インスタントコーヒー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
インスタント・コーヒーの粉末

インスタントコーヒーとは、コーヒー豆の抽出液を乾燥させて粉末状に加工したインスタント食品である。湯を注ぐだけでコーヒーが完成する。

ソリュブルコーヒーと呼称される例もあるが、「インスタントコーヒーとソリュブルコーヒーは定義の異なる製品である」として両者を区別する立場もある(後述)。

発明者[編集]

コーヒーを即席食品化する場合、抽出液を粉末化するのがもっとも簡易である。しかし、その過程では味や香りが損なわれやすい。インスタントコーヒーの歴史は、加工後も味と香りを維持しようとする努力の歴史と言える。

1889年ニュージーランドインバーカーギルのデイビッド・ストラングが「ソリュブル・コーヒー・パウダー」の作成法の特許を取得し、「ストラング・コーヒー」として製品化したのがはじめとされる[1]

1899年アメリカイリノイ州シカゴに在住していた日本人科学者のカトウ・サトリ博士が、緑茶を即席化する研究途上、コーヒー抽出液を真空乾燥する技術を再発明。1901年ニューヨーク州バッファローで開催されたパンアメリカン博覧会で「ソリュブル・コーヒー」(可溶性コーヒー)と名づけて発表した[2]。カトウを発明者とする文献も多いが、カトウの経歴や正確な名前(サトリ、サルトリとの説があり上記のリンク先ではサトリ)はわかっておらず、どのような研究を行っていた人物なのかも不明である。また、すでに公表されていて新規性が無く、本来の発明者でもないカトウに対して特許が認められた経緯も謎である。

カトウ・サトリをインスタントコーヒーの発明者とする記述は多くの雑学書に記されているが多くは孫引きのたぐいと思われ、正確な文献による報告は未だ行われていない[3]。日本インスタントコーヒー協会のサイトですら、特に文献を引くことなく上記の孫引きを行っているのが実情である。カトウという人物が特許を取得し、Kato Coffee社という会社が博覧会でサンプルを配布した事実は確認されている[4]が、それ以前にストラングが既に特許取得し製品化していたことも確認できる[5]

1906年ジョージ・コンスタント・ルイス・ワシントンが独自のインスタントコーヒー製法の特許を取得しており、「Red E Coffee」として製品化し成功を収めた。ストラングの発明は現在のフリーズドライ製法につながるものと思われるが、ワシントンはいわゆるスプレードライ製法を発明した可能性がある。

一般への普及[編集]

一般的なインスタントコーヒーの瓶

ワシントンの特許以後、いくつかのメーカーがインスタント・コーヒーの製造販売を行ったが、その中でもっとも大きな成功を収めたのは、スイスヴェヴェイに本拠を置く食品商社のネスレであった。

1920年代末期、コーヒーの大産地であるブラジルではコーヒー豆の大豊作で価格相場が暴落、農民は困窮した。これに苦慮したブラジル政府は、余剰のコーヒー豆を用いた加工食品の開発をネスレに要請する。ネスレは数年間の開発期間を経て、1937年にほぼ現在同様のスプレードライ法によるインスタント・コーヒーを完成させた。この製品は翌1938年に「ネスカフェ」の商品名で市販され、インスタント・コーヒーの代名詞として知られるようになる。

フリーズドライ法で製造されたインスタント・コーヒーは1960年代にアメリカで登場し、風味に優れることから成功を収めた。

日本では1950年代からインスタント・コーヒーが輸入され始めたが、1960年代以降国産化が進み、1960年森永製菓によって国内生産が開始されて一般大衆にコーヒーを広く普及させる契機となった。

カフェインを抜く加工を施したカフェインレスのインスタント・コーヒーも有る。

製法[編集]

スプレードライ法[編集]

