野猫

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ウサギを捕食している野猫

野猫(のねこ)とは、野生化したネコ(イエネコ)である。しばしば片仮名ノネコと書かれる。

イエネコは従来、ネコ科ネコ属のネコという (Felis catus) とされてきたが、最近になって、ヨーロッパヤマネコ (Felis silvestris) の一亜種 (Felis silvestris catus) もしくはそれ以下の変種等と見なされるようになった。すなわち、野生化したイエネコである野猫と、本来的な野生動物であるヨーロッパヤマネコとは、亜種という区分においてのみ、遺伝的に異なるグループである。従って、イエネコとその他のヨーロッパヤマネコとは、交雑する。

ただし、日本に生息する対馬ツシマヤマネコ (Prionailurus bengalensis euptilura) 、および西表島イリオモテヤマネコ (Prionailurus bengalensis iriomotensis)では、イエネコと交雑した例は見つかっていない[注 1]

概要

野猫は山野に広く生活するイエネコで、一箇所に居つく性質の強い飼い猫などとは違い、比較的広い縄張りを持つ。

野猫は通常、人間からは全く餌を与えられず、野鳥ネズミ昆虫などの小動物を獲って生活している。人里にはあまり近づかないが、まれに田畑などに住むノネズミなどを獲る姿が見られる。

野猫は非常に警戒心が強く、人にはなつきにくい。しかし、餌づけされて野良猫化したり、さらには飼い猫として飼われたりすることもある。

野猫と野良猫

野猫と野良猫は、通常は同じ意味だが[1][2][3]狩猟が可能かどうかで区別をする場合、野猫と野良猫は違うものであるとされる[4]。この場合の野猫の定義は、人間の生活圏への依存が全くみられない、野生動物である。

両者に遺伝的な違いは全くなく、食生活によって区別するとされるが、実際には解剖でもしない限り判別は困難である[4]

両者は生活圏の違いで便宜的に区別されるが、生物分類上はいずれもイエネコで、厳密な区別はない。たとえ野良猫がその本来の習性に則り、野猫のように狩りをしたとしても、それを以ってその個体が野猫であるということにはならない。

狩猟の対象として

鳥獣保護法ではノネコは狩猟鳥獣で、銃や罠による狩猟が可能である。

しかし狩猟鳥獣の野猫と、非狩猟鳥獣の野良猫や放し飼いの飼い猫の相互の区別は困難で、首輪の有無および、野山に住むか街中をうろついているかの差くらいしか判断基準がない。

前述の要因により、野猫を主要な狩猟対象として活動する者はほとんどいないとされている。

野猫による悪影響

環境省ヤンバルクイナなどの希少動物が野猫に食害され、深刻な被害を与えるとしてマングースと同様に問題視している[5]

野猫は侵略的外来種に該当し、野犬特定外来生物マングースヌートリアアライグマミンク等と同じく、絶滅危惧種の保護上も重大な脅威として定義されている[6]

オーストラリアでは、ネコが1年間に殺す固有種は数十億匹にのぼることが判明している[7]

日本での対策

天売島では、捕獲された野猫をボランティアが馴化し、譲渡に繋げる取り組みが行われている[8]。また、猫の適正飼養を推進する条例が制定され、飼い猫へのマイクロチップの埋め込みと登録が義務化されている[9]

小笠原諸島では、島固有の生物を襲う野猫を殺処分せず、本土(東京)の動物病院が馴化をしながら飼い主を探す取り組みが行われている[10]

奄美大島の鹿児島県奄美市では、野猫による希少動物(アマミノクロウサギなど)の食害が問題になっている[11]。このため希少種が生息する森林から野猫を捕獲排除する対策が実施されている[12]

また、飼育登録などを求める条例が制定され、飼い猫が人間の生活圏にいる「野良猫」になり、さらに「野猫」化しないよう、野良猫の不妊・去勢手術といった対策が行われている[13]

なお在来種・外来種に二分し、外来種を排斥する政策についてはフレッド・ピアス英語版[14]池田清彦[15]岸由二らが批判を展開している。

ネコとタヌキ

タヌキは哺乳綱 ネコ目(食肉目) ネコ亜目(裂脚亜目) (イヌ上科) イヌ科 タヌキ属であり、ネコ亜目 (ネコ上科) ネコ科 ネコ属であるイエネコとは、科の水準で異なるグループに属している。かつて中国ではネコに「狸」の字を当てており、日本でも、ネコやヤマネコと、それらと同様によく木に登るタヌキとの間に、古代から近世までは表記・イメージの混雑がしばしば見られた。

近世には中国の例に倣ってタヌキ(Nyctereutes procyonoides)を「野猫」と表記した書籍もあるが、後述するように、イヌ科のタヌキと(現在「野猫(のねこ)」と呼ばれる)野生のイエネコとは、まったくの別物である。

このように日本では近世まで、ネコとタヌキが表記上でしばしば混同した例がある。『和漢三才図会』などに記される「野猫」はタヌキのことであり、本項で述べるところの野猫とは、言うまでもなく別物である[要出典]

脚注

注釈

  1. ^ この両者は共にベンガルヤマネコ Prionailurus bengalensisの亜種であるが、ベンガルヤマネコの他の亜種では、飼育下で交雑した例があり、それにより生まれた子猫が、イエネコの品種の一つベンガルの基になったと言われている。

出典

  1. ^ 猫の不思議サイエンス 野猫はいかに「縄張り」を共有するのか? 監修/どうぶつ行動クリニック・ファウ 尾形 庭子先生 - 花王
  2. ^ 日高市 野生鳥獣の保護について
  3. ^ 大辞泉 のねこ
  4. ^ a b 衆議院会議録情報 第043回国会 農林水産委員会 第17号林野庁指導部長による発言
  5. ^ 希少種とノネコ・ノラネコ環境省 2020年5月18日閲覧
  6. ^ 我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト 掲載種の付加情報(根拠情報) <動物(哺乳類)>環境省 2020年5月18日閲覧
  7. ^ Feral and pet cats are hunting and killing billions of animals each year in AustraliaABC NEWS 2020年5月26日閲覧
  8. ^ 天売猫 預かりボランティア北海道地方環境事務所
  9. ^ 天売島ネコ飼養条例
  10. ^ 小笠原の野猫本土でペットに/野生化した猫、捕獲し「引っ越し」/13年前から、天然記念物のハトなど守る『読売新聞』朝刊2018年6月30日(くらし面)
  11. ^ ノイヌ、ノネコ対策奄美野生生物保護センター 2020年5月20日閲覧
  12. ^ 奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画2020年5月20日閲覧
  13. ^ 奄美「野生化ネコ」増殖防げ/希少動物捕食、問題に/世界遺産登録にらみ官民対策進む『日本経済新聞』夕刊2018年8月24日(社会・スポーツ面)2018年8月25日閲覧。
  14. ^ 外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD フレッド・ピアス 著 /藤井留美 訳
  15. ^ 環境問題のウソ 池田清彦著

関連項目