ブルーカラー

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ボイラースーツ

ブルーカラーBlue-collar、青い色彩を意味するcolorではない)とは、主に作業服や私服を着た現場の作業員など現業系や技能系の職種で、業務内容が主に肉体労働が主体である者を指す。対義語はホワイトカラー(白襟。ワイシャツの襟が白である事から総合系のデスクワーカー)。

概要

現業職や技術職では、雇用者から提供される制服や作業服の襟色に系が多いことから付けられた。職種としては、土木建築関係や、ビルメンテナンス警備運転手工員(組み立て作業員、溶接工、旋盤工、塗装工など)・メカニックエンジニア(整備工、修理工、広義の技術者)など多岐に渡る。

その一方でプログラマや営業職などは、外見は「ホワイトカラー」の格好であるにもかかわらず、仕事のスケールやコストが土木などと同様の人月計算による日数と必要人数の掛け算という単純な数式によって算出されており、情報技術業界自体が元請企業であるITゼネコンが下請企業を支配し、仕事と責任を丸投げするという、建設土木業界によく似た多層式かつ労働集約型の古色蒼然とした産業構造であり、その末端従業員は「デジタル土方」と揶揄されるほどに長時間労働で肉体・精神の両面で大きな負担を負う苛酷な環境で労働していることなどから、ブルーカラーと見なす人も存在する。

また、「ブルーカラー」という語は、「低学歴でもできる仕事」「勉強ができないために仕方なく体を使って働く人間」といった下賎なイメージで見られやすい(→3K3D)ため、差別用語ではないかという人もいる。しかし、一部の職業には資格を取らないと就職不可能なものも存在し、冷戦時代の共産主義国家(→鎌と槌)のように工員が高貴である国が少なからず存在し、アメリカにおいても西部開拓時代に現場で林業や畜産を営んでいた先祖たちの精神を「フロンティアスピリッツ」として崇めている面がある。イギリス人も人口の8割が現場のワーキングクラスであるが、それを誇りにしている人々もいる。そのため、一概に差別用語とは言えない(→レッドネック)。

「青系の制服・作業服」であるが、機械油や塗料、埃などの汚れを伴うことが多いため、汚れが目立たないよう青や灰色などの色が好まれる傾向にあった。一方、特に家電電子機器半導体の組み立てなど、埃の飛散が許されないデリケートな環境(クリーンルーム)では、労働者の心理的な環境に配慮し、明るいパステルカラーの作業着を採用していることもあって、必ずしも青や黒や灰色の服装であるとは限らない。

国・地域による差異の例

一般的にブルーカラーとされる溶接工も、中学校か高校を卒業後、見習い期間を通過すれば溶接工の指導や育成にも当たるようになるため、一概に単純な現場作業といいきれなくなり、独立して社長になればスーツを着用する必要も発生しうる。アメリカのホワイトカラーの定義には管理者も入るため、この場合も社長はホワイトカラーとみなすが、イギリスの定義では大学を卒業した技術者はホワイトカラーで、高卒の技術者はブルーカラーなのでこの社長はブルーカラーになる。

日本での動向

リクルート社の発行する現業系・技能系職種専門の求人情報誌ガテン[1]の求人情報に掲載されている職種であることから、俗にガテン系(がてんけい)とも呼ばれる。なおこの「ガテン」とは「合点がいく」という言葉に由来している。なお職業安定所の求人を除くと、これら職種における現業系職種の求人広告は、『ガテン』誌創刊前はスポーツ紙夕刊紙に大きなウェイトが割り振られていたが、2000年代でもこれらの媒体に頼る傾向も見られる。

労働者階層の分化

日本では、明治時代殖産興業を経て、1910年代以降より急速に工業化が進んだが、この1910年代から次第に「ホワイトカラー高等教育卒業者)」と「ブルーカラー(中等教育卒業者、小学校卒業者)」の区分が明確に意識されるようになり始めた。

この傾向は、第二次大戦後の高度経済成長期以降に加速し、(高校への進学率も低い時代は)集団就職で地方から大都市へ出た中学新卒者も多かったため、雇用者側から「金の卵」と呼ばれて、現業系や技能系の職種に配属されていたが、高校への進学率が向上するに従い、中卒者の採用は次第に減少するようになった。

