ネットカフェ難民

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ネットカフェ・個室席の一例

ネットカフェ難民(ネットカフェなんみん)は、いわゆるホームレスの一種で、定住する住居がなく寝泊りする場としてインターネットカフェを利用する人々を指した造語である。

目次

[編集] 名称について

2002年頃からパソコン利用が可能なまんが喫茶の深夜料金の値下げ競争が激化した東京・蒲田地区を中心に存在が目立つようになり、それ以降は都市部を中心として全国的に広まった。その存在は当初は「マンキツ住民」といった呼び方をされていた。

その後、日本テレビNNNドキュメントが、住所不定でなおかつインターネットカフェなどを泊まり歩きながら生計を立てている日雇い派遣労働者(通称:ワンコールワーカー派遣会社に登録して携帯電話の電子メールで派遣先を紹介される雇用体系)の若者を密着取材し、2007年1月28日に『ネットカフェ難民~漂流する貧困者たち』と題して放送した[1]。これは、マスコミで「ネットカフェ難民」という用語が使用されたことが確認できる最初の例である。同番組のチーフディレクターである水島宏明は、「難民」という名称について「周囲から孤立し、未来への展望が抱けず、まるで難民のようだったため名付けた」と話して、自らが名付けたとしており、また、「難民という語のインパクトが強かったため、世間の注目を集め、厚生労働省など政府も対応するために動いた」と述べている[2]。本ドキュメンタリーが大きな反響を呼び、他のマスコミもこの言葉を引用するに至った[3]。書籍では、2007年9月26日に出版された川崎昌平著『ネットカフェ難民 - ドキュメント「最底辺生活」』(幻冬舎・幻冬舎新書)が最初にこの言葉を使用している。一部ではサイバーホームレス電脳浮浪者とも呼ばれていたが、こちらは定着しなかった。

「ネットカフェ難民」は、2007年度新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれ、我が国における貧困問題・格差問題を象徴する言葉の一つとして定着した[4]。この際の受賞者には『ネットカフェ難民 - ドキュメント「最底辺生活」』の著者である川崎昌平が選ばれていることから、この本が「ネットカフェ難民」という名前の定着に寄与したことが伺える。

[編集] 業界団体の反発

一方、「難民」という語のイメージが悪いとして、業界団体である日本複合カフェ協会(JCCA)は、「ネットカフェ難民は“差別語”」だとする声明を発表、今後は使用を控えるよう訴えた。理由は、報道の影響により、「風評被害に近いダメージを受けた為」だという。これまでに業界を挙げて、幅広い層に店を利用して貰おうと「ファミリー向けの個室」や「ネイルサロン」を設置するなど、経営努力を進めてきたが、「あたかも浮浪者風情の人が夜な夜な集まり犯罪の温床となっている」かのようなイメージを植え付けられ、客足(特に女性客)が遠のいたという。また、「ネットカフェでは、どのような方でもお客様であると認識しており、難民とは考えていない。(広辞苑の定義を引用しながら)そもそも難民の定義に当てはまらない」「ネットカフェ難民は地域によってはいるかもしれないが、大きな社会問題ではない」との認識を示している。

他にも、厚生労働省はJCCAに対し、ネットカフェ難民の実態に関する調査[5]への協力を打診したが、「『ネットカフェ難民ありき』の調査手法」だとして、協力を拒否した。更に同協会は、「ネットカフェ難民」の存在をことさら問題視して対策費を計上しようとする厚生労働省の姿勢を批判している[6][7]

[編集] 概説

ナイトパックが利用可能なインターネットカフェ店舗一例(東京都)

これまで過ごしていた自宅(実家やアパート)や社員を家庭の事情や家賃の滞納、(2008年秋以降の)派遣切りなどで退去して、24時間営業のインターネットカフェ漫画喫茶で夜を明かし、日雇い派遣労働などで生活を維持している者を指す[8]。こういった定住場所を持たない日雇い派遣労働者の多くは、かつては木賃宿(ドヤ)をはじめ、カプセルホテル、深夜をまたいで仮眠の出来るサウナ健康ランドなどを生活の拠点としていたが、2000年代に入ると、深夜に長時間・低額料金で利用できる「ナイトパック」を備えた複合カフェが普及。そこを拠点としてその日暮らしの生活をする若者が話題になり、マスメディアなどで2007年頃から使用されている造語である。

