーロッパなどで地下水を汚染しているのではないかと疑われている。アトラジンの分解には数週間かかり、降雨によって地中深く浸透すると考えられるためである。このことを「キャリーオーバーが多い」と称し、除草剤としては望ましくない性質である。

グリホサート(商品名: ラウンドアップ)は、1980年代半ばに導入された非選択的除草剤で、直接接触したすべての植物を枯らす。現在では遺伝子操作により、これに耐性を有する作物が開発されたため、雑草防除用の主要除草剤となっており、除草剤と耐性作物種子が合わせて売られるようになった。

現在の農業用除草剤は、散布後短時間で分解するように調製されている。これは、現在目的とする作物の次に栽培する作物への影響を減らす意味で望ましい。

用途[編集]

除草剤は芝生の管理、道路などの雑草防除や農業に広く使用される。林業、牧草地、また野生生物生息地の保護(たとえばガラパゴス諸島)などにも用いられる。

分類[編集]

除草剤は作用の様式、作用機序、殺草選択性、化学的な構造、製剤別などによって分類される。

作用の様式による分類[編集]

接触型
接触型除草剤は、散布された除草剤に接触した部分の植物組織だけを除去する。一般には、最も速く作用する除草剤である。根茎から生長する多年生植物には効力が低い。
吸収移行型(全草型)
吸収移行型(全草型)除草剤は、茎葉に適用し植物体全体に移行する。接触型除草剤より多くの植物を除去する。
土壌処理
土壌処理除草剤は、土壌に適用し根から吸収されて作用し、あるいは雑草の発芽成長を妨げる。

作用機序による分類[編集]

作用機序による分類は、植物に適用後最初に影響を及ぼす酵素タンパク質、または生化学経路による分類である。主要なメカニズムは次の通り。

ACCアーゼ(アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、EC 6.4.1.2)阻害剤
ACCアーゼ(アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ)阻害剤は主にイネ科雑草を防除し、広葉雑草には影響がない。ACCアーゼは脂質合成の最初の段階に関与し、その阻害剤は膜合成を阻害する。シクロヘキサンジオン系、アリールオキシフェノキシプロピオン酸系などがある。
ALS(アセト乳酸合成酵素、EC 2.2.1.6)阻害剤
ALS(アセト乳酸合成酵素)はアミノ酸バリンロイシンイソロイシン)合成の最初の段階に関与する。イネ科にも広葉にも効く。スルホニルウレア系が代表的。
EPSPS(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素、EC 2.5.1.19)阻害剤
EPSPS阻害剤はアミノ酸(トリプトファンフェニルアラニンチロシン)の合成を阻害する(シキミ酸経路参照)。吸収移行型でイネ科にも広葉にも効く。グリホサート(ラウンドアップ)などがある。
合成オーキシン剤
2,4-Dなどの合成オーキシン剤は植物ホルモンオーキシン類似の作用を利用するもので、広葉植物に対して作用が強い。
光化学系II阻害剤
光化学系II阻害剤は光合成において水からNADPH2+への電子の流れを阻害する。D2タンパク質のQb部位に結合してプラストキノンの結合を妨げる。したがってこれらの剤はクロロフィルに電子を蓄積させ過剰の酸化を起こして植物を枯らす。ウレア系、トリアジン系などがある。
PPO(プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ、EC 1.3.3.4)阻害剤
PPO(プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ)はクロロフィルの生合成に関与する酵素で、プロトポルフィリノーゲンIXをプロトポルフィリンへと酸化する。この酵素が阻害をうけるとプロトポルフィリノーゲンIXが蓄積し細胞質へ漏出したのち、細胞質内でプロトポルフィリンへ酸化され、光を受けたプロトポルフィリンが光増感反応により活性酸素を産生する。ジフェニルエーテル系などがある。
PD(フィトエンデサチュラーゼ、EC 1.14.99.-)阻害剤
PD(フィトエンデサチュラーゼ)はカロテノイドの生合成において、フィトエンを不飽和化する酵素である。阻害を受けると植物はカロテノイドを合成できなくなり葉緑素の分解を伴って白化症状を呈して死に至る。
HPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ、EC 1.13.11.27)阻害剤
HPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)は、上記PDが作用する上で補酵素として必要となるプラストキノンの生合成に関与する酵素である。阻害を受けるとプラストキノンの不足によりPDが働かなくなるため、PD阻害剤と同様に植物が白化して死に至る。ベンゾイルシクロヘキサンジオン系などがある。
VLCFA(超長鎖脂肪酸)合成阻害剤
脂肪酸がエロンガーゼにより長鎖化する作用を阻害する。クロロアセトアミド系などがある。

