スターゲイジー・パイ

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スターゲイジー・パイ
Baked stargazy pie.jpg
別名 スターリー・ゲイジー・パイ
フルコース 主菜
発祥地 イギリスの旗 イギリス
地域 コーンウォール
提供時温度 温かい
主な材料 ピルチャード
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スターゲイジー・パイ英語: Stargazy pie)は、ピルチャード(大型のサーディン)をジャガイモとともにパイ生地に包んで焼いたイギリスコーンウォールの名物料理である。スターリー・ゲイジー・パイ(starrey gazey pie)などと表記されることもある。

スターゲイジー・パイにはいくつかのバリエーションが存在し、パイ生地から魚の頭部や尾部が突き出しているのが主な特徴である。魚が頭部を突き出して星空を見上げているように見えることから料理名が名づけられた。

概要[編集]

スターゲイジー・パイはコーンウォールマウゼル村を発祥として伝統的に作られており、嵐で風吹き荒れる冬に一人漁に出て魚を獲ったトム・バーコックの英雄的な行為をたたえて、トム・バーコックス・イヴ英語版祭が開催される12月23日に食べることとなっている。マウゼル村のイルミネーションを使用して行われている現代のトム・バーコックス・イヴ祭によれば、トム・バーコックが獲った魚は代表的な7種類の魚を含めすべて使用して巨大なスターゲイジー・パイにされ、村人を飢えから救ったとされている。また、祭はその起源がキリスト教普及以前の時代に遡る証拠がある。トム・バーコックの物語は、スターゲイジー・パイを取り上げたアントニア・バーバーの児童書、「The Mousehole Cat」により一般的に広まったものである。2007年ロンドンの料理人マーク・ヒックスはスターゲイジー・パイを用いてBBCグレイト・ブリティッシュ・メニュー英語版で優勝した。

スターゲイジー・パイはを使用したフィッシュパイの一種であり、伝統的にピルチャードを使用して作られる。ピルチャードはパイから突き出し、星を見上げる形にするため、頭部を切り離してはならない。魚肉部位については、調理中に出てきた油をパイの中に戻しても良い。これは味わいを深め、しっとりしたパイに仕上げるためである[1]。料理人のリック・スタインはピルチャードが水面から跳ねる様子を表現するため、尾部についてもパイから突き出す形にすることを提案している[2]

British Food Trustでは子供が楽しく興味を持つ料理として名前が上がっているものの[1]、アメリカ合衆国の作家、ニール・セッチフィールドの著書を基にしたNew York Daily Newsの調査では「食べるとうんざりする料理」のリストに名前が上がっている[3][4][5]

起源[編集]

"Merry place you may believe, Tiz Mouzel 'pon Tom Bawcock's eve

To be there then who wouldn't wesh, to sup o' sibm soorts o' fish
When morgy brath had cleared the path, Comed lances for a fry
And then us had a bit o' scad an' Starry-gazie pie
As aich we'd clunk, E's health we drunk, in bumpers bremmen high,

And when up caame Tom Bawcock's name, We'd prais'd 'un to the sky"
トム・バーコックス・イヴに歌う民謡[6]

スターゲイジー・パイはコーンウォール西部の港町、マウゼルにその起源を持つ。コーンウォールの他の遺産と同様に、スターゲイジー・パイにはその起源に伝説が関係している。スターゲイジー・パイの場合は、16世紀のマウゼル在住の漁師、トム・バーコックの勇気をたたえて作られたものである。伝説によれば、嵐で風が吹き荒れるある冬、漁船を港から出すことができなくなってしまった。クリスマスが近づく中、魚を重要な食料源としていた村人たちは、飢えに直面した[6]

12月23日、トム・バーコックはに挑んで漁を行うことを決心し、漁船を漕ぎだした。悪天候や荒れた海にも負けず、彼は村全体に提供できるほどの十分な魚を捕ることに成功した。捕れた魚すべて(7種類の魚を含む)はパイに入れて焼く際に、中に魚が入っていることを示すために魚の頭部をパイから突き出す形にされた。これ以降、トム・バーコックス・イヴ祭がマウゼルで12月23日に開催されるようになった。トム・バーコックの尽力を称えて、マウゼルの人々が手製ランタンを片手に夕方より巨大なスターゲイジー・パイを作り、食べる様子を見ることができる[6][7][8]

12月の終わりに向けて漁師により開催された古風な宴には、来る年の大漁を祈願して、異なる種類の魚を調理したパイが並んだ。トム・バーコックス・イヴは、この祭の転換点となった可能性がある[9]1963年以降、祭はマウゼル村の、ライトアップされた漁港のイルミネーションを背景に開催されている[10]。ライトの1つのセットはスターゲイジー・パイを表しており、6つの星の下に、魚の頭部と尾部がパイから突き出している様子が見て取れる[11]

