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日本脳炎

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日本脳炎(にほんのうえん、Japanese encephalitis)は、ウイルスによる脳炎。感染者の発症率は0.1% - 1%と推定されており、そのほとんどが不顕性感染である。フラビウイルス科フラビウイルス属の日本脳炎ウイルス感染した主にコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)に刺されることで感染するが、熱帯地域では他の蚊も媒介する。日本においては家畜伝染病予防法における監視伝染病であるとともに感染症法における第四類感染症である。

特徴

潜伏期は6~16日間とされ高熱を発し、痙攣、意識障害に陥る。発症してからの治療方法は対症療法のみ。致死率は20%程度であるが、半数以上は脳にダメージを受け麻痺などの重篤な後遺症が残る。サギ類では日本脳炎ウイルスに対する感受性が高く、特に豚は増幅動物としての役割を演じている。鳥類は虫類にも感受性がある。

病原体

1935年(昭和10年)ヒトの感染脳から初めて分離された。
伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)とも分類される。類似ウイルスには、ウエストナイルウイルスセントルイス脳炎ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルスがある。

発生状況

1970-1998 アジアにおける日本脳炎の発症分布(CDC資料)

日本では、1960年代には年間1000人程度の患者が発生していたが、1967年(昭和42年)~1976年(昭和51年)にかけて小児及び高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種を行った結果、劇的に減少し現在では年間数人程度である[1]。しかしアジアでは、南アジア東南アジアを中心に2007年(平成19年)現在も、年間1万人以上の患者が発生している。日本では南部から始まり、北部へと発生が移動する(北進現象)。
厚生労働省は毎年、日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べる為、ブタのウイルス抗体獲得状況を調査している。調査結果によれば、「ウィルスを持った蚊は毎年発生しており、引き続き国内でも感染の可能性がある」としている。つまり、ワクチン接種が発症を有効に阻止していると言える。

日本における予防接種

  • 1954年(昭和29年) - 不活化ワクチンの勧奨接種が開始
  • 1965年(昭和40年) - 高度精製ワクチンが使用されている。
  • 1967年(昭和42年) ~ 1976年(昭和51年) - 小児及び高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種
  • 1976年(昭和51年) - 臨時の予防接種に指定
  • 1994年(平成6年) - 定期予防接種に指定
  • 2005年(平成17年) - 日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えの通知
  • 2009年(平成21年) - 新製法による日本脳炎ワクチン承認
  • 2010年(平成22年) - 新型ワクチンによる定期接種対象者に対するワクチン接種の積極的勧奨再開

日本脳炎の患者は1967年~1976年にかけての積極的ワクチン接種の結果、劇的に減少した。

予防

ワクチン接種が基本であるが、媒介蚊の防虫対策としての防虫蚊帳蚊取線香、屋外での長袖・長ズボン・防虫薬の使用が有効とされている。

ワクチン接種

  • 第1期初回 生後6ヶ月から90ヶ月未満(推奨は3歳)に6~28日の間隔で計2回
  • 第1期追加 1期初回終了後おおむね1年後(推奨は4歳)に1回
  • 第2期 9歳から13歳未満(推奨は9歳) 1回
  • 第3期 14歳から16歳未満(予防接種施行令の改正により2005年(平成17年)7月29日付廃止)

ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて

ワクチン接種と急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の因果関係が否定できない事例が認められた為、現行の(北京株)マウス脳由来ワクチンを2005年(平成17年)時点で開発途上であった、より安全性が高いと考えられたvero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)由来ワクチンへの切替を見越し、2005年5月30日付で厚生労働省健康局結核感染症課長が「現行のワクチンでの積極的推奨の差し控えの勧告」[2]を各都道府県に通知し、この通知により一部の市町村が自主的に接種を一時中止した。
2006年(平成18年)8月31日付で同課長が「定期の予防接種における日本脳炎ワクチン接種の取扱いについて」を各都道府県に通知し、これにより「定期の予防接種対象者のうち日本脳炎に感染するおそれが高いと認められる者等その保護者が日本脳炎に係る予防接種を受けさせることを特に希望する場合は市町村は、当該保護者に対して、定期の予防接種を行わないこととすることはできない」とされた。
厚生労働省は2007年7月に全国の児童保護者に対して、日本脳炎を媒介する蚊に児童が刺されないように注意喚起を行った。

新型ワクチンの開発について

積極的勧奨の差し控えの勧告後、Vero細胞を用いて培養したウイルスを用いた新型ワクチンの開発が進められ、当初は2006年(平成18年)夏の接種再開を目指し承認申請されていた。接種部位の腫れ等の副反応が治験において認められた為に治験が追加され、承認が遅れたが、阪大微生物病研究会製の「ジェービックV」は2009年(平成21年)2月に承認され、6月より接種が開始され、さらに化学及血清療法研究所製の「エンセバック皮下注用」も2011年(平成23年)1月に承認、4月より接種が開始され、供給体制が整いつつある。
マウス脳由来ワクチンの在庫は限られ、予防接種の実施も日本脳炎流行地域渡航者などの接種を希望する者にとどまったため、日本脳炎の抗体を持たない児童の増加による流行が懸念された(実際、積極的勧奨の差し控え期間中に、それまで見られなかった乳幼児の日本脳炎発症者が報告された)。
マウス脳由来ワクチンは在庫及び使用期限切れにより2010年(平成22年)3月に払底したが、新型ワクチンが承認され、2010年(平成22年)4月からは第1期定期接種対象者に対するワクチン接種の積極的勧奨が再開された。さらに、2010年8月からは第2期以降の対象者や接種機会を逃した児童への接種の積極的勧奨も再開された。

関連法規

脚注

  1. ^ 日本脳炎 Japanese encephalitis国立感染症研究所 ウイルス第一部第2室
  2. ^ 日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて厚生労働省

外部リンク

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