租税法律主義

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租税法律主義(そぜいほうりつしゅぎ)とは、何人(なんぴと)も法律の根拠がなければ、租税を賦課されたり、徴収されたりすることがないとする考え方。

概要[編集]

現在、すべての民主主義国家では、国民の代表者から成る議会が定めた法律によってのみ租税が賦課される。これを、租税法律主義と称する[1]。言い換えれば、課税権者(国家)に対して、非課税権者=国民(の代表である議会)の同意に基づく課税を義務付けるという形を採っている[2]

地方税に関しては租税条例主義地方税条例主義と言われる。

租税法律主義は法律によらない課税を禁止した形式的租税法律主義基本的人権に抵触する租税立法を禁止した実質的租税法律主義の2つに分けることができる。前者は形式的法律主義、後者は実質的法律主義に対応する。現在の民主主義国家・資本主義国家においては、租税法律主義で言う租税法は自由主義的税法の性格を持つことが要求されている[2]

沿革[編集]

租税法律主義はイングランド王国マグナ・カルタ1215年)にその萌芽が見られる。そののち、権利請願1628年)、権利章典1689年)、フランス人権宣言1789年)などに引きつがれ、近代憲法の諸規定において重要な内容のひとつとなっている[1]

租税法律主義は近代民主主義の発展とともに確立したが[1]、それと同時に議会制民主主義法治主義の発展を促した側面もある[2]

意義[編集]

税金の賦課は、国家が様々な公共サービスを提供するための資金調達手法としては、最もオーソドックスなものである。この手法は、国家が国民の私有財産の一部を義務的・強制的に提供させるという側面があることから、その賦課や徴収の方法を法律という一定のルールの下に置こうとするものであり、近代民主主義国家の発展とも密接な関係をもつ。すなわち、近代以前の国家では、絶対君主などが恣意的な課税を行う場合が多かったが、市民階級が勢力を持つと、選挙による代表議会の合意がなければ課税を行い得ないこととなった。

機能[編集]

租税法律主義の機能は、租税の納付を求められる国民が、その経済生活において「法的安定性」と「予測可能性」を確保することにある、とされている。

納税の義務[編集]

納税の義務は近代の民主主義国家では租税に関する最も基本的な原理となっている。例えば、第二次世界大戦後の日本では

日本国憲法第84条【課税の要件】 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
(Article 84: No new taxes shall be imposed or existing ones modified except by law or under such conditions as law may prescribe.)」

に、この考え方が表されているとともに、

日本国憲法第30条【納税の義務】 「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
(Article 30: The people shall be liable to taxation as provided by law.)」

として、納税の義務は法律の規定に基づく国民の義務であることを明確に示している[1][3]

租税根拠論[編集]

国民はなぜの納税の義務を負わないといけないのかを根拠づける考え方を租税根拠論と言う。近代には2つの租税根拠論が存在した。

利益説(対価説)
租税を国家が財産所有者に与える利益の対価と考える説。国家の徴税権と市民の私有財産権を調和する理論。17世紀以降ブルジョワジーの市民的財政理論として台頭した。
義務説(犠牲説)
税有機的全体たる国家のために徴収されるものとして捉え、納税義務を個人の打算を超越した崇高な義務とする説。義務説はドイツ財政学(官房論的財政理論)・国家有機体説に基づき、19世紀のドイツで発達した。

この2つの説は福祉国家的な民主主義観を前提として、民主主義国家の主権者=国民は国家の維持に必要な経費を代表者が定めたところに従い自ら負担すべき、と考える民主主義的租税観に止揚した[4]

日本国憲法第30条は国民主権主義(納税者主権主義)と基本的人権尊重主義の両方を内包したうえで租税法律主義を意義づけたものであるから、日本国憲法は国民主権主義的な租税観を示しているといえる[1]

形式的租税法律主義[編集]

形式的租税法律主義の具体的な内容として、以下の諸原則を掲げることができる[4]

租税立法に対する統制[編集]

