モグラ科

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モグラ科
ヨーロッパモグラ
ヨーロッパモグラ Talpa europaea
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: トガリネズミ形目 Soricomorpha[1]
: モグラ科 Talpidae
学名
Talpidae G. Fischer, 1814[2]
和名
モグラ科[3]
地表近くをモグラが通過した跡の土盛り(英語ではMolehill): 千葉市加曽利貝塚にて(2008年10月13日撮影)

モグラ(土竜)は、トガリネズミ目に含まれるモグラ科(モグラか、Talpidae)の構成種の総称。

分布

ヨーロッパアジア北アメリカ[3]

南半球では確認されていない[4]

中国語では、鼠、鼠。また、学名「」は齧歯目モグラネズミ(モグラネズミ属 Myospalax)を指す。

形態

ロシアデスマンでは体長18 - 21.5センチメートル、尾長17 - 21.5センチメートル[3]。シナヒミズでは体長6.3 - 9センチメートル、尾長2.6 - 4.5センチメートル[3]。体型は細長く、円筒形[3]。モグラ類は短い体毛、ヒミズ類は粗い体毛と下毛、デスマン類は防水性の密な下毛と油質の上毛で被われる[3]

眼は小型で体毛に埋まり、チチュウカイモグラなどのように皮膚に埋もれる種もいる[3]。明度はわかるものの、視覚はほとんど発達しない[3]。ヒミズ類の一部を除き耳介はない[3]。鼻面は長く管状で、下唇よりも突出する[3]。鼻面には触毛を除いて体毛はなく、ホシバナモグラでは吻端に肉質の突起がある[3]。モグラ類は前肢が外側をむき大型かつほぼ円形で、5本の爪があり土を掘るのに適している[3]。これらは地下で穴を掘って暮らすための適応と考えられる。また、前足は下ではなく横を向いているため、地上ではあまりうまく扱えない。デスマン類では前肢の指に半分ほど、後肢の趾の間には水かきがあり指趾に剛毛が生え水をかくのに適している[3]。全身が細かい毛で覆われ、鼻先だけが露出している。触覚が発達し、鼻面や尾などに触毛がある[3]

陰茎は後方に向かい、陰嚢がない[3]

分類

以前は食虫目Incectivora(無盲腸目、モグラ目)に分類されていた[3]。分子系統学的解析から食虫目をアフリカトガリネズミ目、トガリネズミ形目、ハリネズミ形目に分割する説が提唱され、本科はそのうちトガリネズミ形目に分類される[1]

以下の分類は主にMSW3(Hutterer, 2005)に従い、和名は(今泉, 1986)・属和名は(阿部, 1992)に従う[2][5][6]

生態

主に森林や草原の地中に生息するが、デスマン類は水生で河川や湖に生息する[3]。単独で生活し、それぞれの個体が縄張りを形成する[3]。ホシバナモグラは冬季に雌雄が一緒に生活することもある[3]。主に周日行性で1日に複数回の活動周期がある種が多いが、デスマン類は夜行性傾向が強い[3]

主に昆虫、ミミズなどを食べる[3]。デスマン類は魚類や両生類などの大型の獲物も捕食する[3]。食物を蓄えることもある[3]。年に1回だけ2 - 7匹(例としてヨーロッパモグラはイギリスで平均3.7匹、ロシアで5.7匹)の幼獣を産む[3]

モグラは地下にトンネルを掘り、その中で生活する。ただし、掘削作業は重労働であるため積極的に穴掘りを行うわけではなく、主となるのは既存のトンネルの修復や改修である。地表付近にトンネルを掘ったり、巣の外へ排出された残土が積みあがるなどの理由で、地上には土の盛り上がった場所ができる。これを「モグラ塚」という。

地中に棲むミミズ昆虫の幼虫を主な食物としている。多くの種に見られる狩猟法は、一定の範囲内に掘られたトンネルに偶然引っかかってトンネル内に落下してきた獲物を感知・採取するという方法である。そのため、モグラのトンネルは巣であるのと同時に狩猟用の罠となっている。