厚生労働省は2007年8月28日に初の調査結果を発表した。それによると、店舗への調査から推計される2007年時点でのネットカフェ難民の人数は5400人だったという。また、当初は若年労働者が中心であると想定されていたが、本調査では50歳や30歳代など幅広い年齢層にわたっており、性別は男性6割に対し女性が4割であるとされた。また雇用形態は非正規雇用が中心であるものの完全失業者や正社員も見られた[5]

この厚生労働省の調査に対しては、以下のような指摘がある。

  • NPO法人自立生活サポートセンター・もやい』の事務局長である湯浅誠は、週1-2日のみ利用する路上生活者や、他業種の店舗を利用するものもおり、ネットカフェだけを取り上げるのは無理があるとした。
  • 前述した通り、調査対象となるネットカフェにとってセンシティブな調査であり、イメージダウンにも繋がる事から、実態より少なくなっているのではないかとの意見がある。

[編集] ネットカフェ難民の生活

日雇い派遣では家賃・光熱費など数万円のまとまったお金がとても作りにくい。毎日仕事に入れるとは保証できない上、日払いの賃金がその日暮らしを維持することだけに使われる。ネットカフェを宿泊施設替わりの休息の場にする他、フリードリンクを利用して糖分・カロリーの確保の場、テレビ・PC・漫画など最低限度の文化や情報に接する場として利用する。

日雇い派遣労働の求人がなく、仕事を得られなかった場合には、ファーストフード店の24時間営業店舗で夜を明かす人々もおり、彼らを指す「マック難民」なる造語も2007年頃より使用された。つまり、寝泊りする場所はネットカフェのみに限らない[9]

[編集] ネットカフェ難民にとって便利な施設等の充実

[編集] ネットカフェ・まんが喫茶

フリードリンク、居住性の向上、シャワールームの新設、ゲームソフトやDVDソフト、個室席、とりわけ仮眠を意識したリクライニングチェアやフラットシートの採用、コミックの充実などと同時に、深夜に長時間低額料金で利用できる「ナイトパック」料金の設定などに加え、店舗数増加による競合もあり、利用しやすい存在となったことが一番の要因として挙げられる。関東および安価なドヤがない地域では、ドヤや格安ビジネスホテルよりも安価な場合が多いネットカフェなどを仮眠の場として利用しやすくなっている。

一方、大阪西成区あいりん地区や、東京台東区および荒川区山谷横浜中区寿町などでは、ネットカフェよりも安価なドヤがある。浮浪者にとっては横になれる、風呂に入れるメリットがある反面、治安への不安要素を増やすなどの難点もある。また、格安なドヤはあいりん地区・山谷・寿町に集中し、他の地域では見つけにくい。ゆえに、仕事の関係でドヤが使えないケースもある。ドヤを選ぶ者、ネットカフェを選ぶ者、また深夜をまたいだ仮眠のできる健康ランドサウナ、個室ビデオ店を選ぶ者それぞれである。

ネットカフェと同様に深夜営業の個室ビデオ店を生活の拠点としている者もいると見られる。2008年10月1日には大阪市浪速区の個室ビデオ店で利用客による放火により25名が死傷する事件が発生した(参照:大阪個室ビデオ店放火事件)。

[編集] 格安コインロッカー

コインロッカーの一例

身の回りの荷物の収納を長時間低額で使用できるコインロッカー。東京都大田区蒲田駅近辺に8時間100円で設置されている一例が、日本テレビ2007年1月28日放送分『ネットカフェ難民 漂流する貧困者たち』で紹介された。また蒲田駅周辺では、ネットカフェ難民が発生するよりもはるか以前の1995年ころから月額3000円程度の月ぎめコインロッカーも設置されていた。物置代わりに利用できる。

[編集] 比較的安価な飲食店・食品店・雑貨店

学生街などにはもともと安価な定食屋が存在していた。同時に、安価な定食店や牛丼店のチェーン店拡大、SHOP99に代表される格安コンビニや100円均一ショップなどで、生活に必要なものが手軽に安価に手にできる。

[編集] 携帯電話

携帯電話は出発コール(出勤・現場到着報告)・終了コール(勤務終了報告)・新規派遣先の前日確認などに利用する人がいる。 2000年代になってから、携帯電話の月々の支払い明細書を電子メールで送付するサービスを実施している携帯電話事業者(NTTドコモの「eビリング」やソフトバンクの「オンライン料金案内」、KDDIの「WEB de 請求書」など)があるので、住所不定の人物でも契約時に現住所と身分証で契約を済ませていれば後にネットカフェ難民に属した場合でも携帯電話は維持し続けることはできる(以前は契約住所に支払い明細書の郵便物が届かず返送される場合は即座に利用停止にされ、後に改善されない場合は契約解除となっていた)。また、プリペイド式携帯電話の場合でも、申込書に固定電話番号(または他の携帯電話番号)と住所の記載を求められるなど契約審査が厳格化しており、免許証等の提示だけでは簡単に購入・契約できない場合もある。