課税要件法定主義(納税要件法定主義)
課税要件(租税を課税するための要件)と納税要件(租税を納税するための要件)の全てと租税の賦課・徴収の手続は予め法律によって規定されなければならないとする原則。
法律の法規創造の原則からの要請でもある[5]。刑法における罪刑法定主義に対応する[6]
一般的に条約は国内法に優越し、法律を介さずして国内法としての効力を持つことがあるが、租税条約に関しては直接国内に適用することはできない。 特に課税根拠条項(納税義務を拡大・創設する条項)は法律なくして国内に適用することは許されないが、締結批准された租税条約の中心をなす課税制限条項(国際的二重課税排除のために締結国の課税権を制限する条項)は規定が一義的・明確である限り、例外的に国内適用可能性を持つ[7]
課税要件簡素化主義
税法を簡素化すべきという要請。租税に関することを全て法律で規定しようとするとあまりにも複雑になってしまうため。
法律の留保の原則
法律の根拠によらずに、政令省令において新たに課税要件に関する定めをしたり、現行の課税要件を変更することはできないとする原則。
法律の優位の原則
法律の定めに違反する政令省令などは、これを無効であるとする原則。
政令省令への委任に関する原則
租税立法において課税要件および租税の賦課や徴収に関する事項を政令省令委任することは許されるものではあるが、課税要件法定主義の趣旨から、一般的白紙的委任は許されず、委任の程度や基準と内容が法律で明確にされなければならない。
また、基本的事項は法律に規定される必要があり、命令に委任できるのは技術的細目的事項に限られる。
課税要件明確主義(納税要件明確主義
課税要件・納税要件と賦課徴収手続は、納税者である国民がその内容を理解出来るように、一義的で明確に定められなければならないとする原則。税務行政に自由な解釈・裁量を認めない要請。
租税法律主義の持つ法的安定性・予測可能性が十分に機能するために不可欠な要請である。申告納税制度の運用にも役立っている。
手続的保障の原則
租税の賦課・徴収は「適正な手続」で行われなければならず、それに対する訴訟は「公正手続」で行われなければならないとする原則。
日本では日本国憲法第31条【法定手続の保障】「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」および日本国憲法第32条【裁判を受ける権利】「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」を根拠としている。
租税法律不遡及の原則(遡及立法禁止原則)
納税者に不利な遡及適応は許さないとする原則。
不確定概念
課税要件明確主義の例外。「著しく減少させる」「正当な理由」「必要がある時」など。
税法が変化の激しい国民生活や経済情勢に対応し、税収の確保や租税負担の公平化を実現化するためにやむをえない面もある。ただし、法的安定性・予測可能性を維持するために、租税立法者は当該既定の趣旨・目的をあらかじめ明確にする必要がある。

租税行政に対する統制[編集]

合法性の原則(税務行政の合法律の原則)
課税要件が充足されている限り、租税行政庁(課税庁)には租税を減免したり、租税を徴収しないというような自由はなく、法律で定められたとおりの租税を徴収しなければならないとする原則。課税における法律の留保の原則や法律の優先の原則の表れ。租税正義の要請。
この原則によって、課税における税務官庁の裁量行為(行為裁量)を排除した覊束行為(要件裁量も効果裁量もない行為)となる。例外として法律が税務官庁に租税の減免を委ねる場合のみ税務官庁に裁量権が与えられている。

税法解釈[編集]

租税法律主義・合法性の原則のもと、税法においては法解釈に厳格さが強く求められている(厳格な解釈の要請)。ここで言う法解釈は法文に忠実な文理解釈である必要がある。これによって一般人の理解もしやすく、法的安定性・予測可能性が担保される。

ただし、文理解釈でも複数の解釈に分かれる場合、文理解釈の補完として目的論的解釈を行うこともありうる。あくまで租税立法者の価値判断を参考に税法の趣旨を一義的に解釈するにとどまり、解釈者の価値判断を立法者の価値判断に優先させることは許されない。

また、複数の解釈が想定でき、規定の内容を一義的に確定できない場合、納税者に有利な類推を許容する考え方もある(疑わしき場納税者の利益に・国庫の不利益に)。なお、借用概念(他の法領域から借用した概念)の解釈に関して、日本では私法と同様に解釈すべきとする説(統一説)が有力である[8]

課税要件の認定[編集]

厳格な事実認定の要請
私法関係準拠主義
疑わしきは被告人の利益に
総額主義

租税回避[編集]