モグラが地上で死んでいる例が時々見られ、「太陽に当たって死んだ」とされ、モグラは日光に当たると死ぬと言われてきたが、それは誤りである。モグラは普段地中に住み、地上はめったに出てこないため「太陽に当たって死んだ」と誤解されたのだろう。実際にはモグラはしばしば昼間でも地上に現われるが、人間が気付かないだけである。死んでいるのは、仲間との争いで地上に追い出されて餓死したものと考えられる。

実際、モグラは非常な大食漢で、胃の中に12時間以上食物が無いと餓死してしまう。この特性を知らないでモグラを飼い、餌を与えきれずに死なせてしまうことが少なくない。

なお、餌が手に入らなかった場合の対策として、唾液に麻酔成分が含まれており、それによって獲物を噛んで仮死状態にして巣に貯蔵しておくという習性を持つものが存在する。

地中での生活が主であるが実は泳ぎが上手く、移動中やむなく水辺に当たった場合などは泳いで移動をする。

日本のモグラ

アズマモグラ(日本)

日本には4属7種のモグラ類が生息し、さらに複数の亜種に分けられているが、遺伝子研究では4種(西日本がコウベモグラ、東日本がアズマモグラが大半を占め、佐渡固有種のサドモグラ、新潟平野固有種のエチゴモグラ)とその分岐種に絞られている[4]。分類には異説もある。すべての種が日本固有種とされる。

北海道を除くほぼ全国で、都市部以外では人家周辺でも普通に「モグラ塚」が見られる。たとえば、都心の孤立した緑地である皇居でも、吹上御所にアズマモグラが生息している。

日本のモグラ類は、“あまりモグラらしくないモグラ”であるヒミズ(日不見)類と、その他の真性モグラ類とに大別される。

ヒミズヒメヒミズは森林の落ち葉や腐食層の下で暮らすが、動きが素早く、しばしば地上にも現れる半地下生活者である。

2属5種の真性モグラ類のうち、コウベモグラ西日本に、アズマモグラは主に東日本に広く分布する。両者の生息域の境界線は中部地方にあるが、やや大型のコウベモグラが少しずつ東側に生息域を広げつつある。これは、先に大陸から移入したアズマモグラが日本全土に生息域を広げたあとに、新たに大陸から移入してきたコウベモグラが東進しているためともいわれる。

一方、アズマモグラ以前の先住者といわれるコモグラミズラモグラなどは生息域が減少し、山地などに隔離分布するようになってきており、それぞれに程度の差はあるものの、絶滅が危惧されている。

  • ヒメヒミズ属 Dymecodon
    • ヒメヒミズ D. pilirostris 【本州・四国・九州、日本固有種】
    頭胴長70-84ミリと、非常に小型。外形はモグラとトガリネズミの中間。ヒミズと競合する生息域では個体数が減少する傾向にあり、主にヒミズの進出し難い標高の高い岩礫地に生息する。はっきりしたトンネルは掘らず、落ち葉の下などで単独で生活する。本種のみでヒメヒミズ属を構成する。
  • ヒミズ属 Urotrichus
    • ヒミズ U. talpoides 【本州・四国・九州・淡路島・小豆島・対馬・隱岐など、日本固有種】
    落ち葉や腐食層に浅いトンネルを掘り、夜間には地表も歩き回る、半地下性の生活を営む。対馬の個体群を亜種として U.t.adversus とすることもある。本種のみでヒミズ属を構成する。
  • ミズラモグラ属 Euroscaptor
    本州からしか発見されておらず、生息数は少ない。生息域によってヒワミズラモグラ、フジミズラモグラ、シナノミズラモグラの3亜種に分ける説もあり、これらがそれぞれ 準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト)に指定されている。
  • モグラ属 Mogera(Moguraの読み間違いで記載されている)
    • アズマモグラ M. imaizumii (Mogera wogura) 【本州(中部以北のほか、紀伊半島、広島県などに孤立小個体群)・四国(剣山・石鎚山)・小豆島・粟島(新潟県)、日本固有種】
    主に東日本に分布する日本固有種。山地に棲む小型のものがコモグラ M.i.minor として亜種とされることもある。
    • コウベモグラ M. wogura 【本州(中部以南)・対馬・種子島・屋久島・隱岐など】
    西日本に生息する大型種で、アジア大陸に近縁種が分布している。屋久島と種子島に生息する小型のものをヤクシマモグラ M.w.kanai として亜種とする説もある。
    越後平野の個体群は、佐渡島のものよりやや大型で、エチゴモグラ M.etigo として別種とする説もあるが、サドモグラの亜種 M. t. etigo とされることが多い。農業基盤整備事業等による環境の改変のため、越後平野の主要な生息地が大型モグラの生息に不利な環境となり、小型種のアズマモグラが侵入するとともに、エチゴモグラは分布域を縮小しつつある。エチゴモグラは絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト)に指定されている。
    1976年採取、1991年新種認定。標本は、亜熱帯の尖閣諸島に属する約4平方キロメートルの島、魚釣島の、海岸近くの草地で捕獲されたメスの1体のみ。生息数は非常に少ないと考えられるが、1978年に魚釣島に持ち込まれたヤギの大増殖による環境破壊のために、存続が危ぶまれている。発見当初はNesoscaptor 属を作り Nesoscaptor uchidai として1属1種とされたが、現在はMogera 属に含める説が有力である。