[編集] 対策

  • 厚生労働省は2008年度から都市部のハローワークに就職支援専門員の配置を始めた。
  • 東京都も厚生労働省と連携し、2008年4月から全国の約4割を占める都内のネットカフェ難民を対象に、住居や生活、就職などについての相談支援に応じる窓口「TOKYOチャレンジネット」を開設した。現在何らかの仕事に就いており、自立に向けて意欲的であると判断された人を対しては、住宅・生活資金として最大60万円の無利子での貸し付けを実施している[10]。加えて、厚生労働省から派遣されたキャリアカウンセラーが、面接の対応法や履歴書の添削などのアドバイスも行うという。
  • 大阪府愛知県も、同年5月に同様の相談窓口を開設した[11]

しかし、「住宅・生活資金の貸し付け審査が緩い」「ネットカフェ難民を装い、不正に支援を受けようとする輩も現れるのでは」といった、上記の支援策に対して批判的な報道もある[12]

[編集] 問題点

[編集] 「住所不定」となることによる問題

住所不定の状態が長期にわたる場合、職権消除により住民票が抹消される可能性がある。この場合、新規の移転先が存在しないため住民票の復活が出来ず浮浪者と同様の法的問題を抱える。職があり、所得があっても、新規に銀行口座の開設ができない[13]住民基本台帳への登録がないため、印鑑登録もまた出来ず、実印をともなう高額の契約(賃貸住宅の借入契約、自動車や住宅の購入など)は通常契約相手に拒否される[14]クレジットカード消費者金融などの契約時に信用調査で契約を拒否される可能性がある[15]

新たに運転免許証を取得する事が出来ない。すでに運転免許証を取得している場合、運転免許証の更新には送付された更新通知書を提示するように指示されているが、これは必ずしも必須ではない[1]。しかし職権消除により住民登録が抹消されている場合は、法的に「住所」が変わっている場合に相当するため、証明書類の提出を要する[2]ことから書類不備として受理されず「住所がないので更新できない」事態が発生する[16]

ここまでの状況から、ネットカフェ難民も種々の場で通用する身分証明を取得できる手段は事実上限られてしまい、何らかのきっかけで携帯電話契約の内容更新をする際、身分証明・本人確認ができないという理由で携帯電話事業者から回線一時停止等の不利益を被る可能性が出てくる。ここで携帯電話回線を失ってしまった場合、社会的な関係すら一切絶たれてしまう重大な危機に瀕することになる。

疾病などにより就労が困難になった際に生活保護申請でトラブルになる可能性がある[17]選挙人名簿住民基本台帳を基に作成されるため、職権消除されて相応の期間が経った後は選挙権を実質的に喪失してしまう[18]、など公共サービス受益権や公民権にかかわる障害の原因となる。

ただ、最近になって蕨市など、一部の市町村において、インターネットカフェでの住民登録を認めるケースが登場しつつある。

[編集] ネットカフェにおける治安問題

インターネットカフェの匿名性に関わるインターネット犯罪との関連において、ネットカフェ難民の犯罪被害、あるいはネットカフェ難民が犯罪加害者となるケースが報道されることがある。また万引き商品を転売する舞台として、あるいは置き引き被害の温床となっているとの報道がある。

これらの点では、ネットカフェ自身も、セキュリティボックスを設置して、その利用を呼びかけ、トラブルの発生を防止している。しかし、ネットカフェ難民を犯罪加害者、被害者としないために警察の定期的な巡回が必要との意見もある[22]

同様の問題はホームレスの多い地区の公立図書館でかなり以前から顕在化していた。一部のホームレスが蔵書を勝手に持ち出してドヤ街で「朝市」などと銘打っている盗品市場で売却してしまったり、図書館の椅子、視聴覚ブースでの居眠りを目的として来館したホームレスが深い眠りに落ちているうちに所持する金品を奪う「しのぎ」などの形でも発生している。

