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宮武一貴

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宮武 一貴(みやたけ かずたか、1949年9月21日- )は、スタジオぬえ所属のメカニックデザイナーイラストレーター、コンセプトデザイナー。神奈川県横須賀市出身。本名渡邊一貴。

大河原邦男と並び、日本のメカニックデザイナー職を確立した草分け的存在である。

経歴

幼少時より父親の仕事で海上自衛隊横須賀基地に出入りする機会が多く、軍艦などに間近に接した経験からミリタリーイラストを描き始める。後に『2001年宇宙の旅』の特撮メカニックに衝撃を受け、宇宙船などのSFイラストに開眼する。

同人時代にはSF小説も執筆し、1972年1974年にSF同人誌『宇宙塵』に発表した『スーパーバード』『コッペリア』の2編は1977年1987年講談社河出書房新社から出された『宇宙塵』の傑作選にも収録された。

東京農工大学農学部大学院在学中の1972年、同人会の仲間とSFクリスタルアートスタジオを創設(のちにスタジオぬえへ移行)。同僚加藤直之と共に同社の専門であるSFアニメなどのメカニックデザインや、SF関連のイラストを多数手掛け、当時のSFビジュアルシーンに大きな影響を与えた。加藤との共同デザインである小説『宇宙の戦士』(ハヤカワ文庫版)のパワードスーツは、『機動戦士ガンダム』を始めとするリアルロボットアニメの誕生に繋がった。

以来、スタジオぬえ名義のものも含め、アニメ作品におけるいわゆるメカニックデザイナーとしての関わりにおいて、質・量共に圧倒的な仕事量をこなしてきており、現在でも第一線で活躍している。

アニメの主役級メカとしては『超時空世紀オーガス』のオーガス[1]聖戦士ダンバイン』のダンバイン[2]などがある。また、幼少時の経験を基にして宇宙艦艇をデザインし、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』のアンドロメダ[3]や劇場版『銀河鉄道999』のアルカディア号[4]などを手掛けた。スタジオぬえの代表作マクロスシリーズでは後輩の河森正治と共にメカニックデザインを手がけ、敵対する異星人の文明(文字・言語・技術・美術体系)など、世界観全体の設定も行っている。

作風

SF理論のみならず科学・軍事・生物・建築など多分野にわたって知識を幅広く持つ人物であり、その博識を活かした兵器から動植物まで描き分けるデザインの幅広さや応用力の高さが特徴である。美術全般の設定にも能力を発揮し、近年は作品のトータルの世界観を創造するコンセプトデザイナーとしての活動を主としている。

戦艦や要塞など巨大重量物のデザインでは、スケール感のあるラインを引くために腕のストロークを使って大きな図版を描くという。『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』に登場する超巨大戦艦は紙を横に3枚つなげて設定画を描き、[5]超時空要塞マクロス』に登場するブリタイ艦(全長約4000m)はホワイトボードにマジックペンでラフデザインを描いた[6]

若手時代から数多く制作し名高いものとして、メカの外装を透かしてその内部構造や機能を描き出すいわゆる“透視図解”のイラストがある。透視図解イラストの端緒となった『マジンガーZ』のエンディングに使用された有名な図版は宮武の手によるものであり、この分野では事実上の第一人者といえる。SF小説に登場する宇宙船の他、スーパーロボット系アニメ作品でも自らがデザインしていないメカでも数多く手掛けている。なお、『マジンガーZ』のエンディングに使用された図版は、これは宮武が学生時代にアルバイトで描いたもので、エンディングで大きく扱われたことには本人が驚いたという[7]

宮武のメカは凝った稠密なデザインとその中に織り込む情報量や設定の豊富さやリアリティ、そしてその中に見られるファンサービスのお遊び的要素が大きな特徴であり、これはアニメのみならず特に元々から海外のハードSF諸作に触れていた様なSF理論やメカ類のデザインに精通している者にとっても大きな魅力であった。しかし、アニメ業界・玩具業界の実情やセオリーを無視したデザインを行ったことがままあり、俗に「ぬえメカ」と呼ばれたスタジオぬえのデザインの、その良くも悪くも象徴的な存在という一面もある。