一説として、祭自体が1950年代に創作された、漁師宿の主人によるでっち上げだという説が存在する。しかし、祭は1927年コーンウォール語作家のモートン・ナンスによって雑誌「オールド・コーンウォール」に記録されている。彼の記述によれば、1900年以前より祭は存在したが、トム・バーコックの実在性については疑問符をつけており、「ビューコック(Beau Coc)」ではないかと提案している。彼は、祭の起源がキリスト教が広まる以前の時代にまで遡ることも確認しているが、いつの時代にスターゲイジー・パイが祭の一部として提供されるようになったのかは不明である。モートン・ナンスはトム・バーコックス・イヴに歌われる民謡として定着し、地元の結婚行進曲に合わせて演奏される[12]

スターゲイジー・パイにまつわる伝説として、コーンウォールの他の特別扱いされたパイと同じく、悪魔がコーンウォールに二度とこない理由となっていることがあげられる。ロバート・ハントによるコーンウォールの伝統についてまとめた書籍「Popular romances of the west of England; or, The drolls, traditions, and superstitions of old Cornwall」では、悪魔がテイマール川英語版をわたってトアポイント英語版にやってくると説明されている。書籍内の「The Devil's Coits, etc」と題された章では、コーンウォールの人々がパイにあらゆるものを詰めている様子を悪魔が見て、パイにされる前にデヴォンへの退散を決心する描写が出てくる[13][14]

調理法[編集]

オーブンで焼く前のスターゲイジー・パイ
パイの周縁部に魚の頭部を並べたスターゲイジー・パイ

伝説によれば、発祥当時は材料としてイカナゴウマヅラアジ、ピルチャード、ニシンヨーロッパトラザメタラを含む7種類の魚を使用して作っていた。伝統的な作り方においては、ピルチャードを材料として使うことが多いが、代用品としてサバニシンを用いることもある。マウゼルの漁師宿の料理人、リチャード・スティーヴンソンはピルチャードやニシンを調理に使用したうえで、白身魚であれば何を使用しても良いとしている。また、魚はパイに配置する前に、食べやすくするため魚のウロコや皮、骨を取るなどの下処理を行う必要がある(パイから突き出す部分を除く)。伝統的な調理法に用いる材料としては、魚の他に増粘ミルク、卵、茹でたジャガイモがあげられる[15]

スターゲイジー・パイには伝統的な食材を使用した多くのバリエーションが存在し、その材料としては固茹で卵ベーコン玉ねぎマスタードもしくは白ワインが使用されている。メインの魚の代用品としては、他にザリガニウサギ肉、羊肉などを用いることがある。スターゲイジー・パイのレシピでは、一番上にパイのふたをかぶせている。これは一般的にはパイ生地を使う。また、魚の頭部もしくは尾部がパイから突き出している[15]

スターゲイジー・パイを作るうえで、ピルチャードは尾部をパイの中心部に向けて置き、頭部がパイの周縁部に突き出すように配置しても良い。さらに、パイにジャガイモやペイストリーを入れるのと同様に、パイの中に固くなったパンやパイ、野菜を入れて作っても良い。その他にも、コーンウォールのヤーグルバーブチャツネポーチドエッグやスライスしたレモンを入れても良い[15][16]

大衆文化[編集]

アントニア・バーバーの児童書「The Mousehole Cat」はトム・バーコックス・イヴに題材をとっている。この本は、トム・バーコックと彼の愛猫である黒と白の斑猫マウザーが魚をとりにいく物語である。ボートは巨大な「嵐猫」に遭遇したが、嵐猫の顎の下をなでてご機嫌を取ることで事なきを得る。このご機嫌取りにより、嵐猫が休んでいるあいだトムは漁をして村に帰ることに成功する。彼らは村に帰ると、すべての魚を使って「星を見上げる(Star-Gazy)」パイを焼き、村人に振る舞った。特に、アントニア・バーバーはスターゲイジー・パイがトムの英雄的な漁「より前に」マウゼルの食事において重要な位置にあったことを指摘しているが、伝説によれば、スターゲイジー・パイはトムの漁を発祥としている[17]

イギリスの料理番組「Great British Menu」の第二シリーズに、ロンドンにあるレストラン「The Ivy」のメインシェフ、マーク・ヒックス英語版が出場しており、メインコースでスターゲイジー・パイを使用している[18]。彼の提案しているスターゲイジー・パイはフィリング(詰め物)としてウサギ肉とザリガニを使用しており、ザリガニがパイ生地から飛び出している。ヒックスは以前に肉の消費促進を目的とした祭に羊肉ザリガニを使用したスターゲイジー・パイを提供しており、これは暫くの間ロンドンにある彼のレストランで提供された[19]

デイヴィッド・アーミテージの児童書「The Lighthouse Keeper's Cat」では、主人公の好物がスターゲイジー・パイであり、主人公は最後に褒美としてスターゲイジー・パイをもらう[20]