3K問題

高度経済成長期以降の日本において、ブルーカラー職種は社会の様々な分野で活躍し、工業や経済を支えてきた。しかし、生活水準が向上した1980年代頃より、以下の理由から次第に「3K」の(きつい・汚い・危険)職種と名指しされ、青年層から忌避されるようになった。英語圏などの国々でも、「3K」の同義語として「3D」(Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demanding=きつい)が使用されており、「3D」の定義を「Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demeaning=屈辱的」とする場合もある。

きつい
  • 重量物(数十kg~100kg以上の資材、家具、工作機械など)の運搬を主(または補助的な作業)として伴うため、肉体的および精神的な負担の大きい作業が多い。
    • マンション高層ビルなどの土木・建築ではクレーンフォークリフトなどで資材の運搬ができるが、引越しの作業ではそれらの建設機械がほとんど使用できないため、最終的に人力に頼らざるを得ない(特に5階建て以下の集合住宅雑居ビルではエレベーターがほとんどないため、階段を伝って運搬せざるを得ない)。
    • 運送業では、扱う荷物の破損などは弁償させられる場合もある。
    • 対象物の形状や重量は、人の手で運搬することにあまり配慮されていない。
  • 物理的に劣悪な環境で作業する必要がある。
    • 高温多湿・あるいは寒冷な戸外。
    • 粉塵や悪臭など不快な環境。
  • 勤務時間や休日が不規則。
    • 24時間体制の稼働による2交代ないし3交代の交代勤務、または夜勤がない場合祝日年末年始でも休まず、毎日稼働する現場もある。
      • 年中無休で稼働しているにもかかわらず、完全週休2日制でない場合もあり、休養を十分に取れない場合もある。
      • 年中無休で稼働する性質上、病気や急用などで欠員が出た場合、非番の労働者に休日出勤を要請されることがある。
    • 天候で可能な作業が変化するなど。
  • 作業が単調。
    • 工場流れ作業では各々の労働者が担当する仕事は、一定の教育を受けていれば誰にでもできる仕事でルーチンワークの連続になりえるため、やりがいに乏しい(モチベーションの維持が困難)。
    • 変化に乏しい環境で長時間の緊張を強いられ、精神的な負担を伴うことがある。
汚い
  • 機械油や埃(塵埃)の多い場所で勤務すれば、作業服の汚れが避けられない(各自で作業服を持ち帰り、洗濯しなければならない場合もある)。
  • 戸外では土が、雨が降れば泥がある環境では、それらにまみれる場合もある。
  • 作業内容によっては雨天の戸外で活動する必要もあり、業務や納期の必要上中断することができない。
  • 戸外では空調や冷房がないため、必然的に汗まみれになる・臭うなど。
  • 休憩時間が限られ、作業中は体を清潔にするための時間を十分に取れない。
    • 現場によってはその場で腰を下ろす休憩ができず、所定の休憩所まで移動する必要がある。
危険
  • 次のような理由から、勤務中に生命に関わる事故(労働災害)の危険を妊んでいる。
    • 工場内の各種工作機械建設機械などの機械類や鋭利な刃物・工具類を扱う、あるいは動作中の機械類の周辺で作業する職種では、機械に巻き込まれたりする事故もある。
    • 職種や作業内容によっては、様々な危険性の高い有害物質・大きなエネルギーの使用を必要とする作業もある。
    • 高所・閉所・暗所といった劣悪な環境で、転落や中毒・爆発・火災に巻き込まれる危険性のある作業が求められる職種もある。
  • 労働災害や職業病の問題がしばしば発生する。
屈辱的
  • 疲れる割にはホワイトカラーに比べて、事故発生時の危険が大きく、賃金や身分が低いという不公平感。
    • 賃金の高低はおおむね「技能」や「経験」を基準としており、「肉体的・精神的な負担」「環境の優劣」など労働者に対する負担は無視されやすい。
    • 事故が発生した際に、実際に現場で機械の操縦者や法定管理者などとして作業に携わる有資格者にばかり、大きな責任が掛かる。資格取得までの手間や万一の際の資格喪失などのリスクと比べて、賃金や組織内での扱いが見合わず、精神的負担ばかりが大きい。
    • 事務員(ホワイトカラー)が作業員(ブルーカラー)よりも高い身分を保っており、事務員は作業現場の実情を知らず、作業現場を軽んじる性向を持っている。従って、事務員は身分が高いとして崇敬される一方、作業員は身分が低いとして軽侮される。

