海苔

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焼きのり[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 787 kJ (188 kcal)
44.3 g
食物繊維 36.0 g
3.7 g
飽和脂肪酸 0.55 g
一価不飽和 0.20 g
多価不飽和 1.39 g
41.4 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(288%)
2300 µg
チアミン (B1)
(60%)
0.69 mg
リボフラビン (B2)
(194%)
2.33 mg
ナイアシン (B3)
(78%)
11.7 mg
パントテン酸 (B5)
(24%)
1.18 mg
葉酸 (B9)
(475%)
1900 µg
ビタミンB12
(2400%)
57.6 µg
ビタミンC
(253%)
210 mg
ビタミンD
(0%)
0 µg
ビタミンE
(31%)
4.6 mg
ビタミンK
(371%)
390 µg
ミネラル
ナトリウム
(35%)
530 mg
カリウム
(51%)
2400 mg
カルシウム
(28%)
280 mg
マグネシウム
(85%)
300 mg
リン
(100%)
700 mg
鉄分
(88%)
11.4 mg
亜鉛
(38%)
3.6 mg
(28%)
0.55 mg
他の成分
水分 2.3 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)

海苔(のり)とは、紅藻緑藻シアノバクテリア(藍藻)などを含む、食用とする藻類の総称。また、それら藻類を加工した食品のこと。ただし海苔を漉いて紙状に乾燥させた板海苔をさすことが多い。乾燥させない海苔は生海苔と呼ばれる。

概要

(→海藻も参照のこと)

日本語の「ノリ」はもともと中の岩石のように着生する藻類全般を表す語だった。現在では広義には食用とする紅藻類・藍藻類の総称をいう。

分類学的位置

食用の海苔は、分類学的には以下のような互いに疎遠なグループに分けられる。

  1. 海藻真核生物ドメイン・植物界紅色植物門・紅藻亜門・ウシケノリ綱・ウシケノリ目・ウシケノリ科アマノリ属 (Porphyra) に属するグループ。岩海苔(いのり)とも呼ばれ、板海苔に加工される、アサクサノリスサビノリ (P. yezoensis)、ウップルイノリ (P. pseudolinearis) など。南ウェールズで食べられるLaverP. umbilcalis)もこの属である。韓国海苔もこの属から作られる。
  2. 海藻。真核生物ドメイン・植物界・緑色植物門・緑藻亜門・アオサ藻綱アオサ目アオサ科に属する、アオサアオノリ
  3. 産。真核生物ドメイン・植物界・緑色植物門・緑藻亜門・トレボウクシア藻綱カワノリ目に属し、静岡県高知県埼玉県などの山間の清流に産するカワノリ
  4. 川産。真正細菌ドメイン・シアノバクテリア門・ネンジュモ綱クロオコックス目クロオコッカス科スイゼンジノリ属に属するスイゼンジノリ

分類学的にはそれぞれ大きく離れているが、2と3は同じ緑藻に属し、いくらか近縁である。4は大きくかけ離れており、通常言う植物には含まれない。

分類群が異なるため生活環はそれぞれ異なるが、いずれも解明されており、1と2は、解明された知見を利用して人為的にライフサイクルを制御し大量に種苗を作ることで、商業規模での養殖が可能となっている。

食品

板海苔

海苔は身近な海産物の一つであり、たんぱく質、食物繊維、ビタミン、カルシウム、EPA、タウリン、ベーターカロテン、アミノ酸などが豊富に含まれており栄養に富んでいる。

ウップルイノリとスサビノリは板海苔として、寿司(海苔巻き軍艦巻き)、おにぎり磯辺餅ふりかけラーメンの具などに使われる。一方でフノリ(布海苔)やアオノリ(青海苔)は前者同様、おにぎり、ふりかけの他に、お好み焼きのふりかけ、お吸い物などに使われる。日本では極めてよく利用される食材である。ただし乾燥させた板海苔は湿気に弱いので、乾燥剤とともに密封容器に入れて保存する必要がある。

江戸時代の品川沖は江戸前海苔(品川海苔)の産地であった。江戸前寿司に利用されたかは定かではないが、煎餅に海苔を巻いた海苔巻き煎餅は「品川巻」と呼ばれ古くから名物となっている。また、浅草のりは希少な高級品となっている。