スターゲイジー・パイという名前はコーンウォールのフォークシンガー、ブレンダ・ウートンの1975年のアルバムのタイトルとして使用されている[21]アメリカ合衆国のロックバンド、The Silver Seas(歌を発表した当時のバンド名はThe Bees U.S.)もまた2004年にスターリー・ゲイジー・パイという名のアルバムをリリースしている。このアルバムとタイトル曲はバンドメンバーのダニエル・ターシャンが子供の頃から知っている料理本のレシピが元になっている[22]

スターゲイジー・パイは中国の英語ラジオにおいて、「中国人から見たイギリス料理の典型例」として、パロディで使用された[23]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b Stargazey pie”. The British Food Trust. 2011年1月7日閲覧。
  2. ^ Stein, Rick (2005). Rick Stein's Food Heroes. BBC Books. ISBN 0-563-52175-9 
  3. ^ “Yuck! disgusting things people eat (number 9)”. New York Daily News. (2010年8月24日). http://www.nydailynews.com/lifestyle/galleries/yuck_disgusting_things_people_eat/yuck_disgusting_things_people_eat.html 2011年1月7日閲覧。 
  4. ^ Setchfield, Neil (2010). Yuck! The things people eat. Merrell. ISBN 1-85894-524-0 
  5. ^ Berry, Oliver; Dixon, Belinda (2008). Devon, Cornwall & South West England. ロンリープラネット. p. 48. ISBN 1-74104-873-7. http://books.google.com/books?id=tqpP0B-Hg7IC&lpg=PA244&dq=stargazy%20pie&pg=PA244#v=onepage&q=stargazy%20pie&f=false 2011年1月7日閲覧。 
  6. ^ a b c “The Story of Tom Bawcock”. BBC News. (2009年12月2日). http://news.bbc.co.uk/local/cornwall/hi/people_and_places/history/newsid_8390000/8390344.stm 2011年1月7日閲覧。 
  7. ^ Kent, Michael (2008). Cornwall from the Coast Path. Alison Hodge Publishers. p. 103. ISBN 0-906720-68-0 
  8. ^ Trewin, Carol; Woolfitt, Adam (2005). Gourmet Cornwall. Alison Hodge Publishers. p. 16. ISBN 0-906720-39-7. http://books.google.com/books?id=swU53UBC1LEC&dq=stargazy+pie 
  9. ^ Paston-Williams, Sara (2006). Fish: Recipes from a Busy Island. National Trust Books. p. 21. ISBN 1-905400-07-1. http://books.google.com/books?id=aJoDxN4T-eEC&pg=PA21&dq=starry+gazey+pie#v=onepage&q=starry%20gazey%20pie&f=false 2015年12月23日閲覧。 
  10. ^ “Mousehole village illuminations”. BBC News. (2009年11月12日). http://news.bbc.co.uk/local/cornwall/hi/things_to_do/newsid_8345000/8345297.stm 2015年12月23日閲覧。 
  11. ^ Mousehole comes to life with light”. BBC. 2015年12月23日閲覧。
  12. ^ Deane, Troy; Shaw, Tony (1975). The folklore of Cornwall. Batsford. ISBN 0-7134-3037-0 
  13. ^ Hunt, Robert (1871). Popular romances of the west of England; or, The drolls, traditions, and superstitions of old Cornwall. JC Hotten. pp. 185–186 
  14. ^ Croxford, Bob (1993). From Cornwall with love. Dundurn Press. ISBN 0-9521850-0-8. http://books.google.com/books?id=JX8yGL1Soi4C&pg=PT11&dq=stargazy+pie#v=onepage&q=pie&f=false 
  15. ^ a b c Trewing, Carol; Woolfitt, Adam (2006). Cornish Fishing and Seafood. Alison Hodge Publishers. p. 243. ISBN 0-906720-42-7. http://books.google.com/books?id=IPnL8Hcix9MC&pg=PA243&dq=starry+gazey+pie#v=onepage&q=starry%20gazey%20pie&f=false 2011年1月7日閲覧。 
  16. ^ Stargazy pie”. Britain's Best Dish. ITV Network. 2011年1月7日閲覧。
  17. ^ Cohn, Amy (1991年3月10日). “Children's Books: The Mousehole Cat”. The New York Times. http://www.nytimes.com/1991/03/10/books/children-s-books-605791.html 2011年1月7日閲覧。 
  18. ^ Stacey, Caroline (2008年10月11日). “Mark Hix serves up a seasonal feast”. The Times. http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/food_and_drink/article4919532.ece 2011年1月7日閲覧。 
  19. ^ “Mutton gambols back on the menu”. BBC News. (2006年10月1日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/5377518.stm 2015年12月23日閲覧。 
  20. ^ Armitage, Ronda; Armitage, David (1997). The Lighthous Keeper's Cat. Scholastic. ISBN 0-590-13260-1 
  21. ^ Brenda Wootton: Complete Discography”. Brendawootton.eu. 2015年10月26日閲覧。
  22. ^ “The Bees (U.S.): 'Starry Gazey Pie'”. NPR Music. (2008年1月20日). http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5139303 2011年1月7日閲覧。 
  23. ^ http://www.bbc.com/news/blogs-china-blog-27442398

外部リンク[編集]