酸性雨

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酸性雨による被害を受けた木々

酸性雨(さんせいう)とは、環境問題の一つとして問題視される現象で、大気汚染により降る酸性(厳密にはph5.6以下)ののことを指す。酸性の酸性雪(さんせいせつ)、酸性の酸性霧(さんせいむ)と呼ばれる。

原因

酸性雨の原因は化石燃料燃焼火山活動などにより発生する硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、塩化水素(HCl)などである。これらが大気中の水や酸素と反応することによって硫酸硝酸塩酸などの強酸が生じ、雨を通常よりも強い酸性にする。 また、アンモニアは大気中の水と反応し塩基性となるため、酸性の雨といった定義からは外れるが、降雨により土壌に運ばれた後に硝酸塩へと変化することで広義の意味で酸性雨の一因とされる。大気中に放出されるアンモニアについては、人間の活動や家畜糞尿に起因するものが問題視されている。

なお、日本における原因物質の発生源としては、産業活動に伴うものだけでなく火山活動(三宅島桜島)等も考えられている。また、東アジアから、偏西風に乗ってかなり広域に拡散・移動してくるものもあり、特に日本海側では観測される。

国立環境研究所の調査では日本で観測されるSOxのうち49%が中国起源のものとされ、続いて日本21%、火山13%、朝鮮12%とされている。

西欧やアメリカ東部では、まず工場密集地の近隣で起きる煤煙やスモッグの被害が顕著に現れたことで、濃度を低くするため煙突を高層化して、排煙・排ガスを上空高くに拡散させる措置がとられた。これが酸性雨の拡大に拍車をかけたとの見方がある。

酸性雨の基準値

一般的に、雨の水素イオン濃度(pH)値が5.6以下であるときに酸性雨と呼ぶ。これは、標準的な大気中において、雨水と二酸化炭素が平衡状態にあるときの値、つまり大気中の二酸化炭素を飽和溶解度になるまで純水に溶かしたときのpH値である。

しかし、この値を基準とすることについては異論も存在する。火山活動などにより非人為的に雨のpH値が低下することがあるほか、非人為的な起源の大気エアロゾル粒子、たとえば海塩粒子、土壌由来の微小粒子などが雨に溶解することで雨のpH値は場所により大きく異なってくるためである。

実際、酸性雨や酸性霧による環境への影響は、土壌や水中、建造物などに含まれる、酸性雨や酸性霧を中和する成分の濃度にも左右されてくる。5.6を下回ったからといってすぐに被害が現れるというわけではない。

こういった異論を踏まえて、基準値を緩めているところもある。たとえばpH5.0としているアメリカなどがある。

ただ、具体的のどのくらいの値に設定すればよいかというのは、調査が必要な上地域差があることなどから、はっきりと算出されていないのが現状である。いまのところ5.6というのが「ひとつの目安」となっている。参考として、土壌の酸性化はマグネシウムイオンが溶け出し始めるレベル、湖沼の酸性化はpH6.0~5.0くらいのレベルで被害が深刻化してくるとされる。

人為的な酸性雨の起源

世界で初めて酸性雨の存在が明らかにされたのは、産業革命が頂点に達した19世紀イギリスで、1878年のR. Smithの論文「マンチェスターのスモッグ」の中で言及されている。

影響

酸性雨の影響で枯れた丹沢山地ブナ

酸性雨の影響としては以下のようなものがある。

  • 湖沼を酸性化し、魚類の生育を脅かす。
  • 土壌を酸性化し、植物の生存に必要なカルシウムイオンマグネシウムイオンが溶解、雨で地中深くや地下水に浸透して流失する。
  • 土壌を酸性化し、植物に有害なアルミニウム重金属イオンを溶け出させる。また、溶け出した金属イオン(特にアルミニウムイオン)が河川に流入することで、水系の動物に被害を与えている。
  • 植物を枯死させる。樹木が立ち枯れする原因となる。
    • ヨーロッパ北米を中心に森林を枯らしている(ドイツシュヴァルツヴァルトが酸性雨被害の深刻な森として有名である。西ドイツの森林の半分以上が酸性雨による被害を受けているといわれている。)。その被害のさまからヨーロッパでは酸性雨のことを「緑のペスト」と呼んでいる。また、近年酸性雨による被害が報告されている中国では「空中鬼」の異称がある。
    • 日本では、群馬県赤城山神奈川県丹沢山地などでの森林の立ち枯れなどがある。これらの被害は、狭義の「酸性雨」でなく、光化学オキシダントのような広義の酸性雨(酸性降下物)の影響が強いのではないかといわれている。
  • 屋外にある銅像や歴史的建造物を溶かすなど、文化財に被害を与えている。
  • 鉄筋コンクリート構造の建物、橋梁などに用いられる鉄筋の腐食を進行させるなどの被害を与えている。

関連項目

外部リンク