イチジク

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イチジク
Illustration Ficus carica0 clean.jpg
果実
分類
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: バラ目 Rosales
: クワ科 Moraceae
: イチジク属 Ficus
: イチジク F. carica
学名
Ficus carica L. (1753)
和名
イチジク
英名
fig tree

イチジク(無花果、映日果)は、クワ科イチジク属落葉高木、またはその果実のことである。原産地はアラビア南部。不老長寿の果物とも呼ばれる。

名称[編集]

無花果」の字は、花を咲かせずに実をつけるように見える[参 1]ことに由来する漢語で、日本語ではこれに「イチジク」という熟字訓を与えている。

映日果」は、中世ペルシア語「アンジール」(anjīr[注 1]を当時の中国語で音写した「映日」に「果」を補足したもの。通説として、日本語名「イチジク」はこれの音読「エイジツカ」の転訛とする[参 2][注 2]。 中国の古語では他に「阿駔[参 3]」「阿驛」などとも音写され、「底珍樹」「天仙果」などの別名もある[要出典]

伝来当時の日本では「蓬莱柿(ほうらいし)」「南蛮柿(なんばんがき)」「唐柿(とうがき)」などと呼ばれた。いずれも“異国の果物”といった含みを当時の言葉で表現したものである。

属名 Ficusficus)はイチジクを意味するラテン語イタリア語: fico, フランス語: figue, スペイン語: higo, 英語: fig, ドイツ語: Feige など、ヨーロッパの多くの言語の「イチジク」はこの語に由来するものである。

形態・生態[編集]

葉は三裂または五裂掌状で互生する。日本では、浅く三裂するものは江戸時代に日本に移入された品種で、深く五裂して裂片の先端が丸みを帯びるものは明治以降に渡来したものである。葉の裏には荒い毛が密生する。葉や茎を切ると乳汁が出る。

初夏、花軸が肥大化した花嚢の内面に無数の花(小果)をつける。このような花のつき方を隠頭花序(いんとうかじょ)という。雌雄異花であるが、イチジク属には雌雄同株で同一の花嚢に両方花をつける種と雌雄異株で雄株には同一の花嚢に雌雄両方の花、雌株には雌花のみを形成する種があるが、栽培種のイチジクや日本に自生するイヌビワオオイタビなどは後者、やはり日本に自生するアコウガジュマル観葉植物として普及しているインドゴムノキベンジャミンゴムノキなどは前者に属する。栽培イチジクの栽培品種は結実に雌雄両株が必要な品種群が原産地近辺の地中海沿岸西アジアでは古くから栽培されてきたが、受粉して雌花に稔性のある種子が形成されていなくても花嚢が肥大成長して熟果となる品種もあり、原産地から離れた日本などではこうした品種が普及している。 イチジク属の植物は自然では花嚢内部にはイチジクコバチ英語版などのイチジクコバチ属Blastophaga spp.の蜂が共生しており雌雄異株の種では雄株の花嚢に形成される雌花の受精後の種子全てを、雌雄同株の種では花嚢内の雌花の柱頭の長短で2群に分かれるもののうち柱頭の短い型のものに形成される種子を幼虫時代の食物として繁殖し、雄花の花粉を体の花粉収納器官に収めた交尾後の雌が若い花嚢に潜り込み花粉を散布することで受粉を媒介する。日本で栽培されているイチジクはほとんどが果実肥大に日本に分布しないイチジクコバチによる受粉を必要としない単為結果性品種である。

殆どの種類の果実は秋に熟すと濃い紫色になる。食用とする部分は果肉ではなく小果(しょうか)と花托(かたく)である。

利用[編集]

歴史[編集]

原産地に近いメソポタミアでは6千年以上前から栽培されていたことが知られている。地中海世界でも古くから知られ、古代ローマでは最もありふれた果物のひとつであり、甘味源としても重要であった。最近の研究では、ヨルダン渓谷に位置する新石器時代の遺跡から、1万1千年以上前の炭化した実が出土し、イチジクが世界最古の栽培品種化された植物であった可能性が示唆されている[1]

日本には江戸時代初期、#名称節にもあるように、ペルシャから中国を経て、長崎に伝来した。当初は薬樹としてもたらされたというが、やがて果実を生食して甘味を楽しむようになり、挿し木で容易にふやせることも手伝って、手間のかからない果樹として家庭の庭などにもひろく植えられるに至っている。

食用[編集]

乾燥イチジク

果実は生食するほかに乾燥イチジク(ドライフィグ)として多く流通する[注 3]

生果・乾燥品ともに、パンケーキビスケットなどに練りこんだり、ジャムコンポートにしたり、スープソースの材料として、またワイン醸造用など、さまざまな用途をもつ。ほかにペースト、濃縮果汁、パウダー、冷凍品などの中間製品も流通している。日本国内では甘露煮にする地方もある。また、いちじくの天ぷらも流行している。

果実には果糖ブドウ糖蛋白質ビタミン類、カリウムカルシウムペクチンなどが含まれている。クエン酸が少量含まれるが、糖分の方が多いので、甘い味がする。食物繊維は、不溶性と水溶性の両方が豊富に含まれている。

その他の利用[編集]

熟した果実、葉を乾燥したものは、それぞれ無花果(ムカカ)、無花果葉(ムカカヨウ)といい生薬として用いられる。イチジクには整腸作用があり[2]、果実を干したものは緩下剤に使われた。 また果肉や葉から出る乳液にはゴムに近い樹脂分が含まれるが、民間薬として、(いぼ)に塗布したり、駆虫薬として内服した。

またイチジクの樹液にはフィシンという酵素が含まれており、日本の既存添加物名簿に収載され、食品添加物の原料として使用が認められている。 ほかにイチジク葉抽出物は製造用剤などの用途でかつて同名簿に掲載されていたが、近年販売実績がないため、2005年に削除された。