日本以外のモグラ

ヨーロッパモグラ Talpa europaeaモグラ塚(英語はMolehill

人間との関係

毛皮が利用されることもある[3]。イギリスでは乗馬用ズボン・ベスト・婦人用コートなどに利用された[3]

農業やゴルフ場などでは害獣とみなされることもある[3]

農地開発、水質汚染、毛皮用の乱獲などにより生息数が減少している種もいる[7]

日本では、古くはモグラのことを「うころもち」(宇古呂毛知:『本草和名』)と呼んでいた。また、江戸時代あたりでは「むくらもち」もしくは「もぐらもち」と呼んでいた[注釈 1]。なお、モグラを漢字で「土龍」と記すが、これは本来ミミズのことであり(そのことは本草綱目でも確認できる)、近世以降に漢字の誤用があり、そのまま定着してしまったと考えられる。

日本各地で小正月には、「烏追い」と並んで土龍追い(もぐらおい)・土龍送り(もぐらおくり)・ 土龍打(もぐらうち)などと呼ばれる「農作物を害するモグラを追い出し、五穀豊穣を祈る神事」が行われ、その集落の子どもたちが集まり、唄を歌いながら、を巻きつけた竹竿などで地面を叩き練り歩くものである。

現代では農地だけでなく、庭園などの芝地や堤防における存在そのものが忌避され、種々の駆除策が講じられる害獣として扱われている。

  • 柔らかく、上質の光沢をもつモグラの毛皮は重宝され、20世紀に入るまで、乗馬用ズボンやコートなど、さまざまな用途に用いられてきた。
  • モグラの黒焼きは土龍霜と呼ばれ、日本でも民間薬として使われてきた。強壮作用、興奮作用、排膿作用があるとされる。『大和本草』の鼠(ウクロモチ、モグラのこと)の項に、「肉ヲ焼テ癰疽諸瘻ヲ治スト云ウ」、つまりはオデキや痔などの化膿したものを治すと、本草綱目から引用している。また、中外医薬生産中外製薬とは別)から、土龍霜を配合した「ユリアン」という夜尿症の治療薬が発売されている。