租税回避とは通常用いられる法形式を回避した経済的に合理的理由のない異常な法形式による取引を行うことで、租税負担の軽減または排除を行うこと。自由主義的税法では経済的自由を尊重して租税回避を適法としている。ただし「異常な」法形式をとっているため不当なものとして扱われ、租税負担の軽減が認められないこともある(所得税法第157条など)。

実質的租税法律主義[編集]

租税公平主義(租税平等主義、負担公平の原則)
租税負担を納税者に公平に配分しなければならないという考え方。租税正義の実現に必要不可欠な原則。財政学上の要請でもある。
担税力原則(担税力に応じた課税の原則)
確認の担税力や経済的実質を基準にして課税する原則。租税立法に関する実質主義とも呼ばれる。
租税特別措置
税制上の特例。租税公平主義の例外。
立法者が租税を政策手段として用いる場合に制定される。租税重課措置(特定の要件に当てはまるものの租税負担を荷重する特例)と租税優遇措置(特定の要件に当てはまる者の租税負担を軽くする特例)がある。
財産権保障
私人に財産の効用を全面的に否定する租税立法は許されない。
租税は実質的に財産権の侵害だが、日本の司法では租税立法が財産権の侵害を理由に違憲と判断されたことはない。それゆえ課税は憲法における財産権の範囲外であると説明されることがある。この考え方の元には民主主義的租税観がある。
なお、 日本国憲法第30条(納税の義務)を日本国憲法第29条(財産権の保障)の「第4項」として捉え、国家によって保障される私有財産制には租税侵害が中核的内容として組み込まれているとみる説もある(憲法30条=憲法29条「4項」論)[9]
生存権保障
所得税における非課税措置や徴収における差押禁止財産の一部には「健康で文化的な最低限度の生活」(日本国憲法第25条)に配慮した条文がある[10]。しかし、課税減免措置は生存権を保証するための税収を減少させるため、結果的に生存権保障を制約する恐れがある。従って憲法25条から制度的後退禁止原則(具体化した法律によって国民に付与された権利を合法的に剥奪することは違憲であるとする原則)が導き出される程度にすぎない。
また、憲法13条の幸福追求権を元に「人間の尊厳」に裏打ちされた生存権は国家の課税権に優先すると考え、人間の尊厳に必要な所得・財産・消費には国家は課税できないという原則を見出す説もある[11]
適正手続保証
税法における適正手続の原則。ここで言う手続は賦課徴収や事後的救済(租税訴訟法)での手続き全てを含む。

脚注[編集]

注釈[編集]

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参照[編集]

  1. ^ a b c d e 『私たちの税金』(2012)p.15
  2. ^ a b c 谷口勢津夫『税法基本講義』第2版9ページ
  3. ^ もとより、憲法は国家の義務を定めたものであるにも関わらず、国民の義務を定めたと解釈するのは誤りであるとする見解もある。同条はまた、国民が法律に基づかなければ課税されないという権利を定めたと解釈することもできる。
  4. ^ a b 谷口14ページ
  5. ^ 谷口22ページ
  6. ^ 日本国憲法第30条は「納税の義務」の本質と「租税法律主義」の原則の双方を包含している。このような国民主権主義(納税者主権主義)的な租税観を刑罰と同様に国家の人権への侵害(財産権への侵害)と捉えることは不適当であるから、本質的な意義において罪刑法定主義租税法律主義の両者は異なるとする説もあるが、納税義務の履行は金員や財物の支払であり、刑法における罰金刑などと人権侵害の実態や理論上の位置づけは何ら変わらないことから、通説とはなりえていない。
  7. ^ 谷口24ページ
  8. ^ 谷口40 - 42ページ
  9. ^ 谷口19ページ
  10. ^ 谷口20ページ
  11. ^ 谷口20 - 21ページ

参考文献[編集]

  • 松沢智 『租税実体法の解釈と適用-法律的視点からの法人税法の考察』 中央経済社、1993年8月。ISBN 4502725838
  • 『平成24年度版 私たちの税金』 一般財団法人大蔵財務協会、一般財団法人大蔵財務協会、2012年6月。ISBN 978-4-7547-4332-1

関連項目[編集]