[編集] 感染症の問題

インターネットカフェは、通気性が悪い上、不特定多数の人が利用するため、結核などの感染症の感染経路になっているとの報道がNHKでなされた。特に、ネットカフェ難民は寝不足、偏食など不健康な生活を続けている上、体調が悪くても病院に通うお金のない人が多いため、ネットカフェ難民が感染症のキャリアとなりやすく、ネットカフェが感染経路になる一因とされる[23]。また、新型インフルエンザの国内流行時にもネットカフェ難民が感染を広げることが危惧されており、国内流行時にネットカフェの閉鎖も検討されている[24]

[編集] 貧困ビジネス問題

エム・クルー」、「貧困ビジネス#インターネットカフェ」、および「ツカサ都心開発#ツカサのネットルーム」も参照

民間企業も独自にネットカフェ難民の“支援”に乗り出しているが弱者を食い物にする「貧困ビジネス」との指摘がある。

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[編集] 脚注

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  1. ^ NNNドキュメント'09 過去の放送記録>2007年1月28日(日)
  2. ^ 楽天books×毎日jp 著者インタビュー - 毎日jp(毎日新聞)
  3. ^ asahi.com:「あなたの貧乏撮らせて」 2007年8月8日付配信
  4. ^ ユーキャン新語・流行語大賞 全授賞記録(年度別)>第24回 2007年
  5. ^ a b 日雇い派遣労働者の実態に関する調査及び住居喪失不安定就労者の実態に関する調査の概要 厚生労働省発表 平成19年8月28日
  6. ^ 永沢茂「「お客様は難民ではない」ネットカフェの業界団体が声明」『Impress Watch』2007年8月28日付配信
  7. ^ 「ネットカフェ難民」は差別語だ!!…業界団体が声明発表『スポーツ報知』2007年8月30日
  8. ^ 【Webウォッチ】新ホームレス ネットカフェ難民 JANJAN 2007年2月1日
  9. ^ コーヒー1杯で「宿泊」 「マック難民」が急増 J-CAST
  10. ^ 「脱」ネットカフェ難民 新宿 相談窓口2カ月19人に採用通知『MSN産経ニュース』2008年6月18日付配信
  11. ^ 大阪府は『OSAKAチャレンジネット』、愛知県は『AICHI チャレンジネット』の名称で実施されている
  12. ^ 血税投入「ネットカフェ難民融資」のユル~イ裏側『週刊プレイボーイ』2008年6月30日号より
  13. ^ 犯罪収益移転防止法(旧: 本人確認法)により公的な証明書が要求される。但し運転免許証などは有効期限内なら、住民基本台帳の職権消除の後も、これを証明に銀行口座が開設できる場合がある
  14. ^ 賃貸住宅が借りられないから住民登録ができない、住民登録が無いから実印登録ができず賃貸契約ができない、という状態が発生する。短期賃貸マンション簡易宿所では住民登録が受理されないため、ホームレスが独力で住所不定状態を脱出できない法的障害の一つとなっている。
  15. ^ 住所と勤務先が共に存在する事が審査に通る条件である
  16. ^ 運転免許証の更新に要求される住所表示は住民基本台帳法別表第1(第30条の7関係)により提供される情報に含まれていないので、免許更新者が住所が変更になった事実を隠したまま更新することは可能だが、法的には「更新できない」。また何らかの理由で住所が変更になっていること(住所不定状態であること)が分かれば更新が拒否される。
  17. ^ 住民票所在地と現在地が異なる場合、現在地自治体が窓口業務をたらい回しにしようとする等。生活保護の申請権は絶対性が保証されているが、役所が生活保護の申請自体を不正/違法に拒否する可能性が高い。また職権消除により住民登録が無い場合でも、生活保護の対象となる(生活保護法第19条二による職権保護)が、やはりトラブルが発生する可能性が高い。詳しくは生活保護#生活保護をめぐる問題を参照。
  18. ^ 住民登録の復活ができれば選挙権も復活するが、住所不定の状況では住民登録が受理されない。
  19. ^ 日本テレビ『ザ・ワイド』で放送されたネットカフェ難民の特集
  20. ^ 日本テレビ『爽快情報バラエティー スッキリ!!』で放送されたネットカフェ難民の特集
  21. ^「置き引き」で盗まれて困るもの』2006年11月9日 All About
  22. ^ 2007年6月23日 東京新聞
  23. ^ 2009年4月7日放送『ニュースウオッチ9』(NHK総合)より。
  24. ^ 2009年5月1日『東京新聞

[編集] 関連書籍

[編集] 関連項目

低額で利用できるインターネットカフェの一例・東京都蒲田駅

[編集] 外部リンク

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