転勤

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転勤(てんきん)とは、労働者を同じ会社内の異なる勤務場所に配置転換すること。使用者が労働者に転勤命令を行う場合には、原則として根拠が必要となるが、就業規則の規定などをもって使用者に広範な人事権が認められている。

日本において転勤が一般的であるのは、長期雇用を前提に供給労働力を調整するため、出向、転勤など企業内労働市場、企業グループ内労働市場の中での異動を行うからである。欧米では「幹部を海外法人に派遣する」ような場合を除けば、ほとんど存在しない[1]

目的[編集]

転勤を行うのはおおむね次の理由により、会社にとって業務上の必要性があるとされる。

  • 本人の能力開発や後進の育成など人事面での活性化のため
  • あるいは一つの業務に長期間携わることによる慢心防止、あるいは取引先との不正防止のため
  • 都市部や不人気な僻地に長期間勤務させず、定期的に交代させるため

また、問題を起こした人物に対する懲戒としてであったり、会社組織にとって不都合な人物をあえて僻地(山村、離島など)に転勤させることもあり、この種の転勤はて特に「左遷」と呼ぶ。(後述の人事権の濫用の節も参照)

転勤拒否[編集]

遠方への転勤では労働者が現在住んでいる家や都市部から離れなければならず、金銭的・精神的に負担を伴う。一緒に生活する家族にも引越しを求められるが、人によっては家族を残して単身赴任する場合もある。

また、労働者にとって転勤には、住環境が変化するだけでなく、引越しの手間や費用など金銭面において多大な不利益が発生し、巨額の自己負担が発生する(使用者は、引越し時の費用や居住地への交通費といった諸経費の一部および全額を負担する義務がない)が、「通常甘受すべき不利益」の場合には雇用契約や就業規則等の規定により会社の業務命令に従うべきものとされる。

転勤には諸経費(引越し料金)の負担および労働者の同意は必要でないため、「引越しの費用が出せない」などの理由で(または「会社が費用を全額負担する」としても)転勤を拒否すると「業務命令違反」となり懲戒処分を受けることになる。懲戒処分としては「懲戒解雇」として取り扱われることが多いが、肩叩きなど自己都合退職を促すこともある。

人事権濫用[編集]

会社にとって望ましくない人物を、僻地離島などの地方)に転勤させたり、頻繁に転勤させ、金銭の負担を負わせることで自己都合退職させることもある。また、リストラを行うときに、家庭や金銭面の事情などで転勤を受け入れ難い人物を狙って転勤命令を出し、自己都合退職させることもある。

ただし、業務上の必要がなく労働者に対するいやがらせなどで発令された転勤命令であるときには、使用者が人事権を濫用しているとして転勤命令が無効となることがある。またもっと悪質な例では(使用者および会社側に引越の費用を負担する義務がないことを悪用し)転勤にかかる引越し等の費用を(一部または)全額負担させ、2週間ごとに日本中のいたるところに転勤させる場合がある。そのため「引越しの費用を負担できない」という理由をつけさせ、自己都合退職に追い込む場合がある。

判例[編集]

  • 東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)
全国15カ所に事務所・営業所を有する会社で大阪事務所や神戸営業所で勤務していた男性社員が広島営業所や名古屋営業所への転勤内示について、母が71歳と高齢であり、保母をしている妻も仕事を辞めることが難しく、子供が2歳と幼少であるという家庭の事情から、単身赴任の転勤を拒否した際に、本人の同意が得られないままに転勤が発令し、男性社員がこれに応じなかったところ、就業規則所定の懲戒事由に該当するとして懲戒解雇された事案について、特段の事情の存する場合(例示としては業務上の必要性が存在しない場合、当該転勤命令型の不当な動機・目的をもってなされた場合、労働者に通常感受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合)は権利の濫用となるとした上で、「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもって替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべき」「家族との別居を余儀なくされるという家庭生活上の不利益は転勤に伴い、通常甘受すべき程度のもの」として転勤拒否による懲戒解雇は合法とされた。
  • 北海道コカコーラボトリング事件(札幌地決平成9年7月23日)
帯広工場に勤務していた社員が札幌工場への転勤命令に拒絶意思を示したが、懲戒解雇をおそれて一旦札幌工場に赴任した上で帯広工場勤務の労働契約上の地位について仮処分申請を行った事案では、2人の子供が病気を患っていることや両親が体調不良で家業である農業を事実上面倒みていたこと、社員側が転勤しがたい私生活上の状況を会社に伝えていたこと、一家揃っての転居が困難であること、業務上の必要性はあるが他にも転勤候補者がいたこと点から、転居を伴う転勤命令が無効とされ、帯広職場勤務の地位保全の仮処分が認められた。
信州ハーネス(長野)の東北住電装(岩手)へ吸収合併に伴い、信州ハーネスが従業員に示した『岩手への転勤か退職、応じない者は整理解雇』の方針に対して「整理解雇の要件を充足しておらず、解雇権の濫用として無効」としたものの、長野から岩手への転勤そのものについては問題としなかった。会社合併・工場閉鎖に伴う転勤命令であっても、使用者の人事権の範囲内である。

転勤を拒否できる場合[編集]

転勤命令を受けた労働者が、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負う場合には、転勤を拒否できることがある。一例として、転勤命令を受けた労働者が「家族の介護をする必要があるため、単身赴任すらできない」ときなどが挙げられる。

また、勤務場所を特定して採用した労働者に対して、勤務場所を変更するときも同様である。この場合は、使用者側には転勤対象者がその者でなければならないかどうかの「人選の合理性」が求められる。

裁判官裁判所法第48条で意に反して転勤されることはないと規定されている。

脚注[編集]

  1. ^ 『労働市場改革の経済学-正社員保護主義の終わり-』(八代尚宏、2009年)

関連項目[編集]