雑学

  • アリストテレスは著書『動物誌』で、唯一眼を持たない動物としてモグラを挙げたとされるが、実際にはメクラネズミを指しているとみられる。
  • 処女膜はモグラと人間にしか存在しない』と言うのは、週刊明星に連載された三島由紀夫の「不道徳教育」が出典の俗説で、事実とは異なる。
  • 西洋ではモグラは盲目の象徴とされる。キリスト教では神の光に盲目な、キリスト教に改宗しない者の隠喩として用いられる[要出典]。この寓意においてモグラと対置されるのは、何でも見通す眼力を有すると考えられたリンクス(オオヤマネコ)である。
  • モグラのすみかの近くには必ずある特定のキノコが生えている。これはモグラの糞を栄養源にしているキノコで、ナガエノスギタケという。そのキノコの下を掘ってみるとモグラの巣のトイレがある。つまり、モグラの巣の中にはトイレの部屋があることが、このキノコの存在で分かる。
  • モグラの名で呼ばれるもの
    • 地下道やトンネルのことを「モグラ」と揶揄することもあり、地下鉄は「モグラ電車」だと呼ばれたこともあった。他に、上越線土合駅はトンネル内にあるため「日本一のモグラ駅」、トンネルの多い山陽新幹線は「モグラ新幹線」とも言われた。都営地下鉄大江戸線は、当初愛称名として「ゆめもぐら」が内定していた(都知事の意向で大江戸線に変更された)。
    • 諜報機関では自分の諜報組織の内通者のことを「Mole(英語でモグラの意)」という(出典:CIA失敗の研究)。日本の漫画土竜の唄は、これを受けている。
  • モグラが水の中を泳ぐように常に地中をモコモコと掘りながら進み続けるというのは間違ったイメージである。実際は先祖代々、受け継がれてきた地中に張りめぐらされたトンネルを増築・改修・修理を行いながら利用を続けているというのが主な生態。
  • 上記の「もぐらうち」があるように、畑にモグラのトンネルが現れた際にトンネルと接触した農作物の根が食害を受けることがあり、「モグラにかじられた」と言われる事がある。だが、モグラは動物食であるためこれは誤りで、実際に食害しているのはモグラのトンネルを利用したネズミなどによるものである。

モグラをモチーフとした作品

モグラは童話漫画アニメ絵本テレビ番組などにおいてよくキャラクター化される。地下にトンネルを掘るその習性から、ヘルメットをかぶりシャベルドリル、ツルハシを手にしているなど、掘削作業員になぞらえたデザインをされることも多い。また、太陽の光を避けるためにサングラスを着けていることも多い。

アニメ

文学

  • うんちしたのはだれよ!(ヴェルナー・ホルツヴァルト(文)、ヴォルフ・エールブルッフ(絵)の絵本)
  • ぼく、おつきさまがほしいんだ(ジョナサン・エメット(文)、ヴァネッサ・キャバン(絵)の絵本)
  • 二分割幽霊綺譚(新井素子、知性を持つモグラが物語のキーとなる)
  • モグラが三千あつまって(武井博)

SF作品

画像

参考文献

  1. ^ a b c 本川雅治、下稲葉さやか、鈴木聡 「日本産哺乳類の最近の分類体系 ―阿部(2005)とWilson and Reeder(2005)の比較―」『哺乳類科学』第46巻 2号、日本哺乳類学会、2006年、181-191頁。
  2. ^ a b Rainer Hutterer, "Family Talpidae," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, pp. 300-311.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Martyn L. Gorman,「モグラ, デスマン」『動物大百科 6巻 有袋類ほか』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、34-37頁。
  4. ^ a b 川田伸一郎と世界のモグラたち 国立科学博物館
  5. ^ 阿部永・小野勇一編著 「貧歯目、食虫目、ツパイ目、ハネジネズミ目の分類表」『動物たちの地球 哺乳類I 3 モグラ・アルマジロ・ツパイほか』第8巻 39号、朝日新聞社、1992年、96頁。
  6. ^ 今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編 「食虫目・貧歯目・翼手目・有袋目全種名リスト」『動物大百科6 有袋類ほか』、平凡社、1986年、156-176頁。
  7. ^ a b c d e f g 阿部永 「ロシアデスマン」「ピレネーデスマン」「ミズラモグラ」「エチゴモグラ」「サドモグラ」「ミミヒミズ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社2000年、132-134頁。
  8. ^ a b c d e f g h i 阿部永 「ヒメヒミズ」「ヒミズ」「ミズラモグラ」「センカクモグラ」「サドモグラ」「エチゴモグラ」「アズマモグラ」「コウベモグラ」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修 東海大学出版会、2008年、17-24頁。
  9. ^ a b 阿部永 「ベトナムモグラ」「センカクモグラ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、132頁。
  10. ^ “Organization of the somatosensory cortex of the star-nosed mole.”. J Comp Neurol 351 (4): 549-67. (1995). PMID 7721983. 

注釈

  1. ^ 新明解国語辞典』では「土を盛り上げる意の動詞『うぐろもつ』の名詞形『うぐろもち』の変化形『むぐろもち』の変化の省略形」とされている。

関連項目