租税

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租税(そぜい)・(ぜい)とは、人間及び商売、財産、所得、商品、取引等から公共部門(地方公共団体など)が徴収する金銭その他の財貨・サービスである。現代社会においては、ほとんどの国の政府が「お金(その国で使用されている通貨)」による納税方法を採用し、税金(ぜいきん)とも呼ばれる。

なお、税金を賦課することを課税(かぜい)、徴収することを徴税(ちょうぜい)、課税された税を納めることを納税(のうぜい)、それら課税や徴税についての事務などを税務(ぜいむ)という。また、税制(ぜいせい)は租税制度を指す用語であり、租税徴収を減額することを減税(げんぜい)、増額することを増税(ぞうぜい)という。昨今の消費税増税問題にあたっては「増税問題」を参照。

租税の機能・効果

税の重要性にあたっては、国税庁ホームページ[1]において租税教育推進協議会の「租税教室」を紹介している。県や市と協力して積極的に学校等で「租税教室」を行っており、そこで「お金」や「税」の意味を教えている。政府が「お金」の価値を保証することと税金の制度を存続させることとは表裏一体で、日本においては、明治時代の紙幣・債権経済への移行期に地租改正を行っている。

租税には次の4つの機能・効果があるとされている。

  1. 公共サービスの費用調達機能:「市場の失敗」という言葉に象徴される市場経済のもとでは提供困難なサービス(軍事、国防、裁判、警察、公共事業など)の提供のための費用を調達するための機能
  2. 所得の再分配機能:自由(私的財産権の保護)と平等(生存権の保障)は、究極的には矛盾する考え方であるが、今日の多くの国では、いわゆる福祉国家の理念のもと、国家が一定程度私的財産に干渉することもやむを得ないことと考えられている。このような考え方に基づいて持てる者から持たざる者に富を再分配する機能
  3. 経済への阻害効果:投資意欲の妨害、生産活動・労働意欲の阻害、消費意欲の低下など、経済が本来あるべき姿を歪め、経済全体に悪影響を与える効果
  4. 景気の調整機能:自由主義経済体制における特殊な調整機能。景気の循環は不可避のものとされるが、景気の加熱期には増税を行うことにより余剰資金を減らし投資の抑制を図る。逆に後退期には減税を行うことにより余剰資金を増やし投資の活性化を行う。これにより、ある程度景気を調節することが可能であるとされる。現代の租税制度は累進課税を採用している租税が国等の主要な財源を占めているため、所得の変動に応じた税率の変動により、景気が自動的に調整されるという効果を有する。この効果は「自動景気調整機能(ビルト・イン・スタビライザー)」と称される。

租税が課される根拠

租税が課される根拠として、大きくは次の2つの考え方がある。

  1. 利益説ロックルソーアダム・スミスが唱えた。国家契約説の視点から、租税は個人が受ける公共サービスに応じて支払う公共サービスの対価であるとする考え方。後述する応益税の理論的根拠といえる。
  2. 能力説ジョン・スチュアート・ミルワグナーが唱えた。租税は国家公共の利益を維持するための義務であり、人々は各人の能力に応じて租税を負担し、それによってその義務を果たすとする。「義務説」とも称される。後述する応能税の理論的根拠といえる。

租税の基本原則

納税の義務

日本国憲法第30条では、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」と納税の義務について規定している。同条は国民に納税の義務を課したものとして国家による徴税の根拠となっている。もっとも、この憲法は国家の義務を定めたものであり、国民の義務を定めたと解釈するのは誤りであるとする向きもある。同条は国民が法律に基づかなければ課税されないという権利を定めたとみることも出来る。

租税法律主義

租税法律主義とは、租税は、民間の富を強制的に国家へ移転させるものなので、租税の賦課・徴収を行うには必ず法律の根拠を要する、とする原則。この原則が初めて出現したのは、13世紀イギリスマグナ・カルタである。近代以前は、君主や支配者が恣意的な租税運用を行うことが多かったが、近代に入ると市民階級が成長し、課税するには課税される側の同意が必要だという思想が一般的となり始めていた。あわせて、公権力の行使は法律の根拠に基づくべしとする法治主義も広がっていた。そこで、課税に関することは、国民=課税される側の代表からなる議会が制定した法律の根拠に基づくべしとする基本原則、すなわち租税法律主義が生まれた。現代では、ほとんどの民主国家租税法律主義が憲法原理とされており、日本国憲法では第84条がこれを定めている。

租税公平主義

租税公平主義というのは、租税は各人の担税力(租税負担能力)に応じて公平に配分されるべきであり、租税に関して全ての国民は平等に扱われるべきだという原則である。この原則は、日本国憲法第14条第1項が定める平等原則が、租税の分野に適用されたものである。

租税の歴史

租税の歴史は国家の歴史と密接に関連する。極端な増税は、農民など税の負担者を疲弊させ反乱を招き国家の滅亡につながることもあった。 歴史的には、労働、兵役やその地方の特産物等による納税が行われた時代があった。例えば万里の長城など歴史的な建造物の多くは、強制的な労働力の徴発より作られたものと考えられる。

古代

  • 原始には、神に奉じた物を再分配する、という形を取っていた。
  • 古代エジプトパピルス文書に当時の農民に対する厳しい搾取と免税特権をもつ神官・書記に関する記述がある。
  • 古代インドマウリヤ朝では、農民に対し収穫高の四分の一程度を賦課し、強制労働も行われていた。

中国

  • 古代中国のの主要財源は、算賦(人頭税及び財産税)、田租、徭役(労働の提供)であった。
  • では当初均田制に基づく租・庸・調の税制を採用したが、農民の逃亡が相次いだため、荘園に課税する両税法が導入された。また、の市場価格の10倍もの間接税を課した。
  • 末の李自成の乱のスローガンには、3年間の免税が謳われていた。