スプレードライ法によるインスタントコーヒーの粉末

高温の乾燥筒の中に、高温のコーヒー液を噴霧して素早く乾燥させる方法。一般的に気流乾燥装置と呼ばれる。製品は微粉状となる。冷たい水にも溶けやすいという利点があり量産性が高いが、製造時の熱によって香味をやや損ないやすい。香味の損耗については製造工程の改善もあり熱風中に数秒間ブロー乾燥させたのちすぐに冷却される程度のものであり極端なものではない(代表例:「ネスカフェ エクセラ(ソリュブルコーヒーに変わる前)」、AGF「ブレンディ(インスタントコーヒー)」等)。

フリーズドライ法[編集]

フリーズドライ法によるインスタントコーヒーの粒

コーヒー液をマイナス40℃以下で一度凍結させた後に細かく砕き、真空状態にして水分を蒸発させる方法。製品は2〜3mm程度の大きさで角が尖った粗い粒状となる。スプレードライ法に比して香味は損なわれにくいが、製造に手間がかかるためやや量産性に劣る。このため、スプレードライ法の製品より価格は高め(代表例:「ネスカフェ ゴールドブレンド(ソリュブルコーヒーに変わる前)」、AGF「マキシム(インスタントコーヒー)」等)。

公正競争規約との関係[編集]

日本の公正競争規約上では、インスタントコーヒーを「コーヒーいり豆から得られる抽出液を乾燥した水溶性の粉状、顆粒状その他の固形状のコーヒー」と定義している[6]。粉状で湯を注ぐだけで完成するコーヒーであっても、粒子の中にコーヒー豆を内包する製品の場合、日本では同規約上レギュラーコーヒーに分類されてしまい「インスタントコーヒー」を名乗れない[7]。このため、「ソリュブルコーヒー」と称した場合には、粒子にコーヒー豆を内包するものを含んだ「湯を注ぐだけで完成するコーヒー製品全般」を意味するとして、インスタントコーヒーと区別する見解がある。

実際に2013年9月には、ネスレ日本が同社のネスカフェ全製品を「挽き豆包み製法」を採用した製品に切り替えることに伴い、製品の呼称を「インスタントコーヒー」から「レギュラーソリュブルコーヒー」に変更することを発表している[7]

ただしコーヒー業界の業界団体である全日本コーヒー公正取引協議会では、内規でネスレ日本の一連の製品のような「粒子の中にコーヒー豆を内包する製品」について「インスタントコーヒー(レギュラーコーヒー入り)」と表示するよう規定しており、「『レギュラーソリュブルコーヒー』表記だと『ドリップで入れるレギュラーコーヒー』と誤認する」と反発する業者もいる[8]

脚注[編集]

  1. ^ Instant coffee invented down south 2012年12月16日
  2. ^ インスタント・コーヒー、最初の特許は日本人
  3. ^ 2010年に大阪市立中央図書館レファレンスサービス依頼により調査した結果では、コーヒーに関する書籍や、人名事典、発明事典の年表の類にいずれも典拠不明でカトウとその発明についての不完全な言及が見られ、その最古の掲載例は『発明とアイデアの歴史 : Eureka! 』(エドワード・デボノ編、渡辺 茂/監訳、講談社,1977)の模様であるが、同図書館調査でもそれ以上の解明には至らなかった模様である(レファレンス協同データベースによる本件の報告 [1]
  4. ^ Aug. 11, 1903: Instant Coffee, a Mixed BlessingWIRED
  5. ^ 1890 First Annual Report, New Zealand, Patents, Designs and Trade-marks ニュージーランドの商標出願記録で1889年1月28日付、3518号としてストラングの出願記録が掲載されている。
  6. ^ レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約
  7. ^ a b ネスカフェ、「インスタントコーヒー」終了!? すべて「挽き豆包みコーヒー」に (2/2) - Business Media 誠・2013年8月28日
  8. ^ ネスレ日本「インスタント」の呼称やめる 「ネスカフェ」刷新 - 日本経済新聞・2013年8月28日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]