73式小型トラック
73式小型トラック(ななさんしきこがたトラック)は、1973年(昭和48年)に採用された自衛隊の汎用小型軍用車両(トラック)である。三菱自動車工業(パジェロ製造)が製造するが現在は2種類の車両がある。
なお、「73式」となっているが実際は「制式化」されておらず、正式名称については「1/2tトラック」に変更された。
歴史
旧型(1973-1997年)
日本国内で生産されていた自衛隊向け(軍用)四輪駆動車で、1970年代当時にジープのライセンス生産を行っていた三菱自動車が、それまで防衛庁向けに生産していた、J-3系やJ-50系をベースとした1/4tトラックの後継車として、防衛庁の要求に合わせて積載量の向上を図り、ミドルホイールベースのJ-24型を改良したものである。運輸省届出の型式(かたしき)は、1/4tトラックがJ-54A、73式小型トラックはエンジンの違いで、J-24A/23A/25Aとなる。
マニュアルトランスミッション(前進4速・後進1速)+副変速機(高・低2速)付きトランスファーを持つ。また、エンジンの始動はキーで行なうが、停止はキーを抜くだけではなく初期型から中期型まではキルスイッチ、最終型はキーOFFでもエンジンが停止可能。また、他国の軍用四輪駆動車と異なり、シガーライターと灰皿も標準装備している。
派生型として、60式106mm無反動砲や64式対戦車誘導弾を搭載した車両の他、パトライト・サイレンを搭載し、緊急車両指定及び白色塗装を行った警務隊向け車両がある。車両後部には、各種機関銃を備え付けるための銃座を取り付けることができる。屋根がないので警務車両は警光灯をフロントガラスの枠に増設したブラケット留めにしていた(これは「パジェロ」でも同じ)。
また、一部新型パジェロと共通するが車番により使用目的が異なり「01-****」は通常仕様、「02-****」は対戦車ミサイルや無反動砲などの装備火器類を搭載した車両となり、かつては「03-****」ナンバーの車両(エンジンがターボ仕様他「01」ナンバーと比べると細部に差異がある)の車両も存在した[2]。
無線機を搭載する車両に関しては運転席後部の座席を畳んでその部分にアタッチメント装着による無線機設置の他には、運転席及び助手席後部の席両端に跨ぐよう板状の部品(無線機材を複数設置する場合に使用するアタッチメント)を取付した後に運転席後部に無線機を取り付ける例もあり、この状態では乗員は基本的に4人乗車が基本となって運用していた(無理をすれば5人乗車可能)。
市販型三菱・ジープのミドルホイールベースモデルであるJ-20系はパジェロの登場で生産中止となり、ショートホイールベースのみがJ-50系として生産され続けていたが、1997年(平成9年)の生産終了に伴い、この先、補給部品の確保についても困難が予想されることから、耐用年数が規定に達した車両は走行可能な状態であっても廃車とし、そこから部品を調達している(ニコイチ)[3]。
現有の車両も車番が4000番台の最終形のみ部隊で運用される状況となっており、装備火器の運用上必要な車両[4]を除き、旧型は近年中に退役する方向である。
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64式対戦車誘導弾を搭載した73式小型トラック(旧型)
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60式106mm無反動砲を搭載した旧73式小型トラック(2両が重なっている)
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車体後部(警務隊用車両)
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車内の様子(警務隊用車両)
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運転席付近の様子、写真左のシフトレバーの他にはトランスファーレバー切り替えが2種類に操作スイッチ類の確認ができる
新型(1996年-)