板海苔を火であぶったものを「焼き海苔」、板海苔に味を付けているものを「味付け海苔」と言う。これは老舗である山本海苔店が開発した。そのほか、海苔を細かく刻んだきざみ海苔や、関東では桃屋の「江戸むらさき ごはんですよ!」、関西では磯じまんブンセンの「アラ!」などが代表的な海苔の佃煮などがある。

ちなみに板海苔のつるつるしているほうが表、そうでない方が裏だといわれている。板海苔を乾す際に裏面にスダレの痕が付くためであるが、寿司ののり巻きやおにぎりを巻く場合は見栄えの観点から表裏に注意すべきである。また、裏面はでこぼこが多く火であぶると焦げやすいので、焼き海苔を作る際には表面からあぶるべきである。

歴史

海苔については、古くは奈良時代初期に編纂された『常陸国風土記』に登場しており、ヤマトタケルに関して次のような記述が見られる。

「古老の曰(い)へらく、倭武の天皇 海辺に巡り幸(いでま)して 乗浜(のりのはま)に行き至りましき。時に浜浦(はま)の上に多(さは)に海苔〔俗(くにひと)、乃理(のり)と云ふ〕を乾せりき。」

同じく『出雲国風土記』においても、「紫菜(むらさきのり)は、楯縫(たてぬひ)の郡(こほり)、尤(もと)も優(まさ)れり」という記述がある。楯縫郡は現在の出雲市の内で、平成17年(2005年)合併前の平田市にほぼ相当し、そこには海苔を特産品とする十六島海岸がある。また大宝2年(702年)の2月6日に執行された大宝律令においては、海苔が租税の対象として記載されており、ちなみにこれにより2月6日が「海苔の日」とされている。和銅3年(710年)に遷都した平城京には、海草類を売る「にぎめだな(和布店)」、海苔や昆布佃煮のように加工したものを売る「もはだな(藻葉店)」という市場も存在した。

こうして海苔は日本の食文化に定着し、10世紀のころに源順の撰した『和名類聚抄』や『宇津保物語』には、甘海苔や紫海苔といった具体的な名称で海苔が登場している。

海苔は古くは天然のものを採るだけだったが、江戸時代になると養殖技術が確立し、東京湾で採れた海苔(紫菜)を和紙の製紙技術を用いて紙状に加工するようになり、現在市販されている板海苔が完成する。なお江戸の海苔の代表とされる浅草海苔の始まりに関しては諸説あるが、岡村金太郎著『浅草海苔』(1909年、博文館)においては、遅くとも長禄年間(1457~1459年)頃まで遡るとしている。『武江年表』には貞享のころ大森(現在の東京都大田区大森)において海苔を作り始めたという記述があり、江戸時代後期には大森の海苔養殖技術が諏訪海苔商人を介して全国に伝わった。海苔の生態が判らなかったため経験則を頼りとしており、その不安定な生産高から「運草」とも呼ばれていた。しかし昭和24年(1949年)にイギリスのキャスリーン・メアリー・ドゥルー・ベーカー(Dr. Kathleen Mary Drew Baker 1901年-1957年9月14日)が海苔の糸状体を発見、それまで不明だった海苔のライフサイクルが解明され、不確実な天然採苗に代わる人工採苗を実用化し、養殖が可能な地域の拡大にも繋がった。

現在山本山などお茶メーカーが海苔も扱うことが多いが、これは両者がいずれも湿気に弱い製品であることから製品の湿度管理のノウハウを両者に応用できることに由来する。山本山はもともと茶を扱っていた企業で、戦後に海苔に参入した。

フランスの海洋生物学と海洋学の研究・教育機関「ロスコフ生物学研究所(Station Biologique de Roscoff)」の研究チームは、日本人の腸が海草に含まれる多糖類を分解できるのは、分解酵素を作る遺伝子を腸内に住む細菌が海洋性の微生物から取り込んでいるためだとする論文を発表し、2010年4月8日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された[2]

