租税法律主義

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租税法律主義(そぜいほうりつしゅぎ)とは、何人(なんぴと)も法律の根拠がなければ、租税を賦課されたり、徴収されたりすることがないとする考え方。

概要[編集]

沿革[編集]

現在、すべての民主主義国家では、国民の代表者から成る議会が定めた法律によってのみ租税が賦課される。これを、租税法律主義と称する[1]

租税法律主義は、近代民主主義の発展とともに確立されてきたもので、1215年イングランド王国マグナ・カルタにその萌芽がすでにみられ、そののち、権利請願1628年)、権利章典1689年)、フランス人権宣言1789年)などに引きつがれ、近代憲法の諸規定において重要な内容のひとつとなっているものである[1]

納税の義務[編集]

近代の民主主義国家では租税に関する最も基本的な原理となっており、今日の日本でも、

日本国憲法第84条【課税の要件】 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
(Article 84: No new taxes shall be imposed or existing ones modified except by law or under such conditions as law may prescribe.)」

に、この考え方が表されているとともに、

日本国憲法第30条【納税の義務】 「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
(Article 30: The people shall be liable to taxation as provided by law.)」

として、納税の義務は法律の規定に基づく国民の義務であることを明確に示している[1]。もとより、憲法は国家の義務を定めたものであるにも関わらず、国民の義務を定めたと解釈するのは誤りであるとする見解もある。同条はまた、国民が法律に基づかなければ課税されないという権利を定めたと解釈することもできる。

日本国憲法第30条は国民主権主義(納税者主権主義)と基本的人権尊重主義の両方を内包したうえで租税法律主義を意義づけたものであるから、日本国憲法は国民主権主義的な租税観を示しているといえる[1]

意義[編集]

税金の賦課は、国家が様々な公共サービスを提供するための資金調達手法としては、最もオーソドックスなものである。この手法は、国家が国民の私有財産の一部を義務的・強制的に提供させるという側面があることから、その賦課や徴収の方法を法律という一定のルールの下に置こうとするものであり、近代民主主義国家の発展とも密接な関係をもつ。すなわち、近代以前の国家では、絶対君主などが恣意的な課税を行う場合が多かったが、市民階級が勢力を持つと、選挙による代表議会の合意がなければ課税を行い得ないこととなった。

機能[編集]

租税法律主義の機能は、租税の納付を求められる国民が、その経済生活において「法的安定性」と「予測可能性」を確保することにある、とされている。

租税法律主義における原則[編集]

租税法律主義の具体的な内容として、以下の諸原則を掲げることができる。

課税要件法定主義または納税要件法定主義[編集]

課税要件法定主義または納税要件法定主義とは、租税を課税するための要件課税要件)または租税を納税するための要件(納税要件)のすべてと租税の賦課・徴収の手続きは法律によって規定されなければならないとする原則。刑法における罪刑法定主義に類似する。

しかしながら、日本国憲法第三十条は「納税の義務」の本質と「租税法律主義」の原則の双方を包含している。このような国民主権主義(納税者主権主義)的な租税観を刑罰と同様に国家の人権への侵害(財産権への侵害)と捉えることは不適当であるから、本質的な意義において罪刑法定主義租税法律主義の両者は異なるとする説もあるが、納税義務の履行は金員や財物の支払であり、刑法における罰金刑などと人権侵害の実態や理論上の位置づけは何ら変わらないことから、通説とはなりえていない。

法律の留保の原則
法律の根拠によらずに、政令省令において新たに課税要件に関する定めをしたり、現行の課税要件を変更することはできないとする原則。
法律の優位の原則
法律の定めに違反する政令省令などは、これを無効であるとする原則。
政令省令への委任に関する原則
租税立法において課税要件および租税の賦課や徴収に関する事項を政令省令委任することは許されるものではあるが、課税要件法定主義の趣旨から、一般的白紙的委任は許されず、委任の程度や基準と内容が法律で明確にされなければならない。

課税要件明確主義または納税要件明確主義[編集]

課税要件明確主義または納税要件明確主義とは、租税を課税するための要件課税要件)または租税を納税するための要件納税要件)ならびに賦課や徴収の手続は、納税者である国民がその内容を理解出来るように、一義的で明確に定められなければならないとする原則。例外として、不確定概念がある。

合法性の原則[編集]

課税要件が充足されている限り、租税行政庁(課税庁)には租税を減免したり、租税を徴収しないというような自由はなく、法律で定められたとおりの租税を徴収しなければならないとする原則。

手続的保障の原則[編集]

日本国憲法第31条【法定手続の保障】「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」および日本国憲法第32条【裁判を受ける権利】「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」を根拠として、租税の賦課や徴収は「適正な手続」で行われなければならず、それに対する訴訟は「公正手続」で行われなければならないとする原則。

租税法律主義と租税公平主義の関係の本質[編集]

法の究極的な目的は、正義の実現にあるといえる。これを租税法にあてはめれば、租税法の究極的な目的は租税正義の実現にあるといえよう。

そして、租税法律主義と租税公平主義のそれぞれの要請を共に充足することによって「適正」な租税法の解釈と適用がなされることで租税正義は実現されるのである。

したがって、租税法律主義と租税公平主義を対立する概念(原則)として捉えるのではなく、これらの原則は租税法の究極的な目的である租税正義の実現のための手段や方法にすぎないのであるから、租税正義の下において租税法律主義と租税公平主義は共に「調和」され一体になる関係にあるということができる。

脚注[編集]

注釈[編集]

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参照[編集]

参考文献[編集]

関連項目[編集]