旧式化が目立ち、排ガス規制などにも適応できなくなりつつあったジープタイプに代わり、1996年(平成8年)からはパジェロベースで、ショートホイールベースモデルのフレーム後端を若干伸ばし、積載対応のためリーフリジッド化された車両が採用され、「(新)73式小型トラック」となった。新型装備ではなく、旧型車両の更新であるため、複数メーカーによる競争入札は行われておらず、「73式」の呼称が引き継がれ、制式名称は「73式小型トラック」(平成13年度納入車から「1/2tトラック」に変更)となった。
パジェロをベースにした事から、旧型と同じくシガーライターと灰皿を搭載したほか、民間向け車両の部品を流用した事からエアコンのような快適装備も引き継がれ、冷房可能なエアコン搭載車となるが、電装系は民間向けパジェロの12V仕様に対し、防衛省向けは24Vであるため、操作パネルは同じながらも中身は別物である。
国土交通省届出の車両型式はV13B(2代目パジェロがV2-4系、3代目パジェロがV5-6系)となっているが、生産された順は2代目パジェロの後となっている。テールレンズは初代パジェロの物を流用。
方向指示器及びライト切り替えスイッチは旧型に類似したものを使用しており、ライトの点灯はライトスイッチの操作が必須となる[5]。
乗降性の改善のために取り付けたサイドステップのため全幅が小型車枠ではなくなっており、「小型」呼称ながら高速道路通行料金は普通貨物車(1ナンバー車)と同じ料金だったが、後に普通乗用車料金になるよう改装された。
変速機はロックアップ機構を省いたトルコン式ATで、市販型パジェロの2代目車両となるJ-TOP(幌車)の専用タイヤであった18インチの大径タイヤ(横浜ゴム製215/85・18、専用鉄ホイール)を装着し、デフロック可能なセンターデフ式フルタイム4駆機構のスーパーセレクト4WDを備える。不整地走破性は旧式純正JEEPと同等程度の性能を持つとされるが、前輪がリジッドから独立懸架となったことで操縦安定性は向上した。タイヤ径の拡大により、地上高、特にアクスルデフ下の最低地上高が増大している。
440kgの最大積載量があり、固有の搭載火器はないが、5.56mm機関銃MINIMI、12.7mm重機関銃M2などの各種機関銃、対戦車ミサイルなどを搭載することが可能。誘導弾や通信機器の搭載専用車両は2人ないし3人で運用される。
基本型は6人の乗車が可能だが、従来のジープ型が後部扉から乗降する後部4人に対し、パジェロベースは後部2人乗車であり、残りの2人は前席後部の中間の席に運転席と助手席のシートを倒して乗降する。指揮官車など通信機材が積載された車両に関しては中間の座席を1つ取り外して通信機を設置するため、5人乗車となる。
初期型は従来よりも予熱に時間がかかるため、冬季のエンジン始動に時間がかかる[6]。現在は新型エンジンを搭載して、バンバー上にあったフォグランプをバンパーに埋め込んだタイプ(数もひとつから二つに増えている)が納入されている。
2014年頃からボンネットにインタークーラー用のエアインテークが無いモデルの納入が始まっている。
イラク派遣で使用された際には、三菱自動車が防弾能力を持つ"付加材1/2tトラック用"という物品を納入[7]しており、防弾処理が施された。
1/2tトラック | 1 1/2tトラック | 3 1/2tトラック | 高機動車 | 軽装甲機動車 | 96式装輪装甲車 | 輸送防護車 | |
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画像 | |||||||
全長 | 4.14 m | 5.49 m | 7.15 m | 4.91 m | 4.4 m | 6.84 m | 7.18 m |
全幅 | 1.76 m | 2.22 m | 2.48 m | 2.15 m | 2.04 m | 2.48 m | 2.48 m |
全高 | 1.97 m | 2.56 m | 3.08 m | 2.24 m | 1.85 m | 1.85 m | 2.65 m |
重量 | 約 1.94 t | 約 3.04 t | 約 8.57 t | 約 2.64 t | 約 4.5 t | 約 14.5 t | 約 14.5 t |
最高速度 | 135 km/h | 115 km/h | 105 km/h | 125 km/h | 100 km/h | 100 km/h | 100 km/h |