専業メカニックデザイナーの草分けであると同時に有数の理論派であり、スーパーロボットアニメ全盛当時にまま見られた物理法則やデザインを無視して荒唐無稽な演出がなされる変形合体シーンや基地から発進するシークエンス(いわゆる「ワンダバ」シーン)に対するささやかな抵抗として、設定書に細かな演出指示やメカの動作プロセスを付記することで、SF的リアリティとデザインの意味が失われない様な演出アイデアを豊富に提案することを行っていた。他方で、スタジオぬえのデザイン全般に概ね共通して言えることではあるものの、宮武によるデザインや設定もまた稠密かつ膨大な情報量が詰め込まれるため、デザインの要素を忠実に反映させようとすれば作画に膨大な手間を要する事から、原画セル画など制作現場の末端で実作業を担うアニメーター達には非常に嫌がられる一面があった。実際、若手時代に手掛けた『超合体魔術ロボ ギンガイザー』では制作側の判断でデザインを大幅に簡略化し、これに怒った宮武がクレジットからの削除を要求するという出来事があった。

スタジオぬえはアニメ制作プロダクションではなくあくまでSF企画スタジオであり、宮武のスタイルもあくまでSF理論などに準拠したデザイン性重視のものであった。しかし、アニメーターは作画したセル画の枚数がそのまま自身の収入額に事実上直結してくる歩合制の報酬体系が基本である事から、ただでさえ作画に色々と手間と時間の掛かるメカ類は嫌われる傾向の強い存在で、ましてや宮武の稠密なデザインをそのまま反映させろとなれば、もはやこれは制作枚数に対して莫大な時間と労力を要する稼ぎの割に合わない作業であった。現場レベルでの作画の簡略化は、この様なアニメ業界の実情を宮武が把握しきらないまま外注デザインしたがゆえに起きた事態という一面もある。同様に、『超時空世紀オーガス』では商業性や玩具業界のセオリーを無視したデザインを行い、その結果として玩具の商業的失敗を引き起こした。なお、宮武は「百貨店でオーガスの玩具の顔を見た子供が怖くて泣き出した」という噂を聞き販売不振を覚悟したというが、当のスポンサーの玩具会社にとっては倒産の一因にまでなった。

人物像

パソコン携帯電話は必要性を感じていないため所持していない(CGを使いこなす同僚加藤直之とは対照的である)。仕事上での連絡ツールは主に電話ファックス

小澤さとるを「生みの親」として私淑する一方、本人に会うまでは意図的に、彼に接近する作品を避けてきたと話している[8]

体格が良く、仕事でアメリカに行ったときは現地の人にインディアンだと思われたというエピソードがある。

主な作品

アニメ作品

特撮作品

小説・イラスト

ゲーム作品

工業製品

  • ガンウォーカー・ガンローダー(京商のラジコンロボット玩具)

その他

画集

脚注

  1. ^ 後輩の石津泰志をアシストしてデザインをまとめた。主人公側(エマーン)のメカニックはF1などのモータースポーツをイメージしている。
  2. ^ 監督富野由悠季の構想から昆虫型メカオーラバトラーのコンセプトを生み出すが、実家の都合で作業を外れたため、出渕裕がデザインを発展させる形となった。
  3. ^ 艦橋部分は松本零士が修正している。
  4. ^ 漫画・テレビ版の松本零士デザインのリファイン。艦首に髑髏マークを付けた。
  5. ^ 「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち設定資料集」 スタジオDNA 2001年
  6. ^ 『マクロスデジタルミッションVF-X 最強攻略ガイド』 小学館、1997年。
  7. ^ 「鉄の城 マジンガーZ解体新書」 講談社 1998年
  8. ^ ガイナックス『G-Press Stage 23』

関連項目