長野県阿智村、喬木村などでは、イチジクの葉を風呂に入れ入浴剤とする伝統がある[3]

栽培[編集]

特産地[編集]

国際連合食糧農業機関によれば、2007年のイチジク生産量のトップ3はエジプトトルコイラン[参 4]。ほか地中海沿岸から南アジアにかけての比較的乾燥した気候の国々が名を連ねる中、6位に米国が、9位にブラジルが見えている。上位の国々は乾燥イチジクの輸出量も多く、とくにトルコ産、イラン産のものは有名である。日本は上記統計ではエジプトの約16分の1=16,500トン(推定)を生産し、14位にランクインしている。

日本[編集]

日本における主な特産地は全国地方公共団体コード順に次のとおり。

文化とエピソード[編集]

旧約聖書』の創世記(3章7節)に「エデンの園禁断の果実を食べたアダムイヴは、自分たちが裸であることに気づいて、いちじくの葉で作った腰ミノを身につけた」と記されている。

また、『新約聖書』のルカによる福音書(13章6~9節)でキリストは、実がならないイチジクの木を切り倒すのではなく、実るように世話をし肥料を与えて育てるというたとえ話を語っている(en:Parable of the barren fig tree)。一方でマルコによる福音書(11章12節~)では、旅の途中イチジクの木を見つけた空腹のキリストがその木にまだ実がなっていないのに腹を立て、呪いの言葉を述べると翌日その木が枯れていたというエピソードがある。

その他にもイチジクは聖書の中でイスラエル、または、再臨終末のたとえと関連してしばしば登場する。

イチジクはバラモン教ではヴィシュヌ神、古代ギリシャではディオニュソスへの供物であり、ローマ建国神話ロムルスとレムスはイチジクの木陰で生まれたとされている。他の民族でもイチジクは生命力や知識、自然の再生、豊かさなどの象徴とされている。イチジクを摘むと花柄からラテックスと呼ばれる樹液が滴る。この樹液は母乳や精液になぞらえられ、アフリカの女性の間では不妊治療や乳汁分泌の促進に効果がある塗油として使われてきた[5]

古代ローマの政治家大カトは、第一次・第二次ポエニ戦争を戦った敵であるカルタゴを滅ぼす必要性を説くため、演説の中でカルタゴ産のイチジクの実を用いたと伝えられる。イチジクの流通は乾燥品が中心であった当時において、カルタゴから運ばれたイチジクが生食できるほど新鮮であることを示し、カルタゴの脅威が身近にあることをアピールしたのだという。

その他[編集]

  • カリフォルニアでは毎年8月に“Fig Fest”というイチジクのフェスティバルが開催されている。
  • 東南アジアには中国語で「無花果」と呼ばれる甘く味付けした菓子もあるが、これはパパイヤを千切りにして干した物で、イチジクとは関係がない。
  • イチジクの天然香料は毒性が強いために化粧品などには使用されない。香水などに用いるイチジク香はグリーン香にココナツ香を加えて再現されている。
  • 尾張地方の一地域[どこ?]夏至にイチジクの田楽を食べる風習がある。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 中国の特産地である新疆ウイグル自治区のウイグル語や、中央〜南アジアの多くの言語で類似の語形をもつ。またトルコ語ロシア語には「インジール」に近い語形で伝わっていて、これは「映日」の中国語音(現代語音では yìngrì 「インジー」)にも近い。
  2. ^ 別説として、果実が一ヶ月程度で熟すから、または、一日一果実ずつ熟すから「一熟(イチジュク)」と呼び、「イチジク」はこの転訛であったとするが、実際には果実が熟するまでに2ヶ月半程度要することから、前者の理由については全く当たるものでない。後者についてもそのような事実はないが、あえて大雑把に言うなら大半の植物は何日にもわたってひとつふたつと実りつづけるのであり、なぜイチジクがその“代表”に選ばれたか、またそもそも、なぜそのような当たり前の事象が名称とされたかの説明を欠いている。また仮にこのような造語が行われたとして、造語法としても普通に見られるものではない。
  3. ^ イラントルコなどでは伝統的に収穫後に天日乾燥させるのに対し、米国カリフォルニア州では樹上で乾燥させてから収穫する方法がとられている[要出典]
  4. ^ 広島県尾道市では蓬莱柿(ほうらいし)という品種の生産量が全国一を誇り、2015年平成27年)に尾道ブランド第1号として認証された[4]

参照[編集]

  1. ^ 実際には花をつけている。#形態・生態節を参照。
  2. ^ 音位転換も参照。
  3. ^ 酉陽雑俎』に記載があるという。
  4. ^ [1]。 ※Countries by commodity をクリックし、Selected item 欄で Figs を選択。MT とあるのは metric ton の意で、日本語でいう「トン」のこと。

出典[編集]

  1. ^ Mordechai E. Kislev, Anat Hartmann, Ofer Bar-Yosef “Early Domesticated Fig in the Jordan Valley,” Science Magazine, Vol.312.no.5778, 2006, pp.1372-1374 [2]
  2. ^ 西日本新聞』(2012年9月25日)「イチジクソース 甘さ絶妙
  3. ^ 『信州の民間薬』全212頁中79頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  4. ^ “尾道ブランド第1号に「蓬莱柿」”. 中国新聞 (中国新聞社). (2015年10月6日). http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=190440&comment_sub_id=0&category_id=112 2015年10月11日閲覧。 
  5. ^ マグロンヌ・トゥーサン=サマ; 玉村豊男訳 『世界食物百科』 原書房、1998年ISBN 4562030534 pp.699-700

関連項目[編集]

外部リンク[編集]