乗員数 | 6名 | 19名 | 22名 | 10名 | 4名 | 10名 | 10名 |
エピソード
- 市販パジェロJ-TOPと同じタイヤを使用しているが、J-TOP用の市販は打ち切られ、自衛隊専用タイヤとなりつつある。
- 旧73式小型トラックにおいても、国内メーカーからはいわゆる「ゲタ山タイヤ」と呼ばれるマッドテレーンタイヤの供給がすでに打ち切られているため、共食い整備で古い廃車のタイヤも大事に使い回して運用されている。東北以北についてはスタッドレスの耐用規定に達したものを主にトレーラーに流用するなど極力車両本体にゲタ山タイヤを使用できるよう努めている他、一部は市販品でサイズが合うタイプを使う例も増えている。
- 開発当初は、エアコンを装備しない意向であったが、「エアコンを付けない生産ラインを新たに作るのは困難であり、その方が逆に費用がかかる」との三菱側の強い要望で、標準装備となった噂がある。
性能・主要諸元
73式小型トラック(パジェロベース)
登場作品
ゴジラシリーズ・ガメラシリーズなど多くの特撮作品や陸上自衛隊が登場する映画・テレビドラマに登場する。
実写作品
- 『神さまの言うとおり』
- 旧型と新型が登場する。
- 『戦国自衛隊・関ヶ原の戦い』
- 新型が戦国時代にタイムスリップする自衛隊の装備の一つとして登場。5.56mm機関銃MINIMIを銃架に載せて戦国武者たちを機銃掃射する。
- 『図書館戦争』
- 関東図書隊所属の連絡・警備車両として度々登場。
- 『日本沈没 2006年』
- 73式中型トラックとともに登場し、主に自衛隊員の輸送に使用される。
特撮作品
- 『ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』
- 国家緊急部隊シャークスの車両として登場。
- 『平成ガメラシリーズ』
- 『平成ゴジラシリーズ』続く『ミレニアムゴジラシリーズ』
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- 『ゴジラvsビオランテ』
- 主人公が旧型を拝借し、サラジア共和国工作員の乗った車とカーチェイスを行う。
- 『デスカッパ』
アニメ
漫画
- 『20世紀少年』
- 『代紋TAKE2』
- 江原慎吾が雇った傭兵を制圧するためにCH-47Jに搭載されて自衛隊員とともに12.7mm重機関銃M2を搭載した旧型が東京に輸送される。
- 『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』
- 特地に持ち込まれた自衛隊の装備の1つで、主人公が所属する深部偵察隊に指揮車として配備される。
- 『続・戦国自衛隊』
- 新型と旧型の両方が登場する。漫画版では関ヶ原の戦いで全て失うが、小説版では大阪城攻防編まで活躍する。
- 『大怪獣激闘 ガメラ対バルゴン COMIC VERSION』
- 出動した自衛隊が、住民を救助するために使用する。
小説
- 『ルーントルーパーズ 自衛隊漂流戦記』
- 異世界に飛ばされた自衛隊の装備の1つとして登場。情報収集活動時に使用されるが、その最中にゴーレムの襲撃を受ける。
関連項目
脚注
- ^ ただし、新型においても「ジープ」と呼称する古株の幹部・上曹が存在する
- ^ 部内資料及び各部隊の創立記念資料参考。また、近年は03-××××も配備が進んでおり、01番台が01-9999を指定された車両以後に納入された車両が主に取り付けている
- ^ 日本兵器研究会『世界の軍用4WDカタログ』アリアドネ企画 ISBN 9784384025491 2001年
- ^ 106mm無反動砲(車載用)など旧73式しか積載・運用できない車両があり、そういった装備火器用にごく少数のみ専用車を残すなど、火器が退役しない限りは全廃されることはない
- ^ 高機動車や中型・大型トラックの新型はライトスイッチの操作だけでは点灯せず、方向指示器と一体になったスイッチの操作も必要であり、乗用車のライト点灯と同じ操作でライト点灯が可能
- ^ 部内資料に相応の記述と対処要領の説明あり・現在は改良済み
- ^ 平成17年度所管公益法人等との間で締結された随意契約の緊急点検結果等について(防衛省)<3 3="3">