この結果、バブル景気の時期には、日払いが10,000円強の高給でも嫌われ、社会全般または社会に出る前の学生層の間にも、ホワイトカラー(特に本社)を志向する傾向が高くなった。バブル崩壊後、すなわち冷戦後の現在もこのホワイトカラーへの志向は変わっておらず、ホワイトカラーへの志向は高い大学進学率にも現れている。そして、冷戦後の長期不況によって、ホワイトカラーになれず、不本意にブルーカラーとなる大学卒業者も多数現れた。また、職種別の賃金格差が小さければ、衛生的で安全そうなホワイトカラー職種のほうが(多少賃金が安くても)「より快適な職場」だと考えられた。

労働者不足

ブルーカラー職種は工業生産や建設業を支える労働力として、重要な役割を果たしていることに違いはなく、これらの地味だが社会に不可欠な職種では、深刻な労働力不足も発生した(中卒者にもできる作業でも、18歳未満の場合は深夜業が禁止されていることと、日雇い派遣によるワンコールワーカーでは建設業への派遣が禁止されているため、なおさら深刻な問題となる)。この時代では、深刻な労働力不足から外国人労働者の受け容れ、高給の保証などの変革も行われた。

また、人手が不足していたバブル期の一頃は、長年にわたって係争も見られた労災や職業病の問題を放置すると労働者が集まらず、退職者の増加や短期離職率の上昇につながりかねないため、労働者の負担を軽減する機器の導入で、「きつい、危険、汚い」の3K問題を少しでも軽減したり、労働者を保護する方策や業務上必要な資格の取得の支援などのキャリアアップ支援を行う企業が散見された。

ブルーカラー職種の再評価

その一方で、バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代初頭にかけての深刻な不況の中で、ホワイトカラーの職種では労働力の供給過剰から、大量リストラも見られるようになった。またホワイトカラー職種の労働環境が往々にしてストレスが多く、精神疾患や過労死が社会問題として取り沙汰されるようになり、必ずしもブルーカラー職種よりも快適だとはいえないと見なされるようになった。しばしば脱サラに絡んで、ホワイトカラー職種への嫌忌感も見出され、相対的に第一次産業とブルーカラー職種の社会的重要度や職場環境も見直される風潮も出ている。

また従来は、ホワイトカラー業種より価値が低く労働環境も悪いと見なされ嫌忌されていたブルーカラー職種にも、1991年に創刊された『ガテン』誌の影響もあって、従来の苛酷な労働環境といったイメージも軽減されるようになっている。

しかし、平成不況の折、就職氷河期における深刻な就職難からフリーターが増加したことや不況に伴う仕事量の減少もあり、1990年代後半から単純労働力(→プレカリアート)の不足が解消され、一頃の過当競争的の様に人員の確保に走る必要がなくなったので、現在では手取り賃金がホワイトカラー職種を圧倒的に上回るような状況は見られなくなり、高賃金や従業員の労働環境、キャリアアップ支援の充実を謳う職場も少なくなった。

労働者形態の流動化

なお2000年代に入っては、ワーキングプア問題が取り沙汰される一方、ワンコールワーカーネットカフェ難民などの流動化した労使関係のひずみともいえる社会問題も見え隠れしている。これらの現象では2006年頃より社会問題として注目を集め始めたばかりであり、労働者人口の総数や実態に関しては2007年に調査が始まったばかりで、政府側の対応も後手に回っている。

偽装請負問題

2006年朝日新聞が製造業の現場における偽装請負を取り上げ始めたことを契機に、ブルーカラーの労働環境が劣悪であることが明らかになった。詳細は該当項を参照。

脚注

  1. ^ 1991年創刊、2009年「タウンワーク」に統合廃刊

関連項目