ヨーロッパ

現代

  • 現代では、相続税における物納などの例外を除き、金銭による納付が原則とされている。金銭による納付のメリットは、納税者を租税としての強制的な労働や収穫物の調達といった煩わしさから解放することにある。

租税の種類

租税は観点の違いからいくつかの種類に区分できる。

直接税と間接税

租税は納め方によって2つの種類に分けることが出来る。 一つは、納税者と納税義務者が一致することを想定している直接税である。納税者が、地方公共団体に直接納めるもので、所得税法人税道府県民税事業税等がこれに該当する。 もう一つは、納税者と納税義務者が一致しないことを想定している間接税である。これは、納税者が直接納めず、納税義務者たる事業者などを通じて納める租税で、消費税酒税等がこれに該当する。 このように、直接税と間接税との相違は、納税者から担税者への税負担の転嫁があるか否かに求められる。しかし転嫁の有無は、そのときの経済的な諸状況によって様々であり、これをもって直接税と間接税の区分の基準とするのは正確ではないとも批判される。

また、納税義務者の実感は上述の説明と往々にして異なる。所得税は直接税であるはずなのだが、給与所得者(サラリーマン)の場合、勤務先企業が源泉徴収して国へ納入する仕組みが取られているため、給与所得者自らが納税義務者であるという感覚は薄い。逆に消費税は間接税なのだが、日々の買い物で消費税額を常に意識せざるを得ず、自らが納税義務者であるかのように感じられる。

国税と地方税

租税は課税権者に応じて2つの種類に分けることが出来る。一つは、国税であり、もう一つは地方税である。

応益税と応能税

両者の区分は、いかなる課税が公平であるかという哲学的な問題に関わっており、現存する租税のすべてをこれらどちらかに厳密に区分することは困難である。

  • 応益税(応益原則)とは、行政によるサービスの恩恵を受ける者に対してその恩恵の量に応じて課す租税である。
  • 応能税(応能原則)とは、負担する能力のある者に対してその能力に応じて課す租税である。

一般的には、それぞれ国税は応能税、地方税は応益税的な傾向を持つといわれる。ただし、例えば、道府県民税における均等割、所得割については、それぞれ応益税、応能税的な性質を持つ等の例外も見られる。

応益税は、物に着目して課税することから物税と、応能税は人に着目して課税することから人税と、それぞれ説明される。すなわち、例えば、応益税とされる固定資産税は、固定資産の所在する自治体において、固定資産税評価額を課税標準として課されるもので、固定資産そのものに着目して課税するのであって、その固定資産の所有者自身に担税力があるかどうかは一般に考慮しないため、物税であるといえる。これに対して、応能税とされる所得税は、個人の所得の多寡により累進的な税率が適用され、人的な経済力を考慮しているため、人税であるといえる。

これらのことを単純化すると次のとおりである。

  • 応益税 - 物税 - 比例的課税 - 地方税の原則
  • 応能税 - 人税 - 累進的課税 - 国税の原則

しかし、応益税とされることが多い固定資産税についても、応能の基準となる「所得、財産、消費」のうちの「財産」に着目した税金であり、応能的な要素を否定することはできない。

普通税と目的税

租税は、特にその使途を特定しないで徴収される普通税と、一定の政策目的を達成するために使途を特定して 徴収される目的税とに区分される。所得税、法人税、消費税は普通税である。

目的税としては、国税では地方道路税電源開発促進税がこれに該当し、地方税では水利地益税国民健康保険税などがこれに該当する。

内国税と関税

租税は内国税と関税に区分される。内国税は、国税にあっては国税庁の下部組織(国税局、税務署)によって、地方税にあっては地方自治体の税務部局により賦課・徴収されるのに対し、関税は税関により賦課・徴収される。

本税と附帯税

国税については、所得税、法人税などの本税と、これらの本税が、期限内に納付されなかったり、申告が偽りに基づいていた場合などに課される附帯税とに区分できる。なお、印紙税の不納付については、附帯税ではなく、過怠税が課される。

収得税、収益税、財産税、流通税、消費税

租税は、納税者の租税を負担する能力(担税力)の基準を何に置くかにより、次のように区分できる。

  • 収得税とは、個人又は法人の所得に担税力を見出す税。
  • 収益税とは、個人又は法人の収入に担税力を見出す税。
  • 財産税とは、個人又は法人の財産の所有という事実に担税力を見出す税。
  • 流通税とは、個人又は法人の権利の得喪という事実に担税力を見出す税。
  • 消費税とは、個人又は法人が物、サービスを消費する点に担税力を見出す税。

徴税(納税)の方法

賦課された租税を徴収(納税)する方法として、普通徴収特別徴収源泉徴収などの方法がある。

賦課された租税が滞納された場合、徴収権者は一定の要件により、滞納者の財産を差し押さえ換価するなどの方法により、滞納された租税を強制的に取り立てることができる。詳細は滞納処分を参照のこと。

徴税(納税)にかかるコスト

主に次の4つがある。

  1. 税金を払うためのコスト:領収書などの必要な書類の保管、税制や納税の方法の学習、確定申告源泉徴収帳簿の作成・提出等にかかる手間や時間、人件費などの費用。
  2. 国税局などの徴税機関のコスト:徴税機関の運営の費用。
  3. 施行や裁判のコスト:税金滞納の通知や監査、裁判、税金滞納に対する差し押さえなどにかかる手間や費用。
  4. 節税脱税のコスト:租税回避地への資金の移動、資金洗浄などにかかる手間や費用。

関連用語

  • 租税負担率
    国民所得に対する国税、地方税を合わせた総額の割合。

関連項目

外部リンク

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