日本の海苔産地

海苔が使われている食品に「磯辺餅」があるが、海苔の産地にも「磯辺」、「石部」、「磯部」、「石辺」(いずれも「いそべ」と読む)などの地名を見ることが出来る。海苔の主な産地は宮城県、千葉県、愛知県、兵庫県の播磨灘沿岸、小豆島や直島などの香川県の島嶼部、そして福岡県、佐賀県、熊本県の有明海沿岸が主産地となっている。中でも有明海沿岸の三県で生産量の40%強を占める一大産地となっており、贈答向けの高級品も多く生産されている。特に、佐賀県は、生産量、消費量、品質全て日本一である。また、この有明海沿岸は諫早湾干拓問題で大きく揺れた地域であり、事業開始直後は水質の汚濁などによって海苔の生産量や品質に大きく影響を与え、とりわけ長崎県の産地は壊滅的打撃を受けた。また兵庫県播磨灘産は、コンビニおにぎり等の用途によく使われているが、播磨五川、特にそのうち流域面積が突出している加古川のもたらす栄養塩が生育を左右している。加古川下流域に加古川大堰が完成した後は、海苔の白化、生育不良などの問題が起こっている。他に中四国の岡山県、広島県、徳島県などでも養殖が行われている。

岩場に自生している天然の海苔は岩海苔という。岩海苔は島根県など日本海側を中心に採取されている。

養殖方法

英虞湾の海苔養殖 河口近くの胞子付け作業
英虞湾の海苔養殖
採取後に成形し、乾燥させる(山口県見島

秋、海水温度が約20℃の時、河口近くの海にノリヒビを設置する。ノリヒビとは、養殖ノリを付着し、成長させる道具である。昔は木や竹ヒビが使われ、現在は網ヒビが主流である。

ノリヒビに、胞子が付着し、発芽・成長してノリになる。そして、葉状に成長したノリを冬に収穫する。

世界の海苔

海苔は日本のほか、中国韓国イギリスニュージーランドで養殖もされている。一時はアメリカでも養殖されていたようである。

イギリス品種であるLaverは、イギリスのウェールズ南部地方で古くから食用にされている。Laverを茹でてペースト状にしたものがLaverbreadと呼ばれる物で、そのままパンに塗ったり、油で揚げるなどして食べられている。Laverbreadは日本で言う「珍味」の類であり、同じウェールズでも北部山岳地方ではその存在を知らない人も多く、現地でも決してポピュラーな食べ物ではない。なお「海苔」はラテン語圏でも「Nori」で通じる場合もある。ただし飽くまでも食品用語なので「Seaweed(海草)」が一般的解釈として用いられる。「Laver」は板海苔にはせず、また、イギリス以外では余り通用していない言葉である。

海苔の大消費地である日本は輸入枠を割り当て制にしており、従来は韓国にのみに輸入枠が割り当てられていた。しかし2003年に中国から輸入枠の割り当て申請があった。自国の輸入枠減少を恐れた韓国は日本の海苔市場の自由化を要求、2004年、最終的にWTOへ協定違反として提訴している。日本における水産物輸入枠割当制度は他国にない制度であり、WTOの紛争処理小委員会(パネル)が「クロ」と裁定する可能性は高く、海苔で敗訴すれば他の水産物輸入枠割当制への影響は必至と見られたために、日本は韓国への海苔輸入枠割当を大幅に増やすことで妥協を図った。その結果、韓国は2006年1月に提訴を取り下げた。韓国からの海苔の輸入枠は2015年までに順次増えてゆき、最終的には2004年の5倍、市場占有率にして7倍までに拡大されることになった。しかし、世界的なすしブームや国内需要の増勢の結果、近年の対日輸出実績は割り当て枠を下回る状態となっている。朝鮮半島における海苔については韓国海苔を参照。

中国では1990年代ころから養殖が始まり、江蘇省山東省が主な産地となっている。味付け海苔、スナック菓子、コンビニエンスストアのおにぎり等に利用されており、海苔の生産量、消費量ともに増加してきている。しかし輸入枠の割り当ては行われているものの、値段や品質などの問題もあり、日本へはほとんど輸出されていない。一方で、「スシ」などの日本食ブームの影響もあり、日本以外の世界各国へ輸出されている[3]。このため2005年から始まった対日輸出は現在実質的に停止状態にある。

日本国外では板海苔を見てカーボン紙を連想する人も多く、また「歯の裏にくっつく」、「紙を食べているよう」と嫌がることがある[要出典]。この理由により、海外の巻き寿司はカリフォルニア巻きなどのように、米が外側で海苔が内側にあることが多い。また、伝統的に海藻類を食材として見なさない地域では「海藻は肥料飼料であり、人間の食べるものではない」という認識が根強い[要出典]

海苔メーカー

脚注

関連項目

外部リンク