殺草選択性による分類[編集]

殺草選択性のあるもの
特定の植物によく効果があり、他の植物にはほとんど効果のないもの。
(例えば、広葉雑草には効果があるがイネ科植物にはほとんど効果なし(稲作に好都合)、というようなもの)
殺草選択性のないもの

化学的な構造による分類[編集]

化学的な構造によりフェノキシ系、ウレア系、有機リン系、ジフェニルエーテル系、トリアジン系などといった分類の仕方をする。

多くの除草剤の作用機序が未解明であった時代には構造による分類が頻繁に用いられた。一般に共通構造をもつものが同じ作用機序を有すると期待されたからである。しかしながら作用機序の研究が進むにつれ、構造分類による1グループに異なる作用機序のものが混在して含まれることがあること、PD阻害剤やPPO阻害剤など作用機序によっては構造の類似性が乏しく様々な構造系に分散してしまうことなどから、現在では欧米を中心として作用機序による分類を主として、それぞれの作用機序をさらに分類するものとして構造分類が用いられることが多い。

製剤別による分類[編集]

製剤別に区分した場合、以下のように分類される。これについては、農薬の項目に詳しい解説がある。

粒剤
水和剤
水溶剤
乳剤
液剤
ジャンボ剤
フロアブル剤

除草剤をめぐる問題[編集]

吸収移行型の非選択的除草剤パラコートは作物栽培前にすべての植物を枯らすために用いられる。これは活性酸素の発生により作用するが、動物に対しても毒性が強い。除草剤の中では最も急性毒性が強いものであり、ときに自殺に使われて(ただし解毒剤が存在しない上にすぐには死ねず、甚だ悲惨な症状を呈する)問題となる。

2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸 (2,4,5-T) は1970年代に広く使われた広葉用除草剤である。2,4,5-T自体の毒性はあまり強くないが、2,4,5-T製造過程で不純物として微量の2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(TCDD)、すなわちいわゆるダイオキシン類の一種が合成されるため、問題となった。TCDDは非常に毒性が強い。2,4,5-Tはアメリカ合衆国では1983年に失効した(日本では催奇性などの疑いから1975年に失効)。

オレンジ剤(いわゆる枯葉剤)はベトナム戦争で盛んに使われた。これは2,4,5-Tや2,4-Dの混合剤であるが、一般の2,4,5-T剤よりさらに多くのTCDDを含んでおり、実際にベトナムで健康被害の原因となったのではないかと指摘されて問題となった。

日本でもかつて除草剤2,4-Dやクロルニトロフェンなどに微量のダイオキシン類が含まれていたことが明らかにされ問題になったが、現在登録されている農薬にはダイオキシン類は全く含まれていない。

また、日本で1970年代まで販売されていた塩素酸塩系の除草剤は火薬に転用可能であり、極左テロ集団による連続企業爆破事件などの爆弾テロに用いられたことから、製造中止と法的管理が強化された。

使用法[編集]

現在一般に販売されている除草剤は種類が多く、製剤方法も多岐に渡っているため、製品に添付されている説明書を熟読した上で取り扱うことが大切である。不適切な取扱いを行うと、除草効果が発揮できない恐れがある。

また、安全面からも注意が要る。ホームセンター等で販売されている購入者の身分証明の不要なものであっても、不用意に取り扱うと体調不良を起こすことがある。すぐには発症しない場合もあるので、因果関係を見落とすことも多い。中には取り扱い説明書の簡単なものもある。十分に体を保護できる衣服、手袋を用いて除草を行うべきである。場合によっては、使用後に手を洗ったり、うがいをするよう注意書きを入れているものもある。

なお、水田用除草剤の使用法については、外部リンク(下記)も参照のこと。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]